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駒唄  作者: 無二エル
31/93

女王

 5月上旬 サークル


「玲奈と遥は初日突破?!初日は女の子が抜けた事無いって言ってなかった?」


 春季関東個人戦の結果を聞いた。

 玲奈、遥は予選を突破し、2日目を戦ったらしい。

 更に遥はそこで1勝し、ベスト32に入ったのだとか。


「凄いね!遥、関東のベスト32なの?」

「・・・大したことないよ。流歌こそ女王目前でしょ」

「ボクは初日敗退だった。良い所まで行ったんだけどね」


 那由も個人戦にしたらしい。結果は上記のとおり。


「頼子とシャリーは?」

「私達はぁ、女流に出たよぉ。結果はベスト4ぉ」

「ええ?2人共?」

「ベスト4の対局は、レンメーの和室でシタンダヨー」


 連盟でそんな事してたの?

 はあ、知らな・・・おっと、また責められる。


「花音さんも出場しましたが、初日敗退でしたわ」

「きゅううぅ」


 新入生もあの子だけ出たんだ。

 いいね、挑む姿勢は素晴らしい。

 で、女流は今回何人だったの?

 12人?もっと増えて欲しいね。


「さて、次は団体戦ですわよ」

「メンバー決まったの?」

「花音さんと織華おりかさんですわ」


 織華ちゃん?ど、どの子?

 何よ、薄情者を見るみたいにしないでよ。

 あの子?あの端の子?


 地味な子だ。

 スカート長めでメガネっ娘。

 前髪も長くて顔が良く見えない。

 あの子は駒の動かし方も知らなかったはず。

 この前も端っこで下向いてた印象。


「白湯女将棋部の花華はなはなコンビですわ!」


 うわー、テイストが古い。

 誰が付けたの?どうせ玲奈でしょ。


「ちょっと織華さんと指してみるといいですわ?」


 ・・・別にいいけど、よろしくね?

 コクンと頷くだけ。

 ・・・・・・

 へえ、序盤の定石しっかりしてるじゃん。

 もう覚えたの?


「織華さんは引っ込み思案で言い出せなかったらしいんですが、元研修会員らしいですわよ」

「ええ?」


 研修会員?どこまで行ったの?


「し、C1・・・です」

「ええ?女流になれるクラスだよ?」

「関西で、頑張ってましてん」


 へえ、関西の子なんだ。どうりで知らない訳だ。

 とはいえ即戦力だよ?

 え?玲奈や遥の方が強いの?2人ってもうそんなレベルなの?


「元、研修会員やから・・・」


 そうか、元か。

 織華ちゃんは中学まで関西の研修会に居たらしい。

 高校3年間は受験の為に研修会を辞めた。

 大学に入り、今更将棋をやるつもりも無かったけど、那由に誘われ、別に嫌じゃないしって事で入ってくれたらしい。

 でも、3年間のブランクはやはり大きく、弱くなったんだとか。

 因みに、女流の道は給料や引っ込み思案な自分の性格を考え、あり得ないと思ったそうだ。

 まあ白湯女入れるくらい頭良いんなら、他の道を選ぶのが普通だと思うよ。


「研修会員ってどのくらいの強さですの?」


 一番下のFクラスでアマ二段くらいって言われてるね。

 奨励会の一番下の6級で、アマ三、四段。

 あくまで目安だけどね。


「遥さんが1年前でアマ初段でしたから・・・」

「・・・当時は研修会に入れない強さだったって事だよ」


 今なら入れるだろうけどね。

 でも別に入りたい訳じゃ無いんでしょ?


「・・・うん、大学将棋の方がレベル高いからね」


 大学将棋の個人大会で優勝したら、アマ五段の免状が貰えるそうだ。

 へえ、強さの目安としては、奨励会低級者と同じくらいなのか。

 それはレベル高い訳だよ・・・

 そして、恐らく層が厚そうだ。


「・・・優勝は無理でも、秋季大会はもっと上に」

「わたくしもですわ」


 おお、やる気に燃えている。

 いいなあ、楽しそう。


「と言うか、君島さんこそ女王戦頑張ってくださいませ」

「え?う、うん」

「君島先輩が女王様になるのだ?」

「花音ちゃん、タイトルの一つやよ」


 あ!先に言っとくけどSMの女王様じゃないからね。

 そんなベタなボケしようものならドン引きするからね。



--------------



 5月中旬


 今日は女王戦の五番勝負の第三局。

 ここまでは私の2勝。

 後の無くなった現女王と闘う為に、静岡の温泉旅館に来た。

 ・・・何だか女流のタイトル戦は近場ばかりだな。

 第四局からは将棋会館になるし。

 まあ、ここで終わる可能性があるから、余計な会場を予約できないのも解るけど。

 それに疲れるから近い方が助かるんだけどね。


 これが男性棋戦だと海外でやる事もあるんだよね。

 国内でもお城だったり、世界遺産だったりと、スケールが大きくなる。

 注目度が全然違うからなぁ。

 と、思ってたら・・・


「え?中継入るんですか?急に決まった?」


 引率の連盟職員に知らされた。

 女流棋戦でネット中継が入るの?

 珍しい・・・


 有料チャンネルでは、少しだけ放送してるけど、今回はアババTVらしい。

 中継が入るのか。不甲斐ない対局は出来ないな。


「でもなんで急に決まったんですか?」

「君島さん、自分の注目度知らないの?」


 え?時々顔は刺されるけど。

 だから最近はマスクして歩くようになりました。

 自意識過剰かなぁとは思うんだけど。


「世間ではまだそうでもないけど、将棋界では物凄い注目度になってるよ」

「それはやっぱり私が美人だからですか?」

「そ、そういうところは隠しておいてね」


 はーい、ネコ被りまーす。

 でもそうか、私に注目しての事なのか。

 ・・・現女王は向こうなのにな。


 将棋界に限らず、そういうのってあるよね。

 ビジュアルは付加価値でしかないけど、注目度が変わって来る。

 人気も当然変わって来るし、それは武器でもあるけれど・・・


 顔で注目されて、実力はからっきしって人も多い。

 変に持てはやし過ぎるのも問題だと思うんだよね。

 まるですでに天下を取ったかのように報道され、蓋を開けてみたら全然だめだったってのを何度見たか。

 駄目だったら今度は叩かれ始めるし。

 期待してたのに!調子乗んな!

 マスコミに踊らされた一部の視聴者の矛先は、それまで応援していた対象へと向かう。


 そう考えると怖いな。

 でもこの世界で戦う以上、そういうプレッシャーにも勝って行かなければならない。

 プレッシャーがかかるのなんて当然の事なんだ。

 ここで決めてやるくらいの気持ちで望まないと。





 対局室で女王を待つ。

 来た、前の2局とは顔つきが違う。

 吹っ切れたか、切り替えたか。

 今日は前のようには行かないと感じる。


 今日は私が先手。

 第一局の振り駒がそのまま反映される。

 1先手、2後手、3先手、4後手、で5局目まで行ったら公平の為に振り直し。


 記者が多い。

 新女王が決まるかもしれないこの日は前の2局より全然多い。

 そして決まった時にはもっと多くなるはず。


 私が注目度を集めてると言うのなら、今回は特に多いかも知れない。

 ニュースとかで映像が流れるかもしれない。

 新時代の旗手として取り上げられるかもしれない。


 ふう、背負ってあげようじゃないの。

 でも私の夢はこんなところで終わらないからね。

 もっと先に、大きな夢があるんだからね。


「定刻になりました」


 女王タイトル戦、第三局が始まった。



------------



 会心の一手が私から出た。

 女王が動揺の色を隠せない。

 私は今日、凛さんが私に使って来た戦型で女王に挑んだ。

 凛さんの新戦型は、私に負けた事で当初はあまり注目を集めなかった。

 そもそも女流が新戦型を作った事など無かったのだ。だから軽視されていた。

 ところが凛さんは、私に負けた後もその戦型を使い続け、勝ち続けている。

 振り飛車の多い女流の中では注目され始めている戦型だ。


 それが女王に見事にハマった。

 この人も私と一緒、少し前まで棋士を夢見てた人だ。

 振り飛車の多い女流の研究より、男性棋士の棋譜を見て研究していたのだろう。

 だから最近女流で話題の戦型をまったく研究して居ないようだった。


 女王はすでに持ち時間を消費し、1分将棋になっている。

 ここから逆転の手を見つけ出すだろうか?

 少なくとも、私には見えないけれど。


 時間の無い中で、最善手を指し続ける物の、差は広がるばかり。

 評価値にするならもうすでに+5000対-5000くらいだと思う。


 ここで女王の悪手。

 ああ、遂に集中が切れたか。

 いや、ひょっとしたら何かあるのかも。

 私の残り時間はまだある。

 全部使って検討しよう。


 30分後、やはり何も無いと判断し、私は女王の玉に迫る手を指す。


「・・・負けました」



----------------



 フラッシュが焚かれる。

 その先に居るのは私。

 新女王誕生を祝うかのように、たくさんのフラッシュが瞬いている。


「君島新女王、今日の戦型ですが」

「姉弟子の戦型です。女王になれたのも姉弟子のお陰です」

「強かったですね。まったく寄せ付けない強さでした」

「それがこの戦型のポテンシャルだと思います。私もまだ使いこなせている訳では無いですが、奥の深い戦型です」

「今後、この戦型が流行ると思いますか?」

「使いこなすのは簡単では無いと、私も研究の中で感じました。流行るかどうかは解らないです」


 私が勝ってなければ凛さんが女王になってたと思う。

 多分後日、凛さんの名前が付けられるほどの戦型だ。


「君島女王は奨励会員でもある訳ですが」

「はい、これに奢ることなくこれからも精進したいと思います」


 嘘です。

 精進はするけど舞い上がると思います。


 女王 君島 流歌


 この響きが嬉しすぎるので。

 ちょっとウザいくらい自慢したいと思います。

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