表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駒唄  作者: 無二エル
71/93

プレゼント

 9月上旬 将棋会館


 姉弟子が聖麗のタイトルを防衛した。

 これで姉弟子は女流タイトル3期獲得で女流四段になった。


 連盟では女流四段になれば待遇が変わる。

 それまでのアルバイトの扱いから正社員へ。

 健康保険や年金などの保証も変わって来る。

 姉弟子嬉しいだろうな。


 タイトルを3期獲ってやっと一人前として認めてもらえる連盟の規則。

 思う所は色々あるけど、取りあえずは姉弟子が報われて良かった。


「姉弟子、賞金も入って余裕があるとは思いますが、聞き手やもっとイベントに参加すれば、もっと収入が・・・」

ぱらぱら「・・・」

「何見てるんですか?・・・ああ、車のカタログですか」


 そう言えば車買うって言ってたっけ。

 

これこれ「・・・」

「こんなデカい車買うんですか?」


 でっかい四駆だ。

 147cmの姉弟子には大きすぎるような。

 東京だと駐車料金も馬鹿にならないのに。


「ご、500万・・・」

大丈夫「・・・」


 凄い買い物だ。

 私も結構貯まって来てるけど、特に使い道は無い。

 実家暮らしだし、ほとんど減らない。

 うーん、両親に旅行でもプレゼントしようかな。

 

「私も、家を建て直そうかと思ってね」

「師匠」


 師匠も本の印税が入って来た。

 豪邸は無理だが、小さな家を建てられるくらいの額が入って来たらしい。

 師匠の家は結構古かったから、良かったですね。


 車と家か。

 人生で1、2を争う大きな買い物。

 私はまだ一度にそんなに大きなお金を使うのはちょっと怖いな。


「無理に使う必要は無いよ。でも流歌は今、家の車を使ってるんだろう?自分の車を買う気は無いのかい?」


 家には一台しか置けないので。

 駐車場借りるのも勿体ないし、今のところは必要ないです。

 買い替える時には半分くらいお金出そうかな。


これこれ「・・・」

「何ですか姉弟子?」

「流歌はこの車に乗ると良いって言ってるよ」


 なになに?高級車っぽい。

 1300万?!こんな車があるの?


「ドイツ車か、かっこいいね。丈夫だし良い車だよ」

「丈夫って言っても・・・こんなの買ったらあっという間に貯金が無くなりますよ」

CMCM「・・・」


 確かにCMでドカンと入ったけど。

 駄目駄目、価値観が変わりそうで怖い。

 

かっこいいのに「・・・」

「姉弟子も無駄遣いしちゃ駄目ですよ?」

無駄じゃないもん「・・・」


 車での移動は確かに安心ですよね。

 動くプライベートな空間。

 免許取って本当に良かったな。


「車じゃなくても、流歌は何か欲しい物は無いのかい?年頃なんだからブランド物とか」

「特には・・・でもちょっと困ってる事がありまして」

「え?」


 私がプロになってから、連盟にプレゼントが送られてくるようになった。

 モノは色々、それこそ安い物から高い物まで色々だ。


 まずは食品。

 対局中に食べる携帯食品や、中には手づくりの物まで送られてくる。

 これらは勿体ないがすべて破棄、何が混入してるか解らないからね。


 私が腰や膝を痛めやすいので、医薬品やサポーターが送られてくる事もある。

 CMでよく見る物や、読めない文字の外国製の良く解らない物まで色々。

 これらは使う事もあるけど、得体のしれない物は使えない。


 多くは無いが、アクセサリーやブランド品が送られてくる事もある。

 イヤリングやネックレス、ビックリしたのは100万以上するはずのハンドバックが送られて来た事もある。

 これらは殆んどが使用する事は出来ない。

 そりゃそうだよ。使ってるとこ見られたら、誤解させてしまう。

 恋人同士が送りあうような物だからね。


「でも使わないんじゃ勿体ないね」

「いえいえ、キャバ嬢じゃあるまいし、そんなもの貰っても」

「じゃあ売るのかい?」


 貰った物を売るのもな・・・

 でも数が増えすぎたら置く場所も無いし、結局は処分する事になると思う。

 捨てるのも何だし、やっぱり売る事になっちゃうんじゃないかな。

 なんだか凄く後味悪そう。


 連盟の職員さんが来た。


「またプレゼントが届いてますよ。検査は終わってます」

「そうですか。ありがとうございます」


 変な物が送られてくる可能性があるので金属探知は欠かせない。

 怪しい場合は近くのお医者さんでX線検査までしてもらう。

 お金がかかるので正直複雑だ。


「ふう・・・化粧品、携帯ゲーム機、何これスマホ?」

「スマホ?」


 プレゼント相手に番号直通のスマホだろうな。

 怖すぎて電源入れられない。

 GPSも付いてるからすぐにバッテリーを外す。

 こんなのどうしろって言うのよ・・・


「怖いね、この携帯ゲーム機にGPSが仕込まれてるような事は無いのかい?」


 無いとは言えないよね。

 疑い出すとキリが無いけど、電源を供給する物はすべて警戒した方が良いのかも知れない。

 いやむしろ、電池と一緒に埋め込まれている可能性があるとしたら電子機器以外だって危ない訳だ。

 だから金属探知は欠かせない。

 

「化粧品は使うのかい?」

「どうなんでしょう?ヒ素とか練りこまれてないですよね?」


 疑い出すと、本当にキリが無い。

 でも有名になると、それを害そうとする者は必ず出て来る。

 程度はそれぞれだが、用心に越した事は無い。


 そんな訳で、プレゼントの殆どが無用の物になってしまう。

 大概は善意の贈り物だと思うんだけどね。

 でも一部の悪意ある人のせいで、無駄になってしまう。

 いらないとも言えないし、困ってると言うのが現実。


「ふう、こんなに貰ってもどうしたらいいのか」

「流歌、それは開けないのかい?」


 プレゼントがもう一つ残ってる。

 キラキラの包装をされた、小さい箱。

 それが少し大きめの段ボールに梱包されていた。

 持つと少し重量感を感じる。

 何か高級そうな予感がして、開けるのを躊躇っている。


「そちらはスポンサー様からの贈り物です」


 職員さんがそう言って去って行った。

 スポンサーが贔屓の棋士にプレゼントを贈るのは珍しい事では無い。

 袴や対局服など、今度は一度は身に付けて公の場所に出ないと角が立ってしまうから別の意味で難しい代物。


「大きさ的にアクセサリーじゃないかな」

「そんな予感がしますね」


 ちょっと重いから指輪とかでは無いと思う。

 はぁ、怖いけど開けるか。

 ・・・・・・


「・・・何これ?」

「時計だね・・・おお!ラジェデュブイじゃないか?!」


 師匠のテンションが異常に上がった。

 驚き方で解る。多分物凄い高級品だ。


「この周りに埋め込まれているのはダイヤですよね」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、今いくらのモデルなのか調べるから」


 師匠のスマホを扱う手が震えている。

 それと共に募って行く嫌な予感。


「い、1600万だよ・・・」

「は?はぁ?!さ、さすがにそんな高い物貰えないですよ!」


 無茶苦茶じゃないの、そんな物どうしろって言うのよ。

 はあ、お金ってあるとこにはあるのね。


「ど、どうすればいいんですか?」

「一体どなたがこんな物を・・・ああ、その人か。他の女流もプレゼントを貰ってると聞いたなぁ」

「女にだけ送ってるんですか?どうなんでしょう?エッチな考えで送ってるんですかね?」

「いや、多分もう枯れてるとは思うが・・・」


 80歳越えのおじいちゃんらしい。

 それにしても1600万って。


「凛も貰ったことあるよね?物は何だったんだい?」

これこれ「・・・」


 イヤリングか。今も身に付けている。

 お、お返しにエッチな要求されませんでした?


ないない「・・・」

「ホッ」

「だが今回は値段がね・・・」


 凛さんのイヤリングはいくらぐらいの物なのだろう。

 60万?!1600万の後だと安く聞こえるけどそれでも凄いな・・・


「他の女流もそこまで高い物は・・・本気なのかもしれないね」

「ほ、本気ってどういう意味ですか?!」


 め、妾になれ!って言われるとか?

 いやよ!いくらスポンサーだからってそこまでは出来ないわ。

 うええん玲奈たすけてー、電話しよ。


『ああ、その方なら安心ですわよ。わたくしもパーティで何度かお会いしたことがありますが、とても紳士な方です』

「でも、女流にしかプレゼントを送ってないんだよ?」

『・・・実は、孫娘さんを事故で亡くされていますの。それでだと思いますわ』

「!」


 な、なんだって・・・

 急激に襲って来る同情の気持ち。

 変に邪推した自分が恥ずかしくなって来る。

 ・・・いや、それでも1600万のプレゼントはおかしいか。

 私だけ異常に値が張る代物だし。


『何故君島さんだけ特別なのかは解りませんが、面影が似てるとかじゃないですか?』

「お孫さん、物凄い美人だったんだね」

『性格は似てないと良いんですけど』


 どういう意味よ。

 きっとお孫さんはミスユニバースか何かだったんでしょ?


「返そうかと思ってるんだけど」

『気にしなくてもよろしいと思いますわよ?その方にとっては1600万もさしたる金額ではありませんから』

「でも・・・」

『余計傷つけてしまう事にもなりかねませんわよ?お金があっても満たされない寂しさと言う物がありますから』

「・・・玲奈にもあるの?」

『ありますわね。まず薄情な親友の存在でしょうか』

「じゃあねー」

『ちょっと!まだ話は・・・』プッ


 ふう、まったく何かにつけてすぐに私を責めようとするんだから。

 こんなに良い子なのに何が不満なのだろうか。

 金持ちってこれだから。


「うーん、結局どうすればいいですかね?」

「どのみちお礼くらいは言わなきゃ駄目だよ」


 そうですね、それも令状とかでは駄目だ。

 物が物だけに、直接言わないと駄目だろうな。


「自社がスポンサーのタイトル戦のパーティには来るはずだよ。その時にでもお礼を言いなさい」


 龍王戦の協賛だっけ。

 タイトル戦は10月から始まる。

 ゲストに呼ばれると良いんだけど、駄目でも潜り込ませて貰う事にしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ