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71 根源系1

更新ペース落ちますと言いつつの本日2本目。

 あの後、篠崎さんとしばらく話してみたが彼女は自分自身が「篠崎ユリア」だということも認識していた。でも、断片的に玄野ユキの記憶もあるのだという。感情も含めて、それが彼女の中に入り込んでいる。でも、なんでそんなことになったのかは彼女にもわからないという。


 だが、一つ重大なことを彼女は話していた。


 彼女は「芹澤くんの中を覗いた」と言っていた。

 それも彼の異能野の中を。

 『根源系』の異能野を覗いて、無事に生還したということだ。

 そんなことが出来るのか?


 いや、【意思を疎通する者(コミュニケーター)】が異能野を覗くこと自体は訓練次第で出来る筈だという理論的なことは知っていた。その技術が「異能者増産計画」の要になっていたことも。

 でもなんの準備もなしにあの子はそれをやってのけたという。理論的な難しさはともかく、実際にできてしまったのだ。

 前もって知識としては知っていながら彼女に忠告もしなかった私の迂闊さには辟易するが、とにかく今からでも人の異能を覗き込んではいけないと釘を刺して、先ほどお父さんに教室まで送り届けてもらった。


 だが、それも「玄野ユキ」の人格が彼女に入り込んでしまった理由付けにはならない気がする。

 なぜ、芹澤くんの異能野を覗いて「玄野ユキ」が出てくるのか? さっぱりわからない。


 いや、共通点はある。

 あるには、ある。

 だが、それは二人が『根源系』の異能者であるという点。

 逆に言えば、それだけだ。

 それでどうして、篠崎さんに玄野ユキの人格が融合してしまうというのか?

 これは一体、どういうことだ?

 もしや、『根源系』の認識に根本的な違いがある?


 ……そうだ。そう言えば八葉はあの几帳面すぎる性格に似合わず、論文内で『根源系』の定義を明確にしていない。

 それは、故意に明確にするのを避けていたのではないか?

 私は今、そう感じている。


 芹澤くんの異能野の中を覗き、玄野ユキの精神に辿り着く。


 それは、つまり…………


 『根源系』の彼らは、内側で「何か」が繋がっている(・・・・・・)


 荒唐無稽。

 ただの直感。

 でも、どこかしら、的を射ているのではないかという感覚。


 それが、八葉が隠していた『根源系』の本当の定義?

 そもそも、『異能』とは何なのだ?

 あの馬鹿げた力はどこから発生している?

 元々の人体の中から自然に生まれているのか?


 いや……違う。

 それでは、20年前に唐突に異能者が出現したことの説明にならない。


 だとしたら?


 そうか、もしかしたら……


 私の中で、何かの糸が繋がりかける……


 そこへ廊下を走る音がして、一人の人物が保健室に入ってきた。

 1-Aの担任、鶴見チハヤ先生だ。



「メリア先生! 霧島さんが、どこを探してもいません! 早く捜索をしないと!」


「……霧島さんが!?」



 しまった。また迂闊。


 私はデルタ先生の報告で安心してしまっていた。けが人は居ても、死亡者ゼロ。彼女はそう言った。

 だが彼女の異能で分かるのは、あらかじめ定義された空間……校内に存在する生徒と教師の観測データでしかない。

 そこに居ない者は、測りようがない。


 私は慌てて、外に見張りに出ている校長(お父さん)緊急信号(コールサイン)を送る。

 一刻も早く対応をしなければ。



「メリア先生、霧島さんが……どうかしたんですか?」



 私がその声のした方に振り向くと、芹澤くんがベッドから起き上がっていた。

 依然、顔色が悪い。

 あれだけ空中で無茶な高速移動をしたのだ。

 内臓に大きなダメージがあって当然。

 いくら異能が強力だと言っても、結局は生身の人間なのだ。

 今は絶対安静。

 せめて、ヒーラーの神楽さんに応急処置をしてもらうまでは、彼を動かしてはいけない。



「動いちゃ駄目、芹澤くん。……寝ていなさい。あとは私たちで何とかできるから、ね?」



 私のその言葉に、芹澤くんは頷かずに言った。



「もしかして……攫われたんですか?」


「そうと決まったわけじゃないわ。でも……」



 そうかもしれない。

 その可能性は大いにある。



「……悪ければ、そうかもしれない」



 私は明確に答えられずに歯噛みする。



「じゃあ、すぐ助けに行かなきゃ……」



 芹澤くんはそう言いながらフラフラと覚束無い足取りでベッドから降りる。

 今にも倒れそうだ。声も明らかに弱々しい。



「駄目よ、寝ていなさい」



 彼は力なく保健室のヒビ割れた窓にもたれかかっている。

 そうして、彼は窓の外の何かに目をやった。



「ああ、多分、あれだ」



 彼は虚ろな表情でそう言うと、



「『点火(イグニッション)』」



 保健室の壁を突き破り、窓の外へとロケットのように飛び出して行ったのだった。

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