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79 玄野家への侵入者 その1

 俺はモヤシ野郎のイラっとする挑発に敢えて乗ってやり、十回連続ホームランを叩き出して奴を沈黙させた後、さっさと玄野家に帰って来ていた。


 もともと、幼少から地獄の剣道教室で動体視力を慣らした俺にとっては、機械の放つ野球ボールなどハエの止まる様な速度にしか思えない。さらにはゴリラの特訓(ごうもん)と、つい先日の襲撃事件で俺の感覚は相当に研ぎ澄まされていっている。


 バッティングセンターの球なんて、比喩でもなんでもなく止まっている(・・・・・・)様に見えた。

 そんなものをかっ飛ばすのは簡単だ。


 それに棒状のモノでもそれ以外でもなんでも扱える様になれ、というのが剣道教室の(せんせい)の指導だったから、俺は木製バットの扱いにも慣れているのだ。


 ただし、凶器としてだけど。

 いくら実戦を想定してるとは言っても、竹刀の代わりに木製バットVS金属バットで打ち合う稽古ってどうよ?

 小さい頃からやらされてたから気がつくのがかなり遅れたけど、今思えばあれは全然、剣道じゃなかった。


 鎖付きの棘鉄球(モーニングスター)の扱いから、斧槍(ハルバード)の振り回し方まで教わった。

 手裏剣みたいな飛び道具の稽古とかもあったんだけど。

 マジで戦乱の世の中でも想定してたのか?


 いや、なんか武器のセレクトからすると異世界ファンタジーに迷い込んだ時みたいな妙な妄想が感じられる。

 いずれにせよ、現代で絶対に使うことは無い様な武器の扱いまで教えられた。

 あのまま続けてたら一体どこまで行ってたのか。


 考えるだけでも恐ろしいので思い出すのはこの辺で止めておく。

 あの魔窟のことは早く忘れた方がいい。


 俺はそんなことを思いながら顔認証式の玄野家の玄関の鍵を開け、中に入る。


「ただいま〜!」


 と、そう声には出すものの、今日は、俺の他には誰も家に居ない。


 メリア先生とゴリラ校長は会いに行かなきゃいけない人がいるとかで、明日まで帰って来ないらしいのだ。

 なので夕飯は好きに食べてね、ということでちょっとばかしお小遣いをもらっている。


 そういう訳で、帰りがけにコンビニで弁当を購入しての帰宅である。

 よ〜し、ネットで動画でも見ながら一人飯を満喫しようか、と思っていたその矢先。



 カタン



 家の中、廊下の奥の方から物音がした。


「え?」


 今日は、誰も居ない。その筈だ。

 予定が変わって、誰か帰って来たのか?


 いやそれならば、玄関に靴ぐらいあってもいい筈だ。

 玄関にはメリア先生やゴリラの靴は無かった。


 それなのに、家の中からの物音。


「まさか、侵入者?」


 ここは、そんなに簡単に出入り出来る程甘っちょろいセキュリティでは無い筈だ。

 実際、窓も開けられず、換気は全て機械で行なっているらしいし、人が出入りすることが出来るのは玄関からだけだと聞いている。


 つまり、侵入者は異能者。

 異能者の襲撃。


 空間を操る系統の異能者がいるらしいことはメリア先生から教わっている。

 そういう奴なら、この家の中にまで侵入することは可能だ。

 それも、ここはあのゴリラとはいえレベル5の邸宅。

 相手はそれを知った上で侵入して来ているのか?


 あるいは、校長(ゴリラ)が居ないことを見越しての、侵入。

 どちらにせよ、タチの悪い奴が入って来ているに違いない。


「くそ。逃げるか……それとも……」


 俺は一瞬、迷う。

 このまま侵入者を放って自分の身を守るのを優先するか。

 それとも、侵入者を暴き、その情報を得るか。


 多分今、侵入者の素性を暴いておいた方が今後の危険は少なくなるだろう。

 そして、相手がこちらの家まで侵入している以上、相手は俺たちの素性は知っていると思っていい。


 ならば、なんにせよ、侵入者を確認すること。

 それが今の俺にとっての最適な行動の様に思える。

 メリア先生は無理するな、とは言っていたけど、このまま逃す方がずっとまずいだろう。


 逃亡を許すのが一番の悪手。

 そんな風に思える。


 侵入者は廊下の奥の方、風呂場のあたりで何かガサゴソとやっているらしかった。


「……行くか」


 そして、俺は覚悟を決めて風呂場の前の脱衣室の前まで来る。


 すると、中からガタガタガタっと、何者かが慌てて風呂場の中に入って行く様な物音が聞こえた。


 まずい!


 俺の存在に気づかれた。


 逃げようとしているのかもしれない。

 その奥は行き止まりのはずだが、空間操作系の異能者なら逃げられるだろう。


 俺はすかさず脱衣場の戸を開けて中まで追いかける。


 そして、緊張する心臓を感じながら風呂場のドアを勢いよく開き、精一杯叫んだ。



「誰だッ!!! 姿を見せろッ!!!」


「ひゃわっ!? はわわわわっ!!?」



 そして、そこで俺はあるものを目撃した。

 それは、ばいんばいんと縦横無尽に揺れる巨峰。

 否、豊かに実った二つの白いお胸様。


 要するに、生まれたままのおっぱいが二つ、そこにあった。



「……あれ?」


「…………うう」



 そう、そこには真っ赤な顔をして裸で震えながら風呂場の隅っこに佇む、篠崎さんの姿があった。



「……せ、芹澤、くん……どうして?」



 今にも泣き出しそうな彼女。


 うん。


 何が起こった。

 わけがわからない。



「……」



 そうして、俺は涙目になった彼女に向かって無言で回れ右をしながら風呂場のドアを閉めた。


 はて。


 なんでここに篠崎さんが?


 というか、なぜ、裸でいる?


 ああ、そうか、風呂に入ろうとしてたのか。


 いやいや、待て。

 なんでここで?

 ここは玄野家の筈だ。


 ここに、なんで篠崎さんが?


 疑問の無限ループに陥った俺の思考に、どこからか、いつか聞いたことのある様な声が響いて来る。



『……この変態』



 弁解の言葉も何も思い浮かばないまま、俺は延々と心の中に直接響く罵倒の声を、ただただ言われるがままに聞いていた。

「そういえば、あの子のことを言うのをすっかり忘れてたわ……」


「別に、いいじゃねえか。本人が話すだろ」


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