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駒唄  作者: 無二エル
63/93

秋田

 6月下旬 秋田


 今日は凛さんの女流二冠記念祝賀会が行われる。

 会場は100人規模、そんなに大きくは無い。

 地方で行われる女流の祝賀会だとそんなものらしい。


 さて、この間にも対局がいくつかあった。

 まずはMADAYA挑戦杯の2回戦と3回戦。

 持ち時間の短い対局なので同日に行われた。

 結果は2勝、次は準々決勝だ。


 次に棋精戦の一次予選。

 これも持ち時間が短いので同日に2局行われた。

 結果は2勝、やばい、調子が良い。


 だが順位戦で負けてしまった。

 持ち時間の長い対局はやはり厳しい。

 サポーターを使ったので腰は大丈夫だったけど、膝の痛みに悩まされ続けた。

 ああ、重要な棋戦はこっちだったのに。


「プロ入りしてから8勝2敗、立派な物だよ」

「師匠」


 まあそうなんだけどさ。

 出来過ぎと言っても良いくらいだ。

 でも順位戦を頑張らないと基本給が・・・

 3敗するとまず上がれないし、成績が悪いと降級点も付くし。


なでなで「・・・」

「あ、姉弟子」


 着飾った姉弟子に撫でられる。

 着物なんですね、似合ってますよ。


 私も今日はフォーマルな服装だ。

 主役の姉弟子を横から盛り上げなければ。


「あ、姉弟子、本日はおめでとうございます!」


 師匠の新しい弟子の山入端やまのは あおいちゃんだ。

 今日はわざわざ親御さんと一緒に沖縄から来てくれた。

 主催者側じゃ無く、来客としての参加。


「九州の研修会はどう?通いは大変じゃない?」

「へ、平気です。でも強い人ばかりで・・・」


 葵ちゃんは試験の結果、D2から始まったらしい。

 成績は一進一退、勝ったり負けたり五分五分なんだって。

 まあまだ9歳、焦らず確実に強くなって行こうよ。


「練習相手は居るの?」

「ネットで対局してるさー、あ、してます!」


 標準語も頑張ってるらしい。

 方言可愛いと思うけどな。

 東京に生まれたからそう思うのだろうか。


「流歌、そろそろ準備を」

「あ、はーい、葵ちゃん楽しんで行ってね」


 9歳の子にとって楽しい会かな?

 まあいいや、今日の私は姉弟子のフォロー役だ。

 姉弟子、スピーチくらいしてほしいんですけど・・・


にこにこ「・・・」


 駄目みたい。やっぱり私がやるんですね。



--------------



 会場は満員。

 やっぱり100人規模じゃ少なかったのではないだろうか。


「凛も人気あるんだね。女流の人気はどうも読みにくくてね」


 今回私が参加する事は直前まで伏せられた。

 姉弟子の祝賀会なのに、私に会いに来る人が来てもしょうがないからね。


 見知った人がほとんどいない。

 秋田でやってるから当然だけど。


 最初の挨拶は師匠がやってくれた。

 ここまでの凛さんの活躍、弟子になった頃の思い出などが語られる。


 続いて地元の有力者だろうか?

 へえ、市長さんですか。

 結構偉い人が来てくれるんだ。

 お祝いの挨拶をしてくれた。


 続いて学生時代のお友達が挨拶をしてくれた。

 へえ、凛さんにそんな可愛いエピソードが・・・

 照れて赤くなる凛さんが可愛かった。


 取りあえず一時歓談。

 各々好き勝手に料理を食べたり、話をしたり。

 

 当然凛さんの元に皆さんが来る。

 はいはい、順番にお願いしますね。


「この度は二冠達成おめでとうございます」

にこにこ「・・・」

「ありがとうございますと言っています!」


 いきなり忙しくなっちゃった。

 写真ですか?撮りますよ。パシャ、はい次。


「橘さんと君島さんのツーショットを撮りたいんですが」


 ご自分は良いんですか?

 じゃあ姉弟子、並んで撮って貰いましょう。

 え?もっと顔を寄せろ?

 手をつなげ?ウインクしろ?

 なんかアイドルみたいなポーズで写真を撮られた。

 それ、絶対SNSでは使わないでくださいね。


ヒック「おおう、俺も写真撮ってくれよ。両手に花でな!」


 酔っ払ってらっしゃる。

 こういう人は注意だな。

 あ、腰に手を回そうとしないでよ。

 笑顔で腕を後ろ手に絞めた。

 酔っ払いだからチョロいもんだ。


「い、痛い痛い!」

「酔いが冷めましたか?お戯れでしたよ?」

バチッ!「・・・」

「あ、姉弟子、スタンガンは閉まってください」


 セクハラさんは真っ青になって逃げて行った。

 ふう、次の人が緊張しちゃったじゃないの。

 大丈夫ですよ。節度を守っていただければ、私達は品行方正な文化人ですから。


 でもああいう人、多いらしいって以前、元女流の人がSNSで苦言を呈していたっけ

 何だと思われてるのかな?恋人じゃないんだよ?

 キャバクラじゃないんだよ?風俗じゃないんだよ?

 なんで面識もないのに抱きついて来るんだろうか。

 そっちは画面の中で見てるのかも知れないけど、私達にとっては知らない人なんだよ?

 見ず知らずの人に突然そんな事されたら怖いに決まってる。

 どうしてそんな勘違いが出来るのだろう。


「あ、ああいう人、居るんですね・・・」


 ああ、葵ちゃんに見られてたか。

 見せたくない大人の嫌な部分を見せてしまった。

 9歳の子にとってはショックだろう。


「嫌になった?ああいう人は減ってはいるけど、どんな世界にも必ず居るからね」

「ええ・・・」


 大丈夫、変えて行けば良いんだよ。

 それに今はコンプラがどんどん五月蠅くなってるから、葵ちゃんが棋界に入る頃には今よりマシになってるよ。

 その頃の将棋人気の方がどちらかと言うと心配だ。

 魅了ある将棋界を作るのが、私たち棋士の務めなのかもしれない。



 師匠が来た。

 余興やるんですか?

 姉弟子に聞きたい10の質問コーナー?

 大丈夫ですかそれ。と言うか答えてくれるのかな。

 で、司会は私なんですね。


「橘 凛女流二冠に聞きたい!10の質問コーナー!!」


 パチパチパチパチ。

 来場者の中から質問が寄せられる。

 あ、マイクでお願いしまーす。

 最初は女性がいいだろう。


「えー、橘女流の好きな物は何ですか?」


 お、いいですね。1発目にふさわしいライトな質問。

 やっぱ質問させるなら女性だなー。

 男だと奇をてらったりウケに走ったりするからなぁ。


「姉弟子、お好きなものはなんですか?

ちょんちょん「・・・」

「わ、私だそうです」


 会場がなごやかな雰囲気に包まれる。

 私はちょっと恥ずかしい。


「二冠の賞金は何に使うんですか?」


 ちょっと悩む姉弟子。

 やらしい話、賞金1200万貰ってますよね?

 私も気になる。


ぶーぶー「・・・」

「え?姉弟子車買うんですか?」

こくこく「・・・」


 免許持ってたんだ。知らなかった。

 どんな車買うんですか?へえ、雪国の地元にも変えれるよう四駆買うんだ。

 背が小っちゃいのに大丈夫なのかな。


「えー、橘女流、ご結婚は考えてらっしゃいますか?」


 姉弟子はもうすぐ29歳。

 確かに考える時期だよね。

 ・・・と言うか、彼氏居るのかな。

 き、気になる。


ふるふる「・・・」

「しないんですか?」

もっともっと「・・・」

「ああ、タイトルもっと取りたいからしないと」

コクコク「・・・」


 結婚は邪魔と考えているらしい。

 そうですね、私もそう思います。

 恋愛に使う時間なんて無い。


 その後、いくつかの質問が続き余興が終了。

 次は何ですか?


「橘 凛クイ~~~ズ!」


 わ、びっくりした。

 師匠が壇上に上がり張り切っている。

 正解者には記念品が貰えるクイズが始まるらしい。


「第一問!橘 凛が私の弟子になった年は?」


 パラパラと手が上がり、その中から師匠が回答者を指名。

 速押しとかでも無い、緩いクイズ。

 あ、間違えた。じゃあ次の方。

 間違えた、はい次。

 順番に言ってくうちにその内当たるねこれは。


 記念品は姉弟子直筆のサイン入りの扇子か。

 定番だなー。

 こういうグッズももっと多様化できないものかな。

 

 温度計とかカレンダーも作ってるらしいけど、普通すぎるんだよね。

 でもあんまり奇抜な物作っても売れないのかな?

 

「第二問!橘 凛に将棋を教えたのは?」


 だれだろう。

 私って凛さんの事何も知らないな。

 まあ声を聴いたのが一度だけだから仕方ないけどさ。

 

「父親ですか?正解です!」


 何のひねりも無い普通の答えだ。

 こんなのでもお客さん達は微笑ましく見てくれる。

 うーむ、本当に将棋ファンは優しいな。


 クイズが五問終わり、次の流れへ。

 


「次で最後だよ。凛の感謝の言葉だ」

「・・・それは」

「流歌、頼んだよ」


 やっぱりか。

 姉弟子、解りやすくジェスチャーお願いします。

 てか喋ってほしい。


「えー、本日は私の為に―――


 一生懸命身振り手振りする凛さん。

 何でこんな事やってんだろと思いながら、それを代弁する私。


「取りあえず、もう一期タイトルを撮れば女流四段になれるので、それに向け頑張ります」


 そっか、女流タイトル獲得3期で女流四段だっけ。

 連盟では女流四段になれば待遇が変わる。

 女流三段以下はアルバイト扱いで、女流四段からは社員の扱いになる。

 当然、給料や保証が変わって来る。

 

「次は女流玉座が欲しいです」


 おお、賞金高いの独占する気なんだ。

 意外と貪欲ですね。

 でもそれが勝負の世界、遠慮はいらない。


「永世タイトルが獲れるよう頑張ります」


 終わった。パチパチパチパチ。

 なんでみんな凛さんが喋らない事に疑問を感じないのだろうか。



 本日はご来場ありがとうございました。

 荒木門下一同でお見送り。

 ふう、祝賀会ってこんな感じなんだ。

 

「師匠、皆さん楽しんでくれましたかね?」


 そう聞いてしまったのは、自分自身が何か物足りなさを感じたから。

 会費が確か5000円だっけ?安くは無いのに皆さん楽しんでくれたのかな・・・


「大丈夫だよ。流歌の出演はサプライズだった訳だし、男は美人を見れれば文句は言わない」


 そんなものですか。

 凛さんも綺麗だったし良いのかな。

 しかし女性は?

 1割くらい来ていた女性は満足してくれただろうか。


「今回は営利目的じゃないから料理も豪勢にしたし、皆さん満足してくれたと思うよ」


 女は料理さえ良ければ満足度が上がるらしい。

 デザートも多めに準備したけど食べつくされたとか。


「女性が1割来るようになったのも凄い事でね。斉上君の玉座獲得祝賀会の時なんて、3割が女性だったらしいよ」

「そうなんですか?」

「ああ、少し前なら考えられない事だよ」


 元々将棋ファンはおじさんばかりだった。

 ネット中継が始まり、イケメンの斉上玉座と王太君の活躍で女性ファンも増えた。

 祝賀会にまで来るような女はやっぱりワンチャンあると思ってるのかな。

 絶対無いとは言いきれないけどさ。



「そう言えば私、全然料理食べれませんでした」ぐー

ぺこぺこ「・・・」ぐー

「おやおや、二人とも・・・きりたんぽでも食べに行くかい?」


 やったー。

 師匠の奢りですか?

 すみません、私達タイトル取ってるのに。


「師匠なんだから当たり前だ。2人がどれだけ偉くなっても、遠慮なんかする事無いんだからね」


 ありがとうございます。

 これが昔なら、弟子に借金の支払いさせるような悪い師匠も居たんだよね。

 時代は変わり、破天荒な棋士はほとんど居なくなった。


「葵、君も行くかい?」

「は、はい、ご一緒して良いんですか?」


 葵ちゃんとご両親も一緒に食事に行く事にした。

 秋田の夜の2次会はたいへん美味しゅうございました。

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