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84 霧島家2 セツナとカナメ

「カナメ、じゃあ行くよ?」


「うん、いいよ。大丈夫だから」


 霧島家に設えられた特別トレーニング室。

 そこでは霧島カナメと、姉のセツナがそれぞれの手に訓練用の黒いブレードを持ち、少し離れた距離で向き合っていた。

 そこは四方の壁と床天井が数メートル厚の衝撃吸収性の特殊合成樹脂で囲われている、高校の体育館程度なら四つ並べられるぐらいの広い地下室である。


「本当の本当に、怪我しても知らないからね?」


「本当に大丈夫だから。心配しなくていよ」


 そうしてカナメの姉、霧島セツナは訓練用のブレードを振り上げ、構える。


「じゃあ……行くよ」


「いいよ」


 そうして一呼吸置き、霧島セツナはブレードを振り下ろす。


「『空断(ディバイド)』」


 霧島セツナの訓練用のブレードから高速の斬撃が放たれ、それはまっすぐ霧島カナメのもとへと向かう。


「『桜花(オウカ)』」


 ギャリリリリッ!


 カナメは高速でやってくる斬撃を、瞬時に形成したウロコ状の小さな刃の群れの盾で難なくいなし、回避する。

 軌道を逸らされた斬撃はそのまま特殊合成樹脂の壁に吸い込まれ、傷跡を作った。


「驚いた……本当に別物の異能じゃない。そんなことが出来るようになったんだ」


「そうね。私も自分でも驚いてるの」


 霧島セツナは、妹の変化した異能を初めて目にして驚いていた。

 そして同時にその姿が気持ち、少しだけ大きくなったように思えていた。


 自分だけが弱い異能を授かったからと、家族の中でいつも劣等感を感じて小さくなっていた妹。

 父のマサムネは「カナメは戦闘に向かないから」と一切戦闘に関する技術を教えようとしなかった。


 だが、当のカナメは諦めようとしなかった。

 諦めず、自分の力でどうにか強くなろうと試行錯誤していた。

 姉たちは父から直接教えてもらっていた剣術も、カナメは見よう見まね。殆どが我流。

 それでも姉たち、父親に追いつこうと必死だった。

 見かねたセツナ、そして長女のサツキが手ほどきをした時期はあったが、その程度だ。


 別にそんなことで人間の価値が決まるわけじゃないと周囲が諭しても、カナメは頑固に強くなることにこだわっていた。

 そうでなければ、自分の価値も居場所も見つけられないとでも言うように。

 その妹が、念願の力を手にしていた。


「じゃあ、次はちょっと強めに行くから」


 そう言って、霧島セツナは再び訓練用のブレードを振り上げる。


「うん。いつでも大丈夫」


「『空断(ディバイド)』!」


 そして霧島セツナがブレードを振り下ろすと、先ほどより一回り大きい斬撃が放たれ、それが霧島カナメのもとへと向かった。


「『桜花(オウカ)』」


 バシュンッ


 今度は、無数に発生させた小さな刃でセツナから放たれた斬撃を粉々に砕くカナメ。

 セツナの剣筋を見極めた上で、斬撃の軌道上に一瞬で多数の小刃を配置して、その威力を多方向に散らしたのだ。


 相当な技量と集中力、そして判断の速さを必要とする、普通なら神業といってもいいことを平然とやってのけるカナメ。見ようによっては、斬撃そのものがいきなり消滅したように見える。


 その光景に唖然とするセツナ。


「そんな……殆ど曲芸じゃない」


「今のは、来る方向も速度もだいたい分かってたからね」


「……ちょっと見ないうちに、それも、ほんの数週間のうちに見違えたわね。本当に信じられないわ」


「うん。未だにこれは夢なんじゃないかって思っちゃうぐらい」


 そう言って静かに笑うカナメ。

 つられて、セツナも笑顔になる。


「これなら、大抵の異能者となら渡り合えるかもね」


「でも、まだまだこんなものじゃ駄目だって分かってるの」


 自分の賞賛に対するカナメの答えに、セツナは腕組みをしながらまた問いかける。


「今回の襲撃事件で誘拐されたこと?」


「うん、それもあるけど……その前からずっと思ってるの。私はやっと異能が使えるようになって、強くなったような気がしてたけど、まだまだ全然だって。ある人を見てたらそう思えるの」


「例の芹澤くんって子のこと?」


「………………うん」


「……何で、急に赤くなってるのよ?」


「え!? そんな……」


 慌てて自分の顔に手をやるカナメ。


「冗談よ。あ、でも今はもう赤いわね」


「………………ちょっと、お姉ちゃん?」


「ふふ、あのツンツンしてたカナメもようやくそんな年頃になったか! あたしはそっちの方が嬉しいよ」


「…………」


 真っ赤な顔で黙って俯くカナメ。


「……で、どこまで行ったの?」

「えっ?」


「告白とかしたの?」


「……」


 姉の詰問にカナメは真っ赤な顔で視線をそらす。


「……まさか、ほんとに?」

「ちっ、違う! そう言うのじゃなくて!」


「そう言うのじゃなくて?」


「……ひとまず、好敵手ライバルってことで……?」


 頬を掻きながら、あさっての方向を向きながら答えるカナメ。


「これは、姉さんに報告必須の案件ね」

「ちょ、ちょっと!」


「大丈夫。今晩のところは父さんには黙っておいてあげるから」


「え……今晩?」


「あれ、言ってなかったっけ? 今日は父さんが珍しく家に帰ってくるって」

「聞いてない」


「サツキ姉さんも、久々に早く帰って夕ご飯振る舞うんだって張り切ってるんだよね」

「それも、聞いてない」


 だんだんと赤い茹でダコのような膨れっ面になってきているカナメだったが、不意に家庭用内線モニターのランプが点灯し、画面に映像が映し出される。



『あ、やっぱりそっちにいたのね。ただいま〜!』



 モニターの向こうで買い物袋片手に手を振る女性は三姉妹の長女、霧島サツキだった。



『二人揃って訓練とはね〜! 感心感心。今日は腕によりをかけて夕ご飯作っちゃうからね? 楽しみにしててね〜! ちゃんと、シャワー浴びてから上がってくるのよ〜?』



 一方的にそれだけ言うと、通信を切るサツキ。

 まるで一般家庭の母親のようなことを言う姉に軽いため息をつきながら、霧島セツナは少し顔の赤みの引いた妹のカナメに向かってこう提案する。


「それじゃあ、何戦か模擬戦やったら(リビング)に上がろうか?」


「いいよ……手加減は、してあげないからね?」


「お、言うようになったじゃない。ふふ、それでこそ鍛え甲斐があるってものよ」


「でも、私が勝ち越したら……分かってるよね」


「ふふ、いいよ。黙っておいてあげる……本当に勝てたらの話だけどね?」

家庭回、次に続きます

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