08 死相が出てます
翌日の学校には、霧島さんは来なかった。なんでも「急用ができた」とかで、1日欠席だそうだ。
き、昨日の出来事が影響してるとかじゃないよね?
俺に負けた鬱憤をサンドバッグに解き放ってるとかじゃないよね?
休み時間、やることもなかったので俺がボケーっとしていると、なんだか「ぽわー」っとした女の子が俺の席まで来て、話しかけてきた。
「あのっ…芹澤くんっ?」
ああ、この子のことは覚えてる。
この子は「春原ユメカ」さん。確かー
「ちょっと言いにくいんだけどっ…あなた、ものすごい凶相…いえ、死相が出てますっ!」
彼女の異能評価は『【未来を予見する者】S-LEVEL 0』。
未来予知?何それ最強じゃん、と思うかもしれないが、彼女の評価は『レベル0』。<無能>のレベル1よりも下…つまりほぼ能力がないということらしい。逆に言えば、異能がある可能性がある、というぐらいの状態。
そんな状態でなんで【未来を予見する者】だとわかって国立帝変高校にいるかと言えば、過去一度だけ、かなり明確に「地震を予知」したことがあるんだそうだ。予知なんてできたらかなりスゴイ異能なので、この学校で保護されている、ということらしい。ちなみに趣味は各種「占い」とのこと。クラスルームでの自己紹介情報な。
っていうか、いきなり何をいうんだこの子は。死相?いきなりそんなこと言われたら怖いじゃん!
「え?どういうこと?」
「今日は、もしかしたら、外出することを控えた方が良いかもしれないですっ!」
いや、もう学校に来てるんだけど。
「伝えることはそれだけですっ!ではっ!」
シュタっ!という感じで敬礼?をすると、春原ユメカさんはピューっと去っていった。
ホント、なんだったんだ。
ちょっと気分を変えようと教室から出ようとすると、入り口のところで男子生徒に「ドンっ!」とぶつかってしまった。
「あ、悪い。考え事してて、よく見てなくて…」
「ああ、わリィな…こっちもよく見てなかった」
ん?知らない顔だな?昨日のクラスルームにはこんな奴、居なかったような?
まあ、野郎の顔なんていちいち覚えて居ないが。俺はあの時、クラスの女生徒の鑑定にとても忙しかったのだ。
その時、廊下からヒソヒソと話をする声が聞こえた。
「あ、あいつが…例の芹澤アツシか」
「あれが…入学式の日に二年の風紀委員、桐崎ノボル先輩を病院送りにし…」
「次の日にはあの霧島重工の令嬢…霧島カナメを叩きのめしたっていう、問題児…」
「ああ、そのショックで霧島さん、今日休んでるらしいぞ…?」
待て。
ちょっと待て。
色々違うぞ。なんか話がねじ曲がってるぞ!
俺が丁寧に訂正をしてやろうとそいつらのところに向かおうとすると…
突然、強い力で肩を掴まれた。
「お前、女に手を上げたのか?」
そう聞いて来たのはさっき俺がぶつかった男子生徒だった。
「いや…」
そんなことはない、と言おうとして、思い切り足払いをかけて転ばせてしまったのを思い出した。
「…ちょっと経緯があってな、止むを得ずに足払いをー」
「そうか」
俺が言い終わるのを待たず、目の前の男は思い切り俺をぶん殴った。
不意打ちすぎて吹っ飛ばされ、地面に派手に倒れる俺。
「いっ、いきなり何しやがる!?」
こいつ、いきなりグーで殴りやがった。
お、親父にもぶたれたことないのに!師匠にはしこたま棒で殴られたけど。
「ちょっと!やめなさいよ!!赤井くん!」
「チッ…神楽か」
そこへ、俺をかばってくれる天使が現れた。
まあ、俺もこんな奴に喧嘩で負けたりしないけどな。ご好意はありがたく受け取っておこう。
ん?赤井くん?どこかで聞いたことがあるような…
「女に、手をあげるなんざァ、最低だ」
そう言い捨てると、その俺に言われなき暴力を振るった男は廊下に出て行った。
「…ごめんね。アイツも悪い奴じゃないんだ…」
「いや、君が謝ることなんてないよ」
そう言うと彼女は俺の頬のあたりを触り始めた。
え、何?ちょっとくすぐったいんだけど…
「動かないで。このままだとアザになるから。」
彼女がそう言うと、彼女の手がほんのり輝きだした。すると、俺の殴られた痛みもスーっと引いていった。
これは!?美少女に手当てされるとこんなにも治りが早いのか!?
いや違うか。異能か。
良い機会なので、俺は彼女の顔をじーっと見る。
彼女の名前は神楽舞。ショートカットの似合う、ボーイッシュな美少女だ。
能力は『【傷を癒す者】S-LEVEL 1』。とある神社の娘さんらしい。これもクラスルームでの自己紹介情報な。
「はい、とりあえず終わったよ。これでアザになることはないと思う。」
「ああ、ありがとう。ところでさっきの奴は知り合い?」
「赤井くんのこと?うん…小学校から、ちょっとね」
そうか、赤井くん、こんな美少女と小学校から一緒だなんてなんて羨ましい。さぞかしいい思いを…んん?赤井くん?
…はっ!?
お、思い出した。
赤井くん………赤井ツバサ。
俺の「絶対服従!これ絶対!」リストのナンバー1。
決して逆らってはいけない男、『【炎を発する者】S-LEVEL 3』。
中学校舎全焼事件の赤井ツバサだ。
そうか、あいつが…
ああ、やっちまったな。
死んだかも、俺。
◇◇◇
俺は放課後、なぜか神楽さんと一緒に下校していた。
帰る方向が大体一緒なのと、
「アイツがまた殴りに来たら悪いから」
と言うことで、俺を奴の魔手から守ってくれるらしい。なんて良い娘…ッ!
神楽さんには霧島さんとのことは彼女のちょっとした誤解から対立してしまっただけであって、今は和解したこと、結局はあのモヤシ野郎が全部悪いことを説明し、納得してもらった。
「アイツはそう言うところ、そそっかしいから…でも、悪い奴じゃないんだよ?」
「まあ、それはわかるよ」
最初、俺がぶつかった時はちゃんと謝ってくれたし、俺が殴られた理由も「女に手を上げた」だからな。基本的に良い奴なのは理解できる。
「でもさ、いつも怖がられちゃうんだよ、アイツ。普段の態度も悪いし、あの事件のこともあるしさ。」
「まあ、それもわかるな」
かくいう俺もめっちゃビビってるし。
「でもあれは、本当は私のせいなんだ。アイツは私をかばって…」
その時だった。
背後から黒いバンがやって来てドアが開き…
マスクをつけた数人の男が飛び出し、何かのスプレーを噴射した。
途端、神楽さんは路上に倒れ…
俺も意識を失った。
人物ファイル011
NAME : 春原ユメカ
CLASS : 【未来を予見する者】S-LEVEL 0
天然能天気系のおっとり少女。異能は未来を見通すことの出来る能力とされるが、じっさいはその能力が発揮された実例は少ない。しかし、過去の重大事件を「あまりにも明確に」予知した実績から、彼女がこの先はっきりとした予知能力を持つことも「無視できない可能性」として国によって監視されることとなった。
<特技>
予見 フォーサイト
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人物ファイル012
NAME : 神楽マイ
CLASS : 【傷を癒す者】S-LEVEL 1 (元はS-LEVEL 4)
とある神社の神主の娘で、赤井ツバサとは幼馴染。本来は高レベルの能力(レベル4相当)だったが、過去、事故で死んでしまった愛犬タロウを「蘇らせた」ことの影響で、著しく能力が低下している。その能力の特殊性と重要性から、芹澤アツシと同じ「特別保護対象者」に指定され、帝変高校に入学した。今の能力は触れた箇所の打撲や擦り傷の治りを早くする程度の弱い力しかない。それでも、喉から手が出るほどその力を欲するものが大勢存在する。
現在は弱い力しかないが、様々な出来事の中でだんだんと力を取り戻しつつある。
<特技>
癒手 ヒール
蘇生 リザレクション(レベル4時点)
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