68 異能高校襲撃事件5
私はちょうど、保健室へ救援に来てくれた他の先生方に篠崎さんを任せ、状況を目視しに正門前の校庭へと出ようとしていたところだった。
私はそこで、予想もしなかったものを目にすることになる。
「「「「 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 」」」
過異能化した異能者の成れの果て、「異形」。
それも、見たことも聞いたこともないような巨大な過異能化個体。
あれは、一体どれだけの……きっと、レベル4相当………いいえ、それに収まらない異能情報を無理やり書き込んだ超過記載状態の異常個体と考えたほうがいい。
あのままでは、異能力の漏洩が止まらない。あの身体の質量は増大し、いずれここ一帯があの異常個体に呑まれてしまうだろう。一刻も早く、あれの「核」を破壊しなければならない。
今戦っているのは、芹澤くん? そして、氷川君?
彼らに伝えなければならない。
それの本体は、たった8ミリ前後の小さな核……それを破壊することでしかあの怪物は止められないのだと。
そう思いながら、私は愕然とした。私は、そこに近づく手段がないことに気がついたのだ。
あそこで繰り広げられるのはあまりに凄まじい戦い。圧倒的な暴力の応酬。
私が一歩でも踏み込めば、一呼吸する前に粉微塵にされてしまう……
しかし、ふとした瞬間にその嵐のような攻防が止み、一瞬の静寂が訪れる。
見れば、先ほどまで悪夢のように岩の雨を降らせていた岩の「異形」が両手を天に掲げ、静止している。
芹澤くんたちも、相手のその挙動を静観し、様子を伺っている。
束の間の静寂。
今だ。今彼らにアレを倒す方法を伝えなければ…
そう思い、私が走り出そうとした時だった。
ふと、辺りが曇天のように暗くなった。
いや、今日は確か雲ひとつない快晴だったはず……
そうして私が空を見上げると。
そこには天を覆わんばかりの巨大な物体。
荒れた岩肌を持った数キロメートル級の黒色の塊が、こちらに向かって落ちてくるのがわかった。
「そんな……!!!!!」
あれが、地上に辿り着いたら。
間違いなく、この帝変高校だけでなくこの街まで……いや、速度によっては周辺都市まで巻き込みかねないクラスの大規模破壊が起きる。あれが落ちるのを許せば、まず間違いなく、都市ごと壊滅。
でも、もう、きっとどうしようもない。
私は即座にそれを理解した。
あんな冗談のような規模のものを即座に何とかできる人物など、この国には存在しないのだ。
……ただ一人の『例外』を除いて。
「………お父さん」
その『例外』は、今ここにいない。
救難信号は既に出した。彼は今、北海道からこちらへ向かっているはずだ。
でも、もう、あの巨大な岩の塊は落ちてくる。
全盛期ならともかく、今のハンディキャップを背負っている校長の状態ではきっと間に合わない。
私は地に膝をつき、絶望的な気分で黒く蓋をされた空を見上げる。
いつも当たり前のように居た、『ただ一人の例外』の不在。
それで、それだけで、帝変高校はそんなに脆いだなんて。
私はなすすべもなく地面に座り込みながら、だんだんと天上から迫り来る巨大な死の影を見上げ……
「ごめんね……お父さん……私……結局、何も守れなかったよ……」
そうして、私が数分後に待ち受ける死を受け入れつつあったそのとき……
目の前の荒れ果てた校庭から土埃を巻き上げ、ロケット弾のように空に飛び出す少年の姿が見えた。
◇◇◇
どうする? どうすればいい?
俺はあそこへ行って何すりゃいいんだ!?
分からない。
分からないままぐんぐんと俺とあの巨石の距離が詰まって行き、俺はすぐにそこに辿り着き…
「『点火』ッ!!!」
俺は目の前の大きな壁…山が一つか二つは入りそうな巨大な塊全体の下の空気を温め、上方向への推進力を与える。瞬時に、巨石の下に分厚い空気の膜ができる。
ゴオオオオオオオオオオオオッッ…!!!!!!
グンッ…!!!
僅かに、巨石の落下スピードが落ちたような気がする。だが…
「駄目だ!!こんなんじゃ間に合わねえよッ!!!」
巨石の落下は止まらない。どうすればいい!?
もし割れば……小さくはなるだろう。
だが、そのまま破片は地上に降り注ぎ、至る所を破壊する。結果は何も変わらない。
どうすれば……!!!
「くそッ!!!やっぱこれしかねえのかよッ!!!『点火』ッ!!!」
そうして俺は最大出力で空気を動かし、巨大な塊に思い切りぶつけ続ける。
今の俺ができることなんてこれしか思い浮かばない。
だが……巨石の落下は止まらない。もう、地上との衝突は時間の問題でしかない。
「出力が全然、足りねえよッ……!」
空気じゃ、駄目だ。もっと何か、何か大きな火力が必要だ。
ここにはない、何か、もっと大きな力が……!
……いや、待て。何か少し違和感がある。
落ち着け、俺。絶対に何か、見落としている。そんな気がする。
火力がない?燃料がない?
………いや。いやいやいや。そんな訳ないだろ。
俺は、何を言っているんだ? お前の目は節穴か?だって、目の前に…
「あるじゃんか……超特大の燃料が」
そうして俺は目の前を覆う巨大な天井に手を当て、巨石の下表面だけを温め続ける。そして、岩の表面がグツグツと煮え始め…
「『熱化』ッ…!!!」
そして俺は岩石を蒸発させて、さらに一気に燃やして推進力に変える。
あとはもう「空気」でやるのと同じ要領だ。
「『点火』ッ!!!!」
目の前を覆っていた巨石が、ロケットよろしく大量の炎を下方に吐き出し、上昇していく。
燃料を「空気」から「岩石」……特大の固形燃料に置き換えただけで、驚くほどの違いだ。
これなら……いける。
「大気圏の外まで飛んできやがれッ!!!!!『熱化』ッ!!!」
俺は「保温」も併用しつつ一気に岩の推進力を増強させ、巨石を上方に打ち上げた。
岩は衛星ロケット打ち上げのように強烈な閃光を放ちながら、下方に火炎を吹き出し、反動で俺は勢いよく下に吹き飛ばされる。
「あっ」
やべっ。反動のことまで考えてなかった。だが、もう俺は「点火」の制御のコツを掴みつつある。空中で姿勢を制御しながら、地面にぶつかる直前で出力を上げる。
ボウンッ!!!
そうして俺は地面を抉りながらまた上空へと舞い戻り、衝撃を受けて剥がれて落下する岩の破片を視野に入れる。
やっぱ、割れてたな。
だが、あれぐらいのサイズなら………!!!
俺はさらに速度を上げ、岩の破片に向かって行く。
「『熱断』ッ!!!」
俺は一つ一つの岩の瓦礫を見定め、一瞬で細切れにして、固形燃料よろしく燃焼させる。
斬撃の後、一瞬閃光が走り……岩石が爆散する。
そうだ、こうやって塵にしてしまえば、落ちても大した被害は無い筈だ。
そうやって、俺は一つ一つ、目についた大きな瓦礫を処理していく。もう内臓がどうにかなりそうだし、さっきから急加速で何度か意識が飛びかけている。それでも、今はまだ、やることがある。今やれるだけやらなきゃ、駄目だ。
そう思い、俺は体が千切れそうになる痛みを必死に堪えながら、また次の目標に向かっていく。
◇◇◇
その時、その街の誰もが呆然と空を見上げていた。
上空に突如として出現した巨大な黒い何か。
街を覆わんばかりに影を落とすそれを、誰もが戦慄とともに、なすすべもなく眺めていた。
突然の、なんの前触れもない脅威。目に見える破滅の予兆。その場で泣き叫ぶ者もあれば、立ち尽くす者……誰もが、即座に自らの生の終焉を予感した。
だが、それは突如光り輝いたかと思うと、浮き上がり……直後、街の上空から爆風が吹き付けた。
そうして、光り輝く物体はロケットのように上空へと遠ざかって行き、すぐにその下で大量の閃光が瞬きはじめる。花火のように光を放つそれは、いくつもいくつも積み重なって行き…
気づけば、街の空全体を光の絨毯が覆い、照らしていた。
遅れて響く爆音の嵐。
それに目を覚ましたツンツン頭の一人の男子生徒は、教室の窓から空を見やり……
「ああ…なんだ、夢かよ…」
そう呟くとゆっくりと教室の自分の席に戻り、再び深い眠りについたのだった。
しばらく更新停止していた自作を、設定や世界観を整備して再開しました。
『天命の【エクス・マキナ】(旧題:【超絶美少女】公爵令嬢となった俺は自分と結婚したい)』
https://ncode.syosetu.com/n4293er/
美貌から連鎖するチートで色々無双するスーパー御都合主義『機械仕掛けの神』がテーマのお話です。【超展開注意】
(設定や世界観を見直した結果、「一人の美少女(心中一人称:俺)が剣一本だけ携えて未来世界や過去世界をポンポン飛び回り、問題ごとやら世界の危機を解決して回るファンタジー」となります。序盤の大筋での変更はありませんが、主人公のキャラが若干変わります。)
こちらもお時間あれば見ていただけると嬉しいです。





