88 異能警察予備隊 訓練1
前回更新からだいぶ間が空いてしまいました。
完全に浦島太郎状態……!
ある程度書き溜めができたので(プロットは30話分ほど)更新再開していきます。
書籍化作業も同時進行中です。近々色々お知らせできればと思います……!
「では、ひとまず自己紹介からお願いしますね、霧島少佐」
『異能警察予備隊』訓練生となった俺たちは、戦時中に出来たクレーターの近くの森林地帯にいた。そこは人の棲まない山の上。国有の軍用訓練地ということで、一般人の立ち入りも厳しく制限されている。
訓練場所としては最適だということで、メリア先生が手配したらしい。
今、この訓練地にいるのは赤井、氷川君、暗崎君、あと鷹聖からやってきた平賀と音威。
それと女子が弓野さん、黄泉比良さん、土取さんと、神楽さん。そしていつも際どいミニスカートの風戸さんとメガネの火打さんだ。
霧島さんは、何か実家で立て込んでいるらしく、ここには居ない。
まばらではあるが並んで立っている俺たちの前にメリア先生が立ち、その脇に黒くてぴっちりした軍用の戦闘服に身を包んだ黒髪の女性が立っている。
その女性が今回の『強化合宿』の指導教官ということらしい。
「はい、じゃあ自己紹介するわね! 私は霧島サツキ、22歳! 軍で少佐やってまーす! この数日間、君達に訓練つけることになってるわ。よろしくね!」
その絶世の美女とも言える黒髪の女性が発したのは、あまりにも軽い挨拶だった。にこやかで、笑顔が眩しい。軍人の教官って聞いてビビってたけど、何だ……優しそうな人じゃないか?
「訓練に移る前に、簡単に『異能警察』の仕事について説明するわね。わからないことは何でも気軽に聞いてね〜? あ、あと座って聞いてていいからね?」
それを聞いて俺は危うく「じゃあバストサイズ教えてください」とか聞きかけたが、それは流石に踏みとどまった。
メリア先生から事前に聞いていたところによると、彼女は【万物を切断する者】S-LEVEL 4の異能者。国に十人ぐらいしかいない逸材、存在するだけで核爆弾数発分の脅威とみなされる人物である。
俺のすぐ脇に、ちょこんと体育すわりしてる氷川君がいるし、いまいち稀少性がわからなくなってきてるけど。
まあ、彼女は霧島さんのお姉さんだからってのもある。どちらにしても迂闊なことはできない。
「まず、異能警察の仕事は大きく分けて2つあるわ。一つは犯罪に手を染める異能者達、『第三派閥』の排除。これはニュースにもなったりしてるから、みんなもう知ってるわよね?」
俺たちはその場に座り込みながら、ウンウンとうなづきながらサツキ先生の話を聞く。
「もう一つ、知られていないけど異能警察の仕事には『異形』と呼ばれる怪物達の排除というのがあるの。これは絶対に公にされることはなくて、一般人がメディアを通して情報を得ることはないわ。今は、こっちについて説明するわね」
「『異形』?」
「そう。聞き慣れない単語だと思うけど、君たちはもう目撃してるはずよ。君たちを襲った襲撃者として」
例の帝変高校の襲撃事件。そこで目にした、襲撃者達の成れの果て。
人の形はしていたけれど、あれはもう、人間じゃなかった。
「なんなんですか、あれは?」
質問オーケーということで俺はサツキ先生に早速質問してみた。ずっと気にはなっていたのだが、どうやっても情報が見つけられなかったのだ。あれだけ派手な事件だったというのに、どこのメディアを見ても一切あの怪物達のことには触れていなかった。
「簡単にいうと『異形』は異能に取り込まれた人間よ」
「異能に取り込まれた人間……??」
「人間だったもの、と言ったほうが正しいわね。異形化した時に、内部構造が置きかわって人ではなくなってしまうの。その時点で意識も知能もないわ」
「……ゾンビみたいなもの?」
俺はなんとなくのイメージで、そんなワードを出してみる。
「そう捉えてもらって構わないわ。言ってみれば死体が異能を持ってさまよい歩いてる状態ね」
「うわあ……」
そう考えると、ゆらゆら寄ってきて噛むだけのヤツよりよほどタチが悪い。まあ、見た目的にそこまで気持ち悪くないのは救いだけど。
「おい、待てよ? 人間が異能に取り込まれるってことは……!?」
「じゃ、じゃあ私たちも……!?」
神楽さんとその脇にいた赤井が一緒にうろたえている。お、あいつもうろたえることってあるんだな。珍しい。
「ふふ、それは心配しなくていいと思うわよ」
でもサツキ先生は静かに微笑みながら否定した。こうしてみると、本当に美人さんだ。
神楽さんが再度疑問を投げかける。
「え、どうしてですか?」
「『異形』化と言うのは基本的に人為的に引き起こされるものだからよ。容量の足りない「器」にムリヤリ異能の力を詰め込んだ結果、起きる現象なの。『過異能化』とも言われるわ」
「人為的に異能を……? そんなことできるんですか?」
「ええ。公にはされていないけど、異能には『コピー技術』が存在するの。簡単に言ってしまえば、誰かの異能を『コピー』して無関係な人間に与えることができてしまうの」
「えええっ!? それじゃあいくらでも異能者を増やせるんじゃ」
驚くリアクションをする神楽さん。
そうだよね。でもそんなことできたら異能者の供給過剰で値下がりしそう。
「ふふ、そう思うわよね。でも、そうもいかないのよ。そんなに都合にいいものじゃないの。むしろ、とんでもない欠点のある技術なの」
「欠点?」
「人それぞれ、誰でも異能を扱う「器」を持っているんだけど、コピーする異能が強力だとその器を壊してしまうことがあるの」
「……要するに、器の限度を超えた力は入らない、ってことか?」
神楽さんの脇にいた赤井がタメ口でサツキ先生に質問する。お前はそういうとこ、ブレないよなぁ。
「そう。そして分かっているのは「器」の大きさは「中身を入れてみるまでわからない」っていうこと。異能を他人にコピーするには、それ相応のリスクがあるのよ」
「それって、ほとんどギャンブルだね」
俺の脇で黙って聞いていた氷川くんが口を開いた。
「ええ、言って見れば、人の命を掛け金にしたギャンブルね。どう考えても、人の道から外れた行為よ」
「……なんでそんな技術があるんです?」
今度は音無さんが後ろの方から質問する。
「そうね。そこは、メリア先生の方が詳しいと思うけど……お願いしていいかしら?」
「……ええ、私から説明しましょう」
サツキ先生の後ろで静かに話を聞いていたメリア先生が前に出て、説明を始める。
「元々、その技術……『異能者増産技術』は戦時中にこの国のどこかに存在した軍事技術研究所から生まれたものだと言われてるの。戦後、その技術が『第三派閥』に流出して、現在彼らは力を得るために積極的にその技術を使っているわ」
「最低ね、そんなの。作る方も、使う方も」
いつも辛辣な弓野さんが独り言のように吐き捨てた。その言葉にサツキ先生はわずかに微笑み、うなずいた。
「……そうね、私もそう思うわ」
「そう言うわけで、その技術の副産物、『異形』は世の中に結構存在するの。一般に知らされてないだけでね。その存在は国家ぐるみで徹底的に隠されてるの。簡単にいうと、そんなところね」
「ありがとう、メリア先生。さすがに的確ね」
メリア先生は一通り説明し終えると、サツキ先生にまたバトンタッチして後ろに下がって行った。
なるほどね。まあ、後ろ暗い戦争中の実験が原因とあっちゃあ、そりゃ隠すしかないだろうな。でも、そんな情報、知ってるだけでヤバいんじゃ?
「あの……こんなこと、俺たちに教えてもいいんですか? 結構重要な情報なんじゃ?」
「ええ。国家の重要機密よ。決して公にはしてはいけない情報よ。だからこそ今、君たちに教えてるの」
「……え?」
ちょっと、サツキ先生のいっている意味がわからないぞ。
「言ったでしょ? これは普通は決して公にされないことだって。でも君たちはもう知ってしまっているのよ。それが事故であったにせよね。もう後戻りはできないわ。ちなみに、この情報勝手に漏らしたら死ぬまで国に追われることになるから、注意してね?」
「…………あ、はい」
そういうこと……強制的に巻き込まれてるわけね。納得。
そんなの全然知りたくなかったけど……いや、そんなことも言ってられないか。霧島さんはタチの悪い奴に狙われた。神楽さんも。そういう奴らが何を考えてるのかも、知っておく必要があるんだよな、俺は。
「別に、君たちを強制的に軍務に就かせようってわけじゃないの。知ったからには、さらに色々知った上で自分の身の安全を確保してほしいからね……これは、そういう意味での情報開示よ。重荷に思わなくていいからね」
あれ、意外と中立的なんだな。もっと積極的にリクルートしてきそうな気配がしたんだが……まあ、すでに「漏洩したら死ぬまで国に追われる」情報とか提供されて、重荷でしかないと思うけど。
「とはいえ、異能警察も軍も今、圧倒的に人手が足りてないのよね! 君たちの異能警察や軍への入隊は任意だけれど、この機会に考えてくれると嬉しいわ! ここまで情報を開示するのは、そういうのもちょっとはあるけど……でも、全然、強制じゃないから!」
「……そ、そうですか。前向きに検討しときます」
「ふふ、よろしくね! 優遇するわよ!」
後の理由の方が圧倒的に本当っぽいんですけど。色々と囲い込まれてる気がする。いくらサツキ先生が美人さんでも、もう誤魔化しきれないよ?
「ワォーン」
「あはは、待つのじゃ、タロウ!」
森の奥からはしゃぐ犬と子供の声が聞こえる。
今回は何日か泊まり込みの『強化合宿』という都合により、生徒以外にも玄野家のシロと、神楽家の秋田犬のタロウが一緒に付いてきているのだ。もともと狐のシロはタロウと気が合うらしく、さっきから森の中で何やらぴょんぴょんと跳ねて遊んでいる。
そんなわけで、周囲の森の中は訓練というより、気軽なピクニックみたいな雰囲気だった。
「じゃあ、この辺で簡単なレクチャーは終わりね。ここからはチームに分かれて訓練をしてもらうわ。今から言う通りに分かれてちょうだい」
そうして、俺たちの『異能警察予備隊』訓練生の『強化合宿』が始まったのだった。





