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72 異能の根源

 世界の異能研究者たちは皆、勘違いをしている。

 異能の在処を。

 異能の根源(・・)が、どこにあるのかを。


 そのことをまだ、誰も知らない筈だ。

 私が未だ公表していない部分。国にも報告していない部分。

 そこに最も重要な核心があるからだ。


 私は異能を【第一種】から【第五種】までカテゴライズした。

 それは日本國が公表し、一般にも知られることになった。


 だが【特種】……【根源系(プリンシプル)】。


 奴らはそこまでの情報は公開しなかった。

 それも当然のこと。

 それは現在、日本國が外交上交流のある国家全てを通して最高機密扱いの【レベル6】玄野ユキ、そしてトウホクサイトの管理者として君臨しつつ、表向きは存在しないことになっている【レベル5】の能力者、玄野カゲノブの存在に触れることになるからだ。


 彼ら、【根源系(プリンシプル)】は私の定義上たった二人しか存在しない。


 非常に強力な能力者で、根本の物理原理(プリンシプル)を「どこまでも」操れる危険な存在。

 その意識一つでたやすくこの世界を壊すこともできるし、混乱に陥れることも思いのまま。

 故に、特別に危険で、隔離すべき存在。

 一般の人間がその存在を知ってはならない、また知る必要もない存在。

 故に、【特種】の【根源系】として特別にカテゴライズすべきである。


 国への報告では、そうなっている。

 そのように私が記述したからだ。


 だが、それは私が意図したミスリードだ。

 ただ能力が強力であること。

 気分一つでこの世を破滅に追いやれるほどの力を持つこと。

 確かにそれは万人にとってのこの上ない脅威であり、取り扱いに注意すべき情報だ。


 だが、実際の彼らの重要性はそんなもの(・・・・・)ではない。


 彼らは「違う」。

 決定的に存在のあり方が違うのだ。

 私が【根源】と命名したのは、基本原理のことだけを示しているのではない。

 それはそのまま「源泉」のことをも示している。


 彼らは繋がっている(・・・・・・)のだ。

 どこかの世界と。

 彼らは異能を保持しているのではない。

 彼らが「(ゲート)」になっているのだ。


 二十年前……一人の「根源系」の異能者が出現した。


 私が世界中から収集したあらゆる情報(データ)は、それが全ての始まりだったことを指し示す。


 調査時の口ぶりからして、本人もおそらくは気がついていない。

 自分自身が始まり(・・・)であったことに。

 知らずにゲートとなったその人物は、周りの人間に異能を次々と感染、「発症」させ、それが世界中に広がっていった。データはそれを示している。

 その最初の始まりとなった異能者が……


「玄野ユキ」。


 当時15歳だった、玄野カゲノブの妹だ。


 幼い少女の中にある日突然「(ゲート)」が開通した。

 彼女から全てが始まったのだ。


 異能とは、そこからくるエネルギー。

 いや、情報体と言った方が良いか。

 彼女を通して、それらが次々と「こちら側」に流入してきたのだ。


 その「門」が繋がっている場所を私は「向こう側」、或いは「壊れた神々の世界」(理由:いらないと思う。)と呼んでいる。


 大戦中、国家プロジェクトへの調査協力者として、玄野ユキ、そして玄野カゲノブが軍の研究所に訪ねてきたことがあった。

 異能者増産計画も二号計画まで進み、多数の被験者のデータを通して異能への理解を深めつつあった私は、彼らの脳内を【意思を疎通する者(コミュニケーター)】達にのぞかせた。


 その時だ。

 私がその「向こう側」の存在を意識せざるを得なかったのは。


 彼らの異能野の深淵を覗いた【意思を疎通する者(コミュニケーター)】たちは口々に「彼女たちの奥底に、異様に広い虚無がある」と証言した。

 そして、その虚無の世界は様々な複雑な感情(イメージ)で満たされており、【意思を疎通する者(コミュニケーター)】の多くはそれに感応して発狂し、運よく帰ってきた者も皆、過異能化してしまっていた。

 それも一種類の異能情報でない。

 異能野にありとあらゆる(・・・・・・・)種類の異能情報が書き込まれて、過異能化を起こしていたのだ。


 彼らは処分せざるを得なかったが、おかげで貴重なデータと証言が得られた。

 彼らの証言によると、どうやらその「虚無の世界」はもう壊れてしまっているらしい。

 怨念だけが渦巻く、破滅した世界。破綻した宇宙。

 そこから不可解なメッセージを受け取る者もいた。


 その話を突き合わせていくと、そこからの「逃亡先」として何者かが「こちら側」に流入してきたと考えられるのだ。


 おそらくは、その「何者か」が我々が「異能」或いは私が「異能情報」と定義した存在そのものである。こちら側とは違う原理で動く、何者かがこの世界に入り込んできている。


 その違う世界との結節点となっているのが、【根源系】なのだ。


 現状で世界最強の異能者、玄野カゲノブも彼女に遅れること二年、異能を発症させる。

 それも彼女に影響されたと考えられるが、彼も【根源系】として異能を目覚めさせた。

 彼も玄野ユキと同じく「(ゲート)」になっていたのだ。

 異能自体は遺伝の影響を受けないが、おそらく、それを宿す異能野の容量は身体情報に拠るところが大きいとも考えられる。血は器としての意味を大きく持つのだ。


 彼らはそういう意味でも特別な存在だ。

 彼ら【根源系】は異能帯域からしても、本当に特別なのだ。


 異能帯域は通常の人間を1とすると、異能を行使できる人間「異能者」のそれは100以上ある。

 その領域は慣れた【意思を疎通する者(コミュニケーター)】なら広さのイメージで分かるらしく、個人差があり150の時もあれば1000を超える場合もあるという。レベル4程度の異能者となれば、それが2000~3000となる。


 だが残念ながら【根源系】は計測不能だった。

 深淵を覗いた人間が全てダメになってしまうからだが、一応参考となる証言は得られている。

 潜った後に過異能化して処分されたサンプルの不確かな印象でしかないが、【根源系】能力者の玄野カゲノブ、そして玄野ユキはその領域の広さが100,000や200,000では効かないという。もしかしたら、1,000,000かもしれないし、10,000,000かもしれない。もしくはそれ以上、いや、そもそも底が無い可能性すらあるという話だった。


 よって、【根源系】とは本当に低い確率で得られた肉体的な素養「広大な異能野」の上に、何らかの理由で「(ゲート)」が開通した存在。

 帝国陸軍時代の私はそう仮説を立てた。


 私はこうして、すでに二人も【根源系】の調査機会を得ている。

 だがおそらく、実際はもっといるはずだ。

 この日本にだけそんな貴重な存在がいるなどと考える方が不合理。

 各国でその情報を秘匿されているだけで、探せば、まだいるはずだ。

 玄野カゲノブという後発の【根源系】が存在する以上、きっと「(ゲート)」は彼らだけでは無い。


 当時の私はそんな風にしか考えていなかった。


 だが、 私は無知で、自覚できないでいた。

 私は本当に幸運だったのだ。それを理解しないでいた。

 これだけのサンプルに触れられたのは、世界中探しても私だけだったのだ。

 【根源系】は世界中探しても後にも先にも、彼ら二人しか存在して居ないということを、軍の施設を出たずっと後になって知ることになる。

 私の見通しは甘かったのだ。


 あの六号計画の被験体に出会った時もそうだった。

 異能野の記憶量「異能帯域」、それが異常に発達している少女。

 それでいて、空っぽ。何もない存在。


 彼女は「【根源系】の素質のある無能者」だった。


 根源系異能者と同等クラスの、異様に肥大した異能野を持つ人間。

 開通前の「神の門」といっても良い。

「奇跡の容器」といっても良いだろう。


 極低確率でしか発生しない特別な個体。

 おそらく、玄野カゲノブや玄野ユキと同じレベルに到達する可能性を秘めている。

 私にとって、これ以上のサンプルは存在しない。


 いや、もしかしたら……現存する【根源系】異能者を超える存在が生み出せるかもしれない。

 【意思を疎通する者(コミュニケーター)】からの異能野の観察結果を受けた私の胸は高鳴った。


 しかし、彼女は国の最上級レベルからの依頼個体。

 一切の個人情報を伏せられた上での、能力付与だけを命令された番外個体。

 彼女に私好みの調整を施すことは許されていなかった。

 目の前には、最上の素体。私の心は揺れ動いた。


 だが、私は国に雇われて研究を続ける身。研究の予算は当然、国家からの秘密予算を使って行なっている。


 私は秤にかけた結果、私の興味よりも、現在の地位を選んだ。

 夢よりも安定を選んだつもりだったのだ。

 研究を続けてさえいれば、またチャンスはある。サンプルがここに存在する以上、また探せば彼女のような素体もきっと見つかる筈だ。そう思い、私は素直に命令に従うことにした。


 だが、それは最も愚かな選択だった。


 私は命令どおり、その被験体に云われただけの処置をしてそれで施術完了とした。


 その結果は、完全な失敗。

 彼女に異能が殆ど発現しなかったというのだ。

 処置は成功したはずだ。レベル4相当以上の異能情報も問題なく書き込めた。にも関わらず、彼女はレベル1未満と言っても良いぐらいの貧弱な異能しか発現させられたなかったという。その責任は私に降りかかってきた。


 そして、その直後に終戦。

 突如として私の研究プロジェクトへの予算は切られ、研究所自体の閉鎖が決まった。

 私はすぐに自身の研究成果を持って逃げ出した。


 私は自分の研究を続けるために国の機関に所属したのだ。

 これ以上研究ができないとあっては、そこにいる意味は一切無い。

 施設も、人材も金と時間さえあれば他で再生できる。

 私という人間さえ無事ならば、どこでだって研究は続行できるのだ。


 だが……彼女のことは惜しかった。

 玄野達と同じぐらい、いや考えようによってはもっと特別だった。


 まっさらな下地に、一点の汚れもない広大な異能野。


 いや、一点は汚れている。

 愚かな私が、彼女にどうでもいい異能を追記してしまったからだ。

 だが、それも彼女の異能帯域からすれば宇宙に浮かぶ一片の塵ですらない。


 彼女はほぼ、無垢なまま。


 彼女は、私が何とかしてあげなければならない。

 それができるのは、私だけなのだ。


 そう思い、十年もの間、探し続けてやっと彼女が見つかった。


 設楽応玄の研究所で画面に映る彼女の姿を目にした時は胸が張り裂けそうだった。

 ずっと想い続けた彼女。

 それが、そこには映っていたからだ。

 それも、どういうわけか彼女には異能が目覚め始めていた。

 私が書き込まされた異能とは、別の何かが目覚めはじめている。

 恐らく、彼女が本来目覚める筈だった【根源系】の何か。


 偶然にも、彼女は私が研究所を造営していた街の異能高校にこの春入学してきていた。

 あの【レベル5】、【根源系】の玄野カゲノブが校長を務める「帝変高校」に。


 全ては、運命。

 いや、必然だ。


 この、私の目の前の手術台で眠る少女。

 彼女が、ここに居ること。


 私はこれだけを夢見て、努力し、人生の全てを捧げ、この研究所(いえ)を築いてきたのだから。

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