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駒唄  作者: 無二エル
38/93

日常

「あー、やっぱり動画に上がってる」


 先日のネット中継の聞き手の時の動画。

 私が視聴者からのお手紙を読んで、泣いてしまった動画が上がっていた。

 でも泣いても私、可愛いな。

 良かった、変な顔じゃ無くて。

 あ、あと小学生名人戦の事も調べなきゃ。


 なによ、連盟のHPに写真付きの記事があるじゃないの。

 え?国営放送で番組もあったの?見たかったな・・・

 あ、この子だ間違いない!

 女の子は一人・・・3位だったの?凄い凄い!


 千野塚せんのづか 希羽きわちゃんか。

 良いな、名前に羽の字が入ってるんだ・・・




 8月下旬


 夕日杯将棋オープン戦の一次予選1回戦があった。

 相手は七段の先生だったけど圧勝。


 強い、私は椅子対局だと強い。そう実感できる対局だった。

 椅子対局は、今まで女流棋戦でも戦って来たけど、男性棋士にあそこまで圧勝できるとは・・・

 もっと公式戦で試したい。次は9月中旬?楽しみにしよう。



 日を置かずに聖麗戦タイトル五番勝負の第二局が行われた。

 私も現地で応援したかったけど、この後すぐに女流玉座戦本戦の準決勝があるので今回は大学の部室で応援。


「君島さん。あんなに泣かなくても」

「うるさいなー」


 イジられると思ってたよ。

 というか、いつの間にか部室にモニターが増えてる。

 マルチディスプレイにするの?


「アババと49生両方見たいので」


 なるほど、気持ちは解る。

 部室がどんどん充実していくなー。

 でも今日は女流棋戦なので、放送は49生だけ。

 集中して見よう。


「君島先輩、お隣で勉強させて貰ってもええやろか?」

「良いよ、織華ちゃん」


 おお、隣にHカップが・・・

 肘ぶつかっちゃいそう。


「あら?君島さんは立って大盤解説ですわよ?」

「えー」

「棋士になったら、いつそういう仕事が来るか解らないじゃないですか。この間の体たらくを繰り返さない為にも、練習しておいた方がよろしくてよ?」


 て、体たらくだったんだ。

 結構来場凄かったんだけどな。

 まあそうだね。練習しておいて損は無いか。

 ・・・女の解説か。見たこと無いけど私はその扉も開きたい。


「じゃあ聞き手やってよ。交代で良いからさ。流石に一人で喋るのは・・・」

「解ったのだ」


 花音ちゃんか。


「いまはどういう局面なのだ?」

「まだ駒も並べてない状況ですね」

「早くして欲しいのだ」

「姉弟子を急かすんじゃないわよ」

「ひぃ!」


 交代。


「今日はぁ橘流じゃあ無いんですねぇ」

「はい、五番勝負なので色々戦法を考えてると思いますよ」

「全部橘流じゃぁ、駄目なんですかぁ?」

「そうですね、先後での優位性とか、相手に研究の機会を与えない為とか、色々考えてると思いますよ」

「なぁるほどぉ」

「先に行われている女流玉座戦の準決勝でも、姉弟子は橘流を使わずに負けてしまいましたが、私には新しい事を試しているように見えました」

「そぉいえばぁ、君島さんも次は準決勝ぉですねえ。頑張ってくださぁい」

「ありがとうございます」


 交代。


「・・・今の手は」

「そうですね。これだと姉弟子が一手損をするように見えますが、何か狙いがあるんでしょうか」

「・・・こことか?」

「そうですね。もしくはここの局面を狙った一手だったのかもしれません」

「・・・なるほど」

「遥、もうちょっと喋ってよ」


 交代。


「あ!この写真は!」

「対局者の昼食ですね」

「美味しそう!ボクお腹空いて来ちゃった」

「そう言えばこの前、初めてお店で鰻重を食べたのですが、とても美味しかったですよ」

『見た見たー』『表情硬かったー』

「いつから視聴者参加型になったのよ」


 交代。


「う、ウチが尊敬してるんは、女流の河口かわぐち 恵梨菜えりなさんで・・・」

「はいはい、スレンダーで綺麗な方ですよね」

「解説さんとのやり取りもおもろうて」

「そうですね、切り返しが見事ですよね。私も見習いたいです」

「ウチも、あれくらい上手いこと喋れたらなあて」

「もう連盟に記録係の仕事には行ってるんですか?そのうち会えるんじゃないでしょうか?」

「は、鼻血出そうやわ」


 交代。


「オー、魂のイッテがデマシタネ!」

「ふ、普通の一手ですよ?」

「コントン渦巻く勝負はシューバンへ!!」

「無理にドラマチックにしなくても・・・」

「全米がナイタ!!!」

「将棋は日本でしか人気ありません」


 交代。


「本日は橘女流の劣勢ですわね」

「ま、まだ解りませんよ」

「君島さん、解説は公平にしないと・・・」

「ここから逆転の一手が出るかもしれないじゃないですか」

「で、でも評価値が・・・」


 +2000対-2000だね。

 でもまだ解らないじゃん。


「あ、投了しましたわね」

「り、凛さぁぁぁあん!!」


 ぎゃああああ。

 負けちゃった・・・


「これで1勝1敗ですわ。対局後のお二人の姿が映し出されます」


 ・・・あれ、姉弟子は落ち着いている。

 逆に勝った方は、顔が強ばっている。


「今日の1敗は、ただの1敗では無いのかもしれませんね」

「と、言いますと?」

「次に繋げる・・・いや、4局目に繋げる敗戦だったのかもしれません」


 4局目で、また今日と同じ先後になる。

 その為の布石を姉弟子は今日の対局で打ったのではないだろうか。


「番勝負とはそこまでするものなんですわね」

「そうですね。プロの対局は駆け引きの連続、特に番勝負は同一相手との連戦、負けるにしたって簡単ではないと思わせないと駄目なんです」

「なるほど、それでは中継を終わりますわ」


 玲奈ノリノリだね。

 しかし、この先が楽しみになった。

 姉弟子、絶対にタイトルを取ってください。



 

 そしてすぐに女流玉座戦本戦の準決勝。

 相手は香山かやま 愛佳まなか女流三段、将棋界のアイドル。

 ビジュアルで人気の彼女だが、タイトルも2期取っている実力派。

 コスプレ好きでも有名。


 勝負は私の勝ち。

 序盤で差をつけたのに終盤追い込まれたな・・・

 ソフトで勉強してる者としては、終盤こそ力を発揮したいところなのに。

 どこか見落としがあったのだろうか?後で見直さないと。


 さて、次は挑戦者決定戦だけど、相手はもう決まっている。

 伊東女流二段。凛さんに勝って勝ち上がってきた人だ。

 タイトルを取った事は無いが、里理さんと同じくらい強いと思ってる。

 男性棋士にも勝率が良い。

 ここを勝ててもタイトルホルダーは里理さん。厳しい戦いが続くわね。



 9月上旬


 今日はオール学生選手権団体戦。

 場所は前回と一緒、今年も暑いなぁ。

 スイス式トーナメントで5回戦の団体戦。

 今年白湯女は2チームでる。

 2年生チームと1年生チームで5人ずつ。

 織華ちゃんが2年生チームに入れば総合力が強くなるのは間違いないんだけど、変えなかったみたい。

 まあ、誰が抜けるんだって話になるしね。

 1年生チームだって、少しでも順位が髙い方が今後のやる気に関わって来る。

 そんな訳で今回はそのまま。


 結果は2年生チームがなんと6位。

 64チーム中の6位だよ?凄くない?

 くじ運にも恵まれたらしいが、去年29位からの大躍進。

 1年生チームは45位だった。


「1年生で勝てなかった子居る?」

「はい・・・」「はい」

「2人か、気にしなくて良いからね」

「でも・・・」「織華ちゃんの足引っ張っちゃったね。彼女は5勝挙げたのに」

「団体戦は仲間と闘えるのが嬉しいんやよ。上に行きたい気持ちは勿論あるけど、仲間がしんどいんなら、ウチは別に出とうない」

「織華・・・」「織華ちゃん・・・」

「足手まといやなんて思てへん。一緒に強くなって頑張りたいんやよ」


 織華ちゃんが1年の中でリーダーシップを取り始めた。

 引っ込み思案の子が成長する機会でもあった訳だ。

 団体戦か、奥が深い。

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