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駒唄  作者: 無二エル
79/93

価値ある一勝

 11月中旬


 今月は対局が少ない。

 久々に時間が空いたなぁ。

 たまには弟子の様子も見ておかないと。


「奨励会はどう?苦戦してるみたいね」

『はい・・・まだ2勝しか出来ていません』


 パソコンで顔を見ながらTV電話。

 9月下旬から始まった奨励会はここまで4回12局。

 希羽ちゃんの成績は2勝10敗か。

 かなり悪いペース。


「2勝8敗を2回取ると降級だっけ?」

『はい、私の場合はまだ12歳なので7級に降級です』


 奨励会には例外的に7級という位がある。

 6級から落ちてもまだ伸びる可能性がある子に与えられる特例。

 これが18歳とかだと適応されない。

 21歳までに初段に上がらないと退会なのに、18で7級じゃ見込みないと判断されるのだと思う。

 早めに肩を叩いてあげるのも優しさなのかもね。


「7級から更に2勝8敗を2回取ると退会だっけ?」

『はい・・・』


 さすがに猶予にも限界があるのか。

 でも想像通りなんだよね。

 希羽ちゃんの実力はまだそんなもんだ。

 けど7級降級は困るな。私の弟子として降級はふさわしくないわ。


「最近、白湯女将棋部とは指してる?」

『はい、時間がある時に指して貰ってます』

「でもそろそろ物足りなくなってくる頃じゃない?希羽ちゃんはもう奨励会員なんだから」

『え?!そ、そんな事は』


 そんな事は無いと言ってるようじゃ駄目だよ。

 もっと貪欲に上の相手と戦って行かないと。


『卯亜さんや他の奨励会員とネットで指したりはしていますよ』

「そう・・・それも良いけど・・・」


 今の希羽ちゃんの実力に丁度良い相手は女流。

 それもトップの女流が丁度いいわね。

 そう思ったけど頼める相手が居ないなぁ。

 姉弟子は喋んないから感想戦が出来ないし。


『いえ、橘女流とは時々ネットで指して頂いてますよ。荒木大師匠の紹介で』

「ええ?そうなの?」

『感想戦も優しく教えてくれるので助かってます』

「えええ??声聞いてるの??」


 ズルいじゃないの!私だって聞きたいのに!

 ああもう、なんで姉弟子は私にだけ話してくれないのよ。


「姉弟子に相手して貰ってるくせに2勝10敗?許せないわね」

『ええ?急にどうしたんですか』

「次の例会で3勝しなさい。じゃないとお仕置きよ」

『お、お仕置き?』


 希羽ちゃんはもともと尻を叩いてあげた方が力が出る。

 本気でお仕置きする訳じゃ無いけどここは厳しい顔をしておこう。


 さて、そうは言っても実力の底上げ無しに3勝は厳しいだろう。

 私はしばらく対局無いから連日猛特訓してあげるね。

 真剣な顔で頷く希羽ちゃん。

 踏ん張りどころだよ。

 これから何度訪れるか解らない正念場、乗り越えていってね。



--------------



 私の脅しと連日猛特訓が効いてか、希羽ちゃんは11月の第二例会で3勝した。

 これがきっかけとなって躍進してくれると良いけど、そんなに甘い世界でも無い。

 これから幾度となく尻を叩く機会が来るだろう。

 出来れば実際に会って尻を撫でまわしてあげたい。

 尻も将棋も成長が楽しみだ。




 11月下旬


 今日は大学の秋季団体戦最終日。

 リーグ戦は8校で3週に渡って行われる。

 白湯女将棋部はB1リーグで現在6位。

 すでに2位までのA級昇格圏内はほぼ絶望的で、7位以下の降格圏内を逃れる為に戦っている状況だ。

 私は最終日だけ見に来た。


 ローテションを組んで戦ってるけど、戦前の玲奈の予想通りになっている。

 玲奈、織華ちゃんは全勝。

 木葉ちゃんはぼちぼち。

 頼子、シャーリー、花音ちゃんは全敗では無いものの負け越し中。

 他の子に至っては1勝も挙げられていない。


 奮起したところで元々の実力がいきなり上がる訳でも無い。

 まあ妥当な結果なのかな。


『こ、今回の白湯女、なんか怖くね?』

『個人戦の時は普通だったのにな』


 負けてはいるけど貧乳達の闘志は衰えていない。

 よっぽど馬鹿にされたのが悔しかったのかな。

 今日こそは勝ってやると眼が血走ってる。


「流歌ちゃんもBなんだから怒りなよぉ」

「私も含めて馬鹿にされたの?」


 棋士の私を馬鹿にする度胸があるとは・・・

 誰が言ったんだか知らないけど、理由なんて何でもよかったんだって。

 相手を馬鹿に出来ればそれでいいと言う子供の考えだよ。

 そう言おうと思ったけど、やる気に水差しても何だし今は黙っておこう。


「玲奈、今日の展望は?」

「本日は各2局、取りあえずは降格を逃れたいですわ」


 幸い、7位とは結構ポイント差がある。

 楽観視は出来ないけど降格の可能性は低いと思う。

 いや、相手次第ってのもあるか。


「今日の相手は?」

「現在4位の学校と8位の学校ですわね」

「なんだ、上位じゃないんだね。昇格の可能性は本当に無いの?」

「2位が全敗して白湯女が全勝、3位、4位、5位もそこそこ負けてくれないと無理ですわね」


 厳しいねw

 まあここまで順調に登って来たのが出来過ぎだからなぁ。

 今回は降格さえ逃れる事が出来れば御の字な気がする。


「・・・」

「どうしたのシャリー?」

「エートね、ハルカとナユが居なくて寂しいナッテ」

「シャリー・・・」

「ナユはね、シャリーに元気をくれたし、ハルカはね、黙って背中を押してクレルノ」


 ・・・支えてくれてたんだね。

 今年の春季大会まではずっと一緒に戦ってきた仲間達。

 彼女達も就職活動頑張ってるよ。

 シャリーも頑張ろ?


「ソウダネ、2人が居なくなってリーグ落ちたんじゃ面目次第もナイヨ」

「そだね、帰って来た時の為にせめて現状維持はしないと」

「いつ帰ってクル?」


 それは・・・解らないよ。

 早く内定出ればいいんだけどね。

 でも人生がかかってるんだ。慎重に決めて欲しいと言う気持ちもある。

 寂しいけど私達も我慢しないと。


「それにリーグ落ちたら心配するかもしれないよ?」

「ウン・・・2人がアンシンして就職活動出来るようにシャリーもガンバルヨ」


 うん、頑張って。

 2人の代わりに今日は私が応援するからね。



---------------



 第一局は現在4位が相手。

 選抜された7人が対局へと向かう。

 玲奈、頼子、シャリー、織華ちゃん、木葉ちゃん、呉波ちゃん、後は2年生の子。

 

「花音ちゃんは抜け番なの?」

「ローテーションなのだ」


 個人戦でベスト32だった花音ちゃんも団体戦では今の所1勝3敗らしい。

 橘流が上手く行かず、早指しが仇になってるとか。


「でも次は出るのだ。このままじゃ終われないのだ」

「そうだよ、橘流が弱いと思われたら困るからね」

「絶対勝つのだ!」


 その意気だよ。取りあえず今は応援しよう。

 と言っても五月蠅くしちゃ駄目なんだけどね。


「そう言えば君島先輩、今度親の会社が将棋のタイトル戦のスポンサーになるのだ」

「え?!」

「協賛なのだ。花音は第一局の前夜祭でタイトル保持者に花を渡す役になったのだ」


 へえ!あれって子供とかがやる事多いんだけど・・・

 花音ちゃんは19だけど中学生くらいに見えるからまあいいか。


「そっか、花音ちゃんはスポンサー様なんだ。肩揉もうか?」

「いいのだ、なんだか露骨すぎて怖いのだ」


 何のタイトルのスポンサーなの?

 棋玉戦?へえ、タイトル戦は来年の2月だね。


「・・・ちょっと待って、タイトル保持者は渡邊じゃないの」

「なのだ」


 花音ちゃんが花を渡す相手は渡邊か・・・

 まあいいか、私はあいつを許したんだっけ。


 近年、将棋のスポンサーも様変わりしている。

 もはや新聞社だけでは支えていけない時代なんだろね。

 ・・・この先どうなるんだろ。将棋界の未来は明るいのかな。


「花音が将棋にハマったからパパも興味持ってくれたのだ」

「そっか、それでタイトル戦のスポンサーにまでなってくれるなんてありがたい」

「娘が君島先輩と同じサークルなんだから興味持って当然なのだ」


 そっか、今話題の超美人棋士と娘が同じサークルで誉れ高いか。

 じゃあスポンサー獲得は私の手柄か。


「あながち間違いでも無いのだ」

「ええ?冗談だよ?突っ込んでよ」

「実はここで連盟に恩を売って、君島先輩に会社のCMに出て貰うつもりらしいのだ」


 それは聞いていい話だったのだろうか。

 別に私はいいわよ?花音ちゃんの親の会社なら喜んで出るよ。


「良かったのだ。パパは正攻法だと断られると思ったらしいのだ」

「なんで?」

「地方CMだからなのだ。田舎者はその辺卑屈なのだ」

 

 地方CMは都落ちとか勝手に思ってるらしい。

 今を時めく君島 流歌様が地方CMなんか受けないと考えたのか。

 別にそんな事無いのに。


「パパは純茶のCMで君島先輩に一目ぼれしたのだ」

「・・・キャストとしてって意味だよね?」

「勿論なのだ。心配しなくてもパパはママを愛しているのだ多分」

「多分なんだ」


 子供はそう信じたいわよね。

 ・・・ウチのパパ、浮気とかしてないでしょうね。


「とにかくよかったのだ。パパも喜ぶのだ」

「うん、でも一応連盟の広報は通してね」


 私個人は別に良いよ。

 スポンサーなら連盟もNOとは言わないんじゃないかな多分。

 あ、ぽつぽつ対局が終わり始めたみたい。


「カッタゾー!」

「おお!シャリー凄い!」


 玲奈と織華ちゃんとシャリーと木葉ちゃんは勝ったらしい。

 勝ち越しなのでチームとしての勝ち点も入り、合計5ポイント。


「・・・これで、B1残留が決まりましたわね」

「ええ?そうなの?」


 いや良かったけどさ。

 あっけない。


「次の対局は試合出場数が少ない方を優先的に出場させます」


 残留決まったから残りは経験か。

 でも来年の為には少しでも良い順位にしといた方が良いんじゃないの?


「いえ、ポイント制なので同点になる事があまりありませんし、それよりも勝ちをもぎ取る経験の方が重要です」


 次の相手は最下位。

 ここまで0勝の者でもあわよくば・・・

 そうは言ってもB1、簡単では無いだろうけど。


 そんな訳でここまで出ずっぱりだった玲奈、織華ちゃん、木葉ちゃんも最終戦はお休み。

 最終戦のオーダーが組み上がって行く。

 花音ちゃん以外は全員0勝だ。

 一人でも勝ちを経験してくれると良いが・・・


「三田村さん、任せましたわよ」

「行って来るのだ!」


 気合は入ってる。

 ここでのエースは花音ちゃんだよ。皆を引っ張ってあげて。



-------------



「勝ったのだ!!」「私も勝てました!」「勝ったッス!」


 おお、3人も勝った!

 恐らくは消化試合だし、相手も力のすべてを出したかどうか解らないけど・・・

 それでも勝つ経験は大きい。

 一方、まったく勝てなかった子達も。


「・・・一勝も出来なかったね」

「やっぱり貧乳には無理なのかな?」

「無理な事は無いよ。頼子が勝ってるし」

「おぃい」

「皆さん、相手も子供の頃から将棋を指している方々、簡単に勝てなくて当然です。わたくし達は大学に入ってから始めた方が殆んどでしょう?」


 そうだね、年季が違うんだよ。

 時間の長さを簡単に覆せるものでは無い。


「ですがわたくしたちの傍にはプロが居ますわ。他より有利な条件で早く強くなる事も可能だと思ってください」

「そうだよ、この飛ぶ鳥を落とす勢いの君島 流歌様が・・・」

「サークルにあんまり来ないし最近調子の乗り気味の人ではありますが」


 悪かったわね。

 来たい気持ちは山々だけど、他にやる事が多すぎるのよ。

 

「それでも、一つの目標を達成し、今も夢を追い求め頑張っている人です。将棋に関わらず、彼女の姿から学ぶ事は多いと思いますわよ」


 部長としての挫けるなと言う言葉。

 玲奈らしい優しい言い方。


「・・・私、これからも頑張ります」「私も」「私も」


 信頼されてるね、玲奈。

 後輩たちは私じゃ無く玲奈を見てるよ。

 ちょっぴり羨ましいな。


 白湯女将棋部のB1団体戦最終順位は5位。

 悪くない結果だと思うよ。

 来年の春、更に強くなった白湯女がまた挑戦するからね。

 他の学校は覚悟しておくといいわ。

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