一話
「それで、本当にお前が椿なのか?同じ名前とかじゃなくて俺の妹の。」
「うん、そうだよ。要お兄ちゃん。」
中身が俺の妹の、厳つい男がそう言った。
「にしてもお前、見た目と話し方との違和感やばいな。」
「…普段は変えてるもん。」
「そうなのか?」
「それに、こうやって話すの、お兄ちゃんの前でだけだし。」
妹が、何故か照れくさそうにそう言った。
「でも、お兄ちゃんも違和感凄いよ!はい、これ鏡。」
そう言うと、妹は俺に手鏡を向けてきた。一瞬、光の反射で目が眩む。その後、ゴシゴシと目を擦るとそこには美少女の姿があった。
「へぇー、こっちの世界のテレビ電話ってこんな感じなんだな。さすが異世界。」
「いや、お兄ちゃん、現実見て。」
そう言うと妹は、突然に俺の頬をつねってきた。
「いてて…何するんだよ。」
「ほら、もう一回鏡見る!」
妹は頬をつねったままの状態で、俺の顔を鏡のある方へと向けた。
「これが、本当に俺なのか…?」
鏡の中には、ミディアム位の長さでふわふわした桃色の髪に凛とした隻眼の、柔らかい雰囲気だった妹とは別系統の美少女が映っていた。頭には猫耳が生えている。さらには、装飾は少ない物の、高い値段がつきそうなドレスまで身にまとっている。
「えっ、これ、俺?俺なのか!?」
「うん、そうだよ。」
まさか自分の見た目に惚れ惚れする日が来ようとは思いもしたかった。ナルシズムに陥る人の気持ちが、今ならば少し理解出来る気がする。その位、異世界モードの俺は美少女であった。
「ところで、何で椿は俺の事が分かったんだ?」
「んー、なんかよく見た目とか覚えてないんだけど、結構イケメンでキザったらしい人に、あなたのお姫様、お兄様はあちらですって言われて案内してもらったんだ。」
絶対に俺の知っている人だった。しかし、俺もそいつの具体的な容姿を覚えていない。
それにしても、俺がこっちの世界に来る前も俺の事をお姫様と呼んでいた気がするが、一体どういう意味なのだろうか。
「そう言えばお前、こっちの世界でもちゃんと友達とか居るのか?」
「もちろん、今ギルドに入っててね。あ、連れてってあげるよ。ほら、こっちこっち。」
そう言うと、妹は俺の手を引いて路地を出た。そうした途端、一気に人が多くなる。
「何か、色々な人に見られてる気がするんだけど気の所為か?」
俺は、周りの人に聞こえない程度の小声でそう言った。
「この辺りでドレス着てる人は珍しいからじゃないか?儂も初めて見たしな。」
「く、口調…。」
「何か変か?」
妹は、訝しげな顔をしてそう言うと、こちらの耳に顔を近づけてきた。
「お兄ちゃんも、ちゃんと気をつけてよね。周りの人に怪しまれるから。ただでさえ最近魔獣が増えてるのに…。」
妹は、俺に聴こえるのがやっとの声でそう言った。
ふいに、妹が足をとめる。
「着いたぞ。…儂が入ってるギルドハウスはここだ。儂は、寝食全て、ここで何とかして貰っておる。さあ、姫様も入った、入った。」
そう言うと、妹はその建物の扉をゆっくりと開けた。
次話は新キャラが結構出ます。要ちゃんの口調もお楽しみに!