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73 根源系2 霧島カナメ

「ここは……?」


 私は目を覚ました。

 見知らぬ天井。

 金属質の板のようなもので覆われた、白銀色の天井。


「おはよう、霧島カナメさん」


 声がする方に振り向くと、そこには白衣を纏った能面のような顔の男が立っていた。見回すと様々な機械類。設置されたモニターには心電図のようなものが映し出されている。


「手荒な真似をして済まなかった。あの時は説明している時間がなくてね」


 男はその能面のような顔に亀裂のような笑みを浮かべ、私に語りかける。


「ここは、地下1000メートルに作られた研究施設だ。とても安全な場所だよ。核攻撃でもそうそうは傷つかない。君のために作った、特別な場所だ」


 男は戸惑う私に構わずに言葉を続ける。

 地下1000メートル?


「私はこの時を待ち望んでいた。君と、二人きりで会える時を」


 男は抑揚のない声で話しながら、薄暗い室内に佇んでいる。


 私は直感する。

 おかしい。この男は、何かがおかしい。

 このまま近くにいるのは、危険だ。

 私は寝かされていた固いベッドを飛び降り、咄嗟に男から距離をとった。


「えっ!?これ……」


 気がつけば、私は緑色の手術衣のようなものを着て居た。

 今まで制服を着て居たはず。

 これは一体……


「悪いとは思ったが、着替えさせてもらったよ。心配はいらない、私が興味を持っているのは君の()だけだから」


 そうだ。思い出した。


 私はこの男に会ったことがある。

 侵入者達の学校への襲撃。

 その終息宣言が出され、私が他の生徒と合流しようとしていた時だった。

 この男が突然私の目の前に現れ、目が合い、そしてその瞬間私の意識が途切れて……


「会いたかったよ。この日をずっと夢見ていた」


 その言葉に、全身に怖気が走る。

 男は両手を横に拡げながらゆっくりと近づいてくる。


「来ないで。『桜花(オウカ)』」


 私は全力で刃の嵐のシールドを展開する。

 小さな刃の群れが金属質の床とぶつかり火花を散らす。


「すごいすごい。君は異能の使い方を学び、とても、上達したようだね」


 パチ、パチ、パチ


 男は子供を褒めるように手を叩く。

 顔には亀裂のような笑みをこびりつかせたままで。


「でも、君はまだまだそんなもの(・・・・・)じゃないんだ」


 突然身体が縛り付けられるように軋み、私の手足が見えない何者かに掴まれたかのように宙に引き上げられる。

 私は、そのまま宙吊りになって何もない空間に固定された。


「そんなものじゃあない筈だ」


「うっ……?」


 身体が動かせない。

 やはり、この男は異能者。

 それも、相当に強力な異能の保持者。


「私は君の可能性を知りたい」


 男は私を空中に縛り付けたまま話を続け、ゆっくりと歩いて近づいてくる。


 体はもう、動かせない。

 シールドは展開したままだが、このままでは駄目だ。

 この男の異能の正体が分からない。


「『無尽の刃(ビリオンエッジ)』!」


 私は男の命を奪うことも覚悟して、全力で異能をぶつける。

 嵐のような刃の群れが男に向かって飛んでいく。


 だが、私の渾身の一撃は男の直前で綺麗に二つに裂け、すり抜けていった。

 それはそのまま後方の金属壁へとぶつかり、僅かに亀裂を作っただけだった。


「今の君はこの程度なのか? いや、そんな筈は無い」


 男は首を傾げながら、私の方を見やる。

 何かを思案しているようだった。

 亀裂のような笑みは消え、無機質な目だけが私を射抜く。


「そうだ」


 男の顔に再び亀裂のような笑みが浮かぶ。

 先ほどよりも歪んだ、狂気を感じさせる笑み。


「一旦、解剖してみるか。そうだ、それがいい。残念ながらここにはMRIは無いが、直接状態を見てみれば、良いのだ」


 脳裏に芹澤くんの顔が思い浮かぶ。

 私はここで……何もできず、訳も分からず、この男の実験材料のようなものにされるのか?


 嫌だ。

 私だって、少しぐらいは戦えるぐらいに強く……


 いや、強くなったつもりだった。


 でも、私は弱い。弱いままだった。

 それを、こんなところで知ってしまった。


「『桜花(オウカ)』」


 私は再び、全力でシールドを展開する。


 刃の群れが私を覆い金属質の床や壁とぶつかり、激しい火花を散らす。

 これ以上、男を近づかせない。


「また、それかい?」


 男は平然とこちらの様子を伺う。

 顔には落胆の色。


 そう、この男には私の攻撃が通じない。

 それはもう、確認済みだ。

 だから……


「『無尽の刃(ビリオンエッジ)』」


 私は天井(・・)に向かって思い切り、全力で異能をぶつける。

 全身全霊。私に絞り出せる最大出力。

 刃の群れは火花を上げながら天井の金属板に吸い込まれていく。


 地下1000メートル。

 男の言っていたことが本当か、それは分からない。

 本当だったら、それを貫けるとは思わない。


 でも、これが今の私の精一杯の抵抗。

 助けを求めること、異変を知らせること。

 それが、弱者としての精一杯の悪あがき。


 私の小さな刃は、少しづつ地を掘り進んでいく。


「素晴らしい。素晴らしい持続時間だ。霧島カナメさん」


 男はまた、パチ、パチ、パチと手を叩く。

 できの悪い子供が、普段しないことしたことを褒めるように。

 終始無表情で、賞賛の言葉を口にする。


「だが、あまりここを知られるわけにはいかないのでね」


 男は私に近づいてくる。


 それでも、私は刃の生成を止めない。


 穿て。少しでも、掘り進め。

 私の生み出す刃は一枚が弱く脆くても、それを重ねていけば、いつか……


「少し、寝ていてもらおうか」


 だが、男と目があったその瞬間、私の意識はまた途切れ、天を穿とうとしていた私の刃も全て、消滅したのだった。

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