94 異能警察予備隊 訓練5
「……フヒッ…………どれぐらいのがいいんだ? ……黄泉比良さん……」
「…………どうせなら、なるべく大きいのがいい…………」
黄泉比良ミリアと暗崎ユウキは同じ訓練編成、第二チームに割り当てられ、サツキ教官から指示された通りの共同作業をやっていた。すなわち、『巨大な人形作り』。
寡黙な二人の話し声は常人にとっては聞き取りづらいのだが、彼らはどうにかきちんとコミュニケーション出来ているようだった。
「フヒッ……わかった……『影法師』」
暗崎ユウキは彼の異能【暗闇を操る者】で一体の人影を作り出した。
それは対校戦争時に見せたものの数倍、50メートル級の巨大な影。周囲の木々の頭を軽く超える大きさの影の人形である。
異様な物体の出現に驚き、辺りの鳥達が一斉に飛び立った。
「フヒッ……こんなでかいの……大丈夫かい? 俺が操れるのは、この半分が限度だぜ……?」
「…………余裕。『人形操作』……」
黄泉比良ミリアはそう言うと、彼女の異能【人形を操る者】で暗崎の巨大な影人形の操作を引き継ぐ。
すると、途端にその影人形は巨体に似合わない俊敏な動作を始めた。
ブンッ。
ヒュンひゅんひゅん。
ブオオン。
全長50メートルの黒い巨人が次々に繰り出すフックパンチ、フリッカージャブ、そしてアッパーカットは強烈だった。一振り一振りが豪快に空気を巻き込み、余波で辺りの木々の枝ごと葉を舞い散らせる。
「……フヒッ……化け物じみてるねえええ……!」
暗崎は自らが作り出した影の巨人を見上げて感嘆の声を上げる。
巻き起こる爆風に長い前髪を揺らしながら、どこか嬉しそうでもある。
巨人が動くたびにあたりの木々がしなり、また鳥たちが怯えて逃げ出す。
そんなことは気にもとめず、黄泉比良は巨人を操って豪快にアクロバットを決めさせている。どうやら彼女もこの巨大な玩具を存分に楽しんでいるらしい。
だが…………。
ガシン!!!
突然、黒い巨人の足元から鋭い漆黒の棘が屹立し、黄泉比良の操作する影の巨人の動きを止めた。
「……何……暗崎くん……?」
「フヒッ…………ダメだぜえええ……黄泉比良さん……」
暗崎は右手の人差し指を立て、左右に振ると呟くように言った。
「……周りの生き物が…………怖がってるぜえ……?」
黄泉比良は軽く拳を作ると、自分の頭にコツンとあて、
「…………いっけね…………」
反省の意を示した。
「…………フヒッ…………だろ? だから、程々にやろうぜ……?」
そう言うと暗崎はもう一体の30メートル級の黒い巨人を作り出し、黄泉比良の操る一回り大きな巨人に向かい合わせた。
「…………わかった…………」
ズズン……ドン……
そうして2体の巨人達は一昔前の特撮映画のようなスローなペースで殴り合いを始める。
相変わらず鳥達は恐怖に慄き、混乱の中で飛び去っていくのだが……どうやらこの二人の中でだけはコミュニケーションが成り立っているようだった。
◇◇◇
「何なの……アレ…………怪獣大決戦?」
第三チームの風戸リエは森の木々から頭を出した巨大な化物を見上げ、呆然としていた。
「あちゃ〜、私のポジション取られちゃったね〜」
風戸リエの感想に、間の抜けた声で答える土取マユミ。
二人は森の中で見つけた倒木をベンチがわりに仲良く並んで座り、突然出現した黒い巨人達の格闘を眺めている。考えようによっては恐ろしい光景だが、特撮番組のような感じの見応えがあり、見世物としてはいい感じだ。
彼女達は今、訓練の真っ最中である。
訓練中にもかかわらず、ボケーっと巨人の殴り合いを見ている。
それはなぜか?
理由は一つ。
ヒマだからである。
「それにしても……俺たちは一体何すればいいんだ? 指定された訓練場所に着いたはいいが、もう一時間も何もしないままだぜ? ここでダラダラ喋ってろってか? のんびりピクニックを楽しみましょうってか???」
音威は一人で何もすることがなく、だいぶイラついているようだった。
「そうだねぇ〜。教官の指示も『もし誰かに攻撃されたら全員で対処すればいいから。あとは好きにしてていい』なんて抽象的だったし……ヒマだね〜。ゲームでもしよっか〜?」
「お、いいね〜、ツッチー! ……んん?」
風戸リエは不意に周囲の空気の流れに違和感を感じて、辺りを見回した。
――その直後。
ヒュン、バスン。
二人が腰かけていた倒木に小さな穴が空いた。
「な、なに、今の!?」
「攻撃か!?」
「ああ〜……そういうことかあ〜」
ぽん、と手を叩き、何か納得したように頷く土取マユミ。
「おい、なに一人で納得してやがる。説明しろ、土女」
音威はいつも通りの高圧な口調で話しかける。こんな性格も災いして、音威は相手にしてもらえる人間が極端に少ない。彼と普段会話するのは鷹聖の時からの付き合いのある平賀と、どこまでもマイペースな植木ぐらいなものである。
「多分、私たちを攻撃するのは弓野さん達さ〜。今のは開始の挨拶ってところかな〜? これからライフルとか飛び道具がじゃんじゃん来るよ〜? 準備しとこう。『粘土籠手』っ!」
土取マユミは異能【粘土を操作する者】で早速地面から防御用の籠手を作り出す。
「おいおい……訓練の『攻撃から身を守れ』って、スナイパーライフルからかよ!! なんて訓練考えやがる……あの女……!!!」
ヒュン、バスン。
ヒュン、バスン。
ライフルの弾は次々に、着実に、3人の周囲に穴を増やしていく。
「ねえ、ライフルの弾が飛んでくるのはわかったけど……さっきから、発射音しなくない?」
さっきから青ざめた顔をしながら彼女の異能【風を操る者】で風を巻き起こし、弾道を逸らしている風戸リエは疑問に思っていることを口にした。
「そりゃあ、向こうのチームには音無さんがいるから、音なんかしないさ〜」
「あはは……それ、ヤバくない? 弾が来てから避けろっていうこと? それか、延々とひたすら防護壁作ってろってこと?」
「どうやら、その両方が必要になりそうだね〜」
霧島サツキ教官の訓練前の説明によると、第一チームから第4チームまで、各チームごとに独自の減点・加点項目が設定されており、最下位のチームには『素敵な罰ゲーム』が待っているという。
「……うちのチームは攻撃に掠りでもしたら、『減点』だっけ……?」
こんな訓練を考案する教官の言う、『素敵な罰ゲーム』というのはどんなものだろう。
……考えるだけで身震いする。
私は絶対にごめんだ。風戸リエはそう心に誓った。
「ハッ! 鉛玉程度、打ち落とせばいいッ!! 『騒音』ッ!!!」
ボウウウウン!!
【音を発する者】の音威は驚くべき反応速度で、迫り来る弾丸に音の衝撃波を放った。音威の能力を持ってすれば、ライフルの弾丸程度撃ち落とすことは容易い。だが……
ボガアアアアアン!!!
「あぐぁッ!!?」
音威は突然爆発した弾丸の爆風で吹っ飛ばされた。
「ちなみに、向こうには【万物を破裂させる者】、火打さんもいるからね〜? 弾は時々爆発するよ〜?」
「……き、気付いてるんなら、早く言え……土女ッ……!」
音威は早くも起き上がって次の攻撃に備えているが、彼の髪は爆発して酷いことになっている。
「ちなみに……この訓練っていつまでだっけ? 時間制限とか…………休憩時間とか…………あったっけ……?」
「確か訓練は『日没まで』。教官はそうとしか言ってないさ〜」
ヒュン、バスン。
ヒュン、ヒュン、ヒュン。……ボガアアアアアン!!!
迫り来る無数の弾丸。攻撃が止んだかと思うと、不意に一斉に攻撃が再開される。
攻撃が来るかと構えていると、ずっと何も起きない。もう来ないかと気を抜いた瞬間に、辺り一帯で爆発が起きる。
――どこにも休む間も、気を抜く間もない。
「……あはははは……冗談でしょ……? ……こ、これを日没まで? ……私、死ぬかも」
「あの女……鬼だ……絶対イカれてやがる……!!!」
彼らはそれぞれ自分の背中に極小の無線マイクが設置されていたことなど知る由もなく、ひたすら教官を呪いながら訓練に当たるのだった。
「第三チームの音威くん、減点3……っと」
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書籍化作業が佳境につき、しばらく更新ペースが落ちます。
とはいえ書き溜め分がありますので、次も割とすぐの更新となるかと思います。
書籍化の改稿作業ですが、編集者さんとやり取りして推敲を重ね、冗長に思えた部分を文章をゴリゴリ削り、表現を見直し、足りないボリュームは補い……かなり贅肉をそぎ落とした計量直前のボクサーみたいな文章になりつつあります。
元々、一日3000字から5000字書いて投稿し続ける(時には一日5投稿なんてのもありましたが)、と言うアホみたいなペースで書いていたので、また見直して書き直したかった部分もかなりあり……!
やっと満足のいく文章に近づきつつあります(あくまで主観)。
イラスト・キャラデザを担当してくださる荻poteさんのカバー絵も素晴らしく、早く広報したいのですが、ひとまず11月に入ってからのぼちぼちのお知らせとなるかと思います……!
ひとまず、ここまでお読みいただきありがとうございます。
引き続き、お付き合いいただければと思います!





