65 異能高校襲撃事件2
私、玄野メリアはその時保健室にいた。
1-A担任のチハヤ先生と一緒に、意識の戻らない篠崎さんを見守っていたところだった。
『『 不審者の集団の侵入を確認しました 非戦闘系の生徒、及び一般ゲストは速やかに校舎内核シェルターに移動してください 』』
先ほど、校内のいたるところで爆発音が起きた。集団の侵入者だという。何故か、悪い予感というのは当たるものだ。どこかから校長不在の情報が漏れていた?いや、それを考えるのは後だ。
私は念のため、何かあってもすぐに対応できるようにと校内の状況を九重デルタ先生に観測してもらっていた。その監視網を本当に使うことになろうとは……
白衣のポケットから端末を取り出し、緊急回線で校内を観測中のデルタ先生に繋ぐ。
「デルタ先生、現在の状況は把握できてますか?」
「「 はい。データは取れてます!今解析中ですよ〜!現在の観測立体からのデータによると、侵入者は正門から36、東門から25、西門から31。多分、山手からも来てます! 」」
「わかりました。多いですね…!」
私はその数の多さに、内心舌打ちをする。大掛かりな襲撃。やはり、校長の不在の情報が漏れていたとしか思えない。目的は一体、何だ?
「「 今、正門校庭で森本先生が応戦中。西門には雪道先生たちが迎撃に向かってますが、既に校舎内にも侵入されてる様です! 」」
「わかりました。継続して監視をお願いします。チハヤ先生…東門をお願いできますか?」
「はい!すぐ行きます!メリア先生、篠崎さんをお願いしますね!」
チハヤ先生は保健室を出て東門に向かう。
今、保健室のベッドには、昨日の授業中に倒れた後に運び込まれた時から昏睡状態の篠崎ユリアさんが寝かせてあり、私とチハヤ先生で交代でつきっきりで様子を見ていた。本宮先生は「処置はちゃんと終わった」と言っていたが……彼女は、一向に目を醒ます気配はない。彼女をこのままにはしておけない。
他の先生にも救援依頼は出したが、それまで誰かがここを守る必要がある。でも、私は……
その時だった。
バァンッ!!!
保健室の窓ガラスが激しく割れたかと思うと、すぐさまそこから数人の男達が入り込んで来た。
「いたぞ。『依頼対象』だ。コイツを連れて帰れば…!」
私が身構える間に人相の悪い男達の人数は増え、篠崎さんと私はあっという間に囲まれ……気づけば、完全に身動きのできない状況に追い込まれていた。
◇◇◇
『『 落ち着いて避難してください。
シェルター内に侵入者は誰一人、入ることは出来ません。
避難後、内部で安心してお待ちください 』』
生徒会室の隣にある放送設備室。
目の前では校内放送設備の前で、生徒会長の水沢先輩が携帯端末で情報を集めながら、せわしなく方々に指示を出している。
緊急時のマニュアルでは先生の誰か、もしくは生徒会の人間がそれをやることになっているが、現在先生方は迎撃と避難の誘導に追われ、先にここに辿り着いた水沢先輩がその役目を果たしている。
「悪いけど、他の生徒会のみんなは避難誘導に回ってるわ。霧島さん、あなたには放送設備室の護衛をお願いするわね? でも、危なくなったら逃げるのよ?」
「はい」
今や、ここが即席の管制室となった。ここを守りきらなければ、校内の状況がさらに混乱をきたし、余計な死傷者を出すことになる。その重要性は曲がりなりにも軍人の娘として、私なりに理解しているつもりだ。
「「あの放送はここからだ!仲間と連絡を取られると面倒だ。先に潰せ!」」
当然、敵もその意味を理解していて攻めてくる。
廊下から怒号が響き、重厚な防弾ドアをガンガンと叩く音がする。
だから……
「水沢先輩、私、外に出ますね」
「本当に無理はしないでね。危なくなったら逃げなさい」
「はい、大丈夫です。『桜花』…」
私は目の前に小さな刃を目一杯出現させーー
「『千の刃』」
ドンッ!!!!!
それで放送設備室の防弾ドアを破壊し、その背後にいるであろう敵ごと吹き飛ばす。そうして私が放送設備室から廊下に歩いて出ると、そこには数人の屈強な大男達が待ち構えていた。
「てめえら!何ぼさっとしてやがる!! こんなガキなど叩き潰せ!!」
人相の悪い男が怒鳴りつけると、立ち並ぶ彼らの手から一斉に火の玉、岩石弾、無数の斬撃が放たれた。しかし…
「『桜花』…」
ボシュッ…!
それらは全て、私の生み出した数万以上の小さな刃の嵐に切り刻まれて、一瞬でかき消され…
「『無尽の刃』」
ドゥンッ!!!!!!!
私はそのまま、生み出された刃の群れを男達に放ち、思い切りぶつけた。男達は長い廊下の端まで吹き飛ばされ、壁に体を打ちつけて昏倒する。彼らの衣服はズタズタになり、もう動く気配はない。
私はその様子を見届けて、放送設備室の中の水沢先輩に声を掛ける。
「水沢先輩、ひとまず侵入者を撃退しました」
「ありがとう、また来たら引き続きお願いね」
水沢先輩は忙しそうに端末でメッセージをやりとりしながら、そう言って微笑むと、またすぐさま放送設備室のモニターの確認と非常時マニュアルに沿った指示出しに戻るのだった。
◇◇◇
『『 落ち着いて避難してください。
シェルター内に侵入者は誰一人、入ることは出来ません。
避難後、その場で安心してお待ちください 』』
校内に非常放送のアナウンスが鳴り響く。
「シェルターはこちらです!焦らずに、誘導員の指示に従って中へと入ってください!」
誘導員が要所に配置され、彼らの避難誘導に従い、生徒や一般来客がバタバタと廊下を走って行く。
その中で、避難者達に逆行して廊下を歩く人物が一人いた。
「まったく。後片付けをする身にもなってほしいものですよ? 時間というのは有意義に使いたいものなんですがねぇ…」
ボサボサの髪をかき回し、ブツブツと独り言を呟きながら外へと向かって歩くその男は、本宮サトル。帝変高校の社会科科目の教師である。
そこに廊下の奥からバタバタという足音が聞こえ、数人の男達が走ってくるのが見える。帝変高校の教師でもない、生徒でもない。この騒動を引き起こした侵入者達だ。
それを目にすると本宮サトルは何を思ったか、彼らに向かって大きく手を振り、
「お〜い!こっちこっち〜!ここですよ〜!早く早く!!こっちに来てくださ〜い!!」
その侵入者たちに向かって大声で呼び込みを始めた。
その呼び声に気がつき、走って近づいて来た男達は、怪訝そうな顔をしている。仲間と思って近づいたら、知らない顔の男がそこにいたからだ。
「なんだ、お前は?ここの教師か?」
「そうですよ? あなたたち、最近手術を受けましたね?」
「……なぜそれを知っていやがる!?」
「やれやれ、粗悪な模造品がいっぱいですね〜? 知ってます? 不良品はクーリングオフ出来るんですよ? 私は言ってみれば、その代行業者ですかね〜?」
「あ!? 何を言ってやがる?」
「いやあ、ともかく、これだけ近づいてもらえれば効率がいいんです。ちゃちゃっと、まとめてやりましょう。『消去』」
男達はビクン、と一瞬痙攣し、数秒すると意識が戻って取り乱し始めた。
「何だ……!? てめえ、何をしやがった!?」
「……別に、なんとも……ないようだが……」
「いや……異能が、発現しないぞ!?」
「何故だ!?手術は成功したと……」
「模造品はですね、天然物と違ってデータ欠損したら二度と再生しないんですよ? だから、これで綺麗さっぱり、貴方達は一般人です。良かったですね〜!」
「てめええええ!!!!」
激昂した男たちは華奢な本宮サトルに一斉に殴りかかってくる。しかし…
「『消去』」
「あうっ……?」
男達は走って来る勢いのまま足をもつれさせ、転げるように崩れ落ちた。
「時間がないので運動野の記憶を削っておきました。そこで、大人しく待っててくださいね〜? あとで、他の記憶も綺麗さっぱり消してあげますから」
本宮サトルはポケットから携帯端末を持ち出し、「ひい、ふう、みい…」と男たちの人数を数え、メモパッドアプリに何かしらの数字を書き込み……
「それとあなた達、さっきの自分達の状態が分かって無いと思いますが……あのままじゃ過記載で人間の姿を保てなくなってましたよ? その分の料金もちゃんといただきますから、悪しからずね?」
そういうとまたスタスタと廊下を歩いて行った。
◇◇◇
保健室に雪崩れ込んで来た男たちは、ベッドの脇に立つ玄野メリアを囲んだまま、しばらくの間、彼女を眺めるように佇んでいた。
「へへ、抵抗しないのか?金髪の美人さんよ?」
「抵抗なんて出来るわけねえだろ? 非戦闘系の異能者だろうよ、保健室にいるなんて」
「それにしても……いい女だな。なあ、別に、好きにしていいんだろ?」
玄野メリアは虚ろな目で俯いたままだ。
肩が震え、指先も小刻みに揺れている。
「はは…怖いのか?大丈夫。悪いようにはしねえよ…」
「そうだぜ? あんたには、いい使い道があるからよ?」
「ちょうどいいじゃねえか!ベッドがある部屋でよかったなァ!金髪の姉ちゃん!!」
「ぎゃははははははは!!!!!」
心根の腐った男たちの、下卑た笑い声が保健室に響き渡る。
彼女は唇も震え、顔面は蒼白だ。
全身が何かを恐れるように痙攣するように震えはじめた。
「はは!そんなに怖がるなって!優しくしてやっから!!!」
「ここにいる全員を相手にするのは、大変だと思うがなァ」
「ゲヒャヒャヒャ!!」「誰だ!?誰が一番に行く!?」
「おい、そこで寝てるガキも結構……」
「ああ、手を出すなと言われてるが、黙ってりゃ分かりゃしねえよ」
腐った男たちが腐った会話を繰り返し、話題がベッドで眠る篠崎ユリアに及んだところで、玄野メリアは一言、呟いた。
「……こんな力、二度と使いたくなかったのに……お父さん、ごめん」
「あ?」
「『壊死』」
彼女がそういうと廻りすべての人影が、べちゃり、と地面に潰れ、そこから赤黒い液体が染み出した。途端に、保健室内は静寂に包まれる。
「ああ……私……なんで、こんなこと……また……」
彼女は周囲にできた血の塊を悲しそうに見つめ…篠崎ユリアの眠るベッドの脇に崩れ落ちると、ベッドに顔を埋めた。
「……もう……こんなの……嫌……お父さん……」
力なく祈るようなその呟きは誰にも聞き取られることはなく、校内に響きわたる喧騒に呑み込まれていった。
続きます。
ブクマや下の評価欄開いての評価と感想をいただけると継続のモチベーションに繋がります。気が向いたらよろしくお願いします!





