普及
ハワイ、まだ夏合宿中。
『ナンパされちゃったねー』
『付いて行けばよかったのにー』
モブの子達が話してる。
昨日のショッピングセンターでの話だろう。
「開放的になる気持ちは解りますが、日本よりも悪い人は多いと思ってくださいね」
『はーい』『解ってまーす』
玲奈が一応注意はするが、彼女達もそれくらいは解ってる。
実際付いて行くような度胸も軽率さも無いだろう。
白湯女はお嬢様が多いからね。
「さて、今日こそは将棋を・・・」
「夜で良いじゃないの。天気いいよ?」
「もう、しょうがないですわね」
大体観光地に来て将棋っておかしいよね。
わざわざ遠くに来てまでやるもんじゃない。
夏合宿?そんなのは運動部がやればいいのよ。
「見も蓋も無い事を」
「私は玲奈と思い出を作りに来たんだよ?」もみ
「きゃあ!む、胸を揉んじゃいけません!」
「ヘンタイダー」
昨日から一部で私のあだ名がヘンタイになった。
ごめんなさい、それは本当に嫌なので勘弁してください。
『あ、あの人また散歩してるよ』
『かっこいいね』
窓際に女の子達が集まる。
ここに来てから1年生の子達の間で話題の人が居る。
金髪碧眼の砂浜を犬と歩く若い男の子。
近所の別荘の子だろうか?
「声かけて来たら?」
『そ、そんなはしたない!』『無理ですよ!女から話しかけるなんて』
さっきナンパされたって言ってた子ですらこの様だ。
自分から仕掛ける勇気は無い。
『き、君島先輩が行ってくださいよ』
「え?それだと私に惚れちゃうんじゃない?それでもいいの?」
「る、流歌ちゃん相変わらずだねぇ」
「そもそも英語が解るんですの?」
「しまった。盲点だったね」
「ンー?シャリーが行ってコヨウカ?」
だってさ、どうなの一年生。
見る見る委縮していくなぁ。
アバンチュールに憧れる気持ちはあるけど、いざとなると怖気づくようだ。
別にそれでいいと思うよ?一時の気の迷いで軽率な行動取る方が愚かだよ。
しかしこっちにその気は無くても向こうから近づいて来る事はある訳で。
2日後
「ハーイ」
ビーチで日光浴してたら先日の男の子が近寄って来た。
若いな、外国人の年齢って解りにくいけど十代だと思う。
「のーいんぐりっしゅ」
「アハハ、日本人デショ?ボクは日本語シャベレルヨ」
ふーん、なんか逆に怪しい。
爽やかな笑顔で騙そうとしてない?
「友達にナッテヨ」
「貴方いくつ?」
「イクツ?」
「何歳なの?年齢よ、えーと、エージ、エージ」
「オー、アーン・・・ジュウヨンダヨ」
14歳?そこまで若いとは思わなかった。
日本語解かるって言ってもそこまで得意でも無いみたい。
「私二十歳だよ?トゥエンティー」
「Why?同じくらいかとオモッタ」
私が14歳?ヤバイちょっと嬉しい!
・・・はっ、いけないこれは罠だわ。
こうやって白人は日本の女の子をイエローキャブにするのね。
「悪いけど6歳も違うんじゃ友達とは・・・」
「OH・・・」
『わ、私達なら4歳違いだけど!』
ん?1年生ちゃん達が入って来た。
便乗なら入って来れるのか。
ぞろぞろと押し合いへし合い大勢で危ないわよ。
「キミ達は、elementary schoolの子デショ?」
『ガーーン!』
なになに?なんだっけ、エレメントリーって。
スクールは解ったんだけどな。
「小学生って意味だよぉ」
「頼子か、ねえ、この子は何歳に見える?」
「ジュウサイ」
「ガーン!!」
「貴方、胸で判断してる訳じゃ無いでしょうね?」
「またもやガーーン!」
こっちに来ようとしていた那由が距離を置いた。
Aカップが危険を察知したわね。
「織華ちゃーん」
「よ、呼ばんといて」
「あの巨乳は何歳に見えるの?」
「ンー、ニジュウロクサイ」
「ガアーーーン!!」
うん、絶対胸で判断してる。
「何をしてるんですの?」
「彼女は?」
「ニジュウサイ」
「惜しいですわね、21歳です。ねえ何のゲームですの?」
そうかFカップでやっと二十歳なのか。
アメリカ基準なのかな。
「ネー、友達にナッテヨ!」
『誰がなるかこの野郎!』『一昨日きやがれ!』
「ど、どうしちゃったんですの?1年生の皆さん」
ドカドカと憤慨しながら去って行く1年生ちゃん達。
断られて項垂れる金髪少年。
ちょっと可愛そうになっちゃった。
「ねえ、何処から来たの?」
「今はココにスンデルヨ。別荘をホームにシタンダ」
「へえ、どうして日本語喋れるの?」
「ンー・・・ニホンジン多いし、テレビジャパン見てるカラネ。スモウがスキダヨ」
へえ、ハワイでも日本のテレビ見れるんだ。
「国営放送を中心に放送してますわね」
「そうなの?じゃあ将棋も見たことあるかな?将棋、解る?ショーギ」
「ショーギ?」
解んないか。
そうだよね、世界ではマイナーだもんね。
「ジャパニーズチェスですわ」
「OH!チェスならトクイだよ!ヤロウヨ!」
「いや、本当のチェスとは別物なんだけど」
「Why?」
んー、ややこしくなっちゃった。
「ヤロウヨ!」
「うーん、ルール解んないし」
「いいですわ。わたくしが対戦しますわ」
玲奈出来るの?
チェスは元々別荘にあるらしい。
じゃあテラスでやる?
私もちょっと興味あるから見物しよう。
「玲奈、チェス得意なの?」
「ルールを知ってるくらいですわ」
「なんだ、弱いのか」
「いえ、いまのわたくしなら・・・」
「?」
対戦が始まった。
へえ、チェスの駒って足が速いんだね。
あっという間の勝負がついたようだ。
「う、ウソデショ?」
「どうなったの?」
「引き分けですわ」
チェスは引き分けがあるのか。
何よ、強いんじゃなかったの?
「ぼ、ボクはジュニアチャンピオンだよ」
「チェスの?それって凄いの?」
ハワイのチェスのジュニアチャンピオンだったらしい。
どれくらいのレベルなのかさっぱりだ。
「OH・・・ハワイはそんなにチェス人気無いけど女の子とイーブンなんて」
「玲奈、ルール知ってるだけって」
「将棋のお陰ですわよ」
あー、将棋強い人がチェスやるとすぐに強くなるらしいね。
棋士の中でもチェスが強い人は多い。
「君島さんもやってみたらいかがですか?」
「ええ?駒の動きは大体わかったけど・・・」
「カノジョはビギナー?」
流石にいきなりは・・・
・・・・・・
なるほど、手が見える。
「これでどう?」
「う、ウソデショ?!」
「さすがですわね」
勝った。
本当はそんなに強くないんじゃないの?
「ウソジャナイヨ、ボクは・・・」
しょんぼりしちゃった。
いよいよ本格的に可愛そうだ。
いや待って、こうやって同情を引いて日本の女の子をイエローキャブに・・・
「ホントみたいダヨー」
シャリーがスマホを見せて来た。
英語のサイトだ。Wifi持ってたの?
あ、金髪少年の写真がある。
トロフィー持ってるね。
「ハワイチェス協会のサイトダヨ」
「へえ、じゃあ将棋連盟のHP出してよ」
「イイヨー」
連盟のHPは英語にも出来たはず。
出た出た、私の美しい画像が。
「ミーはジャパニーズチェスプロだよ」
「Why?」
スマホと私を見比べながら困惑する。
記事を読むうちに事情が分かったようだ。
「Are you a Japanese chess professional?」
「イエース!」
「Oh・・・」
「チェスも良いけどさ、将棋にも興味持ってよ」
異国の地で見知らぬ少年に将棋を進める私。
これも普及活動。
「オモシロソウ・・・解った、オボエテミルヨ」
「うん、ネットでも指せるからね」
手を振りながら男の子が帰って行く。
ふう、仕事したー。
小さな一歩だけど、将棋に興味を持ってもらえるだけで嬉しい。
「そう言えば名前も聞かなかったね」
「リアム・ペイジって名前ダヨー」
ふーん、でも私ってすぐ忘れちゃうからな。
もう日本に帰っちゃうし。
さらば異国の少年、お達者で。




