出版記念パーティ
7月中旬
今日は師匠の本の出版記念パーティに呼ばれた。
棋士ってなんだかんだでパーティが多いなぁ。
『ねえあの人・・・』
『あ、CMの』
駐車場に車を止め、会場に行くまでに顔を指される。
最近、街でもこういう事が多くなった。
CM効果って本当に凄いな。
以前からあった事だけど、CMが流れ出してからは段違いだ。
将棋に興味が無い人にも注目されるからだろうな。
『なんかエレガントな恰好してるね』
『凄いね、上流階級なのかな』
違いますw今日はたまたまパーティなんです。
ふう、もうマスクくらいじゃ意味ないな。
足の長さでバレてしまう。
長めのスカートで出歩かなければいけないのだろうか。
会場
「師匠、この度はおめでとうございます」
「流歌、君も主役の一人なんだからね」
解ってますよ。今回の本の内容は私が女性初の棋士になった事が題材の物。
それを師匠がこうやって育てました的なエッセンスで味付けして面白おかしく一冊の本にした。
私も読んでみたけど面白かった。
脚色も多いけど、世の中そんなものなのだろう。
「発売前だけどネットの予約が凄いよ。流歌のCMと時期が重なったのが良かった」
良かったですね、師匠。
たくさん売れると私も嬉しい。
「でも本当に良かったのかい?流歌にも利益配分を・・・」
「いりませんって、本もなかなか売れない時代なんですから」
私にも印税配分の話が出たけどお断りした。
自分で稼ぐから良いですよ。
「あれ?今日は凛さん来てないんですか?」
「ああ、聖麗戦が近いから集中させてあげたくてね」
そっか、来月初めからタイトル戦だっけ。
姉弟子には防衛を頑張って貰って出来れば永世称号を獲って欲しい。
でも当然来ると思ってたからちょっと寂しいな。
ふう、心細いけど師匠が居るからいいか。
パーティが始まり、まずは壇上で師匠の挨拶。
私は隣で添え物だ。
師匠が面白おかしくざっくりと本の内容を説明する。
会場は笑いが漏れ和やかな雰囲気。
師匠、挨拶上手なんですね。
乾杯、そして歓談。
さて、棋士も何人か来てるけどほとんどが知らない人だ。
偉い人も多そうだな。良く解んないけど。
あ、どうも、へえ、出版社の社長さんですか?
師匠がお世話になってます。
そちらは広告会社の会長さん?
どうも、お世話になる事があったらよろしくお願いします。
あ、あれはだれだっけ。
テレビで見たことあるんだけどな。
ワイドショーでコメンテーターしてたような。
うーん、本当に色々な人が来るんだね。
40代くらいの男性が近づいて来た。
「やあ君島さん、CM見てますよ」
「はい、ありがとうございます」
「・・・僕の事、知ってるよね?」
え?やばっ・・・誰?
お偉いさんはプライド高そうだから知らないって言いにくい。
でも確かにどっかで見たことあるんだよね。
誰だっけ・・・
「どうも藤城社長、私の弟子が何か?」
師匠が助けに来てくれた。
藤城社長?・・・藤城、藤城・・・
「・・・あ!アババTVの社長さんの?!」
「ははは、やっぱり解ってなかったんだ」
すみません!
確か正確にはファイバーエージェントとか言う会社の社長さんだ。
アババTVの他にもいろいろやっている。
「ブログとか書かない?君島さんなら全面的にプッシュするけど」
「ああ・・・私ああいうのは苦手で」
ミジンコブログか。
どんな人が読んでるのか知らないけど結構人気だ。
まあ最近は下火になってるけどね。
「じゃあ、王太君の時みたいにアババで特別対局しませんか?」
「ああ、七番勝負ですか?」
あれは記念対局みたいなもんだからどっちでも良いかな。
でもあんまり断りすぎるのも悪いし、どうしよう。
「藤城社長、広報を通して連盟の方に・・・」
「そうでしたね、申し訳ない」
答えに困ってたら師匠がまた助けてくれた。
まあ連盟の意向もあるから私が個人的には決めれないですよ。
解ったとだけ言い、藤城社長は離れて行った。
「ふう、焦りました。すみません師匠」
「この機会に沢山の人の顔を覚えなければ駄目だよ。流歌もこれからこういう機会がたくさんあるんだからね」
はい、解りました。
でもそっか、交友が増えて行くんだな。
浅く、広く、増えて行くのだと思う。
その後も何とかやり過ごし、パーティは終了。
ふう、無茶苦茶疲れた。
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順位戦C2第2局が行われた。
相手の粘りに苦しむも、なんとか勝つ事が出来た。
はあ、もう夜中だよ。
やっぱり持ち時間6時間は厳しいな。
感想戦が終わって家に帰ったら2時だった。
「パパ、起きてたの?」
「ああ、お前の対局見てた。勝って良かったな」
私の対局は毎回中継が入る。
これで順位戦1勝1敗。
「ふう・・・疲れちゃった」
「腰は大丈夫なのか?膝は?」
今日は大丈夫だったよ。
腰はサポーターしてると全然違うね。
膝は相変わらず痛くなるけど。
「風呂入って早く寝ろよ。明日も学校か?」
「うん、でも午後からだよ」
「単位足りてんの?今日は休んだんだよな?」
大丈夫、単位が足りなくなるような予定は組んでないよ。
連盟も結構対局日を融通してくれるし。
「流歌、もし無理してるなら、学業の方は少しお休みしても・・・」
「ええ?どうしたの急に?もうすぐ夏休みだし大丈夫だよ」
なによ、自分が大学行けって言ったくせに。
・・・でも、状況変わっちゃったからなぁ。
パパは棋士になれなかった時の事を心配していたのだろう。
でも私は棋士になり、今のところは上手く勝ち星を重ねている。
「サークルも大事だしさ、私は大学を続けるよ」
「・・・そっか」
パパはそれ以上何も言わない。
・・・腰を痛め、膝を痛め、心配かけてるんだろうな。
娘を思うパパの気持ちも嬉しいけど、私はこのまま頑張るからね。
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7月下旬
夏休みに入り、玉位のタイトル戦の第2局のゲスト棋士として呼ばれる。
4日間の福岡の旅。
棋士って何だかんだ対局以外の仕事も多い。
まあタイトル戦に呼ばれるのって光栄な事なんだけどさ。
でも出来れば対局者として来たかった。
同時期、夕日杯の一次予選が始まった。
私は去年ベスト8まで行ったから二次予選から。
むーん、椅子対局は得意だから、私一次予選からでも良いんだけどな。
勝ち星を重ねる自信があるのに。
「君島さん!その節はすみませんでした!」
今回は水上 咲子が一緒だ。
4月から女流になった高校1年生。
以前、私の隠し撮りを木葉ちゃんに頼んだヤバイ子。
怒られたのか反省はしているようだ。
ゲスト棋士は何人か居るのだが、彼女もその一人。
彼女も夏休みだから呼ばれたみたい。
飛行機の隣の席になっちゃった。
「よいしょ・・・」
「わあ、君島さん、脚がギリギリじゃないですか」
「前に四国に行った時は大変だったのよ?」
2年前の四国便ではつっかえた私の脚も、今回はシート間隔が広いからなんとか大丈夫だった。
あの時は何だったんだろう?混雑してたのかな?
「綺麗な脚ですね。CMでも惜しげもなく出して」
なんか、嫉妬の目で見られている気がする。
まだ恨みキャラを続けているのだろうか。
「私にもCM来ないかな・・・」
知名度上がらないと来る訳無いよ。
水上さん成績どうなの?ここまで1勝5敗?アマにも負けてんの?
あららら。
「水上さんは女流2級なの?3級?」
「研修会B2昇級からの女流なんで2級ですよ。というかそれくらい知っててほしかったな・・・」
ごめんごめん、流石に段級位を知らないのは酷かったね。
でも2級なら簡単にはクビにならないから良かったじゃないの。
通常、女流棋士は2級からなのだが、女流3級という女流としても半人前の特殊な枠がある。
これは、アマチュアも出れる女流棋戦で優秀な成績を残した者に与えられる特別枠。
活躍はたまたまかも知れないから、保険として設けられた枠と言っても良い。
それくらい、女流の世界ではポっと出で活躍してその後駄目になる人が多い。
「でもこのままじゃ降級点付いちゃいそうで」
「3つ付くと引退だっけ?」
その辺よく解んないんだよね。
長年酷い成績の人も居るけど引退してないし、楽勝なんじゃないの?
「はあ、こうなったら写真集出そうかな」
「呪いの道を行くのね」
「私だって胸にはちょっと自信あるんですよ?」
「水着になる気なの?ヌードじゃないよね?」
「水着ですよ!私まだ高校生ですよ?」
そうだった。
でも年齢制限が無ければヌードも辞さないように見える。
写真集は好きにすれば良いと思うけど、あまり将棋界のイメージを悪くして欲しくないなぁ。
「あ、もうすぐ着くみたいですよ。修羅の国」
この子、失言とか大丈夫なのかな。
名人の故郷なんだから悪く言っちゃ駄目だよ。
治安悪いとこにも行かないから大丈夫。
変な所でタイトル戦なんてしないよ。
対局は福岡市の高級ホテルで行われる。
前夜祭、大盤解説会も同ホテルのメインホール。
宿泊も同じ。
「凄い豪華なホテルだね」
「・・・こ、こんなところに泊まれるなんて」
水上さんは感動してる。
イベントの参加自体が初めてらしい。
初日は観光と検分、私達も付いて回る。
ここでもやはり顔を指される。対局者よりも私が目立ってしまう。
主催者、関係者に守られながらの観光になった。
「ふう、君島さんのせいで大変でした」
「水上さん、貴方やっぱり腹に一物持ってるでしょ?」
「そ!そそそそそそんな事無いですよー」
動揺が酷い、丸解りじゃないの。
まあ迷惑はかけたけどさ。
でも、今なら私のお陰で得られる仕事もあると思うよ。
将棋界全体に注目が集まってんだから、貴方もチャンスを生かしなさいよ。
「そうですね、ここはやはり水着で・・・」
「明日の中継も水着で出たら?」
「わあ!それいいですね!」
皮肉だったのに。
そんな事したら前代未聞だよ。やっちゃ駄目だよ。
「でも過去には巫女服で中継に出た人も居るじゃないですか」
「・・・ああ、居たねぇ」
「時代は変わったんですよ。今は将棋も古臭さを捨て、進化する時期なんです」
でもあれは対局場所が神社だったからでしょ。
街中のホテルで水着だとおかしいでしょ。
「学生なんだからセーラー服にしたら?違和感無いしおじさんのウケがいいよ」
「!・・・買いに行ってきます!」
あ、あららら、本気にしちゃった。
まあウケが良いのは本当だ。私も中継のある記録係の時に着ろって言われたし。
どこに買いに行ったんだろ?ホンキホーテかな。
まあいいや、私は前夜祭まで休もうっと。
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「また随分短いの買ったわね。と言うか前夜祭もその恰好で行くの?」
「もちろんです!」
フォーマルな姿の私と夏服セーラーの水上さん。
そのスカート股間すれすれじゃないの。
「後でそっちの師匠に怒られても知らないよ?」
「なんでですか?学生がセーラー服着て何が悪いんですか」
まったく悪くないね。
でもいかがわしく見えるのは何故なのだろうか。
会場に行くと、案の定私よりも注目を浴びる水上さん。
みんなセーラー服が好きなんだね。
冗談で提案したのに効果は絶大だったみたいだ。
でも近づきたくないな、距離を置こう。
前夜祭が終わった。
水上さんが対局者や私より目立ってくれたから今回は楽だったな。
私はありがたかったけど、対局者は複雑だったかもしれない。
誰が主役なんだか解らなくなってたもんな・・・
今回の私達はあくまで対局を盛り上げる為のお祭り要員。
明日は水上さん暴走しないと良いけど・・・
ちょっと心配だったけど、明日に備えて寝た。




