後援会
私は結局見に行けなかったのだが、白湯女将棋部は春季関東団体リーグ戦を戦い、無事1位通過。
B1に昇格を決めた。
「おめでとう、今回はローテーションを組んだんだね」
「7人制の団体戦ですが、登録は14名までOKでしたので」
3年生5人と2年生の織華ちゃん、花音ちゃんの他に、1年生の木葉ちゃん、その他6名を登録したらしい。
後半、勝ち点に余裕が出来たので、経験を積ませるために負けを覚悟で出場させたそうだ。
「相手の実力はB2、荷が重いかとも思いましたが、何事も経験ですので」
「木葉ちゃんとこの子は勝ってるね」
なになに?1年生の子なの?
確かアマチュアの級位者だった子だ
「霧ヶ峰 呉波さんですわよ。名前を憶えてあげてくださいませ」
「う、うん。またそんな薄情者を見るような目で見ないでよ」
ど、どの子だっけ。
ごめん、自信無いから教えて。
「しゃッス、霧ヶ峰ッス。しゃッス」
「お、おお、体育会系だね」
「那由先輩と仲良くさせてもらってるッス」
同じ運動仲間らしい。
将棋部にはなかなか居ないタイプだが可愛い。
胸は那由よりもあるね。
「Bッス、君島先輩と一緒ッス」
「私がBという情報がどうして漏れだしているのか」
「あぁ、頼子が言っちゃったぁ」
Aが僻み半分で言ったらしい。
僻むならHやFを僻みなさいよ。
「Hなんてぇ、余りにもかけ離れた幻想の中の存在じゃないぃ?」
「貴方の後ろに居るじゃないの」
「も、もう!君島先輩も片瀬先輩も恥かしい事言わんといて!」
織華ちゃんは相変わらず照れ屋さんだ。
でも胸を強調する服を着ている。
去年の夏にお洒落大好きに変身した。
「そんな事より君島先輩、花音と勝負なのだ」
「ちょっと待ってよ。今日は名人戦に出る子を鍛えに来たんだよ」
団体戦は終わったが、立て続けに学生名人戦が行われる。
参加資格があるのは玲奈、遥、織華ちゃん。
全国から集まった各地区の代表32名によるトーナメント戦。
「・・・流歌、今日は平手でお願い。駒落ちじゃ練習にならない」
「わたくしも」「ウチも」
そうだね、実戦に近い形で練習しよう。
ただし三面でね。
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「玲奈、ここの鋭い切込みは良かったよ。このまま攻め続ければ良かったのに」
「君島さんの撹乱に怖気づいてしまいましたわ」
「遥は全体的に慎重だったね。もっと踏み込まないと」
「・・・隙を見つけられなかった」
「織華ちゃんは大胆過ぎたね。攻め急ぎで自陣が疎かになってた」
「橘流を真似して見たんやけど、上手くいかへんなぁ」
姉弟子の戦型か。
あれはなかなか使いこなせるもんじゃないよ。
「橘女流は女王に王手をかけていますわよね?」
うん、私が返上した女王タイトル。
現在決勝五番勝負で姉弟子は2勝1敗だ。
そして明後日には第4局が行われる。
凛さんもなかなか忙しくて会えてないな。
頑張ってください、頑張って・・・
陰ながら応援しています。
「やっぱり振り飛車は不利やろか?君島先輩、どう思います?」
「一番良いのは居飛車振り飛車両方を指せる事だよ。自分の好まない戦型になった時でも、バランスよく指せるようになるよ」
女流に多い振り飛車。
研修会に居た織華ちゃんも振り飛車がメインの戦型だ。
男性棋士だと、居飛車が圧倒的に多い。
「ちょっと休憩してからもう1局指そうか」
「・・・うん」「わかりましたわ」「ウチ、飲み物買ってきます」
お、1年生の木葉ちゃんがパソコンに向かってる。
ネット対局してるの?
「君島先輩のお弟子さんですよ」
「ああ、木葉ちゃんも相手してくれてるんだ?」
モニターの中で希羽ちゃんがお辞儀してる。
どう?白湯女将棋部は良い練習相手になってる?
「色々試せて良い機会を頂いてるって言ってますよ」
やっぱりレベルの近い者同士の方が、練習相手としては向いているのだろう。
どうも私との対局では委縮してる気がするんだよね。
これはやはり美人でスタイル抜群の私相手だと緊張して・・・
「君島さん調子に乗ってる所悪いんですが、2局目をお願いしますわ」
「玲奈は私の考えが読めるの?」
「誰だって読めますわよ。締まりのない顔をして」
なんと、私の端正な顔がそんな事に?
考えが読まれるのは嫌だな。将棋に向いてない。
気を付けないと。
「さて、今度はおかしいと思ったら手を止めるからね。私が正しいと思える手を指すまでやり直させます」
「き、厳しいですわ」「・・・いや、助かるよ」「自分で答えを導き出すまで終わらないんやね」
自分で気付かないと意味ないからね。
苦労して導き出してこそ身に付く。
「うん・・・玲奈いいよ。うん・・・負けました」
「えぇ?玲奈ちゃん平手で流歌ちゃんに勝ったのぉ?」
「8回も指し直しさせられましたけど」
「・・・良い方だよ、アタシはまだ時間かかりそう」
「ウチもです。この手はどうして駄目なんでしょか?」
進めてみる?
ほらここでまず受けるでしょ?
ほらそこに指すでしょ?
そしてこうしてこうして・・・
・・・ほら、損するでしょ?
「ここからの巻き返しの手があるなら聞くけど」
「うう・・・ありまへん」
「お、鬼だねぇ、流歌ちゃん・・・」
「全国の強豪と戦うんだよ?甘い手を指したら一気に畳みかけられるよ」
思い出作りに行くんならそれでもいいけどさ。
今更そんな甘い事思ってないでしょ?
「・・・流歌、ここは?」
「!・・・悪くない手だね、というか私も気付かなかった手だよそれ」
遥め。
上を行かれたら行かれたでちょっと腹立つなw
「・・・」パチン
「織華ちゃんはやり直し」
「ひぃぃん、実はもっと前から間違うてたんと違います?」
「いや、この局面でも打開策はあるからね。もっと広く見て」
「君島さん、わたくしももう1局お願いしますわ」
はいはい、何度だって指してあげるよ。
お、気づいたね。織華ちゃん。
これで君は一つレベルが上がったよ。
遥、その手は疑問手だね。
そこからだと入玉される恐れがあるよ?
入玉は恥と考える人も多いけど、相手が絶対にそうしないとは限らないからね。
3人の特訓は夜まで続いた。
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姉弟子が女王のタイトルを取った。
「姉弟子!これで二冠ですね!」
うんうん「・・・」
凄い凄い、年収一千万越えですよ。
こうして見ると女流も悪くないなあ。
まあ、そうは言っても女流で食べて行けるのは一部だけだ。
上辺だけを見てそう思うのは良くないか。
「凛、流歌、祝賀会の事なんだが」
「師匠」
「今回は二冠だし、凛の地元で大々的にやろうかと思ってね」
おお、じゃあ、一般の方とかも来場するんですか?
・・・凛さんの地元ってどこ?
「秋田だよ。後援会を作ろうと言う話も出てるらしい」
へえ、後援会かぁ。
地方出身の棋士は後援会が付いてたりする。
私はそういうの苦手だからもし話が出ても断るつもりだけど。
「だが後援会は凛がウンと言わなくてね」
「ウンどころか私には何も言ってくれませんが」
なでなで「・・・」
姉弟子、今のは皮肉だったんですけど・・・
背が小っちゃいのに背伸びして私の頭を撫でる姉弟子可愛い。
「後援会はまあ・・・勝てない時期に支えてくれたら嬉しいですけど、今の凛さんには・・・」
「そうだね、タイトルを取ってしまってから話が持ち上がってもね」
善意で持ち上がった話かもしれないけどさ。
でも、タイトルを取った凛さんのネームバリューが目当てで擦り寄って来る人も居ると思う。
下手をすると色んなイベントに駆り出され、便利使いされかねない。
そしてそういう人は、凛さんが失冠したら居なくなる。
「時期が悪いですよ。もっと早く持ち上がった話なら本物だと思いますが」
うんうん「・・・」
「そうだね、下手をすると妹弟子の流歌にまで影響が出かねない」
そうそう、二人でトークショーとか。
ほぼ私が一人で喋る事になるヤツ。
「しがらみが多くなることを考えれば慎重にならざるを得ないですよ」
うんうん「・・・」
「だが祝賀会はやるよ。地元に報告はした方が良い」
うんうん「・・・」
本人の挨拶とかどうするんだろう。
師匠が代弁するんだろうか。
「それは流歌の方がお客さんも喜ぶだろう」
やっぱりか。
まあそれくらいなら別に良いですけどね。
と言うか、本人に話させてくださいよ。
いやいや「・・・」
「どうしてww」
祝賀会は1カ月後、100人規模の会場で開催予定らしい。
秋田か、初めて行く土地だ。
と言うか、東北自体が初めてかも。
北海道なら行った事あるけど、飛行機だったから東北は素通りだ。
美味しい物食べれると良いな。




