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74 根源系3 芹澤アツシ

 気づけば、俺は保健室のベッドに寝かされていた。


 メリア先生が何やらチハヤ先生と話している。

 霧島さんが行方不明。そう言っているのが聞こえた。


 じゃあ、すぐに見つけに行かなきゃいけない。

 手遅れになる前に。

 神楽さんがさらわれた時のようになっているかもしれない。


 俺は頭が朦朧としたままベッドから降り、歩こうとするが体に力が入らない。

 立つこともままならず、俺はヒビの入ったガラス窓にもたれかかる。


 窓の外には、晴れ渡った空が見える。

 思考のはっきりしなかった俺は、ぼんやりとその風景を眺めた。

 その時、不意に遠くの空に一筋の土煙が上がった様な気がした。


 俺はそれから目が離せなかった。


「霧島さん?」


 何故か、彼女の顔が浮かぶ。


『『 ………………… 』』


 俺の耳の奥で何かが、囁いたような気がした。


「ああ、多分、あれだ」


 気づけば俺は、保健室の壁を突き破って外に飛び出していた。




 ◇◇◇




 さっきから、体の感覚がない。

 かなり痛めつけたはずの身体に、全然痛みがない。


 それに校舎の壁ごとガラス窓をぶち破って出てきたはずなのに。

 それも、何も感じない。

 何だか、自分の体じゃないみたいだ。

 まるで夢を見ながら、体を動かしているような。


 俺は不思議に思いながらも最大速度で街の上空を飛び、先ほど土煙が上がった場所にたどり着く。


 俺の眼下にマンションの工事現場が見える。

 ここだ。

 確かここだったはず。


『『 ………………… 』』


 そう、この下だ。

 霧島さんがこの下にいる。

 何故かそれが分かる。

 それが、実感できる。


「『熱化(ヒートアップ)』」


 俺は目につく地面を高温でドロリと溶かし、そのまま地中へと降下していく。

 溶かして進んで行くと地面は次第に土や岩石の層から分厚いコンクリートの層になった。何かの地下施設みたいに見える。俺はそれも構わずに全てを熱して溶かしていく。

 コンクリートの施設のさらに下に鉛色の金属の層があり、俺はそれも溶かしてさらに降りて行く。


 掘り始めて数十秒。

 俺が通ってきた所は直径10メートルぐらいの大きな穴になり、表面の溶けた部分は固まった溶岩の様な肌になっている。

 数百メートルは掘り進んだところで、白銀色の無機質な空洞にたどり着く。


 そこで俺は見つけた。


 一人の能面のような顔をした男が立ち、その脇に俺のよく知っている女の子。

 霧島さんが緑色の手術衣の様なものを着て地面に倒れている姿を。


「霧島さん……?」


 俺はそのまま彼女が倒れている床にゆっくりと降り立ち、肩に手をやる。


 揺さぶってみるが、何も反応がない。

 頬には涙の筋が通った跡が見えた。


 俺は男の方を見る。


「これ、お前がやったのか?」


 自分でも驚くぐらい低い声が出る。

 これは俺の声か?

 多分そうだろう。俺の口から出ているのだから。


 目の前の男は何かを喚きながら俺に向けて攻撃を仕掛けてくる。

 何か、俺の手足を縛りつけようとする力を感じる。

 でも、それは何か(・・)の力に邪魔されて俺を縛ることは出来ない。


『『 ………………… 』』


 何かは分からない。

 分からないが、それが俺を守ってくれている。

 男は何かを口走り、俺に無数の金属の刃のようなものを飛ばしてくる。


 だが、それも俺の元には届かない。

 俺の意思とは(・・・・)関係なく(・・・・)発動された『保温(プリザーブ)』が周囲の全てを溶かしていく。

 特に何を意識するでもなく、邪魔な障害物が消えていく。


 なんだ……とっても簡単じゃないか。


 異能の温度の制御が難しい?

 違う、そんなこと全然なかった。


『『 ………………… 』』


 俺を今、どこからか操っている感覚。


 これに身を委ねてしまえば、コイツが全て上手くやってくれる。

 こいつにコントロールの手綱を任せてしまえば良いんだ。

 俺がやるのは、それだけで良い。


『『 ………………… 』』


 そう、それで良いんだ、と俺の中の何者かが囁く。

 そいつが勝手に何でもやってくれる。


 ああ、これならとても、楽だ。


「『点火(イグニッション)』」


 俺は瞬時に加速して男に接近、拳の周りの空気を爆発させて思い切り殴り飛ばす。

 男はすごい勢いで吹き飛ばされて行くが、俺はそれに追いつき、また殴る。

 それをひたすら繰り返し、バレボールの様に何度も殴り飛ばす。


 空中で男の顔の形が変わり、腕ももう変な方向に曲がっている。


 ああ、俺、怒ってるんだ。全然、何も感じない。

 紙切れを引き裂くように目の前の男を八裂きにしても良いと思ってる。



「おい。そこまでだ。もう、それは止めろ」



 何の前触れもなく、突然校長(ゴリラ)が隣に立っていた。

 ああ、助けに来てくれたのか、でも俺は…



「止めろ、アツシ」



 ゴリラは俺の前に立つ。


 止めろ?

 何だ、俺に言ってるのか?

 何を?

 俺は、これから、あいつを……

 あいつを、



「いいから、止めろ。それは駄目だ。この街ごと壊す気か」


「……何……?」



 ゴリラの言葉に我に返り、俺が周囲に広げている『保温(プリザーブ)』に意識を向ける。

 それは俺の意識とは別に動き、周囲を呑み込み破壊していっている。

 ああ、ゴリラはこのことを言ってるのか?

 俺はその言葉に従い、その『保温』を制御しようとする。


「…………え?」


 だが、途端に、俺の周りに集まっていたエネルギーが意思を持ったように暴れまわる。

 周囲の地層を削り、金属の隔壁を削り、周りにある全てを食らうように、外に出て行こうとする。


 俺の意思では無い。

 何かが、俺の中を通り抜けて外に出ようと蠢いている。


「ちょっ!? な、なんだこれ!?」


 突然制御が効かなくなった自分の力に焦る俺。

 急に悪い夢から覚めた様に意識がはっきりとして来る。


 ……おいおい。

 なんだこれは?

 やばい。これはこのままじゃ、絶対にやばい。


「まだ間に合う。お前の中で話しかけてくるヤツがいるはずだ。そいつを、切れ(・・)


「はあ!? 切る!?」


 なんだ、このゴリラ、何を言っている?


 俺の中で話しかけてくるヤツなんて、二重人格者じゃあるまいし……


 いや、待て。

 俺はさっきまで……夢の様な感覚の中で確かに声を聞いていた。

 確か、耳の奥の方から、そんなような声が……



『『 ……遊ぼ…… 』』



『『 ……一緒に……遊ぼう…… 』』

『『 ……創って…… 』』

『『 …………壊して…… 』』

『『 ……一緒に……遊ぼ…… 』』



 注意して意識を向けると、無邪気な子供のような声がした。

 それも一人じゃない。幾つもの、重なった声。

 意識した途端、はっきりと声が聞こえてくる。


 何だ、こいつら?

 こいつらを、切る(・・)



「電話切るのと同じだ。切れ(・・)



 ああ、そっちか。

 最初からそう言えよ。

 俺はそれを意識する。



『『 ………… 』』


 ブツン



 あ、ホントに切れた。

 すると俺の周囲に漂っていたエネルギー全てが何事もなかったかのように消失した。

 まるで、それが悪い夢だったかのように。


 いや、痕跡はある。

 大きくえぐられた壁面。

 気づけば、俺から半径数十メートルの構造物が消滅している。

 なんだ、これは? これ、俺がやったんだよな?


「カハッ……カハハハッ」


 気づけば、俺に殴り飛ばされ顔の形の変わった男が立ち上がり、こちらを凝視していた。


「がハッ………あハハはははハハハ!!!」


 そしてその男は口元に三日月のような亀裂を浮かべて嬌笑しはじめる。


「何だこれは!? 素晴らしいいい!!!素晴らしいいいいィ!!!!」


 折れた腕を引きつらせながら絶叫する男。

 完全に狂った形相の男の姿がそこにはあった。

 その姿に嫌な予感を覚えた俺は倒れている霧島さんに駆け寄り、肩に担ぐ。


「ここに根源系が三人(・・)もいるだと!? そんな馬鹿な!! 馬鹿げている!!! こんなこと、確率的に有り得ないッ!!」


 男の絶叫が空洞に反響し、俺はその姿をただ呆然と見つめていた。

 それしかできなかった。

 その光景はそれぐらい、異様だった。

 手足がバキバキに折れていると言うのに、そんなことは意に介さず天を仰ぎ、祈るように叫ぶ男。


 男は一人、思考に耽るように言葉を続ける。


「そうだ、そうなのだ。『根源系は惹かれ合う』。いや『引き寄せられている』。私の仮説は……やはり」


 男がそこまで口にしたところだった。


 ドゴン!!!


 轟音と共に突然、能面のような顔の男の顔面がさらにひしゃげ、同時に手足が折れ曲り、身体中の関節があさっての方向を向いた。


 男はその場で、糸の切れた操り人形のようにボトリと崩れ落ちる。


「かヒッ」


 校長(ゴリラ)はいつの間にかその脇に立ち、地面に沈んだ男を見下ろしている。


「おい誰だ? お前は……」


「……玄野……カゲ……ノ…………」


「顔が違う。体つき(・・・)も……お前は……八葉(・・)じゃねえ(・・・・)な?」


「こ……のまま……私……と…一緒……けヒッ」


 血を吐きながら、引きつった笑みのような表情を浮かべる男。

 男の腹が急に風船のように膨れ、手足が引き攣るようにバタつく。


「チッ、爆弾か」


 そう言った校長(ゴリラ)の姿がブレたかと思うと、同時にその男の姿が消えた。

 直後、遥か上空でとても明るい花火のようなものが町全体を照らす。

 と思ったら、校長(ゴリラ)が俺たち二人を片腕で抱え瞬時に加速し、気づけば俺たちは帝変高校の校庭に立たされていた。


「ここで、待ってろ。残り(・・)を捨てて来る」


 校長はそれだけ言うと、またすぐに姿を消した。


 俺は霧島さんを抱えたまま地面に降ろされたが、そのままその場に座り込む。

 足に、力が入らない。

 体中の痛みの感覚も戻ってきている。

 いろんなところが、ぶっ壊れているのが分かる。

 ああ、だんだん目の前が白くなってきた。

 意識がもう、完全に飛ぶ寸前。


 ふと、辺りが少し明るくなったような気がした。


 見上げると、空に無数の光の玉。

 それが真昼の星のように輝いているのが見えた。


「芹澤、くん?」


 俺の腕の中から、声がする。


 ああよかった。目を覚ました。

 彼女はちゃんと、生きている。

 薄れゆく視界の中で、今にも泣き出しそうな彼女の顔が見える。


「……よかった、生きて……た」


 俺はそれだけ言ったところで目の前の風景は完全に真っ白になり、そのまま彼女に向かって崩れて落ちていった。

ブクマや最新話の下からの評価をいただけると、継続のモチベーションが加速度的に上がります

気が向いたらよろしくお願いします

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