プロローグ
俺、佐条要には、一人の妹が居る。名前は椿。そいつは、とても可愛い妹だ。容姿端麗、文武両道、その上性格も良いという、完璧なステータスを持っていた。『いた』という、過去形を使ったのには意味がある。
俺の妹は三年前に、この世界から唐突に姿を消した。
神隠しにでもあったように、妹は、あの日以来一度も姿を現していない。彼女のスマホに連絡をしても、一向に既読すらつかない。電話をしても、ただただ虚無の世界が虚しく流れるだけである。
そして、これはただ行方をくらましただけでは無い。たった俺だけしか、妹の事を覚えていないのだ。妹の親友だった人ですら、彼女の事を微塵も覚えておらず、平凡な日常を送っている。
妹のこれは、ただの失踪では無いのである。まるで、別の世界にでも飛ばされてしまったみたいに、妙な消え方なのである。
その日の夜中、俺は、うるさいベルの音に、いやおうなしに起こされてしまった。
「誰だよ…。」
俺は、寝ぼけ眼で自分の部屋を出て、階段を下りた。玄関に出て、ドアを開ける。
そこには、見ず知らずの、同い年位の男が立っていた。
「やあ、要くんだよね。」
そいつは、歯に衣を着せたような笑顔でそう言った。アイドルのように、キラキラとした容姿である。それは、俺にとって余り得意では無いタイプの人間だ。
「だ、誰だよ。マジで。」
「俺かい?…別の世界、もとい君の妹が今居る世界の住人さ。」
「…貴様が妹を拐ったのかよ!俺の妹は何処だ!!」
「まあまあ、そんなに怒らないでくれ。それに、今の状態では、こちらの世界に君の妹を戻す事は出来ない。」
そいつは、俺を窘めるようにそう言った。やっぱりいけ好かない奴である。
「戻せないって…どういう事だよ。」
「そのままの意味だよ。でも、君ならそれを救える。どうだい?愛しの妹さんを救ってみる気は無いかな?」
こいつの言っている事は信用ならない。俺は絶対に冷静を保つ。保たなければならない。こう言った奴の掌の上で、ペースに乗ってしまうのは、俺が知っている中で、最も危険な事である。だから、絶対に平静を保つ。
「無言?…もしかして、怖いのかな?」
そいつは、俺の気持ちを逆撫でしてきた。あからさまに挑発してくる。
しかし俺は、その挑発に乗ってしまった。
「ああ、やってやるぜ。俺は怖気づかない。俺は、絶対に妹を救う。」
そう言ってしまってから、そう言った事をを後悔するまで、長い時間はかからなかった。本当にすぐであった。
目の前のそいつが不意に俺の手をとり、無駄に小綺麗な顔を、俺の方に近づけた。
「待っていたよ、お姫様。」
そう言うと、そいつは俺の手の甲に口付けをした。そこで目眩がし、俺の意識は消えた。ただ、気持ち悪いという感情のみが、嫌な後味を残していった。
俺の意識が戻り、目を開けると、そこでは厳つい見た目をした男が俺の事を覗き込んでいた。
「お兄ちゃん、随分と可愛い見た目になったんだね。」
「だ、誰だよ!?」
「ん?…あ、ほら!」
「椿だよ、お兄ちゃん!」
…は?俺は自問自答した。確かに口調は似ている。しかし、俺の妹がこんなに厳つい筈がない。ましては男では無い。
「ど、どういう事だよ…。」
俺は、オーバーヒートしてしまった。俺の妹(仮?)が心配そうにこちらを見ている。
そんな感じで、俺の異世界生活は幕を開けた。
プロローグです!要くんは要ちゃんです。この作品の美少女担当、でも中身は男ですね。
椿ちゃんは美少女ですが椿くん?椿さんはムキムキです。
イケメンさんの名前はその内出ます。