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82 狐の学校入り その2

「この子は裏山の狐(・・・・)なんです」


 水沢先輩は、真剣な顔で奇妙なことを話し始めた。

 俺たちは生徒指導室の中に入り、一つの木製のテーブル廻りの椅子にそれぞれ腰掛けている。


「狐? そんなこと……どう見てもこの子は人間でしょう?」


「ええ。そのように姿を変えて(・・・・・)いますから」


 水沢先輩の言葉に、チハヤ先生は不思議そうにシロの方を見る。


「どういう事?」


 シロは「座って」と言われて素直に椅子に座っている。ただし普通の人間がするような座り方でなく、犬が座るような格好でだが。動物かよ。いや、本当に狐なのか。


「この子はつい先日、存在が発覚したんです。ひとまずメリア先生に報告したのですが、メリア先生が言うにはこの子は天然発生(・・・・)した『異獣』ではないかと」


「異獣……獣の異能者ね。でも、どういうこと? 異獣が言葉を話して、さらには人間の姿をしているなんて……?」


「そのことについては、彼女(メリア先生)の見解では恐らく【姿を変える者(ミューテーター)】と【意思を疎通する者(コミュニケーター)】 の複数保持者バイホルダーでないかという事でした」


 水沢先輩の言葉にチハヤ先生は驚いて椅子から立ち上がる。


複数保持者バイホルダー!? しかも、【姿を変える者(ミューテーター)】と【意思を疎通する者(コミュニケーター)】なんて、どちらも特定保護対象になる希少異能じゃない……そんなことがあり得るの?」


「メリア先生も私の報告には半信半疑でしたが、「その話が事実なら、天文学的な低確率でしか起こり得ないことだけれど、それぐらいしか考え付かない」と言っていました。そして、現実の彼女を見て貰えば分かるように、彼女はこうして存在します。【姿を変える者(ミューテーター)】なのは明らかです」


 そう言って水沢先輩はシロの頭に生えてきた二つの耳を指差す。

 チハヤ先生もさっきまでは無かった、シロの頭の上の『狐耳』を見てその話に納得したようだった。

 チハヤ先生は少し落ち着きを取り戻し、再び椅子に腰掛ける。


「じゃあ、今、言葉を話しているのはもう一方の異能【意思を疎通する者(コミュニケーター)】のせいってことね?」


「ええ、【意思を疎通する者(コミュニケーター)】の能力で何らかのイメージを獲得した為だと思われます。本人もそんな事を言っていました。今の様な人の姿になって、言葉がわかるようになったのは、神社に来た客の頭の中を覗いた(・・・)からだ、と」


「それで、人に近い思考を持ったまま人の姿になれたということ? この子が元々は狐なんて、ちょっと信じられないわね。【姿を変える者(ミューテーター)】ってこんなに再現性の高い異能なの?」


「能力保持者によって『質』の差はあるようですがメリア先生の判断では、シロは恐らく特に優れた【姿を変える者(ミューテーター)】なのでは無いかと。弱い能力者では、数分姿を変えるのが精一杯だと言うことですし、他人の姿になろうとしても相当のイメージ力がないとほとんど別人になってしまうらしいですから。その点、シロは見たモノの完璧な模倣(・・・・・)をすることが出来ます」


 シロは褒められているらしいことが分かったらしく「そうなのじゃ! そんなのは簡単なのじゃ!」と言って胸を張っている。胸張られると、胸がないのがよく分かるんだけど。


「うちの制服を着てるのも、もしかして?」


「多分、裏山で私が着ているのを見て【姿を変える者(ミューテーター)】で『真似た』んだと思います。シロは学習していろんなことが出来るようになっているようです」


 二人は椅子の上に「おすわり」の格好で座っているシロをじっと眺める。二人の視線にシロはにこやかに応えるが、チハヤ先生の方は、少し頭を抱えて悩ましげだ。


「これは、重大事ね。ただでさえ難しい問題が二重三重に絡まり合ってるわ。珍事も珍事、本当に対応に困るわね……」


「ええ、まさかこんなにすぐに山から降りて来るとは想定の範囲外でした」


 シロを見やりながら、真剣に話す二人。

 何やら難しそうな話題で俺はついていけず、二人の会話を隣のシロと一緒に黙って聞いていた。


 ただし、全くわからないというわけでもない。『異獣』というワードはこの間、喫茶店でメリア先生からレクチャーはされたのだ。だが、そんなのが「いるらしい」という知識だけ。まさかシロがそんな珍獣みたいなのだとは思いもしない。その程度の半端な知識。


 だから、結局のところ、俺は何にもする事がない。よって、非常に暇である。


 早く話終わんないかなあ。俺、もう教室に行っててもよくね?


 そんな事を思っているとシロの奴もしびれを切らしていたらしく、声をあげた。


「のう、スズ? わしらはここに来て、何をしていれば良いのじゃ?」


「ちょっと待っててね? もうすぐ話は終わるから」


「嫌じゃ。そんなの。退屈なのじゃ! 外に行くのじゃ! こんな箱の中にいてもつまらないのじゃ!」


 随分お行儀よく大人しくしているなあと思っていたが、すでに我慢の限界に来ていたらしい。


 その場でぴょんぴょんと跳ねながらダダをこね出すシロ。まあ、元が獣とあっちゃあ無理もないか。


「我慢してて、シロ。あとで、美味しいもの食べさせてあげるから、ね?」


 どうやら水沢先輩はシロをモノで釣って大人しくさせる作戦に出たようだ。その作戦は、効果てきめん。


「本当か!? スズ、なんじゃ!? 何をくれるのじゃ!?」


 即座にシロは食いついてきた。テーブルの上に身を乗り出し、今にも乗り上げそうな勢いだ。


「せっかく街まで来たんだし、前よりもずっと美味しいもの食べさせてあげるわ。だから……」


「やったのじゃ! シロはスズが大好きなのじゃ!」


 だがその買収工作も、この状況では逆効果だったようだ。美味いものに期待を膨らませて興奮したシロは、テーブルの上にドンと四つん這いで乗り上げて、水沢先輩に勢いよく抱きついた。


 見た目は美少女な金髪のじゃロリが、優等生的な上級生の美少女にじゃれついている。


 まあ、ここまではとても微笑ましい光景である。


 だがそこで大きな問題(プロブレム)が発生した。



 そう、非常に大きな(ベリービッグ)問題(プロブレム)だ。



 奴、シロがテーブルの上に靴を履いたままで乗るというのも問題だが、それ以上に問題があるのはその格好だ。


 今、シロはテーブルの上で四つん這いになり、俺の向かいにいる水沢先輩に抱きついている。

 その状態だと必然的に俺の方にお尻を向けた格好になるが、シロは今学校の制服、スカートを着用してしている。そこで、今の様な態勢をとると、どうなるか?


 さらに今はシロのお尻から生えているらしき尻尾に押し上げられ、当たり前のように今、スカートが全開状態。


 四つん這いの状態で、脚も投げ出されるままに開かれている。全くの無防備。それが俺の顔の至近距離でフリフリと揺れている。


 当然、見える。

 色んなモノが見えてしまう。


「おい、シロ! 降りろ!」


 俺はそう言いつつ、咄嗟に俺は顔を逸らしてそこに視線が向くのを回避する。


 相手は所詮狐だ。人間の女の子じゃない。だから別に見ても問題ない、そういう考え方もあるかもしれない。


 だが、すぐ目の前にはチハヤ先生がいるし、水沢先輩もいる。

 いくら狐といえど、そしていくら俺の射程範囲外の妹の友達ぐらいの年齢の女の子といえど、チハヤ先生達に俺がパンツをガン見している姿など、見られていい事は一つもないのだ。


 だから「見てませんよアピール」も兼ねて俺は大きく首を横に振る。

 だが、目を逸らそうにもどうにも、揺れているシロのお尻はあまりにも至近距離だ。角度的には視界にどうしてもシロのスカートの中身が見えてしまう。

 それぐらいはもう、仕方がない。直接見てるわけじゃ無いので許してほしい。


 そう思っていたのだが、不思議なことに俺の視界には特に白いものとか、ピンク系の何かとか、そういうものは入ってこなかった。

 シロがスカートの下にはいてるはずのものは俺の視野に全然入ってこなかったのだ。


 でも、角度的にはバッチリ視界に入っていてもおかしくはない。ちょっと変だ。


「ん?」


 違和感を覚えた俺は、思わず少し振り返ってしまう。


 そうして振り返った時、しまった、と思った。そんな動作をしたら当然、その部位を直視することになる。そうなれば、チハヤ先生達から下されるのは有罪(ギルティ)の裁定だ。一瞬であっても見るのはまずい。

 そう思って、俺は硬直してしまったのだが……


 実際、俺が恐れていたものはそこに無かった。

 全然なかったのだ。


 スカートの中でフワフワと踊る尻尾のすぐ下にあるべき物。

 それが、何もなかった。


 そう。


 つまり。








 はいてない(・・・・・)







 奴はスカートの中に何にもはいてなかった。


 あまりの事態に俺はシロの股間(そこ)を凝視する。


 フワフワと揺れる数本の尻尾の下には、生まれたままの、まん丸お尻がフリフリと揺れていた。

 だが……驚くポイントはそこだけじゃあない。


 本当に何にも無かった(・・・・・・・)のだ。


 人間なら、男でも女でも当然あるべき物が何にもない。それに、女なら女で、男なら男で有るはずのモノもなかった。


 これは、一体……?


「芹澤くん? 何をじっくり見てるの?」


「いや、ちょっと……」


 先程からスカートの中、シロの股間を凝視している俺にチハヤ先生から声が掛かる。

 まあ、当たり前だけど。

 違うんです。先生が思ってるのとはちょっと違う理由なんですよ?


「そういうのは、あまり感心しないわね?」


「えーと、これはですね? とっても不思議な光景が見えたというか」


「なんじゃ? アツシ。何が見えたのじゃ?」


 そうして、俺の声に反応して、テーブルの上で四つん這いのままぐるりと振り向くシロ。

 当然、今度は奴のスカートの中身がチハヤ先生と水沢先輩にも見えることになる。


 そうして、その中身を見た彼女達も声を上げる。


「……あれ?」


「……ない?」


 二人は顔を見合わせる。


 その通り。そこには何にもないのだ。綺麗さっぱり。それこそ何の穴も毛もなくツルっツルだったのだ。


 ……どういう事?


「ねえ……あなた、女の子よね?」


 とりあえずチハヤ先生がシロに確認する。生物的にどっちなのかという質問だ。

 シロは女の子(メス)。当然、皆そう思っていた。見た目はどう見ても女の子(そう)だからだ。金髪ののじゃロリ娘。


 だが、シロから返ってきた答えは、全員が期待するものとは違っていた。


「いや、わしは(おのこ)じゃが?」


「え?」


 その瞬間、俺たち三人は硬直した。


「なんじゃ? 証拠が見たいのか?」


 そう言ってシロはその場でぴょんと跳ねたかと思うと、途端に狐の姿になり、そのままテーブルの上でお腹を上にして寝転がった。

 そして股を開いて俺たちにそこにある小ちゃなモノを見せて、頭の中に響く声で語りかけてくる。


『どうじゃ? ついておるじゃろ?』


 ああ、確かにある。

 あるけどさ。


 別にわざわざ見せなくても良いんだよ?


「え……ええ、分かったわ。確かに男の子ね」


「もういいわ、シロ……元に戻って頂戴?」


『わかったのじゃ!』


 そうして、狐の姿のシロはまたぴょんと高く跳ねると空中でまた人間の姿になった。

 ついでに空中でスカートが豪快に舞い、俺たちの目の前に着地するときに美少女姿のシロの下半身が露わになる。


 ……。


 うん、人間姿の時は前から見ても何にもないな。

 俺たち三人はそれをしっかり確認できた。


「この子には、色々と教えてあげる必要がありそうね……とりあえず、メリア先生に電話で相談してみるわ」


 チハヤ先生が頭を抱えながら、水沢先輩に抱きついてはしゃいでいるシロの方を見る。

 ちょうど、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴り始めたところだった。

ようやっと、本編で男の狐であることが判明しました。


///


ブクマや最新話の下からの評価をいただけると、継続モチベが上がります!

気が向いたらよろしくお願いします。

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