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59 裏山閑話

5/4 人物ファイル「水沢ミスズ」をあとがきに追記しました。

 帝変高校の裏側にある緑深い山。

 その山中の廃れた神社を訪れる人影があった。


 最近、その男にとってはこの神社を棲家としている言葉の話せる狐と会話するのが良い暇つぶしになっていた。


 だがその狐は、狐と呼ぶにはいささかおかしな姿………というより狐ではなく殆ど人間の姿をしていた。

 その背格好はまるで少女のようで、黄金色の長い髪の上に尖った狐耳を生やし、裾の短い着物に、伝説の中で天狗が履いているような一本足の下駄。

 腰からは数本の毛並みの良い尻尾が生え、それらが何か別の生き物のようにふわふわと揺れている。



「よう、狐」


「狐ではない、シロじゃ」


「シロ? 犬みたいな名前だな…」


「そう、ナマエじゃ。アツシがくれたのじゃ」


「アツシ? あいつか……お前もあいつに会ったのか?」


「そうじゃ。それとお前ではないぞ、ヒゲの。シロじゃ」


「俺もヒゲじゃないんだが」


「なんじゃ?お主もナマエをもっているのか?」


「ゴウキってんだ」


「ゴウキ……………ゴウキ………ゴウキ…………? ゴウキか!」



 そのシロと名乗る狐は耳にした名前を口の中で転がし、頭の上の尖った耳をピコン!と立てた。



「ダメじゃ、言いにくい。お主はヒゲじゃ」


「お前なあ………」



 そこにカバンを下げた一人の女子生徒が早足に歩いてきた。



「ここにいましたか、轟先輩」


「ああ、水沢か」


「今週分の教材を届けに来ました。勉強小屋に置いてありますよ。テストもサボらないでやってくださいね?」


「なあ水沢、ちょうど用事があったんだ。前に生徒会の子たちが来ただろ」


「ええ、生徒会の霧島さんと男の子……芹澤くんですね?彼、先輩に触って倒れたって聞きましたよ」


「ああ……変な奴だった。俺に感電して倒れた次の日の朝に、俺の肩を揉んで帰っていったよ」


「轟先輩の肩を?触れたんですか?先輩に」


「ああ、お前以外で俺に触れる奴なんて……初めてだ」


「私は触りたくて触ってるんじゃないんですよ?触った後はちゃんと消毒してますからね?」


「そうか…………じゃあお前、俺の肩揉んでくれ」


「話聞いてます? 冗談言わないでください、先輩。セクハラで訴えますよ?」


「で、用事なんだが……」


「ちょっと待ってください………そこにいる子は?」


「ああ、ここら辺にいる狐だよ。今、ちょっと人間になってるけど」


「狐ではない!シロじゃ」


「先輩、頭大丈夫ですか?あとロリコンは犯罪ですよ?通報しましょうか?」


「いや、本当のことなんだが…」


「女。お主もナマエがあるのか?」


「ええ、私は水沢ミスズ。よろしくね?あと、この人に変なことされてない?大丈夫?危ないと思ったらすぐ大声をあげて逃げるのよ?」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ…?」


「ミズ……サワ……ミスズ……?…ミズサワ……ミスズ……?…………ミズサワミスズか!」



 再び、そのシロと名乗る狐は頭の上の尖った耳をピコン!と立てた。



「ダメじゃ、長い。儂が良いナマエをくれてやろう。お主のナマエはこれからスズじゃ」


「ふふ、いいわ。スズって呼んでくれていいわよ?」


「で、用事なんだがな」


「そういえばスズはアツシを知っておるのじゃ?」


「ええ、会ったことがあるのは二回だけだけどね」


「アツシは次はいつここに来るのじゃ?」


「次?もう来ないかもしれないわ。あの子、生徒会に所属してるわけじゃないから」


「もうアツシはこないのか?」


「いや、アイツはまた俺の肩を揉みにまた……」


「先輩。横から話に入ってこないでください。パワハラですよ?」


「…………」


「なんじゃ、もう来ないのか………」



 そのシロと名乗る狐は悲しそうに頭の上の耳をしょぼんとさせる。



「いえ、また会えるかもしれないわよ? 彼、山の麓の学校に行ってるから案外近いし」


「ガッコウ? なんじゃそれは」


「え? 学校を知らないの? まさかとは思ってたけど……」


「ああ、そいつは説明すると長くなるが……」


「先輩。あなたって人は、どこまで人の道を踏み外せば……!」


「お前の想像してることはわからんが、多分間違ってると思うぞ」


「では、そのガッコウとやらに行けばアツシがおるのじゃ?」


「ええ。いると思うけど、学校には生徒しか入れないからね?」


「セイト?なんじゃそれは」


「う〜んと……そう、私みたいな服を着てる人のことかな?」


「なんじゃ、それなら簡単じゃ」


「それはそうと……あなた早く家に帰らなきゃダメよ?家はどこなの?」


「シロはここが棲家じゃ」


「……可哀想に。先輩。ひとまず通報しておきますから、詳しい話は署でお願いします。聞きたくありませんので」


「おい」


「では儂はもう行くぞ。ちょっと用事ができたのじゃ」



 そういうと、そのシロと名乗る狐はそのまま狐の姿になって走り去って行った。



「え? あの子、本当に……?」


「それで、俺の用事なんだが……」


「では私は先輩にもう用事はありませんのでこれで失礼しますね」


「待て。話ぐらい聞いてくれてもいいだろう」


「では、3秒以内に述べてください」


「肩もみの謝礼をアツシくんに振り込みたい。とりあえず一億ぐらいで良いと思うんだが」


「先輩。頭は大丈夫ですか?あなたの通える病院がないことは知っていますがそれでも心配です」


「いや、振り込んでほしいだけなんだが…」


「額が問題です。わからないのですか?」


「ダメか? じゃあ、10億?」


「先輩。あなたという人は……本物の天才だったんですね。常人にはできない発想の数々、大変お見事です」


「よくわからないが、馬鹿にしてるのか?」


「ご理解いただけて何よりです。もっと、常識というものを勉強されることをお勧めします」


「じゃあ………1000万ぐらいが相場なのか?」


「先輩。あなたは本当に幸せ者ですね? よく今まで騙されず生きてこれましたね?」


「もしかしてまだ多いのか? じゃあ、100万で」


「先輩、お見事です。最初から比べるとだいぶ常識に近づいてきましたね」





 こうしてその日、芹澤アツシの銀行口座には無事マッサージ代が振り込まれたのであった。


人物ファイル048


NAME : 水沢ミスズ

CLASS : 【水を操る者(ウォーターメイカー)】S-LEVEL 2


帝変高校生徒会、生徒会長。三年生である。水の流れを多少であるが動かしたり、空中にバレーボール大の水球を作ることが出来る。あまり多くの水分を一度に操作できないが、遠距離からの操作が可能であり、遠くから水を運んでくることもできる。水自体の成分を操作することも出来る。かなりの距離から「どんなものに含まれる水も動かすことが出来る」ので、実は人体の中の水分(血)を操作する事で容易に死に至らしめることが出来る。本人も理論上は可能なことは知っているがやったことはない。

また、純粋な水「純水」は電気を通さないという性質があるので、電気に対して大きな耐性を持つことが可能である。

そのため生徒会の用事で裏山に出入りしているうちに、学校に来れない轟先輩に毎週「通信教育(帝変高校の教師たちが作成)の教材」を渡しに行くのは彼女の役目となってしまった。


///


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