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駒唄  作者: 無二エル
84/93

A級との戦い

 2日後、玉位戦の予選四回戦を戦った。

 ・・・負けてしまった。

 相手は糸山八段、龍王位を一期獲った事がある実力派。

 現在A級でもある。

 早指しに翻弄されちゃったなぁ。


 あーもうちょっとで玉位リーグ入りだったのに。

 でも強かったな、糸山さん。

 こっちの勝負手にも動じずすぐに返して来た。

 正座が苦手な棋士で、しょっちゅう席を立つんだけどね。

 立ちたいが故の早指しと言う噂もある。


 でも凄いよ。理由はどうあれ決断の速さが凄い。

 持ち時間半分以上残ってたもんな・・・

 時間を使わせる事が出来なかったんだ。悔しいけど納得の完敗。



 1月中旬


 本日は夕日杯の本戦1、2回戦が行われる。

 ベスト16まで残った者達の公開対局だ。


 去年はオール学生個人戦と被っちゃったけど、今年は1週ずれた。

 玲奈達が応援に来たがったけど、遠慮して貰った。

 心配し過ぎかもしれないけど、仲の良い子が居て不正を疑われたくない。

 公開対局は協力者が居れば容易に不正が出来ると思うんだよね。

 とは言え、表向きはファンサービスの為の公開。

 そんな事をする者が居るとは思いたくないんだけどね・・・


 さて、私の一回戦の相手は豊縞二冠だ。

 あー、終わったかも知れない。

 だって今将棋界で一番強いと言われてる人だもの。

 去年はベスト8まで行けたのになー。


 なんてね、実は豊縞さんは持ち時間の短い対局はそこまで得意では無いと私は思ってる。

 いや、強い事は強いんだけど、持ち時間の長い棋戦ほどでは無いと言うか。

 もともとじっくり考えるのが好きらしく、持ち時間の長い棋戦では鬼のような強さを見せる。

 それが、短い対局ではスケールダウンしてしまう印象。


 持ち時間が長ければ、今の私では絶対敵わない相手だろう。

 でも夕日杯は持ち時間40分。

 勝てるとしたら、椅子対局で持ち時間の短いここしかない。

 だから諦めずに勝ちに行く。



~49生~


『おや、君島さん振り飛車ですか。藤屋システムですね』

『ええ?・・・君島さん、以前イベントで藤屋システムはもう古・・・研究が進んでいるから使いどころが難しいと言ってましたよ?』

『速攻を仕掛ける気なのかもしれませんね』


 持ち時間が短いんだ。速攻を仕掛ける。

 はたして豊縞さんに刺さるかどうか。


~アババTV~


『藤屋先生、君島さんが豊縞二冠に藤屋システムで挑むみたいですよ』

『無茶するなぁ』

『www』


 そう言えば今日、アババの解説が藤屋九段だっけ。

 見てますか?負けたら先生のせいです。


 手数が積み上がって行く。

 お互い無駄な時間は使わない。

 豊縞さん、当然だけど藤屋システム対策はバッチリのようだ。

 勝負は中盤へ。


~49生~


『ここで君島さんが変化を入れて来ましたね』

『へえ・・・こんな手筋が有効なんでしょうか?』

『パッと見、無理攻めにも見えますが・・・』


~アババTV~


『・・・ふむ』

『どうしました?藤屋先生』

『いや、藤屋システムを研究していた時にね、いくつかボツにした手順があるんだけど』

『はあ』

『君島さんは今、そのボツにした手順で指してるんだよね』

『と言うと、藤屋先生が研究したけど駄目だと思った手筋と言う事ですか?』

『そうなるね』

『はあ(じゃあ駄目じゃないの)』

『これだと超急戦になり・・・うわ、もう仕掛けた』

『ええ?大丈夫なんですかこれ』


 会場がザワついている。

 私語厳禁ですよ。静かにして。

 良いんだよ、奇襲しかないの。

 今の私が勝てるとしたらそれしかない。


 ほら、豊縞さんの考える時間が少しずつ長くなっていく。

 ここからはお互い駒の取り合い打ち合い、どちらが粘り勝つかしらね。

 勝負は終盤へと飛び込んだ。


~49生~


『凄いですね、大駒と金銀の放ちあいです』

『取っては指し、取っては指し、複雑に形を変えながら両者とも一歩も引きませんね』

『複雑な捻りあいですね、先生、両対局者は読み切れているのでしょうか?』

『どうなんでしょう?(読み切れていたら化物だよ)』


 もうすでに、私は感覚だけで指している。

 豊縞さんはどうなのかな?

 少なくとも、余裕があるようには見えないけれど。


~アババTV~


『超急戦と言う話でしたが、120手を越えました』

『終盤のつば迫り合いが長く続いてるね。双方時間の無い中でよく間違えないもんだ』

『君島さんは乱戦にするのが目的だったのでしょうか?』

『だろうね。そして豊縞二冠が一分将棋になったよ』

『隙が無い豊縞先生に君島さんは勝てるのでしょうか?』


 終着点が見えない。

 相手の指し手に隙があるような気がしても長くは考えられない。

 解りやすいミスが来てくれないかな。


 ふと、違和感を感じる。

 今、豊縞さんが指した後、駒から指を離す時一瞬躊躇しなかった?

 指がブレたような。


 ここだ。

 おそらくここが勝負の分かれ目だ。

 私の残り時間は3分?じゃあ全部使う。


~49生~


『君島さんの動きが止まりました』

『・・・局面一点を注視してますね』


 この局地戦を制した方が勝つ。

 ・・・見えた。

 よし、凌げるものなら凌いでみろ。


~アババTV~


『・・・先生、この手は』

『勝負に出たね。豊縞二冠の表情は変わりませんが、困ってると思いますよ』

『す、凄いですね、君島さんが豊縞先生に勝ってしまうんでしょうか?』

『君島さんがと言うより、藤屋システムが豊縞二冠に勝つと言った方が良いんじゃないかな』

『それは違うと思います』

『www』



 豊縞さんが1分ギリギリで手を返して来る。

 凄いな、不利な中で一番嫌な手を常に選択する。


 私も1分ギリギリで手を返す。

 まだ詰めろは見えないけど、確実に勝利は近づいてる。

 ここで油断だけはするなよ、私。


~49生~


『おや、豊縞二冠の今の手は・・・』

『悪いように見えますね。遂に集中が切れてしまったのでしょうか』


 手拍子で指し返しそうになった。

 待って、これは罠だ。

 悪手に見せかけた、最後の罠。

 一度落ち着き、息を整え盤面に集中する。

 ・・・よし。


~アババTV~


『君島さん冷静だね。罠に気付いたよ』

『豊縞先生はこの状況で罠を張って来たんですか?しかも君島さんはそれに気づいたと(鬼か)』

『そうみたいだよ(鬼だな)』

『あ、ここで豊縞二冠の投了です!』



 カメラのシャッター音が鳴り響く中、天を仰ぐ。

 つ、疲れたぁ。

 

 でも勝てたんだ私。

 あの序盤中盤終盤隙が無い豊縞さんに勝てたんだな。

 ああ・・・おっと、勝ったらこの後もう一戦あるんだっけ。

 去年みたいに気を抜いてあっさり負けたくない、気を引き締めよう。



----------------



 ベスト8、準々決勝の相手は糸山さんだった。

 ああ、ここで早指しが得意な糸山さんか。

 最近負けたばかりの人と、もう一度対戦か。


 私と一緒で正座が苦手な糸山八段。

 次にあたった時は、立ちそうになったら指して立たせないとか色々対策練っていたのに。

 椅子対局じゃ意味が無いじゃないの。


 さて、どうしようかな。

 早指しが得意な糸山さんだけど、夕日杯ではこれまでそれほど成績を残せてない。

 本当に得意なのは持ち時間が10分の国営放送杯や宇宙戦みたいな棋戦なんだろうな。


 こうなったら実力勝負か。

 椅子対局の私は一味違いますよ?

 この前は完敗だったけど、今日はそうは行きませんからね。




------------



 会場に拍手が響き渡っている。

 あ、糸山さんとの対局は勝ったよ。

 一日で、A級棋士を2人も破ってしまった。


~49生~


『君島さんは椅子対局だと本当に強いですね』

『一味変わりますね。こうなると恐怖を感じます』

『先生、次の順位戦で確か君島さんとあたりますよね?』

『順位戦は正座対局で本当に良かったなと心から思いますよ』


~アババTV~


『藤屋先生、今日の感想をお願いします』

『まだまだ懐疑的な眼もあった君島さんの実力ですが、今日はハッキリと強い将棋を見せたと思いますよ』

『なにせA級棋士を2人破りましたからね』

『一つ残念だったのは藤屋システムが機能しなかった事かな』

『はあ、急戦に持ち込む意図で使用したのでしょうけど、結果的に手数の多い乱戦でしたね。ですがそれも見越しての戦法だったのでは?』

『藤屋システムは自分で言うのも何だけど、芸術性の高い戦法だからね。乱戦になったら失敗なんだよ』

『はあ(何言ってんだこの人)』

『だから君島さんはまだまだ青い、藤屋システムの足元にも及ばないって事で』

『はあ(何言ってんだこの人)』



 ふう、連続でA級棋士はさすがに疲れた。

 持ち時間が短いとはいえ、強い人だと消耗度合が違う。

 でもこれでベスト4、全棋士参加の棋戦でベスト4か・・・


 喜びたい。

 でもここで喜んだらもっと上に行けない気がする。

 まだ満足してはいけない。


 さて、次の夕日杯は一カ月後。

 同時刻に他の対局もやってたから決まってるはず。

 私の準決勝の相手は・・・


 ・・・・・・

 藤谷 王太玉座か。

 最近、初タイトルを獲った将棋界の希望。

 未来の国民栄誉賞候補。

 そして、この夕日杯5年連続優勝者。


 遂にと言うか、思ったより早かったなと言うか。

 君島 流歌と藤谷 王太の初対決が決まった。

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