46 好敵手
「それで変態が〜という訳なので、ご対処お願いします」
俺は弓野さんをはじめとした女子達に向かって、あの部屋で見聞きした情報を洗いざらい、一字一句逃さず話していた。
要するに、密告である。
変態を売り、俺は女子の好感度を稼ぐ。
非常に割の良いトレードだ。
仲間を売った?
野郎どもの好感度など知ったことかッ!!
そもそも、俺はあんな犯罪行為に加担するほど愚かではない。
俺には心の恋人霧島さんがいるし、居候している家に帰れば金髪眼鏡美人のメリア先生がいる。冷静になってみれば、事故を装ってお山を伺うチャンスはいくらでもあるのだ。
今回の趣旨としては、あのモヤシ野郎供が女子に吊るし上げられている時に裏手から颯爽と登場し、奴らに指を差して「 ざ ま あ 笑 」と心の底から嘲笑して差し上げることにある。
まあ、正直、ちょっとばかし興味はある。あるにはあるが、どうしても見たいと言うほどでもない。
まあ、もし万が一、奴らが観測とやらに成功した暁にはそのデータだけをしっかり盗み取ってやれば良いのだ。
実った果実だけ奪い取る。俺はリスクを背負わない。
完璧ッ!!!!
これぞまさに完璧な作戦だッ!!!
さて、奴らを…特にあのモヤシ野郎を罠に掛けるための舞台は整った。
作戦バレしている状況で、どれだけ足掻いてくれるのか………
本当に楽しみですね笑
俺がそんなことを考えていると…
「あの、芹澤くん」
そこには、浴衣姿の霧島さんが立っていた。相変わらず可愛い。いつもの制服もいいけど、こう言う温泉宿での浴衣姿ってのは色気がなんとなく増す。暫定で2割ぐらい増量する。
「ちょっと、外に出て…話さない?」
外に?こんな山奥で何か外に面白いものがあるとも思えないけど…
「ああ、いいよ」
俺は肯定の返事をした。
俺は霧島さんと一緒に居られるだけで至福の時を過ごせるわけだから。行きますよ、もちろん。
◇◇◇
俺たちがバスでやってきたのは山梨の山奥の温泉宿だ。
旅館はもはや文化財級とも言える古い木造の建築物で、戦前はこう言う建物も多かったそうなのだが今やこんな辺鄙な場所にしか存在しない。
温泉宿を出ると目の前には戦争時にできたと言う大きなクレーターがあり、真ん中にはどこからか水が流れ込み、ちょっとした大きさの池になっている。周辺には草木が生い茂っていて、見ようによってはちょっとした公園のようにも思える。
「すごいよね…戦争のときって。こんなのがあちこちにできたんだよね」
「ああ…日本って、丁度、国土の半分がなくなったんだっけ?」
俺はうろ覚えの生半可な歴史の知識を持ち出し、霧島さんの言葉に相槌を打つ。
「うん……戦争中、世界の四分の一の都市が消滅し、陸地は三分の一が消え、人口は五分の一になったって。そんな風に教わったね。」
「まあ、俺たちにしてみりゃ今の五倍も人がいたなんて、そんなの想像もできないけどな? 記録映像とかでは見るけどさ。」
俺たちは旅館の前の木製の椅子に並んで腰掛け、目の前に広がる草木の生い茂ったクレーターを眺めがら会話する。
「ねえ、芹澤くんは……強くなりたいって思う?もう、すごく強いと思うけど……もっと強くなりたいって思うことはある?」
「強く……か」
俺は少し考えると、思ったままのことを話す。
「正直、俺はこの異能を授かった時……いや、授かっていると知った時、「ちょっと無双してみたい」とか思ってたんだよな。男の子の夢っていうか憧れっていうか。でも……」
「でも?」
「今は、そんなに……強くならなくてもいいんじゃないか?って思ってるよ。なんか…そうなる理由がない?っていうか……なんて言えばいいかわからないけど。」
いや、別に強くなりたくないってわけじゃなんだけどな?
かといって、特に誰かに勝ちたいってわけでもないし…………あのモヤシ野郎は別だが。
「そうなんだ。多分、私も同じ。」
「霧島さんも?」
「うん…おかしな話なんだけどね。私は今まで、すごく…強くなりたいって思ってた。二人の姉さんに負けないぐらい、お父さんに認めてもらえるぐらい、強くならなきゃって。そう思ってた」
「そうか、確か霧島さんのお姉さんって有名なんだっけ?霧島三姉妹がどうのって聞いたことあるし」
確かお父さんもなんかド偉い人だったと記憶している。肩書き忘れたけど。
「うん。でもね……それだけだったの。結局、それ以外の理由はなかった。だから、ああ、追いつけるかも……って思った瞬間に、目標が消えちゃった」
「…目標かぁ…」
そもそも、俺には目標なんかなかったもんな…
いや、いきなりアンデス山脈に連れて行かれてうちの高校が廃校になるとか言われて……その時、俺が頑張ったのってなんでだっけ?
確か、メリア先生のあの約束……もあったけど、もう一つ理由があった気がする。
なんだっけ?
「でもね。これもまた不思議なんだけど……今、楽しくって仕方がないの。」
「楽しい?」
「強くならなきゃっていう義務感が消えたのに……私、今ならものすごく、強くなれちゃう気がするの。」
そう言って、彼女は微笑みながら、その結構大きめの瞳で俺のことをまっすぐ見つめてくる。参ったなぁ、ちょっと…そんな目で見られると、なんかこう、すごく、ドキドキしてしまう。
……………だ、誰だ童貞とかいった奴は。誰もいないか。幻聴か?
「それはね、多分、芹澤くんがいるから。」
「俺が?」
「芹澤くんが、私に違う道を示してくれて……それで、私は強くなれたの。自分がなりたかった、自分に近づけた。それでもう、私は結構強いんだって。前の代表戦の時に勝って、そう思っちゃったの」
そういえば霧島さん、代表になってたんだよな。
週刊異能の記事にも出てた。レベル3相手に圧倒的だったって。
「でも……そのすぐ後に、芹澤くんと氷川くんの試合を見たら……もう、全然次元が違ったの。笑っちゃった。私なんかじゃ、まだまだだって…そう思ったらね…」
霧島さんの目にうっすら、涙が溜まっていくのが見える。
マジで泣上戸、涙腺緩いのな、霧島さんって…
「なんだかすごく、嬉しくなってきて……」
「え?嬉しい?」
「そう。すごく嬉しかったの。芹澤くんがあんなに強かったってことが。でも変だよね?負けたくないなって思っちゃった。」
「俺に?」
「そう。だから、私たち……」
わ、私たち…?
私たちが、何??
も、もしかして、こ、恋び……
「好敵手ってことにしておかない?今はまだ、全然追いつけないけど……きっと、追いついてみせるから。」
うん。そうね。そうよね。
ライバルだよね。
俺もきっとそう言うと思ってたよ。
全然、そういうこととか、期待してないんだからね?
「ああ、いいよ。いつでも受けて立つぜ?」
俺は動揺を隠しながら、軽くファイティングポーズをとってみせる。
「じゃあ、今から」
「え?」
彼女はそう言って俺の両手をその細い指で覆い…
急に顔を近づけ、頭をコツンと俺の額にぶつけた。
…全く痛くない。
むしろ、なんかいい匂いがするわけで…
そして顔が、とても、近い。
彼女の息が俺の顔に当たっているわけで…
って言うか、何? この状況。
なんかこう……ちょっと幸せです。
「……今の私には、こんな不意打ちが関の山」
そう言うと、彼女は俺に額をくっつけたまま、ふっと笑顔を見せた。
……ああ、そうだ。
思い出した。
俺はあの時、別に誰のためって訳じゃあなく……
この笑顔が俺の近くにある高校生活を……
霧島さんが俺のクラスにいる高校生活を守りたくって、
あの冗談としか思えない特訓を、必死にやってたんだ。
「でも、いつか………あなたに追いついてみせるから」
彼女はそう言うと……赤く染まった顔をゆっくりと押し付けてきて……
俺の唇にキスをしたのだった。
閑話でした
次が本当の本編?
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