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98 森の夜3 森の中の女子会

 ――なんだろう、この胸騒ぎは。

 お父さん(クロノ)がそこにいない、それだけでなぜ私はこんなにも心細くなるのだろう。


 今までずっと守ってもらっていた。それが当然だった。

 あの死地で拾ってもらい、ここまで育ててもらった。今思い返しても、本当に何から何までお父さん(クロノ)に頼っていたのだ。


 でも……今や私は「守る側」に回った。


 『(芹澤くん)』を育てなければいけない。少なくとも、自分の力で立てるまでは。彼を取り巻くあらゆる害意から守ってあげる必要がある。

 だから、私は強くならなきゃいけない。


 ――そう思っていたのに。


 私はやっぱり、守られる側だった。弱いままだった。

 あの高校襲撃事件でも、ただ保健室でうずくまっていただけ。気がついたら、私が守っているつもりだった少年に守られていたのだ。


 あの事件は、あれで終わりではない。

 始まりの合図だ。これから、私たちは急速に時代の波に巻き込まれて行く。


 芹澤くんという『根源系』異能者の存在。

 そして、あの「玄野ユキ」と融合してしまった篠崎さん。さらには霧島カナメさんにも『根源系』である可能性が出てきた。今、帝変高校には時代の趨勢に関わるだけの理由が存在するようになった。


 そうして同じタイミングで大きな脅威が顕在化した。

 長い間行方不明になっていた「八葉リュウイチ」。

 あの悪夢の『異能大戦』が生み出した怪物、呪われた時代の寵児。

 彼が、水面下で大きく動いている。


 そんな時に、同時に南極でも事態が動いているのだ。


 ……手が震える。

 これは、なんだ?

 寒気?


 いや、違う。私は、怖いんだ。

 肩が震え、全身が粟立っている。

 立っていられないほどの恐怖の感情が私を支配している。


 ダメだ。

 こんなことでは……とても……

 私は……私はもっと……もっと、気を強く持たなければ……いけないのに。


「……どうしました? メリア先生」

「……あ、霧島少佐……」


 ふと気がつくと……目の前にマグカップを二つ手にした女性が立っていた。

 私は彼女の存在に、今の今まで全く気がつかなかったらしい。


「ひどい顔色ですよ。コーヒーでも飲みませんか?」

「……ありがとうございます」


 私たちは近くの焚き火のある場所まで移動し、あたたかいコーヒーの入ったマグカップを手に二人並んで座った。私たち二人はコーヒーを口にしながら、少しづつ話し始めた。


「彼ら、優秀ですよ。かなり高度な訓練にちゃんとついて来ています」

「そうですか……」


 生徒たちを『異能警察予備隊』として訓練するというのは私の発案だ。軍に教官の派遣を依頼したのも。まさかあの(・・)霧島少佐が来てくれるとは思っていなかったのだけれど……。


「ふふ、本来一ヶ月の訓練メニューを一週間で(・・・・)実施すると聞いた時にはどうなることかと思いましたが……案外なんとかなるものですね」

「無理を言ってすみません……でも、彼らには時間がありませんから」

「例の「八葉リュウイチ」ですか」

「……ええ」


 彼はおそらく自分を複製している。「桐生」のような存在が複数いる筈だ。そして、それを使って水面下で勢力を増強しているはず。


 ……だとすれば、私はどう動くべきだ?


 奴らは次はどこを狙ってくるのだろう?

 どう動けば、みんなを守ることができる?


 ……情報が足りなさすぎる。


 駄目だ……すぐにでも状況を把握しなければならない。

 奴らの動きを捕捉するには、どうすれば……?

 今、何が必要だ? 他に足りないものはなんだ?


 頭が、うまく回らない。

 それでも私が必死に考えを巡らそうとしていた時、

 不意にポン、と頬をつつかれた。


「………………え?」


 見れば、霧島少佐が私の頬に人差し指を当てて微笑んでいた。


「ふふふ、可愛いほっぺたしてたものだから、つい……」

「……き、霧島少佐?」


 気がつけば、かなり顔が近い。

 さらにぐいっと顔を近づけてくる霧島少佐に、私は思わず少しのけぞった。


「メリア先生……あんまり一人で背負い込まない方がいいですよ? 人一人にできることなんて、限られてますから」

「…………そうですね」


 そう、私にできることなど限られている。私は所詮、裏方だ。

 自ら手を汚すことなく、皆に守られているだけの卑怯なポジション。

 でも、だからこそ私は……


「でも、私がやらなければならないことも、あると思うんです。私がやらなければ……」

「……ふふ、無理はするな、と言っても無理そうですね?」


 困ったような顔で微笑む霧島少佐。


「でも、協力はできますからね? 困ってることがあったら、ちゃんと言ってください」

「……はい……ありがとうございます」


 俯きながらお礼を言う私。


「それはそれとして……こういうのもあるんですよ」


 どこからか、茶色い瓶を持ち出した霧島少佐。見覚えのある形の瓶だ。


「それは……?」

「ふふふ、なんだと思います? ……あ、もうマグカップ空いてますね? では、失礼して……」


 そして霧島少佐はその茶色いボトルのキャップを慣れた手つきで開け、そのまま流れるような動作で透明な液体を私の持つマグカップに注ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと霧島少佐……!?」


 あっという間に、私のマグカップになみなみと液体を満たす霧島少佐。これはやはり……もしかしなくても。


「……これ、お酒ですよね?」

「ふふふ、生徒たちには内緒ですよ?」


 ダメだ……私はそんなことをしている場合ではないのに……!


「ダメですよ、明日もまだ訓練があるのに……!」

「まあまあ、一杯だけですから……ほんの一杯だけ付き合ってくれたらいいですから」

「でも…………」

「訓練指導で疲れた私を労うと思って、ね? お願いします」


 そう言いながら、今度は自分のマグカップにもなみなみとお酒を注ぐ霧島少佐。

 ……困った。どうしよう。捨てるわけにもいかないし……。

 それに一杯だけとは言ってもこのカップ、結構容量があるんですけど……?


「……本当に、一杯だけですからね?」


 本当に私は、押しに弱い。

 途端に、笑顔になる霧島少佐。


 ……仕方ない。

 本当に……こんなことしている場合ではないのだけれど。

 ……この一杯だけは付き合おう。


「じゃあ、訓練初日の成功を祝ってっ! 乾ぱ〜いっ!」

「……か、乾杯……!」


 カツン、と軽い音がして金属製のカップがぶつかり、中身がこぼれそうになって慌てて口に運ぶ。


「……あ、これ美味しいかも……?」

「でしょ〜? これ、最近見つけたんですけど……」


 そうして他愛ない話が始まり……ここ数日、一向に寝付けなかった私は、カップの中のお酒がなくなる頃にはとても深い眠りに落ちていってしまったのだった。

平時パートもそろそろ終わり……いろいろ動きます。

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