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駒唄  作者: 無二エル
30/93

部室お引越し

 4月初旬


 女王戦のタイトル戦、五番勝負の第一局があった。

 場所は神奈川の温泉宿。

 わーい、温泉宿で対局だー、棋士っぽーい。

 と、私はテンション上がりまくり。

 かなり舞い上がってたと思うけど、結果は私の圧勝。

 予想はしてたけど、女王は元気が無かった。

 やっぱり棋士になれなかったの引きずってるのかな。

 本格的に女流として頑張って行く事に決めたらしいけど・・・


 しかし、移動、前夜祭、対局、また移動で1局で3日くらい使っちゃうんだよね。

 次からは大学も休まなければいけなくなる。

 ・・・あんまり休みたくないから早く終わらせたいな。

 そうは言っても相手が居る話だから、そうもいかない。

 向こうだって勝ちたいのは一緒。

 このまますんなりとは行かないと思っていた方が良いだろう。

 

 

 4月中旬


 大学の授業中、玲奈からメッセージが来る。


―君島さん。部室を引越ししますわよ―

―え?なんで?―

―新入生部員が10人増えましたの。手狭なので広い部屋の使用許可を貰えましたわ。本日引っ越すので次回からはそちらの方へ来て下さいませ―


 ええ?10人も増えたの?

 どうしよ、女王戦を控えてるけど、今日行ってみようかな。



 部室前


「まあ、来て下さったんですか?」

「だって気になるじゃん」


 挨拶しておかないと誰?ってなるのヤだし。

 最近どんどんサークルでの影が薄くなってるんだからさ。


「皆さん。この方が奨励会員二段の君島 流歌さんですわよ」

「「「「「こんにちはー」」」」」綺麗なひとー ショーレーカイインって何ー?


 わー、まだ高校生って感じだ。垢ぬけてない。

 私達も一年前はこんなだっけ?


「君島さんは元々可愛げが無いじゃないですか」

「ひどいな。半分しか居ないね。残りは?」

「東郷さんとシャリーさんに付いて買い物に行って貰いましたわ」


 東郷?・・・遥か。

 盤駒やら備品が足りなくなったので、買いに行かせたらしい。

 盤駒って安いヤツ?


「いいえ、木の盤ですわ。部費でなんとかなったのでご心配なく」


 そう?なら良いけど。

 いよいよ本物の盤駒も買うんだね。

 それも5セット?7万5千円?

 残ってた部費と新入生の初回の部費で何とかなったらしい。


「あぁ、流歌ちゃん、来てくれたんだぁ」

「流歌!ボク勧誘頑張ったんだよ!」


 頼子と那由が来た。どこ行ってたの?

 新しい部室を掃除してたらしい。

 で、終わったからいよいよ引っ越し開始。


「流歌はおっきいし力持ち?」

「いえいえ、駒より重い物を持った事ありませんわ?」

「誰の真似ですかそれ」

「お、重たいぃ」


 やいのやいの言いながら移動。

 階が変わるの?大変だ―。

 それでも9人も居ればあっという間に引っ越し完了。

 ふう、パソコン重かったなー。


「広いね。前の部室の3倍くらいだね」

「人数も3倍になったからね!」


 前は6畳くらいだったけど、新しい部室は20畳くらいでちょっとした教室くらいある。

 うーん、レベルアップしたなぁ。


カチャ「・・・流歌、来てたんだ?」

「盤オモイヨー」


 丁度、遥とシャリーと新入生も帰って来たみたいだ。

 盤駒5セットを女の子達が・・・

 大変だったね。やめないでね。


「連盟まで行って来たの?」

「・・・うん、連盟で買えば間違いないからね」


 そっか、結構遠いのに。

 え?遥、車持ってるの。

 だったら近いけど、7人乗れる車持ってるんだ?


 わあ、新品の盤駒だぁ。

 指していい?指していい?


「君島さん、私達には思い出の盤駒があるじゃないですか」

「あ、うん、勿論。使い慣れた盤駒も良いよね!」


 何故か創設メンバー達にジト目で見られる。

 うう、肩身が狭いなぁ。


「貴方が君島先輩なのだ?」


 え?何?

 新入生の一人に声をかけられた。


「このサークルで一番強いのは誰かを決める為に、私と勝負するのだ」



--------------



「すんごい弱いじゃないの、アンタ」

「きゅううぅ」


 指してみたけど弱かった。

 机に突っ伏し、落ち込む新入生。

 強そうな雰囲気出しといてなんなのよ。


「お、おかしいのだ。ハムスター相手には無敵なのだ」

「このサークルはハムスターに憑りつかれた人が集まる場所なの?」

「だ、誰の事ですの?」


 アンタだよ玲奈。

 目を合わせなさいよ。


「うう、すぐに強くなってやるのだ」

「はいはい頑張って。他の子はどうなの?経験者は居る?」


 チラホラと手が上がる。

 3人は駒の動かし方くらいは解るらしい。

 他は全くの未経験。

 うーん、即戦力は居ないのか・・・

 こうなるとハムスターに勝てるこの子が1年のエースって事になるけど。


 いやまあ、でもそんなもんだよね。

 駒の動かし方が4人解かるってだけでも凄いよ。

 それほど将棋は女の子に人気が無いんだから。


 その後、みんなで自己紹介。

 私に挑んで来た子は三田村みたむら 花音かのんちゃんと言うらしい。

 他の子の名前は・・・私は薄情者なのでおいおい覚えます。


「君島先輩って、王太君に会った事ありますか?」

「無いよ。関西所属だからね」


 将棋を指した事が無い子でも、流石に王太君くらいは知っている。


「じゃあ、シゴロンは?」

「無いよ。引退してるからね」


 なんだろう。以前パパと交わした会話そのものだ。

 将棋に興味が無い人の知識なんてこんな物。

 でもせっかく将棋サークルに入ったんだから、将棋を好きになって欲しいな。


 大半は喋りながら適当に指している。

 あ、その駒は動き違うよ。

 角はワープ出来る訳じゃ無いんだよ。

 飛び越せるのは桂馬だけ。

 成らないの?動けなくなるよ。

 王手放置だよ。二歩だよ。二手指しだよ。


「角が裏になると馬なんですか?桂馬があるのに」

「なんでだろうね」

「飛ぶ車がなんで竜になるんですか?」

「し、知らない」


 謎だよね。

 でも面白い所に興味を持つのはやはり一流の頭の良い子が集まる大学だからだろうか。


 別に、全員が真剣に取り組んでくれるとも思ってない。

 ワイワイやりたいだけの人も居るだろう。

 1年前にも同じ事思ったっけ。

 でも今思うと創設メンバーには恵まれてたな。

 全員がやる気出してくれたもんなぁ。

 でも今度は10人、流石に温度差が出て来ると思う。

 やる気ある子の邪魔さえしなければ、それでも別にいいんじゃないかな?


「皆さんは取りあえず6月の新人戦を目指しますわよ」

『はーい』

「5月中旬に春季団体リーグに参加しますわ。2人足りないので出たい方は言ってくださいませ」

『はーい』


 返事は良いな。さすがお嬢様学校。

 去年、遥しか勝てなかった新人戦か。

 今年は勝てる子居るかなぁ。

 団体戦は数合わせになるのかな。

 流石に1カ月ではそんなに育たないと思う。


「私は強くなったのだ。君島先輩勝負なのだ」


 そんな訳あるか。

 でも挑んで来る姿勢は好きだよ。



--------------



 4月第二例会


 この間にも第一例会があったが、1勝1敗だった。

 今日は出来れば2勝を積み上げたいが・・・


 ああ、1勝1敗だった。

 これで●○●○○○○●○●○

 7勝4敗か・・・

 連敗してないのは良いんだけど、このペースだと上がれない。

 どこかでまた連勝を狙って行かないと。



 その後すぐに、女王戦のタイトル第二局があった。

 同時期に大学の春季関東大会の個人戦と女流戦があるんだけど、今回は日程被っちゃって行けなかった。

 皆の健闘を祈る。

 タイトル戦の場所は山梨の温泉旅館。

 ああ、美味しい物も食べられるし幸せ。

 味が解るって事は余裕がある証拠だろうか。


 結果は私の勝ち。これで2勝目だ。

 女王は相変わらず元気が無い。

 三段リーグで勝ち越した事もある人、本来の力はこんな物じゃ無いと思うんだけど・・・

 しかし流れは確実に私に来ている。

 女王が本来の調子を戻せないなら、私がタイトルを貰う。


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