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駒唄  作者: 無二エル
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奨励会員に、私は成る!

 私は君島きみしま 流歌るか 16歳


 日本初の女性将棋棋士を目指す女の子。

 今日は奨励会試験を受けに来た。


 奨励会とはプロの将棋指しになる前の養成機関。

 16歳で奨励会入会を目指すのは、正直遅すぎるスタートだ。

 早い子は10歳くらいから入会し、ライバルたちとしのぎを削りあう。


「緊張してるのかい?流歌」

「師匠」


 私の隣に居るのは荒木あらき清彦きよひこ、ニッポン将棋連盟所属のれっきとしたプロ。

 56歳で段位は七段、尊敬はしているが、タイトル争いには無縁のままここまで来た人。

 ハッキリ言ってしまうと・・・強い人では無い。


「もっと、早く推薦する事が出来れば良かったんだけどね」

「すいません師匠、ウチの親が頭固くて」


 師匠は私が小さな頃からその才能を認めてくれていた。

 でも私の父親は、良く解らない将棋の世界に娘が足を踏み入れる事に難色を示した。

 

「いや、親御さんの気持ちも解らないでも無い。事実今まで女性が棋士になった例は無い訳だからね」


 本来棋士に男女の壁は無い。

 だが、実際女が目指すには厳しい世界だと言われている。

 競技人口の男女比は9対1。

 それでも自らの頭脳で勝負できる世界なのだから、女性棋士が出て来ても良いとは思うのだが。

 しかし現実は、惜しいところまで行った人は居るのだが、日本初の女性棋士誕生には至っていない。


「・・・女流だと、収入は厳しいですもんね」


 女流棋士と呼ばれる人達がいる。

 男だらけのむさ苦しい将棋界に、救済処置として作られたと言われる特別枠。

 その実力は・・・男性棋士と戦って勝率は2割にも満たない。

 アイドル的な要素が強い側面もある。

 見た目の良い女流は、タイトルホルダーの男性棋士よりツイッターのフォロワー数が多い。


「女流もピンキリだよ?容姿の良い子はイベントに呼ばれるし、TVの聞き手としても引っ張りだこだ。流歌ならすぐにでも・・・」


 以前から、師匠は私の容姿であればすぐに人気の女流棋士になれるであろうと保証してくれている。

 顔は、自分でも整っている方だと思う。

 若い頃モデルをしていたという母親の血を濃く受け継ぎ、スタイルも良い方だ。

 身長も高く、今年170cmに届いた。

 今もセーラー服の下からは、カモシカのように長く細い脚が覗いている。


 この身長が、16歳まで私が奨励会試験を受けられなかった理由でもある。

 女の身長が伸びる時期は平均16歳まで。

 将棋の修行では正座が基本で、血の巡りが悪くなり、身体の成長に影響があると父は考えた。

 モデルは正座禁止であると言う、母から習ったニワカ知識から来たものだが。

 せっかく綺麗に産まれたのに、その成長を妨げるのは勿体ない。

 将来を考えて可能性を多くしたかった。

 娘が将棋の世界に足を踏み入れる事に難色を示した理由の一つだった。


「いえ、師匠、やはり私は棋士を目指したいです」


 子供の頃からの夢。

 話し合いを重ね、やっと父親を説得する事が出来た。

 無駄にしてきた時間を少しでも取り戻したい。

 妥協せず、一心に目指す覚悟が私にはもう出来ている。


「・・・そうかい」


 師匠がため息をつく。

 私の才能を認めてくれてはいるが、自らも揉まれている厳しい世界に、女が足を踏み入れる事に複雑な気持ちもあるようだ。

 遅すぎるスタートにも懸念があるのだろう。

 師匠も内心は、棋士になるのは無理だと思っているように感じる時がある。

 おとなしく女流棋士になってくれればと、発言の節々から読み取れる。


「もし合格しても、四段になれるかは・・・」


 師匠の言葉が尻切れになる。

 これから試験を受ける弟子にかける言葉として、適当では無いと思ったのだろう。

 奨励会は6級から始まる。

 試験に合格しても、そこから狭き門を潜り抜け、四段まで駆け上がらなければならない。


 師匠の懸念は解る。

 まずは21歳までに初段、そして26歳までに四段にならなければ、奨励会を退会しなければならない。

 プロになれるのは毎年4人、乃至ないし5人。

 10年以上奨励会に居てもプロになれず、退会させられる者も少なくない。

 いや、奨励会に入れても、プロになれるのは1、2割と言って良いだろう。

 その厳しい条件の中で、私には時間が無さすぎるのだ。


 それでも私は・・・

 私は戦いたいのだ。

 絶対王者と言われる羽月はづき龍王と。

 私が棋士を目指すきっかけになった人。

 普段は穏やかな顔を見せ、勝負になると厳しい顔になるあの人と。

 憧れ、尊敬し、敬い続けて来た輝かしい存在。


「そろそろ時間みたいだ。解っていると思うが3勝すれば一次試験通過、3敗したら失格だからね」

「はい」


 一次試験は受験者同士で行われる。

 立ち上がり、一度深呼吸をする。

 流歌は試験が行われる部屋へと向かった。



-----------------



(う、うわ~~。解っていたけど小さい子ばかりだ)


 受験者は40人くらい居た。

 小学生だらけのなかに、やたらデカい高校生が一人。

 しかも女。

 中学生も何人かいるみたいだけど、全員男の子だ。


「おねーさんも試験受けるの?」

「え?」


 一際小さな子に話しかけられた

 この子は9歳くらいじゃないだろうか?


 若さが羨ましい。

 16歳の女の子の言うセリフでは無いが、そう思わずにいられない。

 一番伸びる時期を、私は逃してしまっているのではないか。

 もっと早く親を説得出来れば・・・


「対戦する事になったらよろしくね」

「うん、負けないよ~」


 愛嬌のある可愛らしい子だな。

 将棋を指す子は正直暗そうな子が多い。

 眼鏡率も高い。


 さて、席に付こう。

 奨励会試験は最初に筆記がある。

 ここで成績優秀者には1勝分が加算される。

 詰将棋や次の一手、難しいが解らない程では無かった。

 結果は午後に発表。

 次はいよいよ対戦か。


 最初の対戦は、やはり暗そうで眼鏡の子だった。

 12歳の子か。

 ん?チラチラとこっちを見て、ドギマギしてる。

 お姉さんの美貌に見惚れちゃった?


「・・・お姉さん、16歳なのに試験・・・受けるの?」

ムッ「いいでしょ?19歳までは受けられるんだから」

「で、でも、16歳だと、4級試験だよ?」

「知ってるよ」


 奨励会は6級から始まるとさっき説明したが、実は入る年齢によってハードルが上がる。

 簡単に言うと、私は奨励会4級程度の実力が無いと、入会出来ない事になる。


「えへへ、研修会試験と間違えてるのかと思った」


 カチーン。

 あったま来る子だな。

 因みに研修会とは奨励会の下部組織。

 奨励会に入る前のホントに小っちゃい子や、女流を目指す女の子、また、単純に将棋の勉強をしたいだけの子等、様々な思惑の人達が所属する組織。

 プロを目指す事だけが目的の奨励会とは、別物だと思って良い。


「生意気ね、吼えづらかかせてあげるわ?」

「う、うわー・・・雑魚っぽいセリフ」


 ぐう、た、確かに。

 言ってからすぐ後悔しちゃった。

 はあ、対戦前からペース乱されて何やってんだろ。

 大きく息を吐き、頬を2回ほど軽く叩く。

 よし、気合入れ直して頑張らないと。


 振り駒で私が先手になった。

 静かに始まりを待つ。

 周りの静寂の中で、心臓の音がトクトクと自分の中だけに響き渡る。

 ・・・まだ緊張してるのかな。


「それでは、始めてください」


 試験官の号令と共に、周りから駒音が聞こえ始める。

 目の前の子は「指さないの?」と、こちらを気にしている。

 もうちょっと気を落ち着かせるまで待って。

 ふう・・・・・・・・・・・・

 ・・・まずは26歩、飛車先を突く。

 相手が指す、更に25歩、次に銀を上げる。


「え?ま、まさか」

「そこ、静かにしなさい」


 相手の子が驚いている。

 それもそのはず、私の戦法は棒銀だ。

 初心者に人気の戦法だが、プロでこの戦法を使う者は少ない。


 相手の子が悔しそうな顔に変わる。

 棒銀なんて、舐めてんの?って顔だ。

 舐めている訳じゃ無いよ。

 むしろ棒銀を舐めている貴方の方が失礼だよ。

 棒銀でも指し方次第でいくらでも戦えることを、私が教えてあげる。

勢いで書いてはみたけど、作者の棋力はハムレベル。

対局シーンはお茶を濁します。

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