42 激戦の勝者
4/25 良いアイデアが浮かばずそのままにしてあった異能の表記を一新します。それに伴い、人物ファイル表記が「SKILL」から「CLASS(称号的なもの)」になります。また、一話の<異能能力評価指標>にも若干の修正があります。
少し工事しますので、ご了承ください。大筋に変更はありません。
春だというのに氷点下まで気温の下がったコロシアム内。
闘技場に近い座席は凍りつき、所々に霜が降りている。
観客席にいる人々は白い息を吐きながら、この状況を引き起こした小柄な体の選手が、相手選手の腕をつかみ……高く持ち上げるのを目にしていた。
彼は、大きな声で何かを叫んでいる。
そうしてーー
凍てついた会場に試合終了を告げるアナウンスが鳴り響く。
『『 鷹聖学園「氷川タケシ」選手、降参!!! 代表戦、最終戦の勝者は「芹澤アツシ」選手です!!! 』』
会場は………しばらくあっけにとられた後、にわかに熱気を取り戻し…………
割れんばかりの大歓声と怒号、拍手の入り混じった混乱の嵐となった。
「……マジか………これマジかよ………」
「………レベル4の氷川君が手も足も出ずに………降参だと!?」
「……多分、氷川君も本気出してたよな? 隔離されてるはずの観客席まで凍りついてるんだぜ……?」
「芹澤……奴はマジでレベル1なのか?……おかしいだろ!どう考えても!」
「こりゃあ………荒れるな。騒ぎになるな、色々と」
「鷹聖学園も強豪校のメンツが立たないんじゃないか?」
「いや、それより今回はどう見ても………」
「ああ。あの帝変高校の一年組がヤバすぎだろ。あいつら……平気で強豪校を下せる実力があるってことだろ?」
「とはいえ……途中まではいい勝負してたよな?むしろ鷹聖学園の方が優勢な場面の方が多かった気がするぞ」
「ヤバいのは代表戦に出て来た霧島カナメと芹澤アツシだろ?あいつら、ちょっと色々おかしい。いや、代表選に出てくる奴らなんて大体がおかしいんだけど」
「誰だよ?? 霧島三女は無能だなんてデマ流してた奴は……上の姉二人に並ぶ化け物じゃねえか」
「まあ、負けはしたけど俺としては氷川君の全力バトル?が見れて、感無量ってとこだな」
「個人的にインパクトあったのはあの赤井を倒した鷹聖の暗崎君だけどな。彼には非常にマッドな素質を感じる」
「あと、最初の団体戦に出て来てたちっちゃい子な。もう色々とありすぎて記憶薄れてるけど、あれも結構ヤバいと思うぞ」
「団体戦といえば……あの巨大なモヤシ?生やしてた奴もいたな。あいつもちょっと凄かったよな。最後の壮絶な自爆も含めて」
「知ってるか?あの子もそいつも「レベル1<無能>」なんだぜ……?」
「もはや、何が何だかわからないな……」
「お前らなんか誤解してるみたいだけど……異能評価って、基本「S-LEVEL 1」から国に有用性を認められてだんだん上がってくシステムだからな?」
「活躍するほど評価が上がるってことか?」
「今回は評価改めのオンパレードだろうよ」
「異能評価更新祭りだな。次の『週刊異能』が待ち遠しいぜ……」
大騒ぎとなっている会場に再び、最終結果を告げるアナウンスが流れた。
『『 本日の対戦結果は… 団体戦の勝ち点「帝変高校2勝 鷹聖学園2勝」…
そして…… 代表戦の勝ち点「帝変高校2勝 鷹聖学園1勝」…
合計の勝ち点は「帝変高校4勝 鷹聖学園3勝」となります。したがって… 』』
一瞬、歓声が少しだけ静まる気配があった。そうして…
『『 今回の異能学校対校戦争の勝者は、帝変高校です!!! 』』
勝者の名前が宣言されると…
オオオオオオオオオオオオオオオォ……!!!!!!!!!!!
コロシアム内は再び、怒号のような大歓声に包まれたのだった。
◇◇◇
会場に響く大歓声を背にして、俺はみんなの待つ選手控え室に向かっていた。
だが、控え室にたどり着く前に俺は足を止めた。
屋外の廊下に俺の見知ったクラスメイトが何人も立ち並び、出迎えてくれていたからだ。
彼らと一緒だったのは実質、入学してからのたった数日で、そして俺が学校を離れていたのはわずか1週間だというのにその顔がとても懐かしく感じる。
「おかえりなさい、芹澤くん」
最初に出迎えてくれたのは、同じクラスの霧島さんだった。
彼女は、さっきまで何やら泣き腫らしていたようだった。
涙の跡が頬に残り、大きめの目が少し赤くなっている。
やっぱ泣き上戸なんかな、この子…?
まあこういう普通ならみっともないような顔になる状況でも、可愛いと思えるのは美人さんたる所以だろう。うん……むしろ、良い。
「きっと……帰ってきてくれると思ってたよ」
「ああ、遅くなってごめん。心配させたよな?」
俺が遅れたせいで、危うく不戦敗という憂き目に遭うところだった。
心配するのは当然だろうな………
まあ、大体があのゴリラのせいなんだけど。
「試合、すごかったね。芹澤くんがあんなに強いなんて…知らなかった…」
そう言って、彼女は俺の試合のことを称えてくれる。マジでいい子だ。
この上目遣いも相まって、ちょっと本気で惚れてしまいそうになる。
「ああ……俺も自分でびっくりだよ。まさか、相手がレベル4だなんて知らなかったし。勝てるなんて思ってもいなかったよ。」
俺は少し照れながら、率直にさっきの試合の感想を話す。本当に、最初は勝てるなんて思ってもいなかった。それでも、俺は……君がいる高校生活を守りたくって…………
「ううん、私は勝てると思ってたよ。だって……芹澤くんは…………」
そう言って彼女が頬を染めながら何かを言いかけ……俺たちがちょっといい感じになりかけているところに……
本当に絶妙なタイミングで、サラサラヘアーの髪をなびかせた爽やかな邪魔者が現れた。
「……フフ、芹澤くん。君ならやってくれると信じていたよ。なにせ……君は僕の親友であり、ライバルなのだからね。」
そう言って、横から声をかけてきたのは俺の中学生時代からの同級…
いや。知らない。全然知らない人だった。
俺はこんな人には会ったこともないですから。
こいつの親友だなんてとんでもない。名誉毀損も甚だしい。
ライバル?お前と何かを競った記憶なんてねえんだよ!!!!!
そういえば、こいつも多分試合には出たんだよな?
その試合は一体どんな結末になったのか……
嫌な予感しかしないから聞かないでおこう。
俺が「どなたかは存じませんがどうもありがとうございます」と軽く会釈をして奴を華麗にスルーすると、今度はあのモヤシ男、植木ヒトシが現れた。
俺は内心、早く霧島さんとの会話に戻りたくてソワソワしていたのだが…
「芹澤……なかなかやるじゃねえか。」
どうやらモヤシ野郎も俺を賞賛してくれているらしい。
そこは、素直に嬉しい。
だが………一瞬、俺は一抹の寂しさを覚えた。
俺はもう……1週間前の、お前と馬鹿言い合ってた頃の俺じゃあない。
あのゴリラの非人道的な特訓を経て、俺はとてつもない力を手に入れてしまった。
それは……普通からすればあまりにも強力な力だ。
こいつもさっきの試合で俺の実力を目の当たりにし、内心……俺のことを少し恐れているかもしれない。
だからこその、この賞賛なのかもしれない。
それも当然のことだ。俺は異常とも言える凄まじい能力を得たのだ。怖れたとしても植木に罪はない。……これからは、俺もこいつに少しだけ優しくしてやる必要があるのかもしれないな……
俺がそんな感傷にふけっていると、奴はこんなことを言い出した。
「まあそれでも所詮、お前は俺の足元にも及ばないんだけどな?」
………
…………………………は?
………………ん?聞き間違いかな??
…………ちょっともっかい言ってくれる???
「………ははあ。俺はちょっと疲れているようだな。目の前のモヤシ人間の口から「俺の足元にも及ばない」なんて幻聴が聞こえた気がするんだが……?」
「いや……だから、お前、物をあっためられるだけだろ?今の、対戦相手との相性良かっただけじゃん。」
………
ピキピキピキィン。
俺の頭に青筋が音を立てて浮かんだような気がした。
………ほほう。言ってくれるじゃないか。このモヤシ野郎が。
「へ〜え。じゃあ、お前、勝てるんだ?俺に?あのレベル4氷川君を倒しちゃったこの俺に?」
「当たり前だろ??あっためるしか能のないお前に俺が負ける要素があるのか???」
……
俺はこの1週間、あのゴリラとの修行を続け、図らずも人間の限界を超えたような能力を身につけてしまった自覚があった。俺が本気を出せば、山の地形一つぐらい簡単に削って変えられる。そんな奴が他のやつと一緒になって喧嘩したり、馬鹿やることなんてちょっと……考えられない。
だからもう、色々と自重しようと思ってたんだが。
………ちょっとばかしこの馬鹿に格の違いを見せつけてからでも遅くはないよな?
……うん。そうだ。そうしよう。
「覚悟はいいか?このモヤシ野郎。」
「ヘッ…そっちこそビビってんだろ?このあっため野郎。」
………
ピキピキピキィィィン。
俺は頭に青筋が音を立てて浮かぶのを感じ、無言で往年のブラジリアン柔術格闘家ばりのファイティングポーズをとった。
その俺に対して、奴は小さな種を軽く指で弾き……
ピインッ
絶妙なコントロールで俺の足元に着地させる。
……
アホか。
……知ってるよ。それ。
全ッ然成長しねえな、お前………
もう手の内割れてるんだよ……!!!
んなもん、見てから余裕だっつーの。
そうして、俺が深いため息をつきながら、禁断奥義『超絶煽りポーズ』に移行しようとしたその時だった。
「行くぜッ!!!試合で使い損なった最終兵器……出でよ『超薬漬モヤシ』ッ!!!!!」
ドンッ!!!!!!!!!!
俺の足元から突如、反応不可能な速度で直径3メートルはあろうかというごんぶとのモヤシが現れ、それは急激に成長して俺の全身を強打し
「お゛う゛ん゛ッ!!!?」
そのまま俺は興奮冷めやらぬ、コロシアム上空にロケット花火よろしく勢いよく打ち出されーー
そして、その日の俺の意識は途切れたのであった。
「すみません、『週刊異能』の記者ですがヒーローインタビューを…」
「彼はお星様になりました」
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結局こんなオチ…
新章に入る前にいくつかお話を回収します
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