タイトル戦観戦
7月下旬
飛行機に乗っている。
これから玉位のタイトル戦のお手伝いの為、四国へと向かう。
「流歌、すぐに着くから我慢するんだよ」
「だ、大丈夫ですよ」
ぽんぽん「・・・」
「姉弟子、大丈夫ですから」
何が起こっているかと言うと、エコノミー席に私の長い脚が収まらなかった。
前の席につっかえてしまう。
通路側に足を出せば大丈夫なので気にしないでください。
ただ、通路を通る人にやたら見られるハメになった。
夏だから、ショートパンツで来たのは失敗だっただろうか。
あのおっさん、さっきからイヤラシイ目で私の生脚をチラチラ見てるな・・・
ふう、気にしない気にしない。
他の事を考えよう。
さて、この間にも奨励会が二度あり、6局を戦って来た。
結果は○○●○○○
タイトル戦を見に行ける事になって、モチベーションが上がったせいか、すんごく調子が良い。
次勝てば昇級だもの。
女流玉座戦の二次予選も戦って来た。
結果は余裕で突破で本選出場決定。
すこぶる調子が良いなあ。
サークルの方も順調だ。
那由がやる気を出して、つられて頼子も頑張り始めた。
シャリーは相変わらずだが、楽しそうにやっている。
そして玲奈の本気を見た。
自宅にプロ棋士を派遣してもらい、週一の稽古を始めたらしい。
凄いなぁ、結構お金かかるのに。
正直便乗したいくらい羨ましい。
学校に派遣して貰おうかとも思ったみたいだが、それだと他の部員にも料金の負担を考えなければならなくなる。
それも週一となると四段の棋士でも20万くらいになる。払える訳無い。
それより玲奈がプロの指導をみっちり聞いて、皆にしっかり伝えれば良いと考えたそうだ。
玲奈らしい気づかい。
「流歌、着いたよ」
「あ、はい」
東京から飛行機で1時間半。
タイトル戦の地に着いた。
さて、これから両対局者は観光、盤駒の検分、夜は前夜祭。
私達はどうするんですか?
・・・殆んど対局者に付いて回るらしい。
手伝いとは一体。
観光が終わり、対局場に来た。
決戦の場は、歴史ある温泉旅館。
・・・うーん、殆んどやる事が無い。
主催者が準備に動いてくれている。
これから盤駒の検分か。
・・・2人共、真剣だな。
これが、タイトルを争う者達の姿。
・・・かっこいい。
盤の位置を決めて、あとはそこに放送局が機材をセッティングしていく。
少し離れた部屋に、検討室が作られる。
ここで明日明後日は多くの棋士が対局を見ながら検討するのか・・・
出来ればずっと、ここに居たいな。
隣は記者控え室か。
モニターとパソコンがたくさん。
準備は殆んど主催者側の人達がやってくれる。
私、何しに来たんだろ?
つんつん「・・・」
あ、すみません姉弟子。
ここに突っ立ってると邪魔ですよね。
ただでさえでかい体なのに。
隅っこで小っちゃくなってないと。
問題無く検分が終わり、前夜祭の会場へ。
場所は市内のホテル。
明日の大盤解説会の会場でもある。
指導対局やサイン会も同時に行われる場所だ。
前夜祭が始まった。
両対局者が入場し、主催者の挨拶。
・・・連盟の代表やら、市長やらの挨拶が続く。
あ、立会人と大盤解説者、ゲスト棋士の紹介もあるのか。
師匠と凛さんが移動する。
一人になっちゃった。
両対局者への花束贈呈。
いいな・・・私もあの場所に立ちたい。
出来れば羽月さんに挑戦する立場として立ちたい。
今は下から見上げるだけだけど・・・
両対局者が退場。
明日に備え、先に休むらしい。
前夜祭はまだまだ続く。
え?ゲスト棋士のトークショー?
凛さんが?しゃべるの?
・・・他の棋士が話すのをマイクを持ってニコニコ聞いてるだけだ。
あれで成立するんだ。
姉弟子すごい。
その後、ちょっとしたプレゼントが当たる抽選会をして前夜祭は終了。
ふう、初日が終わったか。
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「私達も温泉に泊まれるんですね」
明日の対局場となる温泉宿へ戻って来た。
今は凛さんと露天風呂に入っている。
部屋も凛さんとの二人部屋だった。
「気持ちいい・・・」
ジー「・・・」
「?・・・何ですか?凛さん」
グッ「・・・」
体を舐めまわすように見られ、親指でグッドのサイン。
ははは・・・
「凛さんも綺麗な胸ですよ?」
ふるふる「・・・」
「そんな事無いって?形が真ん丸で綺麗なのに・・・」
ふるふる「・・・」
そんな事無いそんな事無いと否定された。
本当に綺麗なんだけどな。
わしゃわしゃ「・・・」
「え?頭洗ってあげようかって?さっき洗いましたよ」
ごしごし「・・・」
「体も洗いましたよ」
シュン「・・・」
「や、やっぱり、もう一回洗おうかな~」
ニコニコ「・・・」
ははは・・・
好きにしてください。
温泉からあがり、私達も明日に備え休みましょう。
え?布団くっ付けるんですか?
何故・・・
夏だし、そんなにくっ付いて寝ると暑くないですか?
シュン
わ、わーい。姉弟子とお泊り嬉しいな~。
ニコニコ
ははは・・・なんもしてないのに疲れちゃった。
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翌日
ゆさゆさ「・・・」
「・・・あ、姉弟子、おはようございます」
ゴシゴシ「・・・」
「はい、顔洗って歯を磨いてすぐに準備します」
朝だ。決戦が始まる朝。
姉弟子はすでに支度を終え、私を待ってくれている。。
ギリギリまで寝かせてくれていたようだ。
ふう、姉弟子の寝顔可愛かったな。
最初はそういう気でもあるのかと身構えたが、姉弟子は私の浴衣を軽く握りながらすぐに寝てしまった。
その寝顔にこっちが萌えてしまった。
やだなー、私そういう気があったのかなー。
今日の夜も楽しみだなー。
き、キスしちゃおっかなー。
・・・馬鹿か私は。
顔を洗って目が覚めた。
ふう、私も着替えないと。
・・・なんだか自分が戦う訳でも無いのにドキドキする。
鼓動が体全体を支配していく。
真剣勝負が始まる朝か。
対局者は、私とは比較にならないくらいドキドキしてるのかな。
それとも、落ち着いているだろうか。
知りたい。
タイトル戦の空気。
対局者が何を思い、何を願うのか。
知りたいよ・・・
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ひりつくような空気。
カメラを構える記者達。
対局者が瞑想している。
いよいよ、玉位戦の第二局が始まる。
「定刻になりました。第○○期玉位戦―――」
時が来た。
一呼吸置き、先手の棋士が1手目を指す。
パシャパシャパシャパシャ
カメラのフラッシュが一斉に焚かれる。
眩しい、たくさんの光の瞬き。
二手目を相手側の棋士が指す。
また、フラッシュの海だ。
さて、ここで記者達は退室する。
見学していた私達も。
対局者と記録係と立会人だけが残される。
立会人ももう少ししたら退室するはずだ。
「ふう、緊張した」
「流歌、しばらく休んでいなさい」
はい、師匠も副立会だから気楽そう。
本当に私、必要だったろうか?
・・・・・・
・・・多分、勉強と経験の為に連れて来てくれたんだろうな。
ありがとうございます。
検討室も記者控え室もまだ閑散としてる。
まだ序盤だもんな。
時間の経過とともに、人が増えて行くのだろうか。
あ、10時のおやつの撮影をしてる。
タイトル戦ともなると、10時と15時におやつが出る。
今日はどこかのコンビニスィーツ。
スポンサーなのだろう。
ブラブラしてみたものの、手持無沙汰になって来たな。
検討室に行くと凛さんがタブレットを見てた。
姉弟子、ネット中継を見てるんですか?
あ、辻田 綾女流だ。優しい語り口と怪奇な絵が人気の女流だ。
解説は森村 一基九段か。
森村さんの解説は面白いから私もちょっと見たいかも。
でも現地に来てまでネット中継見るのもなんだか・・・
私も自分のノートPC立ち上げて、ソフトで対局を研究しようかな。
いや、対局者に接触するかもしれないし、誤解を産みそうな事はしない方が良いだろうか。
どこで誰が見てるか解らない。指し手を教えたとか疑いをかけられても面白くない。
立会人の手伝いとして来てるんだから、不用意な行動は控えよう。
「よう、お前も来てたのか?」
え?私?
あ、桐生6段。
奨励会試験以来ですね。
面倒な人に見つかっちゃったな。
「桐生先生、ゲストでしたっけ?」
「なんだよ。プライベートで来たんだよ。わりいかよ」
「悪いです」
「ええ?!」
おっと、つい本音が。
四国までプライベートで来たのか。
タイトル戦の検討室に棋士がフラッと来ることは珍しい事ではないけど。
「あ、相変わらずだな!」
「そっくりそのままおかえしします」
キョトン「・・・」
「姉弟子、気にしないでください」
「橘女流、妹弟子の教育をもっと・・・」
なでなで「・・・」
「良い子だって言ってますよ」
「・・・・・・」
姉弟子は私の味方です。
あっち行ってくださいよー。
「チェッ、うどんでも食って来るか」
そろそろお昼か。
対局者は何を食べるんだろう。
初日だから何か美味しい物を頼むのかな。
2日目は切羽詰まって味なんか解らないって言うし。
盤外も注目だ。