66 異能高校襲撃事件3
これは一体、どういうことだ?
俺は、部下どもよりたった5分遅れて来ただけだ。
須藤が帝変高校の教師らしき奴とやり合っているのはいい。
だが、他の奴らはどうした?このポイントには「レベル3」を須藤も含めて四人配置したはずだ。
なぜ、そこに高校生のガキどもが立っていて、うちの若い衆は皆そこらへんで転がっているんだ? お前らは、一騎当千の力を得た筈じゃあなかったのか?
ああ……そうか。そうだな。
分かった。もういい。
そこに転がっている奴らは皆、クビだ。
俺にはもう、部下など不要なのだ。力を手に入れたところで所詮、高校生のガキにも劣る使えん奴らだったというわけだろう。
俺は既に強大な力を手に入れた。「レベル4」に匹敵する力。今ではあの【異能取扱人】に感謝さえしている。俺はもう、一人だろうが何だろうが、どこでだって生きていける。
結局、組織などは弱者の作る群れに過ぎなかったのだ。
群れるのは、弱さの証明。俺はようやく、それに気がついた。
さて。俺はあの得体の知れない【異能取扱人】のご機嫌をとる為に、ひとまず依頼を完遂しなければならない。部下が使い物にならないというのなら、もう、自分で行ってくるしかないだろう。
今まで運に恵まれなかった俺の人生だ。ここいらで取り返してやっと五分五分というところだろう。
◇◇◇
俺たちの周囲には昏倒した侵入者達が転がっている。侵入者で校庭に残っているのは森本先生と戦っているスキンヘッドの男だけだ。
「どうやら、正門周辺の避難はあらかた終わったようだね?」
「ああ、ひとまず見えるところに人はいないな」
正門前の校庭から見える範囲では、生徒や一般来客の姿はもう見えない。おそらく皆、校舎内に逃げ込むことができたのだろう。
だが、今度は正門の外から一際威容を放つスーツ姿の男が現れ、何やらこちらを睨みつけながら近づいて来る。
「また来客か? なんか…あいつボスっぽいな。雰囲気的に」
「じゃあ、今度は僕たちが攻める番だね?」
「仕掛けるのか? 俺、そんなに攻撃手段のバリエーションもってないぜ?」
「ハハ!楽しみだなあ!!!芹澤くんといっしょに戦えるなんて!!!転校してきた甲斐があったよ!!!アハッ!アハハハハッ!!!」
「氷川君、ホントに前の試合で頭なんともなかった……?」
俺たちがそんな雑談をしていると…
「『石雨』 ッ!!!」
その男は空に巨大な岩の大群を作り出し、俺たちのいるところに向かって降らせて来た。
「じゃあ、行くよ!『氷飛翔』!」
「ああもう!ちょっとは休ませろよ団体様ッ!『点火』ッ!」
そうして、大岩の群れが俺たちの近くに着弾する。
ドドドドドドドドッ!!!!!
あぶねっ。ゴリラのよりちょっと速いか? そう思いながら俺はその巨大な岩の雨を躱す。
今は結構「点火」を使いこなせるようになってきてるので、前より楽に避けることができるのだが、いかんせん、降ってくる数が多くて思うようにスーツ男に近づけない。
それでも躱しつつ、相手との距離を詰めようとするのだが…
「そのまま潰れろッ!!『石降』ッ!!!」
さらに今までとは比べ物にならない大岩が隙間無く俺たちの頭上から落ちて来る。
デカい。これはさっさと範囲外に逃げないと…そう思っていると、
「ちょこまか動くんじゃねえ!『石弾』ッ!!!」
追加で水平方向からの同時攻撃。奴はこっちの嫌がることを承知しているようで。伊達にボスっぽい格好してないな。
ああ、もう完全に逃げ場全然ねえや。
これ絶対避けるの無理だな。
でも、アレやると周囲に甚大な被害が出そうだし……
一瞬迷ったが俺は結局…
「氷川君!!俺から離れろ!!『保温』ッ!!!」
自分の周りの温度を「岩が瞬時に蒸発する程度」の超高温に調節し「保温」しながら、スーツ男に突進する。すると……
バァン!!!!!!!!
ボバババァン…!!!!!!!
岩が俺に接触しようとする瞬間、「蒸気爆発」を起こし爆散する。
ガガガガガガガ!!!!!!
そして、岩の破片が周囲に飛び散り、ショットガンかロケット弾のように周りの地面を抉っていく。
これぞ封印技「人間リアクティブアーマー」。あのゴリラでさえ血相を変えて逃げ出した、周囲の環境に甚大な被害を出す外道技。初めてコレをやった時の奴の慌てぶりは今でも俺の心の清涼剤である。かなり周辺にあるものを破壊するので控えていたのだが、今なら地面に穴が開く程度で済む。
そうして、岩の襲来が止む。
周囲にはあちこちにクレーターが出来、酷い有様だ。
そのリーダー格らしき人間は頭から血を流し、倒れている。
………それ、俺のせいじゃないからね?
人に岩飛ばしてきた方が悪いんだからね?
「流石だね、芹澤くん。あの一瞬で攻撃を跳ね返す障壁を作りつつ、敵にダメージを与えるとは…!」
だが…相手のリーダーらしき人物はすぐに立ち上がる。タフな野郎だ。男の顔は怒りで歪み、ただでさえ人相の悪い顔が修羅の形相になっている。
「でも悪いけど、後は僕に任せて貰っても良いかな? 彼……結構遊べそうなんでね?」
とても良い笑顔でどこぞの戦闘ジャンキーみたいなことを言い出す氷川君。どうぞどうぞとばかりに俺は氷川君にその場を譲って相手から距離を取り、校舎側に移動する。ていうか、俺は最初からそれでも良かったからね?
「『氷の剣』」
そして彼は身の丈の三倍はあろうかと言う長大な氷の刀剣を作り出した。いや、元となる身の丈がちんまいので普通の男子高校生からすると2.5倍ぐらいか。形状は真ん中に持ち手がある両刃剣という奴だろう。
彼はその刃で気持ちが良いぐらいにスパスパと飛んできた岩をカットして行く。まあ、太刀筋はなんと言うか、俺の通ってた剣道教室の先生に見せたら「これがお手本ですよ」と一瞬で五本ぐらい打ち返されそうなゆるゆるな打ち込みなんだけれど。
ん。待てよ……ああいう剣みたいなのは出せないけど…
もしかして、「切る」だけだったら俺も出来るか? そう思い…
「熱断」
俺は自分の方に飛んでくる流れ大岩に一本の筋をイメージして、そこだけを面で熱する。
すると…
スパァン…!
あ、出来た。
俺に直進してきた大岩は縦に綺麗に両断され、俺をうまく避けながら両脇にすっ飛んで行く。
これ……結構気持ちいいかも?
そうして俺は次々に「熱断」を試して行く。
次は二太刀、その次は三、次は倍の六。
その次は、十。
さらに、一息で二十。
やっべ、楽しくなってきた。
これ刀の重さとか関係ないからイメージした通りに幾らでもスパスパ切れる。
もしや……集中次第で百とか行けるか?それ以上も?よし。
俺は目的を忘れ、次々に岩を刻んでいく。
スパパァン…! スパパパパァン…!
もっと、もっとだ!
もっとお代わりをくれ!!!
俺が新たな奥義に開眼しかけていると…
「『氷獄』」
キイイイィ…ン……
あっ……
もう終わった。
相手が氷漬けになってしまった。
ボスらしき男は氷の柱の中に捕らわれ、少しも身動きしない。
しばらく待ってみても動く気配はない。……もう本当に終わりか。
少々惜しい気持ちもあったが、俺の方にテクテク歩いてくる氷川君に一応労いの言葉をかける。
「お疲れ、結構早かったな?」
「ああ、思ってたより歯ごたえが無かったね。やっぱり僕は……君とじゃないと燃えないらしい」
爽やかな笑顔と熱い視線で俺を見つめてくる氷川君。……ごめん、俺そっちの気はないですから。
そうして全てが終わったと思い、振り返って森本先生の方を確認しようと思ったその時。
バキイィィ…ン…
氷川君の背後で大きな破砕音がした。
見ると氷の柱が砕け散り、その破片の中心にはさっきの男が佇んでいた。
だが、男はさっきまでとは随分様子が違う。
肌は異様な形の岩に覆われ、顔面も既に人の肌というよりは岩石のそれ。
そいつは石の彫刻のようになった自分の手を眺めながら……何かを呟いている様だった。
「……何だよ……? なんなんだよこれは……
俺は……こんなの……聞いて……」
「なんだ? 独り言……?」
「いや……様子がおかしい」
「おがっ…………あ゛………は゛ッ゛?」
ボッ…
次の瞬間、男の身体は破裂するように一気に膨れ上がり、身に纏っていたスーツをぶち破った。
そのまま男は奇妙な人型の何かとなり……異形とも言える巨大な『岩の怪物』が姿を現したのだった。
まだ続きます。
ブクマや下の評価欄開いての評価と感想をいただけると継続のモチベーションに繋がります。気が向いたらよろしくお願いします!





