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97 森の夜2 才能の差

「ワォーン!」

「そうか、お主にはタロウという名があるのか。良いナマエじゃな!」


 タロウとシロは互いに向き合い、どうやら会話をしているようだった。


「ワフン、ワウ、ワウ」

「ほう、マイとやらに名をもらったのじゃな? いつ知り合ったのじゃ?」

「……クゥーン……」

「……そうか、それは大変じゃったな……お主にも色々あるんじゃの」


 さっきまで仲良く話していたと思えば、今度はシロが涙目になりながらタロウの背中をさすっている。タロウも耳と尻尾をしょぼ〜んとさせてどこか悲しんでいるように見える。

 その姿は飲み屋で互いを慰め合うサラリーマン……のようにも見えなくもない。


「あいつら、いつの間に仲良くなったんだ? 今日会ったばっかりだろ?」

「うん。シロちゃんは篠崎さんと同じ異能があるみたいなの」

「そうか。それでか……【意思を疎通する者(コミュニケーター)】って人間と犬でも話が出来るもんなんだな」

「ううん、彼女は元々狐なんだって」

「……狐?」


 赤井と神楽は彼らのそんな様子を眺めながら、宿営テント脇の焚き火の前に二人で向かい合うようにして座っていた。ちなみに、みんなシロを女の子だと勘違いしているが、シロの性別はオスである。普段少女の格好をしているのでそれも仕方のないことなのだが。

 二人が興味深そうにシロとタロウの掛け合いをじ〜っと眺めていると、ふと、その一匹と一人……正確に言えばニ匹は赤井たちの方を振り向き、タタタタッと走り寄ってきた。


「なんだか、こっちからいい匂いがするのじゃ」

「……これか?」


 赤井はさっきから焚き火で肉を焼いている。今日の夕飯はみんなで作ったカレーだったが、燃費の悪い赤井はそれでは足りず、氷川との訓練に巻き込まれた哀れな野ウサギを持ち帰って捌き、おやつ代わりに食べていた。ワイルドな夜食である。


「食うか? まだあるし」

「ほ、ほんとうか!? ありがとうなのじゃ!」


 目を輝かせるシロに赤井が肉の刺さった串を差し出すと、奪うようにがっつき始める。タロウもついでにおこぼれに預かり、満足そうに尻尾を振っている。

 一通り食べ終わると、シロは手のひらをペロペロとやりながら、赤井に向かって話しかけた。


「お主……なかなか良いやつじゃな。ナマエはあるのか? なければ儂がつけてやってもよいぞ?」

「俺か? 赤井だ。赤井ツバサ」


 シロはぴょこん、二本の耳を尖らせると、赤井の口から出た言葉を口の中で転がし始めた。


「……アカイ? ツバサ……アカイ……ツバサ……アカイ……」


 しばらく呪文のように赤井の名前を唱えた後、シロはピコン、と耳を立てて言った。


「ダメじゃ、長すぎる。お前はツバじゃ!」

「……ツバ?」


 口から吐き捨てられそうな名前に赤井が変な顔をするのをよそに、シロの興味は隣りにいる神楽に移った。


「そして……お主がマイじゃな? タロウから聞いておるぞ」

「ワォーン!」


 シロとタロウの両方の視線を受けて、神楽は微笑んだ。


「そうだよ。あなた、シロちゃんだよね? よろしくね」

「違う、シロチャンではない。シロじゃ!」


 必死に自分の呼び名を訂正するシロに一瞬きょとんとする神楽ではあったが、すぐにまた笑顔になり、


「わかった! よろしくね、シロ」

「うむ」


 二人は軽く握手を交わした。

 そうして、繋いだ手をぶんぶん振り回しながら他愛のない会話を始めるシロと神楽。

 その様子を横目に赤井は一人、森の中へと歩いていった。



 ◇◇◇



「ホント、話にならねェな……」


 今日の訓練は惨敗だった。

 氷川タケルには全く歯が立たないどころか、途中から失望され、完全に手を抜かれる始末だ。それも仕方のないことかもしれない。地力の差がありすぎて勝負になどならなかったのだ。


 差の一番の原因は分かっている。

 氷川と自分とではまず、身のこなしそのものが違うのだ。芹澤や氷川のような異能を使った「移動手段」が赤井にはまるっきりない。だから数手でジリ貧になり、多少奇襲に成功したとしてもすぐに押し負ける。


 いや、移動手段がないと言えば嘘になる。

 緊急回避手段としては、高速移動の(すべ)は持っている。体から『直接炎を噴射する』という方法。だがそれは普段の移動手段としては全く使えない。それをやると、自分の皮膚があっという間に焼けて炭になってしまうのだ。


 今日は実は一度、それを試してみた。

 結果は……即自滅。

 一瞬の高速機動はできたもののあっという間にひどい火傷になり、その後ずっとその痛みに耐えながら戦うハメになった。

 その火傷跡を見せた神楽からはこっぴどく文句を言われるし……


 自分は自分の生み出した炎に焼かれて瀕死になるのだ。

 ……馬鹿みたいな話だ。

 あいつらみたいにはいかない。


 芹澤はどういうわけか熱そのものを感じないどころか、熱自体をないもの(・・・・)として扱える。だからこそ、体のすぐ側を急激に熱して、あんな無茶な加速ができるのだ。

 一方、氷川は器用に氷の隔壁を作ってそれに氷の粒を当てることで急激な推進力を作っている。そちらは高度な技術があって初めて成立しているものだ。

 それに二人とも努力だけでは身につかない、天性のセンスを持っている。

 技量と才能。ああいう動きは両方あって初めて出来ることなのだ。


 それに比べ、自分はというと……。

 火球をどこかにぶつけてその「爆風で飛ぶ」。それがせいぜいだ。それも無傷では済まず、ある程度の負傷覚悟でやらなければならない。


「つくづく、自分が嫌になる……」


 軍への即戦力だの、私立への優遇だの、散々持て囃されたと思えば連戦連敗。

 いざ本番になってみれば、一人でなんとか出来た試しなどない。頭一つ飛び抜けた奴らの中に入れば、自分は雑魚でしかない。


 それはもう嫌という程わかった。

 それでも……

 俺はいざという時には肉の盾ぐらいにはならなきゃいけない。神楽を生き残らせなければいけない。肉親にさえ見捨てられた俺を、ここまで育ててくれた親父さんに報いるために。


「……何か、方法考えねェとな……」


 とはいえ、何も思い浮かばない。

 それを誤魔化すようにして赤井はいつものように筋力トレーニングを始める。


 腹筋、腕立て、スクワット。毎日の走り込みに時間を見つけては縄跳び。地味に持久力だけはついた。


「……最近、これしかやってねェな……」


 このままでいいわけがない。

 でも、どうすればいいのか、わからない。

 それでも何もしないわけにもいかず、赤井はただひたすらに、暗い森の中で身体を動かし続けた。

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