夏合宿
女流玉座戦本戦トーナメントの2回戦が終わった。
私は勝ったけど、凛さんは負けてしまった・・・
しょんぼりしている凛さんを励まそうと思ったら、逆に激励されてしまった。
次は準決勝、勿論頑張るけど相手が渡来さんなんだよね。
現女流玉位のタイトルホルダーでもある渡来 愛女流。
彼女は連盟とは別組織からの参戦。
別組織とは、以前色々あって連盟から離れて作られた新しい団体。
彼女はその団体に後から入った人なんだけど・・・
彼女の処遇には、それこそ色々あった。
本人は全く悪くないんだけど、連盟と新団体の対立に巻き込まれたと言うか・・・
新団体が独自で決めた規定での渡来さんの級位を、連盟は認めなかった。
棋戦に参加する事を拒んだのだ。
妥協案も出したみたいだが、以前からいろいろあった連盟と新団体の溝は深まるばかりで・・・
様々な軋轢を経て、何人かが責任を取り、なんとか彼女は棋戦に参加できるようにはなったのだが・・・
私も当時の事を良く知ってる訳では無いが、翻弄される中で腐らず、着実に力を付けて彼女は遂にタイトルを奪取した。
強くなってしっかりと認めさせたのだ。それは、本当に凄い事だと思う。
そんな苦労をしながらも強くなった人にあっさり勝てるとは思えない。
準決勝の対局は9月初め。
私もそれまでに力を付けないと。
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8月 第二例会
今日は奨励会入会二次試験も兼ねた例会。
また、新しい子達が入って来る。
いつも以上に小さい子達がわんさかいる。
「あ!49生見ましたー」
「かわいー」
「で、でっけ!」
「あ、ありがとう」
やれやれ、静かにね?
すでに試験は三日目のはずだけど、緊張感とか無いのだろうか。
どのみち、初段の私にはあまり関係が無い。
受験者の相手をするのは級位者。
私はいつも通りやるだけだ。
今日も2連勝。
ヤバイ、私は充実している。
タイトル戦観戦と言うブーストは未だ私の中に残っている。
このまま8連勝で一気に2段とか?
女流玉座戦も優勝しちゃったり?
なんて、調子に乗るとロクな事が無さそうだから、気を付けよう。
・・・受験者達はどうなったかな?
ああ、泣いてる子いるな~。
あの子は受かったっぽいな。あ、また桐生来てるよ・・・
毎年来てるの?弟子も居ないのに?
なんて趣味の悪い人なんだろう。
お盆なんだから実家にでも帰りなさいよ。どこ出身だか知らないけど。
結局今年の合格者は10人だったみたい。
ようこそ、これからよろしくね。
上に上がって来て、対局する事があったら揉んであげるわ?
・・・雑魚臭出しちゃった。恥かしい。
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8月下旬
「かーるいーざわああああ!!」
「わ!ちょっと那由、いきなり大きな声出さないでよ」
軽井沢の玲奈の別荘に来た。
石垣島案も出たのだが、旅費がかかるのと、この時期はもうすでに海はクラゲだらけなので却下になった。
東京から新幹線で1時間、私達白湯女将棋部ご一行は軽井沢駅に着いた。
「ごめんね、私のせいで。みんなは海に行きたかったんじゃないの?」
「えぇ?流歌ちゃんの水着姿を見せられても自信無くすだけだよぉ~」
「そうですわね。最近胸も大きくなったんじゃありませんの?」
「ええ?か、変わってないよ!」
胸は本当に変わってない。
ずっとBのままだ。
胸は別に良いの。胸が重いとまた腰に来る可能性がある。
だから私はあえてBで良いと言い放ちたい。
「は、遥は?」
「・・・Cだよ」
「シャリーは?」
「ジャパンサイズだと、Dデース」
「滅茶苦茶気にしてるじゃありませんか」
「玲奈は?」
「秘密ですわ?おーほっほっほ」
ぐぐ、玲奈は隠れ巨乳っぽいんだよね。
今日とか一緒にお風呂入らない?
どうせ、馬鹿みたいに大きな露天風呂でもある別荘なんでしょ?
着いてみたらログハウスだった。
「へえ、お洒落だね」
「お風呂は檜風呂なので残念ながら大きくありませんわ?順番に入ってくださいませ」
「で、でも、2人くらいなら一緒に入れるよね!」
「君島さん、眼が怖いんですが・・・」
「ねえねえ!暖炉があるよ!火をつけて良い?」
「・・・那由、真夏なんだけど」
ログハウスにしては大きい方なんじゃないだろうか?良く知らないけど。
テラスがいいね。夜はここでゆっくりしたい。
「寝室は2階ですわ。2人で一部屋を使ってくださいませ」
「夜ご飯はどうするのぉ?」
「皆でわいわいBBQですわ!」
わーい。
合宿っぽーい。
「BBQは拙者に任せるでゴザルヨ」
「シャリー、得意なの?」
「カナダでは週末必ずBBQダッタヨー」
おお、頼もしい。
正直私は炭の事とか全然解んない。
「その前に、皆さんなんの合宿に来たのかお忘れじゃ無くて?」
「え?」
「君島さん、釣り竿なんてどこから持って来たんですの?なんで遊ぶ気マンマンなんですか」
ははは、その辺にあったもんで。
ついつい浮かれてしまった。
「でもぉ、軽井沢に来てまで将棋かぁ。それも塩ビ盤でチマチマとぉ・・・」
「・・・確かにね。将棋するなら学校の方が」
お約束なの。
私もアンタらも風呂シーンで妄想の餌食となるの。
「実は近くに木工教室がありますのよ。皆さん、手作りで盤駒を作りませんか?」
「え?」「手作りでぇ?」「・・・玲奈、そんな事考えてたんだ?」
なにそれ!おもしろそう!
絶対やる!
「ボク、不器用だけど綺麗に出来るかな?」
「綺麗じゃなくてもいいよ!自分が作った駒で指せるなんて面白いじゃない」
不格好でも良いよ。
駒の斜面は確かに難しそうだし。
平面になってもいいじゃない。
指せない事は無いよ。
「では連絡してあるのですぐに向かいましょう」
「ああ、行くの決定だったんだ?」
「当たり前ですわ?わたくし達は、白湯女将棋部なのですから」
は、はあ。
よく解んないけど行こう。
工房に行くと、すでに材料が準備してあった。
盤駒の正確なサイズも調べてあったのかデータが揃っていた。
「玲奈お嬢様、この度は私の工房へよくぞおいで下さり・・・」
ヒソ「・・・ねえ流歌、工房主さん、やけに腰が低いね」
「玲奈のパパの権力じゃない?」
玲奈のパパは何をしている人なんだろう?
前に聞いた事あるけど、教えてくれなかった。
「この工程は危険ですのでわたくしめが・・・」がっがっがっが
「・・・・・・」
「この工程も危ないので・・・」ぎーがっちゃん ぎーがっちゃん
「・・・・・・」
「この工程も・・・」しゃーしゃーしゃーしゃー
「・・・・・・」
なんだろう、盤にマジックで線を引くのと、駒に字を書くのしかやらせて貰えなかった。
私が求めてたのはこんなのだったかな。
「3セット、出来ましたわね。これで皆さんで指せますわ」
出来上がったね。
本物とはちょっと違うけど、オリジナルの盤駒が出来あがった。
材料は何だろこれ?ちょっと目が粗いけど軽い材質だ。
「・・・玲奈、料金は?」
「一人1000円ですの」
「え?材料費込みで?安すぎない?」
「そうなんですか?でも工房主がそれでいいと・・・」
おかしい。
本物じゃないけど、将棋の盤駒が3セット6000円で手に入るなんて。
「玲奈お嬢様、お父様にはくれぐれもよろしくお伝えください」
「・・・・・・」
おかしい。
工房から戻って来て、さっそく指そうとしたら、玲奈が盤の裏にそれぞれの名前を入れようと言い出した。
「わたくし達は、記念すべき白湯女将棋部の創設メンバー。今後この盤駒達が何時まで受け継がれるか解りませんが、記念として名前を書いておきましょう」
「ああ、その盤駒持って帰るんだ?」
「あ、当たり前じゃないですか!流歌さん、置いて帰るつもりだったんですの?」
え?だって・・・
結構大きいし、荷物になるかなーって。
あれ?皆の目が冷たい。
「流歌ちゃん?皆の記念の品だよぉ?」
「ボク1枚くらいなら持つよ!」
「・・・流歌、今のは良くないよ」
「え?え?」
「ウラギリモノメー」
「いいんですわ、皆さん。所詮流歌さんはたまにサークルに来て蹂躙して帰って行くだけの進○の巨人」
「ご、ごめん、私が悪かったです」
ま、まずかったなぁ。
そ、それよりみんな!名前書こうよ!
あれ?みんなそんなに大きく書くの?
私のスペースが・・・
隅っこに小っちゃく書いた。
わ、私も白湯女将棋部メンバーだからね!
風呂シーンはカット