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駒唄  作者: 無二エル
19/93

やる気マンマン

 タイトル戦観戦から帰って来て2日後、女流玉座戦本戦トーナメント1回戦へ挑む。

 トーナメントには私や現女王、関西の奨励会員の女の子も残っていた。

 元女王と卯亜ちゃんは予選で女流に負けてしまっていた。

 アマチュアの子も一人残ってる。これも女流棋戦ならでは。

 男性棋戦ではまずありえない事だが、女流棋戦ではアマチュアが活躍する事も珍しくない。

 数年前には決勝まで勝ち上がり、みごと挑戦権を得た。

 あの人は途中で女流に転向したんだっけ?

 良く知らないけど、強いアマと女流の差は少ない。


 改めてトーナメント表を見る。

 私の相手は女流四段のベテラン。

 ホっとしたのは凛さんがトーナメントの別の山だった事だ。

 姉弟子とは一番当たりたくない。勝っても負けても気まずいもの。

 お互い決勝まで勝ち進めば、どのみち戦わなければならないのだが。


 対局前に記者からの取材を受ける。

 写真もたくさん撮られてる。やっぱり時間の問題だったか。

 取材自体は意気込みを聞かれた程度の軽い物だった。


 さて、二次予選もそうだったけど、持ち時間が3時間なんだよね。

 また、正座との戦いか。

 一次予選は椅子対局だったんだけどな・・・

 もっと椅子比率が増えて欲しい。


 対局は余裕の勝利。

 女流四段とはいえ、ベテランの方は将棋の勉強する暇あるのかな?

 この方は確か小さいお子さんが二人いたはず。

 家事に追われ育児に追われ、時々聞き手としても見かける。

 多分知らないところでイベントにも駆り出されているだろう。

 女がこの世界で戦って行くのは大変だと、改めて思った。



-------------



  8月第一例会


 復帰してからここまでの成績。

 ●○●●○●○●○○○○○●○●●○○●○○○

 今日、1局目で勝てれば昇級、いや、次は段になる。昇段だ。


 相手は同じ1級の子か。

 何度か対局した事あるけど、勝ち越してる相手。

 油断はしないけど、今日上がれると良いな・・・


「君島さん、4949生放送見たよ」

「卯亜ちゃん」


 うん、さっきから他の子もヒソヒソ話してる。

 ネット中継に出たくらいでそんなに珍しいの?

 みんなも記録係として出てるでしょ。


「一風変わってたからね」


 た、確かに。

 あんなの将棋中継で見たこと無い。

 多分舞い上がってたんだと思う。


「でも可愛かったよ?」

「そうかな?将棋界のイメージを損なわなかったかな?」

「大丈夫でしょ。カツラ飛ばしてる人も居るんだから」


 確かに。

 まったく気にしなくても大丈夫かもしれない。

 そうだね、それくらい図太くないと。

 今日は昇段もかかってる事だし、余計な事は気にしない。

 むしろ、『みんな私の虜になったでしょ?』くらいの気持ちでいよう。



 1局目 勝利

 ひゃっほう!

 あ、玲奈みたいに喜んでしまった。対局相手に申し訳ない。

 将棋とは、勝っても喜びを隠すもの。


「君島さん、おめでとう」


 幹事が祝福してくれた。

 これで初段だ。一際嬉しい。

 級から段に変わるのって格別だな・・・

 ただレベルが上がっただけじゃなく、覚醒進化したみたいな気分。


「なんだか、やる気に満ちているね」


 はい、タイトル戦を見に行けたのはとても素晴らしい刺激になりました。

 奨励会も女流棋戦も頑張ります。


「さて、初段になったので今日はあと1局だ」


 そっか、そうなるんだ。

 持ち時間が長くなり、一日2局しか指せなくなる。


「厳しくなるよ。これまで以上に励むようにね」


 解ってます。油断はしません。

 将棋の勉強もこれまで以上に頑張ります。

 その後の1局も勝ち星をあげる事が出来た。



---------------------



 数日後、女王戦の一斉予選に参加する。

 タイトル戦も複数を並行してやっていくからなかなか忙しいね。

 でも今の私は充実している。

 予選くらいで躓く気はしない。

 今日は得意の椅子対局だし。

 持ち時間も短いから一日2局、多い人は3局指す。

 本日中には本戦出場者が決まる。


 1局目、2局目を危なげなく勝利。

 あっさり本戦出場だ。


「卯亜ちゃんも勝ったの?」

「うん、嬉しいよ~」


 卯亜ちゃんも無事本戦出場。

 元女王も勝っていた。きっと勝ち進んで現女王にリベンジを目論んでいるだろうな。

 あ、凛さんも勝ったんだ・・・

 姉弟子が勝つのは勿論嬉しい。

 でもトーナメントで当たりませんように。


 インタビューですか?

 ああ、女王戦はこれがあるんだっけ。

 動画を取られ、意気込みを聞かれる。

 どこかで短期的にアップロードされるみたい。


 最期に花束を貰い、本戦出場者全員で記念撮影。

 私はデカイから隅っこに追いやられる。

 悪かったわね、後ろの段に行きましょうか?

 それだと一人飛びぬける?

 皆、私の身長のせいで花束持って右往左往するハメになる。

 すいません、これも番外戦術だと思って許してください。



 翌日、今日は大学に行く。

 夏休みだけどサークル活動だ。


「君島さん?夏合宿は8月下旬にしましたわよ」

「ごめんね、私の予定に付き合わせちゃって」


 すぐに女流玉座の本戦2回戦がある。

 お盆過ぎには奨励会の8月第二例会があるし。

 ・・・丁度、奨励会入会試験も兼ねた例会なんだよね。

 私も2年前に受けた。


「構いませんわ?大学の夏休みは長いですから」


 うん、9月いっぱいまで休みだもんね。

 そして9月にはオール学生団体戦がある。


「では君島さん。わたくしと対局お願いしますわ。3枚落ちで」

「・・・玲奈、強くなったよね」


 飛車、角、香の一枚落ち。

 今の玲奈とはこれで良い勝負だ。

 私も強くなってるはずなのに、玲奈は凄い勢いで将棋を吸収している。


「プロの先生にも言われましたわ?強くなる時は一気に強くなると・・・でもそこから先が大変みたいで」


 その通りだと思う。プロから知らなかった知識を知れば、最初は伸びると思う。

 でも、将棋界は刻々と変化していく。

 常に変化し続ける物を追いかけ続けるのは大変だ。

 先生も過去の知識は教えてくれるけど、未来の知識は知らないんだ。


「・・・ねえ、次はアタシと指してよ。2枚落ちで」

「いいよ、遥」


 遥も強くなっている。

 駒落ちの差は変わってないが、こっちも強くなっている中で、引き離されずに居るんだから凄いと思う。


「道場にはまだ行ってるの?」

「・・・ううん、玲奈が強くなったから」


 今はプロからの情報を玲奈が持って来るから有用だ。

 週一でレッスン受けてる人なんてなかなかいないもんね。


「そ、その次はボクと!5枚落ちで!」

「わ、私は6枚落ちでぇ~」


 那由と頼子も頑張っている。

 玲奈からの情報を積極的に取り入れ、自分の血肉へと変えている。


「ワタシはー、9枚落ちデース」


 シャリーは相変わらずだ。

 玲奈の説明もチンプンカンプンらしい。

 楽しんでやってはくれてるみたいだが・・・


「ふう、そろそろ木の盤が欲しいですわね」

「折りたたみ?一枚板だと結構するよ?」

「通販で安いのあったよぉ~」

「あんまり安いのだと品質が・・・」

「あ、本当だぁ。レビューひどぃ~」


 まあせっかく買って長く使うなら、盤は最低でも1万、駒も5千円くらいの物を選んだ方が・・・


「それを3セット揃えるとなると、4万5千円必要ですわね」

「オー・・・」

「部費いくら余ってるの?」

「2万弱ですわね」

「1セットだけでも買えば?」

「それだと不公平ですわ?木の盤の横でこんな塩ビのペラペラの物で指すのも・・・皆さんの部費なんですから」


 さすが玲奈、よく言った。

 でも多分、家での木の盤での指し心地を知ってるから物足りなくなってるんだろうな。

 プラ駒って滑るし。


「まあもうしばらく我慢しましょう」

「・・・アタシ、家から盤持ってこようか?」

「ボク、バイトしようか?やった事無いけど」

「いいんですのよ。個人に負担が集中すると崩壊してしまいます」

 

 そうだよ、我慢我慢。

 部費を節約すれば、そこまで難しいハードルじゃない。

 近い内に買えるよ。


「そっかぁ、良さそうなバイト見つけたんだけどな。これなんだけど」ぴら

「・・・ちょ、ちょっと那由、それ風俗」

「風の属性デスカー?」

「シャリーさん?風俗とは風習やしきたりの事ですわよ」

「玲奈、それも違う」

「1時間1万円保証ぉ?頼子もやってみようかなぁ」

「・・・駄目だって。アンタ男性恐怖症でしょ」


 ここはお嬢様大学。

 結構ズレてる人が多い。


「オー、ゲイシャガール?」

「そ!そんな事をする仕事だったなんて!」

「・・・」プクプク

「よ、頼子が泡吹いてるよ?!」

「け、汚らわしいですわぁぁぁぁ!!!」


 免疫の無い人達がパニックになってた。

 私だって良く知らないけど・・・

 遥は詳しいの?

 お?クールビューティが赤くなったw

 怒んないでよ。冗談だよ。


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