再始動
4月 第一例会
今日から奨励会に復帰する。
一年ぶりか。
受験が終わった後、連盟のHP見たけど、他の奨励会員の段位が結構変動していた。
新しく入って来た子もいれば、同数くらいやめて行った子も居る。
黒森君は初段に上がっていた。
すごいな、まだ13歳なのに。
彼は間違いなくプロになれる逸材だと思う。
北条君はやめていた。
まだ高校1年くらいだったはずだけど。
何があったのかは知らないけれど、諦めてしまったようだ。
「君島さん、久し振り」
「卯亜ちゃん」
卯亜ちゃんは残っていた。
現在13歳で4級。
ちょっぴり大人っぽくなっていた。
「あれ?背が伸びたの?」
「う、うん。また伸びちゃった」
これは私の話だ。
奨励会を休んでいた一年の間に2cm大きくなった。
現在172cm、女としてはかなりデカい部類。
正座をしなかったからかな?脚がまた伸びてしまった。
「いいなぁ。卯亜ももうちょっと身長が欲しい」
卯亜ちゃんは150cmくらい。
将棋棋士としては恐らく小さい方が人気でると思う。
姉弟子も人気だし。
棋士のファンはおじさんが多い。モデルのような体型は求めないのだろう。
「ねえねえ、君島さんは女王戦と女流玉座戦には出るの?」
女王戦と女流玉座戦。
これは女流棋士のタイトルだが、女性奨励会員でも出れる棋戦だ。
どちらも優勝賞金が500万。
私が休んでいる間に新しく優勝賞金700万の棋戦が立ち上がったが、そっちは奨励会員では出れない。
「出るよ」
「そ、そっかぁ」
以前ならスルーしたけど、今回のリミットは2年。
その間に行われる自分が出れる棋戦には積極的に出るつもり。
卯亜ちゃん、ちょっとガッカリしたみたい。
奨励会員なら十分優勝を狙えるからだろう。
現女王も奨励会員だし。
交通費にお金がかかる卯亜ちゃんは、少しでも賞金を稼いでそれにあてたいんだろうな。
でもここは勝負の世界、情けは無用。
卯亜ちゃんだって同じ棋士を目指すライバル。譲ってなんてあげられない。
『あれが君島さんかぁ』
『綺麗な人だね』
『ちょっとデカすぎね?』
新しく入った子達だろうか?聞こえてんだけど。
相変わらず雑音が無くなる事は無い。
そう言った物を気にしてたらキリが無い。
今日に備えてまたバンジーも飛んできた。
空白の一年間を取り戻すために将棋の勉強にも朝晩取り組んだ。
ネットでの対局で、経験も積んできた。
やれることはすべてやって今日に望む為に。
これからまた厳しい戦いが始まる。
2年間の勝負をかけた君島 流歌の戦いが再度、幕を開けた。
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初日は1勝2敗だった。
意気込んでは来た物の、簡単では無い。
むしろ1勝出来た時には安堵の息を漏らした。
どこかで、全然通用しないかもという不安もあった。
1年の休会明けで、簡単に勝てる程甘い世界では無い。
それも、1年間ほとんど将棋を指さなかったのだから。
今日は負け越しだが、確信が持てた。
私は通用する。
もうちょっと勘を取り戻して、新しい勉強をしていけば、必ず勝ち星を積み上げられる。
2敗の内容も悪い物では無かった。もっと精度を高められる。
1勝2敗と言う数字以上に、流歌の気持ちは明るかった。
「君島さん、記録係のお仕事を・・・」
幹事に話しかけられた。
復帰した途端これか。
相変わらず人不足らしい。
やっても良いですけど、学業もあるので程々で・・・
あと、取りあえずは大学生活が落ち着くまで待ってほしいです。
あと、女の子なので帰りが遅くなる持ち時間の長い対局はちょっと・・・
本当の理由は正座がキツイからだけど・・・
時々で良いから頼むと言われた。
仕方ない、まったく貢献しないのもバツが悪いし。
あ、もう高校生じゃないんだから、服装はどうすれば?
対局によっても変わって来るが、タイトル戦でもない限りは女は普段着で良いって。
そうは言ってもTPOってもんが・・・
私の服はママの見立てだから、ちょっと派手と言うか。
それでもいいらしい。緩いなぁ。
「君島さん、研究会しない?」
研究会のお誘いか。
他に女の子がいるなら行くけど。
いないの?そうだよね。
じゃあごめんなさい。
研究会は本当はやりたいんだけどな。
でも、やっぱり女の子一人で参加するのは不安。
私の美貌に気の迷いが無いとは言えないでしょ?ね?
苦笑いされた。
まあ冗談半分だけど、他に女の子が参加する時には誘ってください。
さて、帰ろう。
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4月某日 大学
「新しく将棋サークルをつくりましたのよー。興味がある方は是非参加して欲しいんですのよー」
玲奈と一緒にサークルの部員集めをした。
「奨励会員も居ますのよー。優しく指導してくださいますわよー」
立ち止まり、興味はありそうな人は居るんだけどな。
なかなか近づいては来ない。
ビシッ「そこの貴方!興味がおありで?」
「え?・・・えーっと、奨励会員ってなんですか?」
ああ、知らないよね。
一般人の知識はそんなものだ。
「プロの一歩手前の女の子ですのよ!ほれここにいるデカいのがそうですわ!」
「ちょ、ちょっと玲奈、恥ずかしい・・・」
「何を恥ずかしがる事がありますの?高みを目指して厳しい世界に足を入れる、誇り高い戦士ですわ」
「わ、私、ちょっと他も見たいんでっ!」
あらら、逃げられちゃった。
玲奈、ガツガツしすぎだよ?
「遊び感覚でわいわいしたいだけの子もいるんだから」
「ぬぬう、それではわたくしの野望が・・・」
玲奈は、大会に出て優勝かっさらうような強いサークルにしたいらしい。
そんな簡単には行かないと思うけど。
「あ、あの子こっち見てるね」
「どこ?どこですの?」
ほらあの木の影。
背の小さな子だな、恥かしそうにチラチラこっちを見ている。
あの子は多分自分からは声をかけてこないタイプだ。
「行ってきますわ!」ダッ
「ちょ、優しくね?」
玲奈が突撃していった。
・・・やっぱり心配だ。私も行こう。
「あ、あの~。奨励会員さんが居るってぇ」
「いますわよ!こののっぽがそうですわ!」
ほわわんとした子だ。
たれ目で背が小さくて可愛い。
「君島さんって、確か今1級のぉ?」
「うん、知ってるの?」「君島さんもなかなかやりますわね」
「わ、私、観る将なんで~」
来た。こういう子は狙い目だよ?
しかも私の事を知ってるって事は、相当見聞の深い子だ。
将棋に興味を持つうちに、色々調べたのだろう。
「す、凄いなぁ。こんなに綺麗な人だったなんて・・・」
ムっ「部長はわたくしですのよ?」
「玲奈、なんで張り合ってんの」
「きょ、興味が、無い事も、無いかな、って」
迷ってるね。
玲奈、後押ししてあげなよ。
「夏はわたくしの別荘で合宿ですのよ?南国リゾートでパラダイスですわ」
「わ、わぁ!は、入りたいかも」
「・・・どこにあるの?玲奈の別荘って」
「スイスとハワイとフィジーですわ?以前言いませんでしたっけ?」
ああ、去年の夏に聞いたかも。
「が、外国、ですかぁ」
「外国はハードルが高いみたいよ?私も旅費が厳しいかも」
「日本だと軽井沢と石垣島にありますわね」
へえ、軽井沢か。涼しそう。
石垣島は綺麗な海がありそうだけど、遠いから結構お金がかかりそうだな・・・
「い、いいですね!入りたいですぅ!」
「一人ゲットですわ!」
ばんざーい。
彼女の名前は片瀬 頼子ちゃん 1年
玲奈、あと何人くらい入れるつもりなの?
団体戦も出たいからあと3人?
じゃあ頑張って集めよー。
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数日後。
「オー、ジャパニーズチェス、難しいデース」
部員は揃った。
一人はカナダ人留学生だ。
名前はシャリ―・ウィンドウちゃん。
金髪碧眼のステレオタイプの外国人美女。
全くの未経験で将棋の事も知らなかったのに、何故か興味を持ってくれた。
「玲奈さん!これはどこに置くの?」
「近藤さん、ああ、それは・・・」
ただいま部室の掃除とセッティング中。
近藤と呼ばれたのも部員の一人。
近藤 那由ちゃん 1年
ボーイッシュな女の子でスポーツ万能のボクっ子だ。
どうして将棋サークルを選んだんだろ。
ガチャ「・・・買い出し行ってきたよ」
「ありがとう、重くなかった?遥ちゃん」
「・・・大丈夫。呼び捨てで良いよ。柄じゃないから」
「そう?じゃあ私の事も流歌って呼んで」
最後の部員、東郷 遥 1年
寡黙なクールビューティ。
彼女だけは経験者。
将棋道場にも行った事があり、アマチュア初段の免状を持っている。
「アマ初段ってどれくらいの強さですの?」
「・・・初段って言っても大したことないよ。あ、これ、いらない詰将棋の本なんだけど」ドサ
「ま、まあ、助かりますわ」
詰将棋の本が棚に並べられる。
いらない詰将棋の本なら家にもあるかも。今度持って来よう。
狭い部室だが、まだ物が無いから広く感じる。
細長いテーブルと椅子と棚は学校の備品。
後は安い将棋盤と駒が数セットあるだけだ。
「あとは何が必要でしょうか?」
「必要最低限は揃ったんじゃない?あとはその都度揃えて行けば・・・」
「はいはい!ボク冷蔵庫が欲しいです!」
「自販機なら近くにあるよ?」
「じゃあ電子レンジ!」
「それも食堂にありますわよ?」
家電を揃えて居心地よくしたら流石に狭くなると思うよ。
と言うか、高くて買えないし。
那由ちゃんは頭を掻きながら照れくさそうに諦めてくれた。
ガチャ「お、遅れましたぁ~。すみません、講義が長引いちゃってぇ」
「頼子ちゃん」
「これで全員揃いましたわね。では記念すべき第一回・・・・・・サークル名はどうしますの?」
「将棋部で良いんじゃない?他に無いんだし」
「Show give?変なEnglishデース」
「シャリ―、言いにくい?」
「ダイジョーブ」
「では記念すべき白湯女将棋部の第一回活動を始めますわ!」
わー パチパチ。
・・・で、何すんの?
私の五面指しだった。
私VS白湯女将棋部。
アマ初段の遥とは飛車角2枚落ち。
玲奈とは5枚落ちくらいで良いかな。
他はほぼ未経験なので、9枚落ちから始めようか。
「こ、こんなに差があって大丈夫なんですかぁ?」
「オー、ナメンナヨー」
「舐めてないよ。でも最初だから棋力わかんないし」
別に、全部勝とうとも思ってない。
将棋の上達は負けてあげることが重要だと聞いた事がある。
「よ、よーし!じゃあボクから・・・」
「あ、駒落ち戦の場合はこっちが先手になるんだよ」
「そ、そうなの?」
皆、知らない事だらけ。
最初なんだから当然だ。
少しずつ強くなってくれればいい。
あ、全部勝っちゃった。
ガタッ「ぐおお!お、おんのれぇぇぇ!!」
「れ、玲奈さん?お、落ち着いてくださぃ~」
「凌辱されたデース」
「シャリ―さん?意味が違いますよ!」
「・・・流歌、アタシは良いけど、負けてあげないと伸びないよ」
ご、ごめん。知ってたんだけど。
ははは、ついつい本気になっちゃった。
やる気無くさないでね。
懲りたのか部員同士で指し始めた。
そ、そうだね。同じレベルで対局した方がいいよ。うんうん。
私の相手は遥しかしてくれなくなった。
「・・・アタシには遠慮しなくていいよ。早く駒落ち減らしたい」
遥は向上心旺盛みたい。
でも私だってこのままではプロにはなれない。
今よりもっと強くなるからね。




