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駒唄  作者: 無二エル
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棋士としてのスタート

 4月1日


「君島さん、こちらにも目線お願いします」

「こちらにも!」


 光の海。

 ストロボの瞬きが鎮まる事が無い。


 今日は私の棋士人生のスタート。

 女性初の棋士誕生の異例の記者会見が行われた。


「君島さん、今の気持ちを」

「自分がどこまで出来るか楽しみにしています」

「棋士となって初めての対局は4月中旬の龍王戦6組4回戦になりますが」

「正直厳しい戦いになると思っています。ですが一年目のこの時期から最高位タイトルの棋戦に挑めるのは幸せな事です」

「君島さんは容姿の事も話題になる事が多いですが」

「何処に注目して頂いても結構ですが、将棋棋士ですので一番注目して欲しいのは私の将棋です。その為には私自身も魅力のある将棋を指さなければいけないと思っています」


 質問が次から次へと浴びせかけられる。

 ここまでの騒ぎになるとは予想してなかった。


「プロ初戦から中継が決まった事をどう思いますか?」

「せっかくの注目して頂ける機会ですので精一杯力を出し切りたいと思います」


 ブームが一過性で終わるか、長く続くかは私の成績次第だろう。

 将棋界の為にも、自分の為にも頑張らなければ。



-------------



 記者会見が終わって休憩中。


「流歌、新しい弟子を紹介するよ」

「師匠」


 師匠と凛さんが来た。

 その後ろに小さな女の子と親御さん。


「彼女は山入端やまのは あおいさん、沖縄の9歳の女の子だよ」

「え?沖縄ですか?」


 沖縄ってたしか、将棋の棋士が出た事の無い土地だ。

 本土から遠すぎる為、奨励会にも研修会にも通いにくい。


「まずは九州研修会に通って女流の道を目指し、成績が良ければ棋士の道も考えたいそうだ」

「・・・その場合は、関西か東京まで来る事になりますね」

 

 旅費とか大丈夫なんだろうか?

 ああでも親御さん、結構裕福そうだな。

 

「親御さんは沖縄でホテル経営をされているそうだよ」


 私の心配を察してか、師匠が説明してくれた。

 卯亜ちゃんも大変そうだったけど、親が裕福なら大丈夫だろう。


「よろしくね、葵ちゃん」

「よ、よろしくお願いします」


 私の指しだした手をおずおずと握る。

 葵ちゃんには方言が見られるが、親御さんはしっかりとした標準語だった。

 ホテル経営には必須スキルなのかな。



「あと、凛、連れて来てくれないか?」

こくり「・・・」


 凛さんがどこかに行った。

 また、誰かを連れて戻って来た。

 制服を着た中学生くらいの少女と親御さん・・・あ!!


「彼女の事は知っているよね?」

千野塚せんのづか 希羽きわちゃん・・・」


 私が、初めてサインを書いた女の子。

 そして、去年の子供名人戦で3位の女の子。


「彼女は流歌と同じ棋士を目指したいそうだ。そして、絶対に弟子入りするなら流歌が良いそうだ」

「私・・・新四段が弟子なんて取っていいんでしょうか?それに・・・女だし」


 女が弟子を取った例は過去にもある。

 だが、不幸な結末になってしまった。

 あの人は連盟と対立する形になってしまい、将棋界から去る事となった。


「連盟は良い顔をしないかもしれないが、流歌が変えていけば良いだけだよ。もうすでに君は新しい扉を切り開いているんだから」

「・・・・・・」

「わ、私、君島先生が師匠じゃ無きゃ嫌です!どうかお願いします!」


 そう言って頭を下げる希羽ちゃん。

 親御さんも一緒に頭を下げる。


「・・・桜院の制服なんだね」

「え?は、はい!流歌ちゃ・・・き、君島先生の出身校だと聞いて私も・・・」


 桜院学園。

 中高一貫の日本一頭の良いお嬢様学校。


「大学は行くの?」

「は、はい、君島先生が行けと言うなら」

「勉強と将棋の両立は思ってる以上に大変だよ?」

「はい、先生が高校三年生の時に1年間奨励会をお休みした経緯は知っています。親の期待に応えるためだったと」


 誰に聞いたの?

 師匠がそっぽ向いた。

 ・・・別にいいけどさ。

 でも恐らく随分前から師匠と希羽ちゃんはコンタクトを取っていたようだ。


「やりたい事を頑張りたければ、やりたくない事も頑張らないといけないよ?」

「・・・あ、ちは○ふるの名言ですね!私も買ってます!」


 ぐ、引用したのがバレてしまった。

 自分の浅はかさが恥ずかしい。


「親を安心させる為にも大学には行って貰うわ。それでもいいなら・・・」

「はい!私も白湯女を目指します!」

「・・・因みに尊敬する棋士は居る?」

「も、もちろん君島先生と、あと羽月先生、私の名前にも羽があるので」


 貴方も羽月さんを追うのね。

 負けないわよ。


「解りました。千野塚 希羽さん。貴方は今日から私の弟子です」

「は、はい!ありがとうございます!」

「今年の奨励会を目指すんだっけ?私も時間がある時なら手合わせするから」

「と、時々ネットでお相手してくだされば結構です!あまり師匠のお邪魔もしたくないので・・・」


 解ってくれてるね。

 私だって新四段になったばかり。

 本来なら人にかまけてる暇なんて無い。


 それでも、12歳から目指せる貴方は幸せだよ。

 私が与えられなかった時間を持ってる。

 でも、私は時間が無かったから必死になれたとも思ってる。

 貴方の熱量がどこまでの物かは、まだ計り知れないけれど、甘くは無いからね。


 そして、回りの支えも重要だよ。

 私は希羽ちゃんにも後押しされたと思っている。

 あの手紙や、玲奈に言伝てくれたあの言葉がどれほど励みになったか。

 私は師匠として、それを返せるのかな。

 弟子として受け入れるからには、成功して貰いたい。


「よし、挨拶は終わったね。流歌、これからまた取材だろう?」


 はい、今日は何時までかかるか解りません。

 希羽ちゃんと連絡先を交換し、手を振り別れた。



------------



 将棋ワールドが発売された。

 いつもとは一風変わった洋風な表紙。

 わあ、私、無茶苦茶綺麗じゃない。

 

 今回はいつもより増刷したらしいが、あっという間に売り切れたらしい。

 もっと増刷すればいいのに。

 少数印刷はお金がかかるの?ふーん、色々あるんだね。

 web版もあるから、そこまでは困らないんだとか。

 味気ない時代になったものね。




 空位になった女王戦の決勝五番勝負 第一局が行われた。

 対局者は姉弟子と伊東さん。


 姉弟子は私が手放した女王のタイトルをなんとか荒木門下に戻したいと意気込んでいたらしい。

 そして女流玉座戦で私と自分が負けた相手と言う事で、リベンジに燃えていたとか。

 私には相変わらず何も言ってくれないんだけどね。


 第一局は『橘流』で姉弟子の勝ち。

 うーむ、姉弟子のあの戦型に弱点は無いのかな。

 良く勝てたな私。




 将棋の研究の合間に習字の練習をする。

 玲奈から基礎を教えてもらったんだよね。

 やれば出来る子だったのか、見る見るうちに上達した。


 連盟で準備して貰った扇子に揮毫きごうを書いてサインしていく。

 100本か、多いな、これを連盟の売店で1本2500円くらいで売るらしい。

 私にバックはいくらくらい来るんだろ?

 どのみち全部売れても25万くらい、期待するほどにはならないだろう。

 ・・・これも転売されちゃうのかなぁと思いながら、100本書きおわった。

 出来たばかりの落款を押して出来あがり、っと。



 本を書けとの依頼が来た。

 将棋本かなと思ったら、棋士になるまでの軌跡を出版したいらしい。

 軌跡もなにも・・・まだ20年しか生きてないのに。

 その仕事は師匠に回してあげてください、きっとうまい事味付けして一冊の本にしてくれますよ。



 ふう、やること一杯だ。

 またジムにも行かなきゃいけないし。

 まあでも騒がれているうちが花だとも思うし、幸せな事なんだろうな。


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