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駒唄  作者: 無二エル
57/93

将棋部の取材

 取材で連盟に呼び出された。

 テレビ局の取材だった。


「君島さん、白湯女将棋部の部長さんが関東個人戦で優勝したそうで」

「はい・・・あれ?私の取材じゃ無かったんですか?」

「いえ、君島さんの取材ですよ。君島さんもそのサークルに所属してるんですよね?」

「はい、元々白湯女に将棋部は無かったのですが、私達が1年の時に現在の部長と私で始めました・・・まあ殆んど部長が頑張ったので、私の力は微々たる物でしたが」

「君島さんが女性初の棋士になり、数年前まで女性が大学関東個人戦の予選を突破した事すらなかったのに優勝した。これって凄い事だと思うんですよ?今までの将棋界の流れが変わった言うか」


 ああ、そう言って貰えるのは嬉しいな。

 玲奈が聞いたら喜ぶと思う。


「実は白湯女将棋部にも取材したかったんですが、学校側に断られちゃって、ほら白湯女ってメディアNGじゃないですか?」


 ああ、確か敷地内はNGだったかも。

 何でなのかは知らないけど。

 生徒のプライバシー?学校で何か研究してるから?

 よく解らない。


「学校の外でなら取材OKなのは解るんですけど、でしたら君島さんにお願いして一緒に取材を受けて貰えないかと・・・」

「そうですね・・・でも当然部員達は一般人ですから、本人達の同意が無いと」

「勿論です。聞いてみるだけでも聞いて貰えないでしょうか?」

「・・・えと、どんな形でメディアに露出するんですか?それによっても変わって来るんですが」

「朝の情報番組の一コマです。時間的には10~15分くらいの尺を予定してます」


 なるほど解りました。ちょっと電話して良いですか?

 ・・・玲奈は出ない。

 じゃあ遥にかけてみよう。


『・・・流歌?』

「遥、白湯女将棋部にテレビの取材依頼が来てるんだけど」

『・・・え?』


 これこれこういう訳なんだよ。


『・・・テレビ局か。マスコミ関係にコネ出来るかな?』

「ええ?」


 ああ、そういや遥って報道関係の仕事志望だっけ。

 いやでも、取材受けたからコネってのもおかしいような。


『・・・因みにアタシは喋るの苦手』


 知ってる、やっぱ難しい?

 と言うか、玲奈はどこに居るの?


『・・・今日はそっちに居るよ』

「ああ、記録係で来てるの?」

『流歌!那由は取材OKだよ!』

「わ!びっくりした!急に変わらないでよ」

『頼子とシャリーと花音もOKみたい。織華は恥かしいって!』


 はいはい、取りあえず部長に話してからね。

 ・・・と言うか、ベスト8と10位が難色示してるのか。

 困ったな、多分取材対象は成績上位者なんだけど。

 そして本命は玲奈だと思う。


「どうでした?」

「部長が今こっちに来てるんですが、恐らく対局中の記録係をやってるんで、対局が終わるまでは確認出来ません」

 

 近くに居るけど仕事中だ。

 手が離せない状況なので聞けません。

 名刺下さい。後でこちらから連絡しますんで。


「では他にも聞きたい事があるのでいくつか質問させていただきます。今度の龍王戦の―――


 後はいつも通りの退屈な取材だった。

 ふう、私もこなれて来たな。



-------------



 取材が終わってちょっと様子を見に行ったけど、玲奈はまだ仕事中だった。

 いつ終わるか解んないから待つのもな・・・

 玲奈のスマホに着信残ってるはずだし、今日は帰るか。

 あ、ジムに寄ろっと。



 ジムで汗を流し、帰ろうと思ってスマホを見たけどまだ着信が無い。

 持ち時間の長い記録をやってるのかな。

 仕方ない、家に帰ろう。



 夜


『君島さん?お電話をいただいたようで』

「今終わったの?お疲れさま」


 経緯を話す。


『わたくしはどちらでも構いませんわよ?本当は取材はノーベル賞を取った時にと考えていたんですが』

「へ、へえ、い、いつ頃になりそうなのそれ?」


 ノーベル賞ってお年寄りが取ってる印象しかないけど。

 候補が山ほど居るのに年一回発表だから、亡くなりそうな人から優先的にあげてるって聞いた事がある。


『どうせなら将棋会館で取材を受ければ良いと思いますわ』

「織華ちゃんと遥はあんまり乗り気じゃないみたいなんだよね」

『嫌な物を無理にとは言えませんわ。わたくしからも意思確認を聞いておきますわ』


 じゃあそう言う事で。

 さて、一応取材はOKか。

 遥や織華ちゃんがNGでも、玲奈が居れば面目は立つよね。

 じゃあ記者さんに・・・


 ん?私のスマホからかけちゃマズいかな。

 番号知られる事になるし・・・

 どうなんだろ?記者さんって信用していいのかな?

 芸能リポーターとかに番号売られたりしないよね?

 解んない、ちょっと慎重になった方が良いかも。

 そうなると家の電話も当然NG。

 184でかけたら印象悪いだろうし・・・

 ・・・明日、学校の公衆電話からかければいいか。



-------------



『取材受けて貰えそうですか。助かります』


 記者さんは喜んでいた。

 みんな可愛いからテレビ的にも映えると思いますよ。


『あと、当日は君島さんにも同席して頂きたいのと、出来れば君島さんの子供の頃の写真とか欲しいんですが』


 子供の頃の写真?

 ああ、一部で噂されている整形疑惑を払拭出来るかも。

 普通将棋の棋士って子供の頃からこの世界に足を踏み入れてるから、結構写真が残ってるんだよね。

 でも、私は16から奨励会入りで期間も短かったから、写真が残ってない。

 それが揚げ足取りたい一部の人達の疑念になってるようだ。

 いいですよ。私は子供の頃から可愛かったんだから。




 で、数日後 取材の日


「何よ、結局遥と織華ちゃんも来たの?」

「・・・わ、悪い?」

「は、恥かしいけど、せっかくの機会やし」


 悪くは無いけどさ。

 でも恥ずかしいって言ってた割にお洒落し過ぎ。

 他の皆もお洒落し過ぎ。気合入ってるなと一目で解る。

 玲奈だけはいつも通りだね。というかお嬢様だからいつも上品な恰好をしている。


 でもまさか、1年生まで全員来るとは思ってなかったよ。

 みんなはちょっとしか映らないと思うけど・・・


「おおお!皆さん可愛らしいですね」


 カメラマンやらその他大勢を引き連れて、記者さんが来た。

 どんな感じになるんですか?

 取りあえず2階の道場に行って、部活っぽく指してくれって。


 おお・・・みんなカッコつけちゃって。

 いっつもそんな感じで指してたっけ?


「これは絵になりますね。聞けばもうすぐ団体戦があるとか?」

「すでに始まってますわよ。3週に渡って行われるのですが、すでに1週目が終わっていますわ」

「なんと、出来ればそれも取材したいんですが・・・」

「それは主催者に問い合わせてくださいませ」


 大学将棋に興味持って貰えるのは嬉しいな。

 連盟主催の大会なら記事くらいにはなるんだけど、春季・秋季大会は他団体が主催してるから情報が結果くらいしか残らないんだよね。

 そんな事をしてると知らない人も多いはずだ。

 まあ主催者の理念もあるだろうから、受けてもらえるかは解らないけどね。


「では個別にインタビューを、すべて使うとは限りませんが」


 全部は無理でしょ。多分大幅カット。

 私のインタビューだっていつも一部しか使われないもの。

 プロになって日が浅いけど、もうそれには慣れた。


「部長の三ノ宮さんは、春季個人戦で優勝でしたね」

「はい」

「2年前までは女性が予選を突破したことも無かったそうですが、この躍進の理由は何だと思いますか?」

「それはやはり、身近に刺激を与えて来る存在が居たからだと思いますわ」

「それはズバリ、君島さんですか?」

「はい」


 うわあ、何かむず痒い。

 なになに?私を持ち上げる企画なの?


「男性しか居なかった世界に飛び込むのは容易な覚悟では無かったと思いますわ。苦しみながら、泣きながらも立ち向かう姿勢に何度心を打たれたか」


 うう、玲奈そうだったの?

 え?リップサービス?なによ・・・

 アンタの妙な場慣れはなんなのよ。


「続いてカナダ人の・・・えーと、シャリ―さんお願いします」

 

 ほうなるほど、テレビ的にはシャリーが2番手なんだ?


「シャリーさんはどうして将棋を?」

「ルカが誘ってくれたからダヨー。最初は遊びハンブンだったけど、オモシロイヨー」

「日本文化である将棋を好きになってくれたと、ですが将棋はチェスや碁に比べ、海外ではメジャーではありません。その辺はどう思いますか?」

「ショーギの駒はちょっと解りにくいカラネー、アニメフィギュアみたいな形をした駒なら、海外でもウケるカモネー」


 なるほど、漢字の駒では区別がつきにくいと。

 でも将棋の駒は裏に成るからね。

 それがなかなかバリエーションを増やせない理由でもある。

 どうしてもあの形に収まってしまうというか。


「三田村さんは女流戦で優勝したとか」

「そうなのだ、でもサークル内じゃまだよわよわなのだ。女流はそこまでレベルが高くないのだ」

「プロにも女流枠がありますが、あのような感じなのでしょうか?」

「プロの事は良く解らないのだ。でも君島先輩の姉弟子は鬼つよなのだ。棋譜を見れば解かるのだ」


 うんうん、姉弟子を褒めるなんて花音ちゃんも解って来たわね。

 ここをカットしたら許さないわよテレビ局。


「ボクは去年の秋季大会の女流で優勝したんですよ?それでレベルを高めたくて個人戦に出たんですけど、予選で1勝しか出来なくて・・・」

「なるほど、これからも高みを目指すんですか?」

「いえ、就職活動が始まるのでしばらくは・・・早めに内定を取れれば復帰するかも知れませんが」


 うーん、那由のインタビューは現実的で使われないかも。

 テレビは過剰に盛り上げたがるからなぁ。


「・・・アタシも学生名人戦に出た後は就職活動で」

「学生名人戦?聞いた事あるような・・・?」


 5月末に学生名人戦と言うのがあるんですよ。

 これまた違う別団体の主催なんですけどね。

 色々ややこしくて私も解ってない。

 

「・・・アタシと玲奈と織華はそれに出るんです」

「それって女性が出た事はあるんですか?」


 無いですよ。全国の精鋭の32人ですよ。

 それに今回白湯女から3人も出るんですよ。


「す、凄い事じゃないですか!」


 記者さんが興奮しだした。

 もし取材したいなら、また主催者に問い合わせてください。


「さて、神楽坂さんは関西で研修会に入っていたそうで」

「・・・・・・」

「神楽坂 織華さん?」

パクパク「・・・」


 あらら、あがって姉弟子みたいになってる。

 口を開くけど言葉が出ないようだ。


「か、花音、ちゃん、変わっ、て」

「織華は2年生だけど名人戦に出るのだ。胸がHカップなのだ」

「ええ?!」

「か!花音ちゃん!!」


 このコメントは朝の情報番組で使われるかな。

 でもカメラのレンズは織華ちゃんの胸を捉えてるね。

 カメラマンも所詮は男、没映像でも個人の楽しみで使用するのかも。

 犯罪は犯さないでね。


「頼子の順番遅くないですかぁ?」

「そんな事無いですよ!片瀬さんは『頓死の頼子』とサークル内で呼ばれているそうですが・・・」

「誰よぉ?!そんな呼び方してるのぉ!」


 あはは、誰よそんな酷い通り名付けたの。

 那由が顔を反らしたね。あいつか。


 その後、残りの2年生と1年生にも取材が行われる。

 使われそうもないインタビューが続いて行く。


「青山さんも研修会員なんですね?現役なんですか?」

「はい、もう少しでC1に上がれそうです」

「因みに、女流棋士になる気は?」

「将来を考えた時に、他の選択肢もあるのではないかと・・・けして女流を軽く見てる訳では無いですが」


 木葉ちゃんも言葉を選んでるね。

 女流になりたいってコメントなら使われるんだろうけどね。

 でも実際そんな気は無いんだから仕方ない。


「では最後に君島さん、白湯女将棋部をどう思っていますか?」

「そうですね、私自身は対局や研究に忙しくてなかなかサークルに顔を出せない事も多いんですが、掛け替えのない居場所だと思っています」

「居場所、ですか?」

「はい、迷惑をかける事も多いのに、いつも変わらず、私の事を受け入れてくれて―――


 皆に支えてもらわないと私はプロになれなかったと思ってる。

 これは嘘偽りの無い本当の気持ち。


「そうですか。取材はこれで終わりです。皆さんありがとうございました」


 お疲れさまです。


「それで君島さん、小さい頃の写真をお願いしてたと思うんですが」

「はい、何枚か持ってきましたよ」

「おお!可愛らしい・・・この頃から足が長いんですね」


 足は長いけどゴボウのように細いでしょ。

 昨日見てびっくりしちゃった。

 今はもうちょっと肉付きが良いですよ。


「お借りしても良いですか?どれを使うかは解りませんが・・・」

「どんな感じになるんですか?」


 ナレーションを付けて、良い感じに仕上げるらしい。

 少女の夢は叶った的な感じかな。


「では使い終わったら連盟に返してください」

「解りました。あと引き続き取材をお願いするかもしれないので、どなたか連絡先を・・・」

「では、わたくしが」


 ええ?玲奈、電話番号教えちゃうの?

 悪そうな人じゃ無いけどちょっと心配。


「えと・・・三ノ宮さん、実は気になってたんですけど、お父様は・・・?」

ゴニョゴニョ「・・・」

「えぇえ?!」


 何よ、そのマ○オさんみたいな驚き方。

 玲奈はなんて言ったのよ。


「し、失礼しました!今回の取材内容は大切に扱わせて頂きますので!」

「いつ放送予定ですの?」


 2日後予定?

 随分早いけど朝の情報番組ならそんなもんか。

 鮮度が大事だもんね。


 すんごいペコペコしながらTV局が帰って行った。

 玲奈、アンタのパパって何者なのよ?


「そんなに知りたいんですの?君島さん」

「それ知っちゃうと私って消される?」

「そんな訳無いじゃないですか。お父様を何だと思ってるんですか?」


 プンスカ怒る玲奈。

 で、結局教えてくれなかった。

 さて、じゃあ帰ろうか。

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