63 異能取扱人
短いです。グロ耐性無い方は注意。
【異能取扱人】と名乗る妖しげな男が俺たちの事務所に現れたのはつい先週のことだった。
何処からともなく、音もなく突然現れたその男は開口一番、
「力は欲しくないですか? 今なら無料で提供出来ますが」
そう言った。
俺達は当然この唐突な侵入者を許さなかった。
即座にその場に銃弾が飛び交い、男の体を風穴だらけにした。
その筈だった。
だが、その男は何事もなかったかのようにその場に立ち続けていた。
「力が欲しくないですか? 今なら無料で提供してあげられると言っているのですが」
男は先程と、ほとんど同じ言葉を吐いた。
俺はその時、何か悪い夢か幻を見ている様な気分だった。
「ああ。どんなものか分からないから答えようが無いと言う訳ですね?」
男はそう言って、手をぽん、と叩くと
「ではご覧に入れましょう。例えば…」
男がそう言うと…突然、俺の背後から悲鳴が上がった。
見れば、部下がボウ、と音を立てる炎に包まれ暴れ回っている。暫く彼は絶叫をあげながらのたうち回っていたが、床にゴロンと置物のように倒れ込み、炎が消える頃には黒焦げの炭の塊となった。
「これが【炎を発する者】。そして…」
男が指を指したその先…
そこに居た三人の部下達は、突然頭から縦に斬り裂かれたようにパクリと真っ二つになり、そのまま六つの塊となってグチャリと地面に倒れた。
「これが【万物を切断する者】です。まあ、こういうやつです。まだ、サンプルが必要ですか? まだまだありますよ?」
男は化粧品の試供品を提供するかのような気軽さで部下を物言わぬ死体に変えていく。
俺は状況を理解できないまま咄嗟に男に言葉を返す。
「分かった!!それを貰おう。だが、無料とはどう言う事だ?何故それだけの物を…」
「何、少しだけ頼み事があるのですよ。それが終わったら、異能の力は文字通りあなた達自身のモノです。とても良い取引だとは思いませんか?」
◇◇◇
そうして俺達はその得体の知れない男から、異能の力を授かった。
その男から自分の体に何かされるのは、最初は恐怖でしかなかったが、いざ、力を手に入れてみるとこれはとんでもないものを得ることが出来たのだと実感した。
どう言う理屈かは知らないが……もともとレベル2の評価でしかなかった俺が、レベル4相当の異能の力を発現させたのだ。最初にそれを知り、実際に試して見たときは心が震えた。俺は一夜にしてとてつもない力を得たのだ。
他にもうちの事務所の連中はレベル3相当の異能の力を9人、無能力者だった構成員までレベル2相当の異能を発現した。
何人かは「適合しなかった」とかで行方知れずになったが…それはまあ、仕方がない。奴らには運がなかったのだ。
ともかく、これで俺たちは一個大隊…通常兵力換算で一万人かそれ以上…いやそんな規模をはるかに超えた戦力を手に入れた事になる。
本当に出鱈目な話だ。
つい数日前まで麻薬の密売で上納金を作るのに四苦八苦していたような第三派閥の下部組織が、「核兵器級の戦力」を含む化け物の集団になり変わったのだ。
一体、あの男…【異能取扱人】は何者なのだ?
まあいい、どう言う理屈であれ俺達は強大な力を得たのだ。
あの男の本当の目的は分からないが……この仕事が終われば、俺たちは自由の身だという。
とある「条件」を満たせば不気味な奴の監視は無くなる約束だ。
男の出したその「条件」とは、二人の少女を攫う事だという。
「篠崎ユリア」。帝変高校一年、「【意思を疎通する者】S-LEVEL 1 S」保持者。
「神楽マイ」。同じく帝変高校一年、「【傷を癒す者】S-LEVEL 1 S」保持者。
これはどちらも、奴にとって有用な異能を持つ学生だという。
この二人の顔写真と所属クラスの情報が奴から提供されているし、資料には現住所の情報も記載されていた。
攫うだけなら個別にやった方が遥かに効率がいいが、奴は何故か指定の時間に奴らの通う異能高校を襲撃しろと言う。その為に俺達に異能の力を与えたのだと。襲撃時は派手に。そうして、二人の少女を攫って来い、と。
用事はそれだけなので、あとは好きにしていい、とも。
矛盾だらけだ。
きっと、奴はいかれている。
だが…恐らく約束は守る奴ではないかと思っている。現に、もう俺達は強くなったのだ。
既に莫大な報酬と言えるものは手にしている。
今や、俺達は多くの構成員がレベル3相当の超常の力を手にし、その頂点にはこの俺、「レベル4」が存在する、軍隊にも勝る集団だ。
決行は明日の午後一時。
異能高校の教師陣には強者も居るらしいが、この規模の戦力にどこまで抵抗できるものか。
血気盛んな部下達には、「依頼対象」以外の女は好きにしていいと言ってある。
明日が、一体どんな日になるのか……本当に楽しみだ。
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