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69 異能高校襲撃事件6

 上空のあの馬鹿げた大きさの物体が、光を放ちながら打ち上げられたロケットのように空の彼方へと飛んでいく。その夢とも現実ともつかない光景を私はただ見上げていた。そこへ、東門方面からチハヤ先生が駆けつけてきた。



「メリア先生。あれは、一体…? 今空を飛んでいるのは……校長じゃないですよね?」


「……あれは芹澤くんです」


「芹澤くんが!? …いえ、今はそれよりも…」


「ええ…」



 目の前の巨大な「異形ヴァリアント」。今は氷川君が攻勢に出て抑えてはいるが、あれを何とかしない限りはまた…



「あれのコアは一体、どこにあるんでしょうね…?」


「ええ、あの「異形ヴァリアント」はあまりにも大きい…元の人の形がどこにあるのかさえ分かりません」


「あの巨体の中からあの小さなコアを見つけ出すだなんて、とても不可能ですよ……それまでの間にやられてしまう」


「ええ…あれの異能野コアを破壊できなければ、いずれ異能漏洩(オーバーフロー)で、学校全体が……」



 氷川君とあの巨大な岩の異形(ヴァリアント)。目の前の校庭で繰り広げられる戦いはチハヤ先生でさえ近づけないでいる。近接戦で頼みの綱の森本先生も今は肥大化した筋肉強化型の異形と殴り合っていて、他のことになど手を出せる状況ではない。


「フフッ…それは逆に言えばそのコアを見つけ出しさえすれば良い、ということでしょう? 美しい先生方?」


 背後から突然、会話に割り込む声がした。

 私たちが思わず振り返ると、そこには…



「フッ……そんなことであれば、君なら簡単なことだよね? ねえ、弓野さん?」


「馴れ馴れしく話しかけないでくれるかしら? 変態が感染るわ。あとこっちに近づかないで」



 長い髪を手でかき上げながら佇む1-Aクラスの御堂くんと、そこから少し離れて立っている弓野さんがいた。それを見たチハヤ先生はすぐに生徒達に言う。



「あなた達!こんなところで何してるの!? すぐに避難を…」


「他の生徒は皆避難させましたので。私は校内の秩序を守る風紀委員(ガーディアン)としてここに居ます。そこの変態はなんで居るのかわかりませんが」


「フフッ……芹澤くんがあんなに頑張っているのに、何もしないわけにはいかないだろう? 僕も彼の親友(とも)として恥ずかしくない行動をしなければね」


「なら、まずいつもの変態行動を辞めなさい……チハヤ先生、コアというのはあのグリーンピース(・・・・・・・)のような小さな球のことですか?」


「まさかあなた、この距離からでも「視える」の…? 少なくともレベル1相当の【見えないものを見る者(シーカー)】ではとてもここからでは…」


「ええ、ここから敵の内部の様子と人体の位置、集中すれば数秒後の未来(・・・・・・)の動きまでは「視え」ます」


「そんな能力、最早……いえ、わかったわ。場所がわかれば私が撃ち抜けるから、位置を教えて頂戴」


「はい、でもあの核は体の中を泳ぐように移動しています。一定の場所には留まっていません」



 その言葉に私は戦慄を覚えた。



「中で移動している……!? それって……!!!」



 それは、すでに中の人の肉体がほぼ消滅して、もう完全に存在が裏返って(・・・・)いるということを示す。状態の進行が早すぎる。いや、あれに与えられた膨大な異能情報量からすると、当然とも言えるのか? ともかくこのままではすぐに漏洩オーバーフローが始まる。こうなってしまっては、本宮先生も雪道先生もどうすることもできない。


「時間がない!すぐに核を破壊しないと…!!!」


 私は思わず叫んでいた。


「それじゃ、行こうか? 弓野さん」

「いいから話しかけないで。 言われなくても行くわ」


 そうして、何でもないことのように駆け出す生徒達。


「ちょっと、待ちなさい!!あなた達!!」



 遅れて、チハヤ先生が後を追う。それを私は咄嗟に止めることも出来ずにただ呆然と突っ立っていた。



「ああ〜、もう行っちゃったよ〜? どうする? ヨモちゃん」

「……まだ間に合う……材料、ちょうだい?」


「お〜け〜!『粘土採取(アタッチクレイ)』っ!」



 そして、また気の抜けた声が校舎の入り口から響いてくる。

 そうして、私が振り返ったそこには、背の高い女生徒が一人と、小さな女生徒が一人。彼女らの脇には粘土細工のような巨大な人形が十数体、出来上がりつつあった。


「『人形操作(マニュピレイト)』」


 小柄な彼女がそう呟くと、その土の巨人達は一斉に岩の巨人に向かって走り始めた。


「お〜し、行ったな。まあ、弾()けぐらいにはなるかな?」

「……盾にするだけなんて、嫌。……打ち返すから」


 人形達は先に走って行く御堂君と弓野さん、チハヤ先生を守るように取り囲み、岩の巨人から放たれる巨石を出鱈目な動きで飛び跳ねながら一つ一つ打ち落として行く。


「お〜。なんか、格ゲー(ストファイ)みたいな動きしてるぞ、ヨモちゃん」

「……あれは、結構やり込んだから」


 目の前で、十数体の人形がそれぞれに複雑で出鱈目な動きをし、襲い来る岩の嵐を次々と打ち落としていく。そんな馬鹿げた光景が繰り広げられる。そうして、気づけば彼らは岩の巨人の目前まで辿り着いていた。




 ◇◇◇




 その時、氷川タケルは焦っていた。生まれて初めての、苦境。


 目の前の巨人はいくら刻んでも、いくら冷やしても、動きを止めない。普通の人間が活動できないはずの極低温に冷やしたところで奴は止まらない。自分の攻撃が、何も通じない。

 腕を落とせば、目のような窪みのある頭のようなところを断てば、攻撃を遅延させることぐらいはできる。それも数瞬。すぐに巨人は再生して攻撃を再開し、自分を殺そうと襲い掛かって来る。楽しいと思っていた瞬間はとうに過ぎた。芹澤アツシが隣にいた時は、正直これも良いと感じていた。そして自分達ならなんとかできるのでは、とも思っていた。でも彼がいなくなってからは、もう苦しいだけ。徐々に削られていく体力。衰えを見せない敵の攻撃。むしろ早くなっていく巨人()の再生スピードと挙動。焦って剣筋が狂い、手にした氷の剣が破砕される。


 彼は、生まれて初めての感情を感じていた。それは、恐怖。避けられない死の瞬間。それが着々と自分に近づいて来るのがわかる。そして彼は自分が飛んで来る大岩に潰される瞬間を想像し…瞬間、体が硬直した。


 自分に向かって飛び来る大岩。直撃コース。

 だが回避行動のスタートが遅れる。岩を断つ剣の生成が間に合わない。普段はしない凡庸なミス。ああ、もう、避けられるタイミングを逃してしまった。自分はこの直撃を受けて…潰されるのか。


「チハヤ先生ッ!!!あれをッ!」


 声がしたかと思うと、背後から高速で飛び来る何か。それは目前の大岩を撃ち抜いて砕き…

 その瞬間、見えない何かに抱き抱えられる感触。


「フッ……一人でよく頑張ったね、氷川君」


 そうして彼の体はフワリと岩の巨人から離れていった。




 ◇◇◇




 私たちは岩の雨を避けて、巨人に近づいた。やっとで射程距離(・・・・)だ。

 周囲を守ってくれていた土人形たちが次々と飛びくる岩に打ち砕かれていく。その破片やあたりに散らばっている瓦礫を使い、チハヤ先生がこちらに飛んで来る岩を次々と撃ち落としていく。氷川君は近接で敵の巨体を切り裂き、攻撃を遅延させている。

 その間、私はずっと様子を伺っていた。

 校内に私が常備しているレーザーライフル(指向性エネルギー兵器)を持ち出してきたが、(バッテリー)は一つきり。あの巨体を撃ち抜くのは一回が限度。私は飛び来る岩の軌道を避けつつ、その隙を伺う。1秒でいい。その間だけ集中できれば…そう思うが、その瞬間が来ない。近接してから時間にしたら、まだ1分も経っていない。それでも随分長い間避けているように思える。


 再び飛び来る岩の雨。その時、数秒後の光景が見える。安全地帯まで、5メートル。長い。武器を捨ててあそこに走らなければ、間に合わない。でも、これを失えば…迷った分、私の足は硬直した。それでも私が岩に潰される未来は視えなかった。なぜなら…


 私の体は、見えづらい(・・・・・)何かに抱き抱えられフワリと浮いた。


「ちょっと、触らないでくれる?」

「まあ、そう言わず。アレを倒すまでの間だけだよ」


 そう言って私を抱きかかえる、御堂スグル(変態)の脇スレスレを岩の弾が素通りして行く。

 彼は今ただ直立しているが、こちらに直撃するような岩は飛んでこない。今、私たちは相手に視えていない。それがわかった。


 そうして、私は担いで来たそれ(レーザーライフル)をゆっくりと構える。私が岩に潰される数秒後の未来は、まだ視えない(・・・・・・)


「フフッ……それ、校内にあと何箇所隠しているんだっけ?」

「覗き趣味も大概にしてほしいわね。プライバシーの侵害で訴えるわよ? これだから変態は……」


「さあ、今氷川君とチハヤ先生が頑張っているところだ。僕らも手短に終わらせようじゃないか?」

「言われなくても…」


 そうして、私は岩の巨人の中に視える小さなグリーンピースのような球体に照準を合わせ、引き金(トリガー)を引く。


 その直後、金属の焼けるような匂いがし、


 ズンッ


 目の前の大岩の巨人の中央に直径5センチほどの穴が空いた。

 その穴からは、向こう側の空がわずかに見えて…


 岩の巨人は、力を失いガラガラと地面に崩れ落ちて行ったのだった。

DATA:風紀委員ガーディアン(帝変高校風紀委員会)

帝変高校校長の発案によって整備された、生徒による特殊機関。普段、一切内政に関わらない校長が唯一立案に関わった制度で、「校内の秩序を守る」という名目だが、その秩序というのが校長の一存で「今の世の中、強い奴が上(秩序)だ」ということになり、校内に「強さ=秩序」という修羅ルールが存在することなってしまった。校内が荒れる一つの原因となっている。力による階級制度によってある種の特権(様々な校内設備の使用、武装許可)が与えられるが、その分非常時には率先して他の生徒を守る「ガーディアン」としての役目を負う。(桐崎モヒカン先輩もどこかで戦っている)

現在、桐崎モヒカン先輩の一件を目にした弓野ミハルは改革を目指して頂点(風紀委員長)を狙う。


///


ある意味上級者向けの設定だらけとなりつつある、同時連載(ペース遅め)『天命の【エクス・マキナ】(旧題:【超絶美少女】公爵令嬢となった俺は自分と結婚したい)』もよろしくお願いします。


https://ncode.syosetu.com/n4293er/


///


ご連絡:書籍化作業に伴い、更新ペースがちょっとだけ落ちます。きっと多分、2、3日に一回?ぐらいのペースになるかと思います。明言はできませんが…!


///


「もうちっとだけ続くんじゃよ」(のじゃロリ)


続きが読みたい、と思ってくださったら、ブクマや最新話の下からの評価をいただけると、継続のモチベーションに繋がります!気が向いたらよろしくお願いします!

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