67 異能高校襲撃事件4
帝変高校に備え付けられた核シェルター内に集まった避難者たちの中に、その男はいた。
『『 落ち着いて避難してください。
シェルター内に侵入者は誰一人、入ることは出来ません。
避難後、安心してお待ちください 』』
同じ文言を繰り返す校内放送を耳にしながら、その能面のような顔をした男は静かに時計を見やり……小さな声で呟いた。
「そろそろ、時間か」
◇◇◇
「いたぞ!あの少女が『依頼対象』だ!捕獲しろッ!」
校舎内に入り込んだはいいが、俺は神楽を背にして次々と襲ってくる侵入者たちの対応に追われていた。
奴ら一人一人の力は大したことはない。多少時間をかければなんとかなる。
だが…
「数が多いなッ……」
問題はその数だ。奴らは飛び道具を多用してくる為、その全て叩き落とす必要がある。避ければ、後ろにいる神楽に当たる。
こちらからの強火力攻撃も神楽を傷つける恐れがある。とにかく細かく一人づつ倒していく他ないが、奴らは次々と数が増える。今まで五人倒したが、今目の前に立っている奴らは七人いる。どこからそんなに入ってきやがった?
「ガキが…いつまでも抵抗できると思うなよ!?」
「いつまでも時間をかけるな!ガキ一人、一気に畳み掛けろ!」
七人の男から一斉に火球と岩石の飛礫が放たれる。
「チッ!『火球』ッ!」
俺は咄嗟に弱く調節した火の球を複数放ち、飛んできた火球と飛礫を撃ち落とす。だが、俺から離れたコースの飛礫は火の玉をすり抜け、俺の後方に向かう。その先には…!
俺は手を伸ばし撃ち落そうとするが間に合わない。岩石弾はそのまま神楽の方に向かっていく。
「しまッ………」
だがその瞬間、突然広がった漆黒の影のような広がりに、ごぷり、と全ての飛礫が呑まれた。
「……フヒッ、ざんねええん。そんなの通してあげないよお?」
そこには、長い前髪を前に垂らした、猫背の男子生徒が立っていた。
「……お前か、暗崎」
「フヒッ…おれでわるかったなあ、リア充の騎士様? おれ、あっちに行ってた方が良かった?」
「いや、悪いィ。この状況は俺だけじゃ無理だ……頼む、助けてくれ」
「そうそう、人間素直にならなきゃねえ? ま、おれならこんな雑魚ども余裕だけど」
どこからともなく突然現れた暗崎に面食らいつつも、男たちは彼の言葉に不快感を露わにする。
「ガキ共が……調子にのるな……!!!」
そして廊下にバタバタという足音が響き、侵入者はさらに増え、十人が目の前にいる。
「暗崎。神楽を頼めるか?あと、俺の火が行くのを防いでくれ」
「フヒッ。攻守分担、りょ〜か〜い。でも、あんまりアッツいのは嫌だからな?」
「加減はするさ。『火壁』……!」
ゴウ…と音を立てて、奴ら全員の足元から炎が立ち上る。
「あ、熱いッ!? このガキッ!? すぐに止めさせろッ!!!!」
侵入者たちは炎に焼かれながら、また俺に向けて一斉に火球と飛礫を放ってくる。
だが奴らの攻撃は俺に届く前に炎の壁で焼き尽くされ、脇にすり抜けていったものも暗崎の暗闇に呑まれ消えていく。
そして俺は動きの止まった奴らを次々と「火球」で処理していく。そうして、ものの十数秒で片が付く。
辺りには昏倒した男たちの山が出来上がった。
「…フヒッ。もう終わったの?」
「ああ。お前のおかげだ、暗崎。助かったぜ」
俺が振り向いて礼を言うと、暗崎は神妙な面持ちで昏倒した侵入者の山を眺めている。
「…………いや。まだだ。何か動いてるなあ」
「………チッ……また油断しちまったか……本当成長しねえよな、俺は」
そうしてまた男たちの方を振り向くと…
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」
「「「「アアアアアアアアあああああアアアアアアアア!?」」」」
「「ヒャアアあああアアアアアアアアッ!!!!」」
そこには全身を岩石に覆われた人型の化け物が数体と、全身を火に包まれた人型の化け物が数体、不気味な雄叫びをあげてその場で悶えていた。
「…………暗崎、お前の親戚か?」
「………いやあ、残念だけど、こんな奴ら知らないねえ」
◇◇◇
西門に続く、連絡通路。
針葉樹の植えられた林道のようなその通路で、私は二十名ほどの侵入者たちを相手に一人で応戦していた。
パシュン…
ゴッ!
パシュシュン…
ゴゴッ!
回避不能な速度で敵の頭に手持ちのチョークを飛ばし、一人一人、意識を刈り取る。そうして、やっと最後の一人を昏倒させたところで、突然、
「「「「 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 」」」
正門の方向から異様な雄叫びが響き渡り、思わずそちらを振り向くと……
かなり離れた距離からも見える、巨大な人型の岩の怪物が蠢いているのが見えた。
「あれは……まさか、『異形』!?」
なぜ、こんなところに……それにあれはあまりに大きい。あんなサイズのもの、私は見たことがない。少なくとも高位のレベル3相当か、いや…もし、もっと悪ければ…
もしや、この襲撃は…!!!
私は嫌な予感に襲われて振り返り、目の前で昏倒している侵入者を凝視する。そしてその予感の通り、彼らの顔や腕は、あるものはうっすらと炎に覆われ、あるものは硬質な鉱物のようになっている。斬撃を飛ばして来ていた人間の衣服は鋭利な刃物で切られたように裂け始め、肌の周りに無数の薄いヒレのようなものが出来始めている。
「そう、やっぱり、あなたたち……」
それは、私がよく見知った姿。私が、もっとも恐怖する悍ましい姿。一歩間違えば、私もきっとそうなっていたのだから。
「ここに本宮先生か雪道先生がいてくれたら……」
そうは思うが、彼らは立ち上がり、人ならざる声を上げ始める。
私は即座に戦闘の思考を切り替える。そうして呻き声を上げている侵入者たちを見据え…
パシュン
ボシュ
眉間と鼻の間を狙い、頭蓋の中央を撃ち抜く。
頭部に穴を開けられ、倒れゆく人影。
「同情はしてあげる……せめて、人の形のままで逝きなさい」
◇◇◇
「「「「 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 」」」
目の前に現れた異形の岩の怪物はその巨体に見合った大音響で雄叫びをあげる。
馬鹿みたいに大きいな。三階建ての校舎の高さを軽く超えるぐらいの大きさだ。あのスーツ男のどこにそんな質量がしまいこまれてたんだ?いや、さっきまで何もないところから岩飛ばしてたし、そういう異能由来の謎原理か?
「で、どうすりゃいいんだろうな?あれ」
「僕にも、わからない。本当になんなんだろうね? あれは…」
てっきり目をキラキラさせているものかと思ったが、氷川君は真剣な表情で目の前の怪物を凝視している。
「「「「 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!! 」」」
俺たちがあまりに急な変化に戸惑っていると、相手はまた巨大な岩を量産し、飛ばしてくる。さっきよりも量も、大きさも、速度もある。
「とりあえず、戦闘続行ってことだな。『点火』」
「ああ、それなら分かりやすい。『氷飛翔』」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
俺は地面に突き刺さりながら破砕する岩の雨を抜けて、「岩山の怪物」に近づいてさっき思いついた技を試す。もはや本体がどうなっているかもわからないが、そもそも危害を加えてきているのはあっちだ。間違ってぶった切られても俺のせいじゃない。
「『熱断』」
スパァン…!
岩山の巨人の右腕が根元から落ち、地面にズズン…と重い音を立てて沈んだ。しかし……
「うわ、再生するのかよ……!?」
根元から切断されたはずの腕が、付け根から盛り上がりモコモコと湧き上がるようにまた再生される。心なしか、さっきよりも大きいしゴツい。
そうして、岩の怪物は巨大な両腕を振り上げ、空にまた大質量の岩の群れを生み出す。それらはまっすぐ俺たちを狙ったように一斉に飛んでくる。今までになかった追尾弾だ。
ヤバイな、だんだんと器用になってやがる。だが…
「『熱断』」
俺は岩の一つ一つの弾道を見極め、最小限の動きで躱しつつ、自分に当たりそうな岩弾だけ細切れにして被弾を防いでいく。剣道教室の鬼による稽古と、玄野家のゴリラによる特訓が、今、俺の中で融合してしまった感じだ。
不思議と、彼らに対して感謝の念はなく、怨念しか湧いてこない。なんでだろうなぁ???
「『氷の盾』」
氷川君も巨大な氷の盾を生みだし、受け流したりしながら上手く避けているようだ。さっきよりも動きが良くなってるな? そして、満面の良い笑顔。楽しそうで何よりだが……遊んでばかりもいられない。
「『熱断』」
スパパパァン…!
俺は面で熱することで巨人の体を切り刻んで行く。だが、斬った直後に再生が始まり、奴は以前よりも肥大化した姿で復活する。きっと、「蒸気爆発」で吹き飛ばしたところで同じだろう。
「ダメだ!!埒が明かない!」
「斬っても駄目、凍らせるのも無理……だね」
確かに俺たちに奴の攻撃は当たらない。でも、俺たちの攻撃も奴に通じない。こんな状態ではどちらもジリ貧、決着はつかない。同じような攻防はしばらく続き、お互いにノーダメージのまま地形だけ抉られていく。
そうして、こう着状態が訪れようとした時、ふっと目の前の巨人が攻撃の手を止め、両腕を天に突き上げたまま静止した。しばらく様子を見たが、それでも奴に動きはない。
なんだ? 奴は何をしようとしている?
もしかして…万歳?じゃなくて「お手上げ」ってこと?
もしや相手もこのおあいこ状態を察して、休戦しようってこと?
そうか、アイツも話せばわかる奴だったのかな?
俺がそんなことを思いながらその岩巨人の奇妙な万歳姿を見上げていると…
フッと、辺りが暗くなった気がした。
なんだ?急に雨雲でも出てきたか?
そう思って、俺が空を見上げると………
そこには、視界全てを覆わんばかりの巨大な何か。
いや、よく見ると肌がゴツゴツしていて、岩肌であることが分かる。
それはおそらく、遠目に見て数キロメートル級の巨大な岩の塊。それが、遥か上空からこちらに落下してくるのが見えた。
「……冗談じゃねえぞ……!!!!!」
あんなの落とされたら……この高校どころか、この街ごとぶっ壊れる。ふざけんな!!!!
「『点火』ッ!!!!!!」
あんなもの、どうすればいいのかわからない。
でも、あれがここに落ちてきたら、間違いなく、終わる。
ここにある全てが壊れる。
とにかく、急げ。
一瞬でも速く、空を覆う巨岩にたどり着いてッ!!!
たどり着いて……!!!?
「ああ!!!もう!!!ふざけんなッ!!!!」
ドウンッ!!!!!
俺は考えが何も浮かばないまま、体が壊れるような衝撃を受けながら、わけも分からず全力で空に向かって飛び上がっていた。
さらに続きます。
ブクマや下の評価欄開いての評価と感想をいただけると継続のモチベーションに繋がります。気が向いたらよろしくお願いします!





