学生名人戦
学生名人戦を応援に来た。
5月下旬の土日に都内で行われる。
「やあどうも君島さん」
「どうも」
テレビ局が来てる。
白湯女将棋部を取材してくれた記者さんだ。
どうやら取材許可が出たみたい。
「団体戦も取材したんですよ」
知ってます。
朝の情報番組で追っかけてましたね。
すっかり人気コーナーになってるらしい。
「どうですかね?3人は優勝出来ますかね?」
「いや、まったく解んないですよ。どれくらいの実力者が出て来るか見当も・・・」
全国の大学生の代表だ。
どこにどんな強い人が居るのかサッパリ解らない。
関東は元々結構レベル高いらしいけどね。
持ち時間40分で初日は3対局、2日目は準決、決勝か。
勝ち進めばの話だけど。
負けたらそれまでの32名で争うトーナメント。
3位決定戦だけはあるらしい。
「君島さん、応援ですか?」
「あ、夕日杯の・・・」
新聞記者も居るのか。
記事にもなるし、決勝戦の棋譜は新聞に載る。
新聞記者とテレビ局の記者が名刺交換してる。
私は部員達の元に戻るか。
「ルカ、どこイッテタノー」
「トイレに行ったら記者さんに捕まっちゃった」
「名人戦・・・ウチどえらいとこに来てしもうた」
「織華ちゃん、緊張してるの?」
「花音が代わりに出ても良いのだ」
「・・・流歌、アタシ手が震えてる」
「遥まで?いつもの強気はどうしたのよ」
「那由先輩頑張るッス」
「ぼ、ボクは出ないんだよ呉波」
「玲奈ちゃん、ファイトだよぉ」
「はい、最善を尽くしますわ」
なかなか浮足立ってるね。
あ、スマホ向けないで。
私を撮ろうとしてるのか、最近話題の白湯女将棋部を撮ろうとしてるか知らないけどさ。
今日は遥が止める余裕無いから私が頑張ろう。
「君島先輩は著名人なんですから不用意な事は・・・私が止めますよ」
「木葉ちゃん」
「コラー、隠し撮りはシケイダヨー」
シャリーも頑張ってくれるみたい。
確かにネットに何書かれるか解んないからなー。
面倒な時代になったもんだ。
主催者がアナウンスをしてくれた。
スマホ出してるとソフト不正を疑いますよ、だって。
記者が来てるから記事になっちゃうよ。
1回戦が始まった。
3人共、落ち着いて、落ち着いて。
玲奈は大丈夫そうだな。
織華ちゃんの相手は胸に釘付けだ。
遥の相手は・・・うわ、無茶苦茶強そう。
で、無茶苦茶早指しだ。
あれはプレッシャーが凄いな。
焦らないで遥。
早指しは落ち着いて対処すれば相手は無理攻めをしてくる可能性もある。
自分のペースで時間を使って見極めれば良いからね。
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「勝ちましたわ」
「さすが関東一位」
玲奈が戻って来た。
どうだった?余裕だった?
「余裕なんてありませんわよ。謙遜じゃなく、1つの甘い手で負けてたと思いますわ」
そうだよね、選ばれし全国の精鋭達。
相手の悔しがり方を見れば本気だったと解る。
織華ちゃんと遥はまだ指している。
2人共厳しい顔してるな。
織華ちゃんの相手はいやらしい顔をしている。
全国大会まで来て随分余裕だね。
遥の相手は・・・お、随分難しい顔になったね。
やっぱり早指しで無理が来たのだろうか。
すっかり手が止まってる。
遥の相手が一手進めた。
即座に遥が指し返す。
さっきのお返しだと言わんばかりに、ノータイムで指し返してる。
「東郷さんは勝ちますわね」
「おお、玲奈もやっぱり解るんだ?遥も玲奈の一挙手一投足で色々解るみたいだったけど」
「相手に読まれると言うのは、あまり良い事ではありませんわね。ですが、東郷さんにはもう隠し立てしても無駄でしょうね」
それほどまでに、対局を重ねて来たと言う事か。
お互いを知り尽くした相手。
私にはそういう相手が居ないんだよね。
いや、居たのかも知れないけど。ネットの中に。
顔の見えない相手で癖も読みようが無かった。
「・・・勝ったよ」
「流石は遥」
2人も勝ったか。
正直甘くないと思ってたけど・・・
後は織華ちゃん、頑張ってー。
「勝ちました」
「おおおおおお」
す、凄い!
3人共全国ベスト16?
16人の中に、女が3人・・・
そう思ってたら次で遥と織華ちゃんが負けた。
玲奈だけは勝ってベスト8へ。
「遥の相手は関東2位だったね」
「・・・凄いよ、玲奈よくあんな人に勝てたね」
「勝負は時の運ですわ。わたくしも次にあの方と対局したら、勝てるかどうか」
「織華ちゃんの相手は関西の人だったね。知ってる人?」
「中学、高校の大会で優勝経験のある強者です。ウチ、あんな人と戦えるレベルになったんやな・・・」
織華ちゃんは勝てなかったけど、食いは無いみたい。
・・・もう満足?次は勝とうよ。
「せやね・・・どうせなら、勝ってみたくなりました」
その意気だよ。来年も名人戦に出てリベンジしようよ。
相手が来年も出て来るかどうか解らないけどさ。
「遥はこれでしばらくお休みか。就職活動上手く行くと良いね」
「・・・それなんだけどさ、テレビで紹介されたから、意外とすんなり決まるかも」
どういう事?
世間で注目されてると、就職に有利なの?
「・・・経営者は碁好き、将棋好きが多いからね」
「ああ、将棋部がある企業も多いんでしょ?」
「・・・うん、でもアタシの志望の報道関係はこの先どうなるか解らない分野でもあるから慎重に見極めたい」
うん、難しいよね。
新聞は発行部数が下降線だし、テレビも視聴率が低調。
その原因がネットなんだけど、49生もアババTVも赤字状態。
これらは将棋界にも関わって来るから切実なんだよね。
「・・・国営放送だけは調子良さそうだけどね」
「あそこも不祥事ばっかりって印象あるけど」
おっとやばいやばい、連盟とも関係の深い放送局だった。
でも遥にはもっとまともな企業に就職して欲しいな。
「さて、それでは本日最後の対局に行ってきますわ」
う、うん、頑張って玲奈。
これに勝てばベスト4だよー。
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残念ながら、惜敗。
一日目で終わってしまった。
テレビ局も残念そう。
関東で1位だったんだから、名人戦で優勝してもおかしくなかったんだけどね。
でもそんなに甘いもんじゃない。
「三ノ宮さん、インタビューよろしいでしょうか?」
「はい」
玲奈も残念そうだけど、来年に向け頑張るって。
その前にもいくつか大会があるからそれも頑張るって。
でもテレビ局は少しトーンダウンした感じだな・・・
「次は取材に来れるかどうか解りませんが・・・」
うーんこの手の平返し。
別に、こっちから取材頼んだ訳でも無いのにな。
勝手に期待して、勝手に裏切られたように感じているのか。
まあメディアなんてそんなもんだよ。
玲奈、気にしないでね。
「気にしてませんわ。それより君島さんこそ、もっと大きな期待に晒される立場なのですから」
「うん・・・ちょっと怖くなっちゃった」
今は勝ってるから持ち上げて貰えるけど、負けたらブームは徐々に下火になって行く。
将棋は勝ち続けられるものでは無いし、それは解っていたんだけど・・・
実際目にすると、寂しい気持ちになった。
現実は残酷だよね。
「まあそれでもさ、足掻いて結果を残し続けるしかないと思うんだよ」
「そうですわね」
「盛り下がってもタイトルの一つでも獲ればまた再燃するだろうし」
「か、簡単に言いますわね」
簡単だとは思って無いよ。
それぐらいの意気込みでやるって事。
でなければいつまでたっても羽月さんに届かないしね。
取りあえずは直近の龍王戦6組決勝を頑張るよ。
勝てれば本戦に出場、6組は一番条件の悪い位置から始まる、勝ち抜くのは大変な不規則なトーナメントなんだけどね。
でもやるしかないから頑張りますよ。




