表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駒唄  作者: 無二エル
81/93

クリスマスイベント

 2日後、龍王戦5組の一回戦が行われる。

 今回は自分の闘い。


~49生~


『君島さん、なんだか様子が違いませんか?』

『いつもより随分厳しい顔をしていますね。気合いを感じます』


 負けない。

 あいつが上がってくるようなら私が止めなければならない。

 その為にも負けられない。


~アババTV~


『強い将棋ですね。ですが強引すぎるような』

『力が入りすぎているのでしょうか?』

『そう見えますね』


 怒りが私を支配する。

 良くない。落ち着かないと、思わぬしっぺ返しを食らうかもしれない。

 だが感情が勝手にふつふつと高ぶり暴れまくる。

 コントロールが上手く行かない。


~49生~


『君島さんの勝ちは揺らがないですが、今、詰み筋を見逃しましたね』

『珍しいですね』

『・・・駒音が』

『はい?何ですか先生?』

『いつもの君島さんではありませんね。駒音が乱れています』

『駒音の乱れ・・・ですか?』

『はい、盤面に集中していません。雑念があるのだと思います』

『はあ(何言ってんだコイツ)』


 良くない。

 この程度の将棋では隙だらけだ。

 完璧とは程遠い。


~アババTV~


『ここで君島さんの勝利が決まりました』

『君島四段、なんだか悔しそうですね』

『勝ちはしたものの、粗さも目立つ将棋でしたからね』

『高美戦、長瀬戦の時のような上手さは確かに無かったですね』



 何やってんだ、私は。

 こんな将棋では対局相手に失礼だ。

 いたた、気づいたら膝が物凄く痛い。

 痛みに気付かないくらい怒りに支配されていたのか。


「君島さん、今日の対局楽しみにしてたんだけど、調子悪かったの?」

「え?い、いえ、そんな事は・・・」

「今日は負けちゃったけどさ、これなら次は僕が勝っちゃうからね」


 今日の相手は30代の先生。

 強い人では無い。

 なのに、こんな事言われちゃったか。


「・・・先日、6組のトーナメントで問題があったらしいね」

「は、はい、聞いてますか?実はその事が頭から離れなくて」

「うん、聞いた。君島さんが凄く怒ってた事も」

「あまりに失礼な態度に頭に血が登っちゃって・・・」

「棋譜も見たよ。アマチュアの方はわずかのミスも無い将棋だったね」

「・・・」

「・・・上がって来るかもね。正直自分なら付け入る隙が無いと感じたよ」


 私も棋譜は見た。

 まるでAIソフトのようだった。


「まあ一局見ただけでは判断できないけどね。この前の対局で6組の他の棋士達の警戒度も上がった筈だから、真価を問われるのはこの後じゃないかな」

「・・・そうですね」

「自分が止めようとか思ってる?」

ギク「え?い、いえ別に」

「・・・冷静にならなきゃ駄目だよ。少なくとも今日みたいな将棋では駄目だと思う」


 はい、解ってます。

 今回はクールダウンするヒマも無かった。

 幸い、あたるとしたら本戦トーナメントの一回戦、来年の6月だ。

 まだまだ全然先の話。


 その前に自分が負けたらお話にもならない。

 相手だってあっさり負けるかもしれない。

 そうだよね、もっと落ち着くべき。

 今から意気込んでどうなると言うのだ。

 

「先生、今日の将棋はすみませんでした。荒々しい将棋で恥ずかしいです」

「謝られると負けた僕の立場が無いけどねwでも自分を負かした相手に早く負けて欲しくないんだよ。頑張ってね」


 はい、先生の思いも背負います。

 ご指導ありがとうございました。



--------------



 翌日、連盟のクリスマスイベントが行われる。

 関東の人気棋士が一堂に会し、大きな会場でのイベント。

 私もミニスカサンタで参加。

 これがもう超大ウケ。

 またファンを増やしてしまったわね。


「君島さん、冬なのに生脚なんてあざといですよ」

「水上さんも生脚じゃないの」


 同じ事考えてる女がもう一人いた。

 同レベルみたいで嫌だなあ。


「甘いですね、咲子はヘソもチラリと見えるようにしました」

「ええ?下に何も着てないの?」

「ヘクチッ」

「・・・風邪ひかないようにね」


 サンタコス上着を直に着たか。

 さすがにそこまでは出来ないわ。

 同レベルじゃなくて良かった。


 さて、まずは指導対局か。

 ミニスカサンタ姿で五面指し。


「豊縞先生のような指し方をされますね」

「解かる?俺ファンなんだよー」


 一応プロなんで解かるに決まってます。

 棋譜は必ず研究している。

 と言うか、直近の対局の棋譜そのままなので丸解りだ。


『咲子、そこに指されると困っちゃーう』


 隣がうっさい。

 大人しく負けてあげなさいよ。

 と言うか、指導対局なんだから良い手を褒めなさいよ。


「おっとそれは!」

「え?な、なにかおかしかった?」

「私の駒台をよく見て貰えると・・・」

「・・・あ!王手飛車か!指し直していい?」

「どうぞどうぞ」


 ふう、あんまり変な手を指されるとこっちが焦る。

 次の盤面は・・・これまた小っちゃい子だなぁ。


「・・・上手だね。誰に教えて貰ったの?」

「おとーさーん」

「お父さん強いんだね」

「ねえ私、女流になれる?」

「なれるかもね・・・棋士には興味ないの?」

「キシ?女流棋士でしょ?」


 ・・・あ、棋士と女流棋士の違い解ってないんだ。

 そうだよね、解んないよね。


「もっと練習すればなれるよ。まずは連盟の将棋教室へ!」

「え?う、うん、お父さん、教室があるんだって」


 後ろにお父さんが居た。

 お父さん、可愛い娘さんに英才教育しましょうよ。

 お高いんでしょですって?そんな事無いですよ!

 貴方がキャバクラに使う金に比べたら微々たるもんですよ。


「キャバクラってなあに?」

「む、娘の前で変な事言わないでくれ!」

「ねえいいでしょ?流歌のお願い聞いてくれないの?」

「ええ?しょ、しょうがないなぁ」デレデレ


 キャバクラ行ってるなこれは。

 私の眼に狂いは無かった。

 取りあえず生徒を一人ゲット。

 今日もまた連盟に貢献してしまった。



 次はトークショーですか?

 会長と私?何ですかその組み合わせは。


「やあやあ君島さん、今日も凄い恰好で」

「(今日も?)サンタコスは皆着てるじゃないですか。背が高いから(脚が長いから)目立つだけで」

「でも、いつもスカートが短すぎるような」

「これは連盟に用意して貰った物ですよ」

「そ、そうなの?脚が長すぎるとそうなるんだね」


 そうそう、私は普通の服を着ているだけ。

 ただ、脚が長いから露出多いように見えるだけ。


『このアバズレー』

「おや、会場に竹野さんが・・・なんだ水上さんですか。舞台裏から話しかけられるとややこしくなるから」

「会長、竹野さんのエピソードを聞かせてください」

「ええ?!後が怖いからなあ」


 会場が笑いに包まれる。

 皆、竹野伝説を知っているのね。


『殺菌!殺菌!』

「あらまあ、水上さんが竹野さんをイジってますね。あいつ消されますね」

ビクッ『ひぇー』

「君島さんもイジってるじゃないですか」

「私は素敵なエピソードを聞かせて貰えると思っただけです。会長はどんなエピソードだと思ったんですか?」

「い、いや、竹野 さよりさんは勿論素敵な女流で・・・」


 会場が笑いに包まれる。

 ちょっと調子に乗りすぎたかな。

 私みたいなペーペーがあんまり会長を困らせるのは印象良くない。

 軌道修正しないと。


「会長、今年ももう終わりですが、今年の将棋界は色々ありましたよね?」

「う、うん、自分が棋士になった事を言ってるの?」

『あざといー』

「それも自分では小さな一歩だと思ってますが、それより藤谷 王太先生の初タイトルについて見解を聞かせてほしいです」

「うん、ついに獲った、と言う印象が強いかな。史上最年少タイトルを期待されていた人なので、やっとかとも思うし、二十歳だからやはり早いなとも思うし」

「史上3番目の記録ですよね。藤谷先生は現在A級でも頑張っていますが」

「今2位ですね。ひょっとしたら3月には名人挑戦を決めているかもしれませんね」


 他の棋戦でも常に上位まで行く藤谷 王太。

 今の私からは遠い存在。


「豊縞先生が現在1位ですが、最近は関西の棋士が調子いいですよね」

「そうなんだよね、関東の棋士にも頑張って欲しいんだけどね」


 豊縞先生も王太君も関西。

 斉上元玉座も関西、他にも関西には有力株がたくさん居る。


「ここは一つ、君島さんの奮起に期待しようかな」ははは

「任せてください」

「え?」


 自分から振って来たくせに、会長が驚いてる。

 冗談だったのか無茶振りだったのかは解らない。

 でもどっちでもいい。


「棋士になったからには当然タイトルを獲りたいですよ。回りが無理だと言おうが自分は信じています」


 おぉ・・・

 会場から感嘆の吐息が漏れる。

 あーあ、言っちゃった。体が少し震えた。


「私は女性初の棋士です。そして女性初の八大タイトル獲得を目指します」

「おお、頼もしい言葉ですね」

「言ってしまえば引っ込みつかなくなるので、出来なかった時には笑ってやってください」

「いやいや、身の程を知らない者の言葉なら笑うところですが、君島さんはすでに新しい扉を開いた先駆者、笑うなんてとんでもない」

「厳しいのは解っています。ですが目指さなければ可能性もありません」

「・・・その通りですね。では我々も対局の場では君島さんに立ちふさがる壁です。やすやすとは通しませんよ?」

「解っています。私を強くする為にも、分厚い壁であってください」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ。

 自然と会場から拍手が巻き起こる。

 あーあ、勢いで大きな事言っちゃった。

 棋士は謙虚であるべきなのに。


 自分を奮い立たせたかった。

 クリスマスのイベントで話す事じゃ無かったけどね。

 でも話の流れで決意表明みたいになっちゃったな。


 まあいいや、もう引っ込みつかないし。

 心の中では常々思っていた事だ。

 私はタイトルを目指す。

 そして女性初の棋士が、まぐれで棋士になった訳では無い事を証明する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ