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76 喫茶黒猫1

 カランカラン。


 俺たちは看板に『喫茶黒猫』と書かれた古風な喫茶店に入った。

 入り口の木製のドアに小さな鐘みたいなのがついているような喫茶店なんて、初めて入ったかもしれない。静かに音楽がかかり、コーヒーの匂いがする。うちの地元にはこういうの無かったからなぁ。ちょっと緊張する。


「マスター、いつもの部屋は空いてる?」


 入るなり、メリア先生が店の主人らしき白い髭を蓄えた男性に声をかける。

 口ぶりからすると常連のようだ。


「ええ、ご連絡もらってましたから準備しておきましたよ」


「注文はいつものと……芹澤くんはコーヒー大丈夫だったわよね?」


「あ、はい」


「じゃあ、コーヒーは三つ」


「では、席までお持ちしますので、どうぞ奥へ」


 そうやって俺たちが通されたのは一つの大きな磨りガラスの窓のある部屋だった。そこは入り口と同じ音楽は流れているが、なんか変な感じだ。


「ここはよく使わせてもらってるのよ。防音設備が整ってるし、マスターも信用できる人だから」


 そう、俺が感じた違和感。ここはドアで仕切られた完全な個室だったが、ドアを閉めた途端に外の音がなくなったのだ。


「おい。何してんだ? 座れ」


 後ろからついて来ていた校長(ゴリラ)はぶっきらぼうにそう言うと、部屋の中央に置かれた古風な木製のテーブルの前に置かれた高級そうな革張りのソファに腰を下ろす。

 続いてメリア先生と俺も座る。

 ソファはゴツそうな見た目とは裏腹に座り心地がとてもいい。


「本当は学校で話をしようと思ってたんだけどね」


「別に家でもいいじゃねえか」


「ふふ、たまには気分転換もいいじゃない? あんなことがあったばかりだし……」


 今は学校では大急ぎで補修と改修の工事が行われている。その為、授業もほとんどがお休みだ。

 あの異能者の襲撃事件は、各種メディアでは逃亡していた設楽応玄の部下「桐生ヨウスケ」が引き起こした事件として、一連の大逆事件のうちの一つとして扱われていた。


 霧島さんはあの後すぐにお姉さんが引き取りに来て、実家に帰っている。

 当分の間、学校には来ないらしい。

 誘拐事件があってすぐのことなので、このまま寮で一人暮らしはさせておけないと言うことになったらしい。


 彼女の実家は有名なお金持ちで、お父さんもお姉さんも軍人だったはずだ。

 セキュリティは申し分ないだろう。

 しばらく会えないのは残念だけど俺もそれなら安心できる。


 俺がそんなことをぼんやりと考えていると、


 コンコン


 ドアがノックされ、喫茶店の主人がコーヒーを三つとケーキを二皿、そしてかなり大きなパフェを三つ持って来た。コーヒー三つはわかるが、ケーキが二つでパフェが三つ?


 俺が疑問に思っていると、俺の前にコーヒーとケーキがワンセット、そしてメリア先生の前にもコーヒーとケーキがワンセット置かれた。そしてゴリラの前にはコーヒーが一つとパフェが三つ置かれる。


 パフェの上にはたっぷりのクリームとともにチョコレートソースがかけてあり、半切りのバナナが三つ挿してある。いわゆるチョコバナナパフェだ。それが三つ、ゴリラの目の前にある。

 そのまま喫茶店の主人は部屋を出ていった。


 ……まさかコイツ一人で食うの? それ?


「そういや、お前に貰ったあの酒な」


「ん? ああ、あれか。どうだった?」


 俺の疑問をよそに、ゴリラはスプーンをパフェに突っ込みながら話しかけてくる。本当に一人で全部食う気らしい。それに酒のことなんか忘れてたな。渡したっけ、そういえば。


「クソまずかった。知り合いにも飲ませたが、二日酔いが続いて三日ほど仕事を休んだらしい」


 てっきり礼でも言うのかと思ったら、不味いとか言い出しやがった。

 まあ、このゴリラのことだ。そう言うこともあり得る。

 俺はそこまで見込んであのコンビニ売れ残りのクソ安っすい酒を渡したのだ。


「え!? 天皇帝(ミカド)様が!?」


「ミカド?」


 今、メリア先生から妙なワードが出たような気が……

 て言うか三日仕事休んだ?

 それ二日酔いとは言わなくない?


「……あ、今のは忘れてね。芹澤くん」


「あ、はい」


 まあ、俺には関係ないことだ。気にしないでおこう。気になるけど。


 それにしても、安ものってやっぱ安いなりの理由があるんだな。

 あの酒は売れ残りの半額処分セールで340円だったし、そりゃあ不味いだろうけど体調に影響あるレベルとは……

 ゴリラに飲ませる分には問題無いと思ってたが知り合いに飲ませるとか予想外だった。

 その人には気の毒なことをしたかな。


 ……ん?

 今のメリア先生の口ぶりからすると、その知り合いって……?

 いやいや。まさかね。


「まあ、まずかったが飲んだ。礼を言っとく」


「ああ……うん」


 礼と言えるのか微妙なコメントだが、不味いと言われるとやっぱちょっと心外だな。予想はしてたんだけど。


 そうしてそれだけ言うと、ゴリラは目の前のチョコバナナパフェをついばむ作業に戻った。もう一つ目の半分が消えている。食うの早えな。


「芹澤くん。私からもお礼を言わなきゃいけないわ」


「え? メリア先生が? 何で?」


 思わず聞き返してしまった。彼女にお礼を言われる心当たりがない。


「あの時あなたが居なければ、この街はどうなっていたか。感謝しても仕切れないわ。お父さん不在の学校を守ったのはあなただもの。学校を運営する側の者として、お礼を言わなきゃいけないわ」


 そう言って俺の隣に座っていたメリア先生は両手で俺の手を握り、伏し目がちに言う。握られた手から、メリア先生の体温が伝わってくる。

 と言うか、別に俺は成り行き上あの大岩をぶっ飛ばしただけで、アレが落ちてたら自分自身もやばかった訳で。

 別にお礼なんて言われる筋合いなんて……ない気がするけど、この状況は良いものだ。

 できれば、しばらくこうしていたい。


「本当にありがとう。あなたにはとても大きな借りができたわ。今後、私にできることなら何でも言ってね」


 な、何でも……!?

 い、いや。そんなこと言っても……

 も、もう騙されないんだからね?


 俺は前回のことで学んだのだ。

 何でも言ってねって言っても、ホントに何でもできるわけじゃないということを。


 べっ、別に心動かされたりなんて、しないんだからね?


「おい、アツシ」


 突然斜め前から低い声がする。

 ああ、こいつも居たんだった。

 ひたすら無言でパフェ食ってたからもう居ないものかと錯覚してたな。


「俺からも礼を言っとく。助かった。今度、俺が出来ねえときは頼む」


 そう言ってまたパフェを突くゴリラ。


 こいつからは感謝の気持ちがこれっぽっちも伝わってこない。

 おまけにさらりと無理難題を押し付けられた気がする。


 無下に「絶対に嫌です」と断ってやろうかとも思ったが、俺もあのとき、力が暴走しかかった時にこいつが居なければきっとやばかったと思う。どう言うわけかコイツのアドバイスによってあの妙な『声』が止み、俺の異能の勝手な発動が止められて周囲の被害も抑えられたのだ。

 おまけにその後、俺と霧島さんを安全な場所にまで連れて行って残りの危険な爆弾なんかを全て処理してくれたのは他ならぬこのゴリラなのだ。


 そう考えると、俺の方こそこいつにはきちんと礼を言わなければならないのだろう。

 そう思って校長(ゴリラ)の方を見やると、パフェの器の底の方に溜まったクリームを細いスプーンで器用にすくって口元に運ぶという動作をとんでもない超高速で繰り返している。


 ……そこで異能使うの?

 レベル5の異能ってそうやって使うものなの?


「それで、メリア先生。話して置かなきゃいけないことって?」


 俺はチョコバナナパフェを突くだけの機械と化したゴリラのことは意識から消し去ることにして、ここに連れてこられた理由を聞いてみることにした。


「あのね、大きな借りが出来たなんて言った上でまた頼みごとになるんだけれど……」


 そうして、銀縁眼鏡の奥から上目遣いで俺の顔を申し訳なさそうに覗き込むメリア先生。

 それ、分かってやってるんだよね?

 その顔で何か頼まれたら断れる自信が全くないんですが。


「聞いてもらっても、いいかな?」


 体が触れるぐらいの距離にいる、金髪碧眼の銀縁眼鏡の巨乳美人の上目遣いの威力に、俺は唯一の選択肢となった答えを口にする。


「はい、喜んで!!!!」

金髪碧眼銀縁眼鏡巨乳美人

十二文字熟語


///


6/9 7話目 NEW

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///


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