女性初のプロ棋士誕生
龍王戦を忘れていたので2個前、3個前に加筆しました。
ですが別に読み返すほどではありません。
おったまげた。
「え?1位通過?!・・・・・・え?4人共負けたんですか?!」
「そうだよ」
え?嘘でしょ??
だって相手は4人共下位だよ?
「2人は降段点が付くかどうかの瀬戸際だったからね。奮起したんだろう」
「で、でも、他の2人はもう・・・」
降段点が付いていたはずだ。
頑張った所で・・・
「俺にだって意地はあるんだよ」
「キモオタ君・・・」
「キモオタってゆーなや!・・・実は神楽坂に脅されたんだよ。最終局手を抜いたら絶対許さないって」
「織華ちゃんが?」
「あいつ、いつの間にあんなに強くなったんや?電話越しやけど物凄い怖かったわ」
織華ちゃんが・・・私の為に。
でも、もう一人は。
「ああ、君島さんは見てなかったと思うけど、僕の相手、最終局が始まる前に1位だった人でね、2位と3位と4位がどんどん負けて、こっちの勝負が決まる前に昇段が決まったんだよ」
ああ、2位通過以上が決まったって事?
それで気を抜いたんだ・・・
「まあ僕も君島さんを昇段させたかったし、頑張ったんだよ?」
「ごめん、名前も知らない子にそんなに頑張らせていたなんて」
「ひどい!」
来期頑張って!
応援してるよ!誰だか知らないけど。
・・・じゃあ私、改めて実感することになるけれど、プロになれたの?
それも、ただ一人の16勝2敗の1位通過で。
こ、こんな、特殊な状況下の中で。
あ、ああ、力が・・・
「き、君島さん?大丈夫かい?」
「す、すみません幹事。膝が笑っちゃって」
「立てるかい?取材がたくさん待っているよ」
「あ、ああ、はい、そうなりますよね」
「2位通過の君も」
「どうせ俺はついででしょー?」
は、はは、プロになれたんだ、私。
プロに・・・なれた・・・
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その後、私は大泣きで取材を受けた。
でも全然意味不明な事喋ってた気がする。
写真、いっぱい撮られちゃった。
テレビの取材もいっぱい来ていた。
突如緊急記者会見が行われる事となる。
仕方ない、でもせめて涙の痕くらいは直させてください。
「君島さん、女性初のプロ棋士となった感想を一言お願いします」
「え、えーと、正直最終戦前までは絶望的な状況だったので、あまり実感が無いと言うのが本音で」
「16勝2敗という好成績でプロになれなければ、制度の見直しが必要ではないでしょうか?」
「(そんな事私に言われても)今回は15勝3敗で棋士になれなかった者が3人居ます。勝率8割以上で成れないとなると、厳しい世界だなと本当に感じます」
「途中、2連敗したのは夕日杯の影響でしょうか?」
「それが無いと言えば嘘になりますが、かと言って18戦全勝出来たかと言われれば、それも出来過ぎなので、実力通りの・・・いえ、元々今回は実力以上の結果が出せたと思っています」
「では、プロになってどんな棋士になりたいですか?」
「それは最初から決めています。目標は羽月先生のライバルになる事です」
オオ――――
「今はまだ実力も経験も足りません。それに女が棋士になるのも初めての事なので、将棋界も戸惑いがあるのではないかと思っています」
「と、言いますと?」
「例えば・・・この記者会見も異例の物だと思っています」
「確かに、新四段の記者会見なんて普通ならあり得ない事です」
「期待して頂けるのは勿論嬉しいですが、それに応えて行くには私はまだまだ実力不足でしょう。正直藤谷先生の時のような期待をされると・・・」
「はははw我々にあまり煽るなと」
そうです。察しが良いな、この記者。
私は元々メンタルがあまり強くないのでプレッシャーに弱いんです。
だからあんまり大袈裟に報道しないで欲しいなー、なんて。
「ですがビックニュースなのでそういう訳にも行きません」
ですよね。甘かった。
あーあ、これから過度の期待との戦いにもなる訳か。
幸せな事なんだけど、応え続けて行けるのかな、私。
その後、今まで何度聞かれたか解らないような質問が続き、会見は終了。
ふう、疲れちゃった。
預かって貰っていたスマホを見ると、メッセージが山ほど・・・
おめでとうメッセージか。
これ全部返してると帰るの遅くなるな。
あ、取りあえず師匠には結果を報告しないと。
『ニュースで見たよ』
「ああ、やはりですか」
どうも全国ニュースで大々的にやってたらしい。
TV局もいっぱい来てたもんなー。
『とにかくおめでとう。凛にはもう言ったのかい?』
「いえ、と言うか、前に電話したことあるんですが・・・」
なんか、空気を切る音がするだけだった。
多分電話の向こうで身振り手振りしてたんだと思う。
「姉弟子には直接会った時に報告します」
『そうだね。今日はもう遅いし疲れただろう。帰ってゆっくり休みなさい』
そうだ、帰ってパパに早く報告しないと。
連盟近くに止めてあった自家用車に乗り込み、帰宅。
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「おう、遅かったな」
「う、うん、あのね知ってるかもしれないけど」
「ああ、テレビのニュースでもやってるからな。おめでとう」
「あ、ありがとう」
いつもと変わらないパパだ。
でも正直内心はどうなのかな?
私の将棋界入りを、本当の所はどう思っているの?
「そりゃあ心配だよ。でもお前は約束を守ったからな。厳しい条件をやり遂げたのに今更やっぱ反対とも言えないよ」
「でも・・・内心では?」
「何でそんな事聞きたがるんだよ・・・まあ男だらけの世界だと、何もしてなくても生意気だって言われたり、色目を使ったとか言われちゃうからな。普通の男が棋士になるより、お前は厳しい道を選んだと思うぞ」
だから心配か。
女の子の親としては当然・・・
「でもお前は結果を出しちゃったからな。どのみち今回が駄目でも、棋士になる道を諦めたくないと言うなら、許すつもりだったんだぞ」
「え?ほ、本当に?」
「俺だって鬼じゃないよ。なんか今回は条件厳しかったんだろ?夕日杯では強い人を倒したとも聞いたし」
「う、うん。た、大変だったんだよ!」
「知ってるよ。なんかウチの社長までどこで聞きつけて来たのか将棋の事詳しくなってるしよ・・・」
「社長さん?パパの昇進に影響あるの?」
「無いと思うけど・・・あったら嬉しいなぁ」
パパは大手企業の部長さん。
近々昇進したら私のお陰だね!
「いや、それより正直めんどくさい事になってんだぞ。ウチの会社に将棋部作ろうとか、お前に講師として来て貰おうとか」
「え?私別に行っても良いけど」
「そんな素人のお遊びにかまけてるヒマあんのか?お前は将来の道が決まったのかも知れないけど、一応まだ学生なんだからな」
・・・そうだね。
もうすぐ大学3年生、親の期待に沿う為にも、一応卒業はしないと。
その中で並行して棋士としても頑張る事になる。
私にかかるプレッシャーは相当な物になるのかも。
やっぱり女じゃ駄目だったとは、言われたくないな。
それにこれからはサークルも大事にしたい。
支えてもらったのに全然恩を返しきれてない気がするよ。
そうだね、余計な物を背負いこむのはやめておこう。
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翌週 学校
「君島さん!おめでとうございます!」
「おめでとう流歌ちゃぁん!!」
サークルの皆に歓迎される。
「ルカ、学校中のウワサデース」
「それどころか、全国ニュースになってたよ!」
「うん、どこに行っても顔を指される」
「・・・スポーツ新聞、見る?」
美人女性棋士誕生!
他にあまり大したニュースもなかったのか、私が表紙になってるね。
あーあ、泣き顔が表紙になっちゃって・・・
「でも私ってやっぱり可愛いなぁ」
「よ、余裕ですわね」
「・・・プロになってもやっていけそう?」
「いや、上を目指すならもっと実力をつけないと無理だろうね」
私の実力か・・・
元々、奨励会を抜けた新四段は好成績を残す事も珍しくない。
プロの下位より全然強いと言われているからね。
でも、上位相手となるとそうはいかない。
百戦錬磨のベテラン上位は私が持って無い物をいくつも持っていると思った方が良いだろう。
三段リーグ16勝2敗は出来過ぎだ。
それがそのままの実力と見ない方が良いだろう。
でも夕日杯ベスト8は凄いかも。
そっちは評価しても良いのかな。
カチャ「君島先輩、来てはったん?」
「織華ちゃん!キモオタを脅してくれてありがとう!」がばっ
「きゃ、きゃあ!」
織華ちゃんのほっぺに熱い口づけを・・・
何で逃げるのよ。
「脅すやなんて人聞きが悪いです。プロを目指すなら捨てて良い対局なんて一つも無いて言うただけです」
「それでもわざわざ嫌いな相手に電話してくれるなんて」
織華ちゃんが手を打ってくれなければ、私はプロになれていたか解らないんだよ。
16勝2敗でプロになれなければめげていたかもしれない。
この先も無理だと思ったかもしれない。
「今回は下位が余りにも不甲斐なかったですわね。降段点が付いたのが8人でしたか」
「色々と前代未聞の争いだったよ」
まあだから16勝も取れたのかなぁとも思うし。
何はともあれ昇段出来てよかった。
「・・・流歌、次は龍王戦だね」
「ああ、6組の3回戦かぁ」
「なんかぁ、気が抜けちゃった顔をぉしてるよぉ」
そんな顔してる?
はあ、また私は油断してたか。
・・・そうだね、今度は今までとは違う。
プロになって初の対局だ。
注目度も段違いになるはず。
不甲斐ない対局は出来ないか。
「でも今日はサークルを頑張るよ。久し振りに皆をギッタンギッタンにして新四段の力を見せてあげるよ」
「タダでは負けませんわよ?」
「じゃあ一番手は花音なのだ」
1人じゃなくていいよ。五面指しで。
その方が私の鍛錬にもなるし。
私はまだまだ強くなるからね。




