64 異能高校襲撃事件
本日2本目の投稿です。
お昼過ぎのちょうど一時をまわる頃。
赤井と神楽さんの焼きそば屋台当番が終わり、俺と霧島さん、神楽さん、赤井と四人で「モヤシマシマシてんこ盛りヘルシー焼きそば」を仲良く横並びで食べようとしていたところだった。
突然、校内の至る所で爆発音が響いた。
俺たちの近くでも大きな爆発音と、悲鳴が上がる。
俺が咄嗟にその方向を見ると、三十人ほどの人相の悪い男達が…破壊された校門からぞろぞろと学校の敷地内に入って来るのが見えた。
騒然とする校内。
『『 不審者の集団の侵入を確認しました 非戦闘系の生徒、及び一般ゲストは速やかに校舎内核シェルターに移動してください また、生徒会員はすぐに生徒会室に集合してください 』』
校舎の屋外スピーカーから校内アナウンスが流れる。
生徒会長の水沢先輩の声だ。
「ごめん、私行かなきゃ。神楽さんもすぐシェルターに移動して」
「ああ。赤井、神楽さんを送ってやれよ」
「悪ィな。そうさせてもらうよ。お前は?」
「俺も、ちょっと様子を見たらそっちに行くよ。嫌がらせの足止めぐらいはしてやるさ」
「無理すんな、奴ら……危ねェ匂いがする」
「ああ、分かってる」
そうして彼らは校舎に向かって走り出す。
俺は一人その場に残り、侵入して来た奴らの様子を伺う。
土壇場の成り行きで殿っぽい役割になってしまった俺だが、内心かなりビビっている。
あの迷彩ジャケット野郎や白衣の男と対峙した時の恐怖は、まだ俺の肌に染み付いている。
多少強くなったとはいえ、まともに戦って、奴らみたいなのに単身で勝てるのか?
奴らの目的も、能力も全くわからない。
おまけに、数が多い。数十人はいる。
もし、あれの全部が異能者だったら?
だが、ここで俺がただ逃げて奴らをそのまま校舎内に入れてしまったら、神楽さんや篠崎さん…戦えないみんなをより危険に晒すことになる。
……そんなん、ちょっとかっこ悪いじゃんね?
俺が生まれたての子鹿のように震え始める足を必死に抑えていると、ウチの高校の体育教師、森本先生が校門まで歩いて来た。
森本先生は人相の悪い男たちの前に単身歩み出て、先頭の刺青スキンヘッドの大男の前で立ち止まる。
「ハハハ!駄目じゃ無いか、キミ達!ここは学校の構内だぞ。入場したいなら身分証明書を見せて…」
違う……!
違うよ森本先生。
ここはそんなボケをかます場面じゃ……!!!
「うるせえよ。邪魔だ」
ドガン!!!!!
森本先生は何かの強力な力に吹っ飛ばされ、猛烈な勢いで遥か後方の校舎に激突した。
先生を中心に強化コンクリート造の校舎の壁にヒビが入り、森本先生はそのまま…死んだ虫のようにボトリと地面に落ちた。
あたりに悲鳴がこだまする。
そしてその瞬間、何者かが俺の脇を弾丸のように速く通過した。
俺はそれに全く反応できず、ワンテンポ遅れてその存在を確認しようと目の前に飛んで来た人影に目をやる。
そこには、
「ハハハッ!!!なかなかやるじゃないか!!!」
豪快に笑う体育教師、森本先生がいた。
あれ?
今、アンタ吹っ飛ばされて……
「だが、君たちはまだまだ、筋肉の鍛え方が足りないなッ!!!『筋力強化』!!!」
………
………
ボッ!!!!
一瞬の間を置き、ただでさえ筋肉ダルマだった森本先生の肉体が瞬時に膨れ上がり、もはや戦車か何かのようにゴツい筋肉をまとった鬼のような形相の怪物が出現する。
「 ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ッ !!! 」
その人型の怪物は恐ろしく大きな声で笑いながら一瞬ブレたように掻き消えたかと思うと、侵入者たちに向かって超高速で飛び込み、そこにいる人間をボーリングのピンのように次々と吹っ飛ばしていく。広がる悲鳴。阿鼻叫喚。
だが……
ドンッ!!!
衝撃波と同時に爆発音が響く。
そこで、森本先生の動きが止まった。
そこには、森本先生と同じぐらい筋肉を肥大化させたタンクトップ姿の刺青スキンヘッド男が森本先生の肩を両手で押さえつけていた。
「ハハッ!君は中々……鍛えてるじゃないか」
「…………殺す」
その言葉を合図に巨躯の近接系異能者同士の肉弾戦が始まる。
ドガガガガガガガガガッ!!!!!!!
彼らはそのフットワークで周囲の地面を抉りながら、凄まじいスピードで拳を、蹴りを打ち合っている。
もはや殆ど目で追えない領域の高速戦だ。
嘘だろ!?
突きが……うちの近所の剣道教室の鬼師匠と同じぐらい速いだと?
奴らはもう、人間じゃないな。
……まあ、異能ナシでアレと同等っていう鬼師匠もどうかしてるけど。
そうやって俺が彼らに気を取られていると、人相の悪い男たちの集団は左右に散り、校舎に走って向かう。
しまった…!!!
筋肉ダルマ同士の戦闘なんか観戦してる場合じゃ…!!!!
「『氷壁』」
キイイイイィィン……!!!
あたりに急に冷気の靄が立ち込め、巨大な氷の壁が出現する。
そうしてある者はその壁に阻まれ勢い余って激突し、またある者はその氷の壁の中に閉じ込められ、身動きができなくなっていた。
「やあ、芹澤くん」
そう言って俺の元に現れたのは、転校して来たばかりのレベル4……氷川君だった。
「他の生徒たちは避難を始めたばかりだ。僕らは盾として彼らの役に立つとしようか?」
俺を見ながらにこりと微笑むショタ顔の少年。
周囲を見やれば校庭に佇む帝変高校サイドは俺と森本先生、氷川君の三人だけだった。他の生徒は必死に校舎内へと逃げている途中だ。
落ち着き払った彼の声を耳にして、やっと俺の足の震えはおさまった。
そうだ、何もビビることはない。俺は今、一人ではないんだ。
「ああ、そうだな。苦労して準備したイベントを潰されたんだ。目一杯の嫌がらせぐらいしてやろうぜ?」
俺はそう言い、地面に手をつくと……
「『熱化』ッ!!!」
走る侵入者の近くの地面だけを狙って急激に温めた。
ボンッ!!!!
ボボボボボボッ!!!!!
校舎に向かって走る奴らの足元の地面が地雷のように炸裂し、その爆風で奴らを吹き飛ばす。
「蒸気爆発」。土の成分を瞬間的に気化させ、爆散させたのだ。
運悪くその直撃を受けた者は昏倒し、他の奴らの足も止まる。目論見通りだ。
そんなんできるなら、もっと早くやれって?
だって、そんなことしたら………
「今のは奴だッ!そのガキを先に殺れッ!!!!」
こうなるに決まってる。
柄の悪い男たちが一斉にこっちに向かって来た。
他にも火の玉を飛ばしてくる奴、石を飛ばしてくる奴、斬撃を飛ばしてくる奴。色々だ。
だから…
「あとは頼んだぜ、氷川君? 前のアレ、やれるか?」
「ああ、君との共闘は気が楽だよ。『絶対零度』…!」
彼の異能の力で周囲の気温が急激に下がり、辺りに低温からくる靄が立ち込め、空気中の水分が氷となってキラキラと輝きはじめる。極寒の冷気で奴らの動きがまた鈍る。
俺も似たようなことはできるけど、実はまだあんまり上手くコントロールできないのだ。
下手すると校舎ごとカチコチに凍らせてしまう自信がある。
そうして、奴らの動きが止まったところで。
「『点火』」
俺は爆発的な加速を得て、奴らの飛び道具をかいくぐり、瞬時に距離を詰めて、すれ違いざまに相手の顔に手をやり……
「『熱手』」
ボウンッ!!!!!!!!!
瞬時に温められた空気は爆発を起こし、相手を思い切り吹っ飛ばす。
吹っ飛んだ相手は意識を飛ばされ、そのまま地面に墜落する。
そうやって、地味だが、一人一人確実に仕留めて行く。
時間はかかるが、それでいい。
俺の役割は時間稼ぎだからだ。
派手に動き回ってヘイトを稼ぎ、他の生徒が逃げるまでの時間を作るのだ。
………にしても、多すぎやしませんかねえ?
団体様?
数人は昏倒させたが、まだまだ元気な奴の方が多い様だ。
しかし……俺は違和感を覚えている。
奴ら、誰も彼もがおんなじ様な異能を使って来る様な気がする。
今のところ、火を使う奴、石を飛ばして来る奴、斬撃を飛ばす奴、その3種類しか見ていない。
…あ、筋肉増強する奴もいたか。
でも数十人いるのに、たった4種類?
そんなに被ることってあるの?ダダ被りじゃね?
しかもそれぞれがそんなに強くない。
火を飛ばす奴は赤井の威力には遠く及ばないし、斬撃飛ばす奴なんかは桐崎先輩の斬撃の域にすら到達してない。ましてや、剣道教室の鬼とは比べるのも馬鹿らしいし、石を飛ばす奴なんて、小粒の岩をバラバラ飛ばして来るだけだ。
あのゴリラの大岩避けの拷問の方が遥かに死を意識した。
………やっぱりあの野郎、殺す気でやってやがったな? そうなんだな?
俺がゴリラへの殺意をピキピキと再燃させていると、だんだんと俺の最初の恐怖は薄らぎ、一人、また一人と敵をノックアウトして行くのであった。
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