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駒唄  作者: 無二エル
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明けまして

 年が明けた。


 1月上旬


 今日はオール学生個人大会。

 我が白湯女将棋部は今回も参加する。


 そして私は今年も応援。

 ではなくて、今回はゲスト棋士としての参加です。

 人気棋士として主催者から声がかかりました。


「と言う訳で、今日は皆を贔屓して応援できないんだよね」

「まあ、偉くなりましたわね」

「裏切者ぉ」


 しょうがないじゃないの、ゲストなんだから公平で無いと。

 表向きは参加者全員を激励する立場だ。

 でも心の中では白湯女を応援しているからね。


 さて、今年も小学生から大学院まで、様々な学生たちが参加してる。

 ・・・ちょっと女子が増えたよね。

 これは多分私のお陰。

 おや、女の子達が近づいて来た。


「き、君島四段、私達京都の同人社女子大学で」

「今年から将棋部作ったんですよー」

「後で指導将棋お願いします!」


 おお、京都からわざわざ。

 確実に女子の将棋人口が増えてるね。

 また違う女の子達が来た。


「私達、大阪の八天王寺高校将棋部です」

「わー、実物もむっちゃ綺麗!」

「綺麗で将棋も強いなんて憧れるわぁ」


 これまた遠くから。

 握手?今は開会前だから後でね。

 それより頑張ってね。


 あ、そろそろ始まるみたい。

 主催者が挨拶の準備してる。

 私達棋士も並んで待機しないと。



--------------



 理事と主催者の挨拶、大会ルール説明が終わると一斉対局開始。

 全員がお願いしますと頭を下げる姿は壮観だ。

 2日間に渡って行われる学生なら誰でも出られる幅広い年齢層の大会。

 初日は2勝通過2敗失格の予選の後に、トーナメント戦を行い、ベスト16までを決定する。

 

 さて、私はヒマになった。

 この後失格者が指導将棋を申し込んで来るまで時間が空いちゃったな。

 対局を見に行っても良いんだけど、プロが来ると緊張するかもしれないし・・・

 集中させてあげたいからやめておこう。


「き、き、君島さん、休んでたら?」

「はい、森口先生」


 今回のゲストで一番の大物、森口 和之九段。

 タイトル獲得12期、中でも名人位は永世称号を持っている大棋士だ。

 ちょっと滑舌が悪くて聞き取り辛い。


「き、君島さんはさ、ぼ、僕の弟子だった竹原 朱を知ってる?」

「はい、勿論・・・その後、連絡は取ってるんですか?」

「う、ううん。全然だね、全然」


 二十歳で女流を辞め、連盟との関係を絶った竹原 朱ちゃん。

 そっか、師匠とも疎遠になってしまったか。


「・・・ぼ、僕はさ、師匠として、あ、あまり良い師では無かったのかな?」

「ええ?そ、それは私では何とも」

「で、弟子を取ったのはあの子が初めてでさ、それがあんな結果になってしまって・・・」


 元気なく俯く森口先生。

 うーん、どうなんだろう?

 朱ちゃんは一時期女流界を背負って立つ(主にビジュアル的な意味で)と言わててた子だ。

 それなのに去る事になってしまったのはやはり師匠としては悔いが残るのかもな。


「も、もうそれ以降、弟子を取るのが怖くなっちゃってね」

「そんな事・・・森口先生の弟子になりたい子はたくさん居ると思いますよ」

「う、うん、なりたいと言う子は時々来るんだけどね。でも、どうしても躊躇してしまうんだ」


 先生が悪い訳でも無いと思うけどな。

 どちらかと言うと、途中で投げ出した朱ちゃんが悪いように思う。

 覚悟が無いのなら最初から女流になんてならなければ良かったのに。


 ・・・そうだよね。

 私も以前は女流に見切り付けるのなんて必然と思ってたけど。

 今思えば、朱ちゃんはテレビに出る為に女流になった気がする。

 将棋を利用して、名前を売ったのだと感じる。


 正直、女流棋士と言う肩書きが無ければ微妙な子なんだよね。

 可愛いけど、芸能人と比べると珍しくないレベルと言うか。

 特に面白い事を言える訳でも無いし、芸能人として考えるなら中途半端だったと思う。


 だから女流棋士と言う肩書きが必要だったのだのだろう。

 キャラ、個性、どちらも微妙な朱ちゃんには必要な付加価値だったのだと思う。


「男の子の弟子を取る気は無いんですか?」

「う、うーん。以前ならそのうちとは、思っていたけど」

「気まぐれな女の子よりは男の子の方が良いと思いますよ」

「あ、荒木先生は女の子を育てるのが上手なのかな?」

「え?どうなんでしょう?私はほぼ放任でしたよ」


 凛さんがタイトルを獲り、私が棋士になった事で師匠の株は上昇中だ。

 女を育てるなら荒木門下と言われ始めてる。


「でも、要所要所で背中を押してくれましたね」

「・・・そ、そうか、僕にはそれが足りなかったのかな」

「そんな事無いですよ。私が事情を知ってる訳では無いですけど、竹原さんのケースは森口先生にとっても不運だったように見えます」

「そ、そうかな」

「先生は、竹原さんが女流になる時にどんな言葉をかけたんですか?」

「あ、甘くない世界だけど、頑張る覚悟はあるのか、と」


 どの師匠でも使う定番の言葉だ。

 で、恐らくは朱ちゃんも覚悟はあると言ったと思う。

 でも、彼女は頑張らなかった。

 収入の多い芸能の世界の方が魅力的だったのだろう。

 現に、受験勉強の為と言う理由で高校3年の間は対局をお休みしたのに、突然芸能事務所と契約してテレビに出始めた。

 そんな暇があるんだったら女流の対局くらい同時期に出来ただろうに。

 そして、その行動は森口さんの立場も危うくしたと思う。


 私から見れば、森口先生は朱ちゃんに騙されたように見える。

 永世名人の弟子と言う肩書きは大きい。

 ちょっと勘繰り過ぎかもしれないけど、弟子を育てた実績が無かった森口さんを選んだのはビッグネームだったからじゃないかな。

 朱ちゃんの付加価値を高めるには都合の良い相手だったんじゃないかな。

 ・・・そしてここから先は更に憶測なんだけど、羽月さんにも弟子入り志願してるんじゃないかな。

 断られたから森口さんにしたとか。

 ・・・さすがに、憶測で物を言いすぎか。これ以上はやめておこう。


「森口先生は将棋教室もやられてるようですし、子供は好きなんですよね?」


 将棋教室もやってるし、子供雑誌の漫画の監修もやっている。

 子供が嫌いなわけがない。


「う、うん、好きだよ。たくさんの子供達に将棋を好きになって貰いたいと思ってる」

「私はそういう人にこそ弟子を取って貰いたいと思いますよ?いつか子供達が棋士を目指したいと思った時に、一番の支えになってあげて欲しいです」

「・・・」


 ちょっと偉そうだったかな。

 ぺーぺーの一年目が永世名人に何言ってんだろ。


「・・・そ、そうだね。一度の失敗でくよくよしてたかもしれない」

「失敗なんかじゃないですよ。大丈夫です。竹原さんが出来ないような将棋界への貢献を私が何倍にも変えてもたらしますから」

「・・・は、はは、君島さんは噂通りの人だね」


 どんな噂なんだろう。

 きっと美人なのに慎ましいとかそんな感じに違いない。


「自惚れ屋でタチが悪いって噂ですよ」

「出たわね水上 咲子、アンタ今日来てる大学生の方がよっぽど強いのになんで来たのよ。指導将棋でもしてもらうの?」

「うえーん、君島さんにいじめられましたー」


 被害者の顔で森口先生に擦り寄る咲子。

 先生を困らせるんじゃないわよ。

 大体その噂を流してるのはどうせあんたでしょ。


「でもホント、どうしましょ?白湯女の人達とか咲子より強いですよね?」

「認めてどうすんのよ・・・駒落ちで相手して貰ったら?」

「森口先生見ましたか?これがこの女の性根の悪さですよ」


 こいつww

 まあ私も今のは言いすぎだったか。

 違うんですよ森口先生。この女のレベルに合わせているだけなんです。


 まあそうは言っても強い人はベスト16に残るだろうし指導対局には来ないだろう。

 咲子でも何とか体面を保てるのかな。


「は、はは、仲良いんだね」

「先生の眼は節穴ですね。これはやはり弟子を取るべきでは無いのかも・・・」

「え、ええ?」

「君島さん、永世名人に失礼な態度は咲子が許しませんよ」

「先生を守る振りして虎の威を借りる狐じゃないの」


 相変わらずあざといなぁ。

 やっぱりこの子は侮れない。


「あ、そ、そろそろ指導対局の準備をするよ」

「はーい、森口先生♡」

「先生、この子には気を付けてくださいね。平気で将棋界を売る女です」

「ひ、ひどーい!咲子も最近は将棋の勉強頑張ってるんですよ!」


 はいはい、そんな事言ってたっけ。

 どこまで本気なのやら。

 まあいいわ、指導将棋の仕事頑張りましょ。



-----------



「頼子、なんでもうここに来てるのよ」

「2連敗しちゃったぁ」


 相手強かったの?

 2人共優勝候補?相変わらずくじ運がないなぁ。


「流歌ちゃんとはいつでも指せるからぁ、森口先生に指導して貰ぉおーと」


 そだね、こういう機会が無いと中々指せない人だからね。

 私だって指導して貰いたいくらいだ。


 さっきの関西の子達が来た。


「ぅう、小学生に負けたー」「みんな強いわぁー」「指導お願いしまーす」


 はいはい、少しでも強くなって帰ってね。

 五面指しだから空いてるとこ座って。

 でもせっかく遠くから来たのに一日目で終わっちゃったか。


「いいんです。明日は原宿行きたかったし」

「せっかく東京来たんやから買い物せんとなぁ」


 ・・・まあ普通の女の子の将棋熱なんてこんなものだろう。

 プロでも無いんだからそれでいいよ。

 でも出来るだけ長く続けて欲しいな。

 将棋界を見守り続けて欲しい。


「君島さんは、16から将棋を始めたんですよね?」

「へ?・・・いえいえ、奨励会に入ったのが16ってだけで、将棋は子供の頃から勉強してましたよ」

「なんだそうなんですかー」「私でも棋士になれるかもと思うたんにー」


 いやいや、そんなに簡単になれるもんじゃ・・・

 何歳から始めたの?大学デビュー?それは無理ですよ。

 今日も早々に負けてるのに何故棋士になれると思ったのか。


「でも、男の中に女が一人じゃ大変じゃないですか?」

「今のところは特に・・・」

「やっぱり男性棋士にモテモテなんですか?」


 やっぱりって何よ。どんな想像してるのよ。

 私は常にモテモテよ。

 と言うか、女の子はやっぱりそういう話になるのか。


「あ!良い手思いついちゃった。えい!」パチ

「・・・その手は一時的に得をするけど、こうやるとすぐに切り換えせますよ」パチン

「わ~、そ、そっかぁ」


 やっぱり早々に負けた子だなぁ。

 まだまだ弱いけど、諦めずに強くなってほしい。

 


 その後、対局は進み初日のベスト16までが出そろった。

 白湯女から残ったのは・・・玲奈と織華ちゃん。

 シャリーは去年ベスト32だったけど今年はベスト64。

 ちょっと下がったけどこの大会は組み合わせの妙が強いからね。

 予選突破しただけでも立派だよ。

 花音ちゃんと木葉ちゃんもベスト64に入っていた。

 他は残念ながら予選落ち。


「うぅんむ、頼子はこの大会とは相性が悪くてぇ」

「片瀬先輩どんまいッス」


 頼子が言い訳をし、呉波ちゃんが慰めてる。

 二人は明日も来るの?


「応援に来るよぉ」

「君島先輩は明日もゲストッスか?」


 ううん、ゲストは初日だけ。

 明日は参加人数がグッと減るからね。

 棋士も会長が表彰に来るだけだと思う。

 でも私も玲奈と織華ちゃんの応援として個人的に参加するつもりだよ。

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