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駒唄  作者: 無二エル
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思わぬ吉報

 そんな訳で翌日。


 玲奈と織華ちゃんが決勝に残った。


「う、嘘でしょ?どっち応援すればいいのよ」

「二人とも凄いねぇ」


 凄いなんてもんじゃないよ。

 色んな年代の猛者が集まる大会だと言うのに。

 関東近郊の参加者が多いんだけどね。


「優勝者には彫り駒が貰えるのだ」

「あれって10万くらいするんだよ」

「掘り駒なのにそんなに高いのだ?」


 掘り駒でも高いのあるんだよ。

 勿論一番高いのは盛上げ駒。


「二人ともガンバッテー」

「シャリー、二人の対戦成績はどんなもんなの?」

「最近は拮抗シテルヨー、でもちょっとだけレイナが勝ってるカナー?」


 玲奈有利だけど、どっちが勝つか解らないか。

 ああどうしよう、緊張する。

 始まった、二人とも真剣な表情。

 うぅ、おしっこ行って来る。


「やあ君島さん、応援かい?白湯女将棋部の躍進は凄いね」

「会長」


 最近よく会いますね。

 この前のトークショーは失礼しました。


 佐東 長光 連盟会長。

 タイトル13期獲得の大棋士。

 1秒間に1億と1手先まで読む男と比喩される頭脳派。


「最近、記録係をすれば強くなるのかと連盟に問い合わせがあってね」

「へえ、他の大学の人達ですか?ひょっとして記録係志望が増えたとか?」

「いや、白湯女の場合は三ノ宮さんがプロ棋士から週一の指導を受けてるからだと言ったら諦めたよ」


 あらら残念。

 記録係不足はなかなか解消しませんね。


「私としてはプロ棋士の週一指導希望が増えるかと期待したんだけどね」

「いやなかなか週一は・・・」


 四段のプロでも一度に4万くらいかかる。

 プラス別途交通費だし。

 普通の学生には無理ですよ。


「そうだよね、三ノ宮さんの場合はタイトル保持者を呼ぶ事もあるし」

「ええ?女流のタイトル持ちですか?」

「いや普通に佐川名人とか」

「えええ?!」


 タイトルホルダーって呼べるものなの?

 連盟のHPには書いてなかったような。

 と言うか、いくらかかるのよそれ。


「私や森口さんも呼ばれた事あるよ」

「か、会長まで呼んだんですかあの子、忙しいのにすみません」

「いやいや、豪邸で持て成されて良い気分だったよ」

「玲奈はそんな英才教育を受けていたんですね」

「うん、でも素質もあったんだよ。流石にプロに教わっただけではあそこまでは強くならない」

「頭の良い子ですから」

「それだけに勿体ないなぁ、将棋界に入る気は無いなんて・・・女流ならすぐにでもなれるのに」


 勿体ないか。

 将棋界にとってはそうなんだろうけど。

 でも玲奈にとっての将棋界が魅力的かどうかは別の話だ。

 

「確かに女流は不安定だけど・・・でも彼女は17で将棋を覚えたんでしょ?もっと早くから始めれば棋士になれたかもしれないのに」


 頭も良い、財力もある、不可能じゃないかもね。

 でも女性初の棋士の座を奪われてたかもしれないのは困るなw


「時々思うんだよ。藤谷王太ブームで棋士に興味を持ってくれた人の中にも才能のある人は居たんだけど、年齢が高すぎて、もっと早くから興味を持ってくれたらなぁ、とか」

「棋士になれる可能性があったと言う事ですか?」

「そう、惜しい人材が機を逃している」

「奨励会は年齢制限がありますもんね」

「今もそうなんだ。君島さんのブームで女性が棋士に興味を持ってくれるようになったけど、はやり低年齢から始めないとなかなかなれるもんじゃない」


 昨日も居たっけ。

 彼女達は大学から始めたんだったか。

 スタート地点としてはどう考えても遅すぎる。


「もっと早くから将棋界に興味を持ってもらうには、常に魅力的な世界である必要があるのだろうね」


 常に引き付ける魅力か・・・

 私のブーストだっていつ切れるか解らない。

 これから先、話題に事欠かない将棋界でいられるだろうか?

 私だってその一員なのだから責任があると思って良い。


「雷王戦、しごろんブレイク、藤谷王太フィーバー、女性初の棋士誕生と、ここ10年程は話題に事欠かないんだけどね」


 ・・・その間に、足を引っ張るスキャンダルもあったからなぁ。

 雷王戦も、棋士側の成績がもっと良ければ続いていたんだろうけど。


 ・・・雷王戦、面白かったな。

 5VS5の人間とAIの団体戦。

 人類対コンピューターと言う構図は、見る者をワクワクさせた。

 主催の49動は永王戦に切り換えちゃったけどさ・・・


「主催者もコンピューターの進化を考え、潮時だと思ったんだろうけどね」

「人間とAIの差がこれからは更に大きく広がると思ったんでしょうね」

「でも確かにAIは年々強くなってるんだけど、そこまでの差はついてないよね?」


 はい、AIの成長は想像よりも緩やかです。

 雷王戦の頃は、人類対コンピューターの闘いは一般人と世界記録保持者の徒競走と比喩された。

 これが数年後には一般人とF1カーの競争になるだろうと予想された。

 だが現状ではそこまでの差は付いていない。


「君島さん、以前取材でまた雷王戦が行われる事があったら、出てみたいと言っていたね?」


 え?言ったっけ?

 ぜんぜん覚えてないんだけど。

 でも、アババが出来てから49動も来客取られてるし、どのみちもう行われる事は無いのでは?

 それに緩やかとは言っても人間との差は着実についている。

 もうコンピューターと争う段階では無くなったとの見解になったのでは?


「・・・今になって、羽月さんが戦ってみたいと言い出してね」

「ええ?!」

「当時も別に逃げていたわけでは無いんだけど、連盟は将棋界の象徴が万が一にも負けることを恐れて、羽月さんの出場を認めなかった」

「・・・・・・」


 羽月さんが・・・

 一度は幕を閉じた雷王戦だが、羽月さんが出ると言うのなら話は別だろう。

 間違いなく過去最高の盛り上がりを期待出来る。


「でもどうして急に?」

「羽月さんも年齢的に、今がコンピューターと戦える最後のタイミングだと思ってるようでね。これまで将棋界に多大な貢献した人の望みを連盟も無視できなくてね」


 そうか、衰える前に戦ってみたいと言う事か。

 遂にその時が来たのか。


「取りあえず49動側に話してみようかと思ってね」

「そうですか、それでやはり団体戦になると言う事ですか?」

「ああ、その方が盛り上がるからね」


 そうなんだよね。

 雷王戦の後、永王戦が出来た訳だけど、この永王戦の最初の2回は優勝者がAIの代表と記念対局をした。

 先後入れ替えで2局ずつ、だが棋士側が全敗したこともあってイマイチ盛り上がらなかった。

 やっぱり王道の少年漫画のように団体戦にした方が面白いんだよね。


「それで、私にもお鉢が回って来るかもと言う事ですか?」

「ああ、まだ全然何も決まってない状況だけどね。でも君島さんの顔を見て、急に記事の事思い出してしまって・・・」

「出ます」

「・・・そんなに簡単に決めて良いのかい?」


 出ます、出ますよ。

 羽月さんが出ると言うのなら私も出たい。

 チームになって、一緒に戦いたい。


「出るならば勝ちを目指して貰う事になるけど、むしろ勝つ気が無いなら手を上げないでほしい」

「え?・・・どうしたんですか急に真剣な顔で」

「全敗・・・なんて事になったら、今度こそ棋士の威信は無くなるだろう」

「・・・・・・」


 当然の心配だ。

 まして会長は責任のある立場、全敗なら何故やったのかと責められるかもな。

 

 全敗か、大いにあり得る話だ。

 むしろ、その確率が高いと言っても良い。

 軽々しく手を上げれなくなったな。

 でも・・・


「必ず叩き潰しますよ」

「そ、そこまで言うのかい?私は皆にも覚悟をもってほしいと・・・」


 覚悟ならありますよ。

 私は今もAIで勉強している。

 確かにものすごく強い相手で勝てる事は少ない。

 でも0じゃないんだよ。

 難しいゲームも、諦めなければいつかは解ける。

 

「事前貸し出しがあるのなら、必ず攻略法を見つけ出します」

「ま、まだ何も決まってないんだけど」

「あと、私の対局だけでも椅子対局にして貰えませんか?私はそれが一番実力を発揮できるので」

「だ、だからまだ何も・・・」


 羽月さんが望むのなら、実現しないはずがない。

 私が羽月さんの盾となり矛となる。

 もう決めた。


「大将は勿論羽月さんですよね?私は実績的に先鋒ですか?」

「いやだからまだ何も・・・あ、決勝戦が終わったみたいだね」

「え?・・・ああ!!!!!」



-----------------



「まあ決勝を見てなかった?!薄情者ここに極まれりですわね!」

「お、おめでとう、玲奈」


 優勝は玲奈に決まったようだ。

 そして・・・


「お疲れさま織華ちゃん」

「・・・部長、また強くなりはられました?」

「かもしれません。最近は得意戦型も増えて・・・」


 うう、軽く織華ちゃんに無視されたような。

 お、怒ってるのかなぁ。


「そ・れ・で、決勝も見ずにどこで油を売ってましたの?」

「え、えーと・・・言って良いのかな」


 まだ計画段階の話なんだけど。

 うう、言わないと許して貰え無さそう。

 ・・・しょうがない、内密にね。


「ええ?!また雷王戦が見れるんですか?!」

「ほんまですか?!」


 食いついたのは木葉ちゃんと織華ちゃんだけだった。

 研修会員と元研修会員。

 そりゃそうか、以前行われた時は、ここに居るほとんどがまだ将棋に興味無かった時期だ。


「お話くらいは聞いた事ありますが・・・」

「部長!タイムシフトでまだ見れるので是非見てくださいよ!」

「雷王戦も将棋界の歴史の重要な一部ですから是非部長には知っといてもらわんと」


 他のメンバーにも視聴を進める木葉ちゃんと織華ちゃん。

 気持ちはわかるよ。

 でもプレミアム会員じゃないとタイムシフトは見れないよ。


「花音はプレミアム会員じゃないのだ」「わたくしもです」

「お金持ちの二人が何故」


 将棋以外、見る物無いって。

 確かに・・・

 49動は他の動画サイトに押され、元気無くなって来てるんだよね。

 

「織華はプレ会員なのだ?じゃあ織華の家で見せて欲しいのだ」

「う、うん、でも1局12時間くらいやよ?」


 それが16局あるから192時間だね。

 ぶっ通しで見たら8日間か。


「じゃあ冬休みだし泊まりに行くのだ」

「ええ?全部見る気なん?」

「あ、自分も行って良いッスか?」


 いいなあ、お泊り会か。

 でもとてもじゃないけど全部は見きれないよ。

 一か月だけプレ登録したら?


「片瀬さんはプレミアム会員ですの?」

「ぅん、でも雷王戦は見たこと無いよぉ」

「シャリーも見たいデース」

「じゃあアカウント貸そうかぁ?」


 ちょ、ちょっと待って、いくら知り合いでもそれはグレーな気がする。

 いや多分規約アウトだ。

 バレないかも知れないけどやっぱり良くないよ。

 49動も赤字経営だし、皆1、2カ月くらい登録してあげてよ。


「しょうがないですわね」

「金持ちなのに500円が惜しいの?」

「金持ちだからって無駄遣いは良くないのだ」

「そうだけどさ・・・」


 いや、無駄じゃないよ。

 500円なら安いくらいだよ。

 元を取って余りあるドラマが見られると思うよ。


「うーん、解ったのだ。登録してみるのだ」

「部費も余っているので部室のアカウントもプレミアム登録した方が良いでしょうか?」


 いいんじゃない?ウェブマネーで出来たはずだよ。

 まあ部室で皆で全部見れば安く済むのかもしれないけど、無理のある話。

 誰が見るでもなく、流しっぱなしにしておけばいいんだよ。


「電気代が勿体ないですわ」

「部室使用料から天引きなんじゃないの?どうせいくら使っても一律なんでしょ?」

「だからって無駄遣いはよくありませんわ」


 うーん、そりゃそうだけどさ。

 でも確かに、いくら一律だからって無駄遣いは良くないか。

 玲奈は金持ちなのにしっかりしてるね。


「金持ちは基本ケチなのだ」

「だからお金が貯まるのね」

「あ、部長、表彰式がはじまるみたいッス」


 おっと、こ、今度こそしっかり見てないと。

 ちょっと大きめに拍手をして私がいかに喜んでいるかを露骨にアピールしないと。



 玲奈に盾と賞品、織華ちゃんに盾が送られる。

 おめでとう!パチパチパチパチ。




「君島さん、見ていなかったのを取り返すようにあんなに拍手をしなくても」

「だってどうせこの後ネチネチいじめてくるじゃない?傍から見れば、あんなに祝福してくれた人をイジめるなんて、なんてひどい人達なんだって見える訳だよ」

「わ、わたくし達に怒らせない為のパフォーマンスだったのですか?」


 違うよ!心からの祝福だよ!だから怒んないでね?キャハ☆

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