62 とある春の学園祭
「さあ、持って来たぜ!!!どうだ!!量が多いだけじゃない……最高級グレードの超高級モヤシだぜッ!!」
俺たちはリヤカーに山盛りの大量のモヤシを積んで現れたこの男を前に、一体どうしたものかと目を泳がせていた。
話は一週間ほど前に遡る…
入学早々、イレギュラーな日程の対校戦争やら温泉旅行やらで色々と忙しかった俺たち帝変高校の一年生だが、毎年恒例の春の学園祭、通称「春祭」も例年と同じ時期にやるという事で急遽、演し物を決めるクラス会議が召集された。
それで俺たち1-Aは「じゃあとりあえず焼そばでも作るか」、ということになったのだが、誰が作るかという話題でこの馬鹿が…
「お前みたいなあっためるしか能がない奴でも鉄板ぐらいあっためられんだろ?ここで使わないでいつ使うんだよ?ここを逃したらもう活躍の場はないと思うぜ?」
そんな話をしはじめた。
その言葉にちょっとだけ違和感と頭に若干の青筋が浮かぶような感覚を覚えた俺は、お返しとしてこの馬鹿をひと通り上品にこき下ろした上で、
「そんなお前の宴会芸に毛の生えたようなクッソの役に立たなそうな異能でも、もやしぐらい大量生産して来れんだろ?」
と優しく紳士的な言葉をかけてやった。
その結果が、この目の前に置かれたリヤカー満載のモヤシの山である。
「多いな……今日中に消費仕きれるか?」
目一杯作ってこいとは言ったが、限度というものを知らないこの馬鹿は自宅のガレージで徹夜でモヤシを栽培し続けていたそうで、目にうっすらクマが出来ている。
今更だけど、学校に来てからその場で栽培した方が遥かに効率的で楽だったんじゃ…?まあ、「栽培して持ってこい」っつったの俺だけど。
そういう訳で、今日の俺たちの演し物「焼きそば屋台」には若干の微修正が入り、「モヤシマシマシてんこ盛りのヘルシー焼きそば屋台」の出店となった。
◇◇◇
ジュウウウウウウ……
クラスの皆で色々の準備を終え、焼きそば屋台は無事開店となった。
今日の学園祭は一応地域との交流イベント的なものでもあって、普段接しない異能高校と周囲の住民との数少ない接点だったりする。
入場者は一応全員IDを求められ、結構しっかり身元確認されるらしいが、異能高校としては珍しい、生徒の家族とか外部の者も入れるような割と開けたイベントとなっている。
今の所、店番は俺だけ。
鉄板は俺の完璧な温度調節によりいい具合に温められ、大量の麺とモヤシがジュー、という小気味のいい音を出しながら焼けている。
本来ならあのモヤシ野郎も一緒に手伝っている筈なのだが、徹夜明けで「目の中にモヤシが育っていく姿が見える」とか言いはじめてちょっとヤバかったので教室に行かせて休ませている。
「何だアレ…? 焼きそば?麺がモヤシで見えないぞ?」
「ヘルシー焼きそば?…ほぼモヤシだよな?」
「材料のストックが凄まじいな……なんなんだあの白い山は?」
「匂いは普通に美味そうだが…」
そんな物珍しさに惹かれてか、道すがら購入するお客は結構多く、また食べた後の評判も上々だ。
それもそのはず、このモヤシ大盛り焼きそばは見た目にかなりのボリュームがありつつも、驚くほどあっさり食べられる。
また麺は若干濃いめの味付けに工夫してあるのでモヤシの水分とのバランスが取れ、意外と食べ飽きない。この辺は料理家志望の山岡ジョージ監修。さすがと言ったところか。味付けの議論の最中、自称美食家の海腹ユウが「背脂のないマシマシなど有り得ない!」と何処かから大量の豚の背脂を持って来た時にはどうなるかと思ったが、それも意外と味に一役買っている。
焼きそばと謳いつつも実際メインの食材となるこのモヤシは原価ほぼゼロ(奴の労働対価など存在しない)で大量に在庫があるのでかなりふんだんに使うことが出来る。
しかも植木の「水にはとにかくこだわった」とかいう謎の頑張りのお陰か普段スーパーで売ってる奴より格段に美味い気がする。
そして「ちょっとでも陽に当たると悪くなるから」と生産後、早朝暗いうちから学校に運び込んで、カバーをかけたりして俺たちが来るまで温度管理もしていたらしい。
……早朝? 校門の鍵はどうした? 壊したのか??
その食材にかける情熱……お前、マジで生産者に向いてるんじゃ?
なにはともあれ、人気は上々。売り上げはとても好調である。
◇◇◇
「芹澤くん、お疲れ様!どう?売れ行きは?」
そうして、そろそろお昼も近くなって来ようかという頃。
姿が見えるなり俺に元気に声をかけて来たのは【傷を癒す者】の異能所持者でもあり、その明るい性格でクラスの中の雰囲気まで癒してくれる得難き存在。活発系の癒し系美少女の神楽さんである。
「ああ、好調好調!結構評判イイよ!」
俺は取りあえずこの一時間の売れ行きを簡単に報告する。このままのペースで行けば、あの冗談みたいなモヤシの山を消費しきれるかもしれない。
「お前、一人でやってたのか?そろそろ交代の時間だったろ。オレ達ならいつでも代われるぜ?」
神楽さんの脇でポケットに手を突っ込みながらそう言うのは同じクラスの赤井ツバサ。彼も俺と同じく鉄板を温められる異能の持ち主なので、焼きそばの「焼き係」となっている。
「そうか? 悪いな、じゃあ頼む」
俺はそう言って赤井に手に持った金属ヘラを手渡し、羽織っていた青と赤の祭り法被も脱いで渡す。そう、この二人は次の「焼き係」と「売り係」のコンビなのだ。
普段なら『リ ア 充 め が』と、適切な呪いの文言を掛けてやるところではあるのだが、今は別にそんな気は起こらない。
何故なら…
「あ、芹澤くん!もう当番終わったの?」
俺には……好敵手以上恋人未満という謎の関係性になってしまった霧島さんがいるからだ。
いや多分、きっと俺達はもう「恋人」と言っても差し支えはない……と俺はそう思っている。だって、夜の山小屋で、あんな事までしたんだし?
「ああ、赤井達が早めに代わってくれたからね」
「そうなんだ……水沢先輩が、芹澤くんに話したい事があるって言ってたんだけど」
だがあの後、俺達は普通に山を降り、普通に分かれ、次の日の朝は普通に挨拶をして普通に授業を受けて、普通に別々に家に帰った。
実は、以前と何も変わってない?まるっきり俺の勘違い?
いや、そんな事は無いとは思う。が、彼女に確認してみた訳ではない。でも確認してみてマジで俺の勘違いだったらどうしよう…?とか、ビビってる訳では決してない。ぜんぜん。全く。これっぽっちも。
いや、そういうのも少しはあるかもしれないけど……べっ、別に俺は急いでいる訳じゃないからね?
そんじょそこらの功を焦る愚民供と一緒にしてもらっては困るわけです。
なので、どこかで機会があれば、彼女にそれとな〜く聞いてみようとは思っているのだが……
「水沢先輩が? じゃあ、会いに行ってみようかな。生徒会室に行けばいいの?」
「うん、多分まだいると思う。じゃあ、行こっか? 私も用事あるし。水沢先輩すぐに移動しちゃうから、早く行かないと会えないかも」
なんとな〜く確認する機会を逃し続けて今に至る。
……ま、いっか? 取りあえずこう言う感じの暫定「好敵手」ということで手を打とう。肩書きなんて実際どうでもいいのだ。俺はこうして霧島さんと普通に話していられるだけで結構幸せなのだから。
結局、俺達はよく分からない謎の関係ではあるが……
彼女はその細い指で俺の右手を掴み、ぐいぐいと引っ張って歩いていく。
これ…見た目的にはあれだよね?っぽい?っぽいよね?いわゆる恋人繋ぎじゃないけど……まずい、こんなところをあの御堂スグルどもに目撃されたら……!
俺はそんなことに気を巡らせ、そわそわと周囲を見回しながら歩いていたのだが案外、俺たちを気にするような人間はいない。
ま、まあ、別に珍しい光景でもないか……? そう思い、霧島さんの方を向こうとして首を回していく途中で……
ふと、能面のようにのっぺりとした顔の男と目があった気がした。
◇◇◇
そうして……
帝変高校の「春祭」は何事もなく、お昼過ぎまで時間が過ぎ。
ちょうど午後一時に差し掛かった頃、突如校内の至る所で爆発音が響いた。
近くでも大きな爆発音と、悲鳴が上がる。
俺がその方向を見やると、三十人ほどの人相の悪い男達が…破壊された校門からぞろぞろと入って来るのが見えた。
いつも感想ありがとうございます。時間が取れず全部返せてないですが…目は通させてもらっています。
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