41 強襲部隊
一旦、裏方のお話です。
「「 こちらアルファサイド、所定のポイントに到着しました。ガンマサイド、応答願います……こちらの声が聞こえますか? 」」
携帯の電波の通じない地下深く。
私は手のひらの上でゆっくりと回転する小さな半透明の正八面体に向かって話しかけていた。
「「 ……ガンマサイド、デルタ先生、聞こえますか? ポートを所定の位置に設置しました。準備はいいですか? 」」
「「 はいは〜い、ガンマサイド、感度良好。もちろん準備はおっけ〜ですよ〜! 」」
「「 では、お願いします 」」
「「 了解〜。1番から8番ポートまでを起動。『次元変換』っ。 」」
そうして、彼女…九重デルタ先生は彼女の特殊な異能『【点と線を結ぶ者】』を発動する。
すると、目の前の床に無数に設置された同じような半透明の正八面体が、ひとつひとつの辺を順々に折り畳まれ、次第に面となり、線となり…一旦、点となったあと、今度は逆の手順で展開していく。
そうして、先程よりも大きな正八面体が複数出来上がり…その中にはそれそれ、ひとりずつの人間が佇んでいた。
「「変換完了。問題なく転送されましたよ〜」」
彼女がそういうと、大きな正八面体に変換された八つのポートから八人の人物が歩み出て来た。
「これが帝変高校の教師の力……今すぐにでも軍に欲しいぐらいの逸材ですね」
そう言って私……鶴見チハヤに話しかけた女性。長い黒髪を後ろで束ね、軍用のピッタリとした特殊繊維素材のバトルスーツに身を包んだ彼女はどこか、私の知るひとりの生徒の面影を感じさせた。
「霧島少佐。この事はご内密にお願いします。確か、そういう約束だった筈ですね?」
その女性は、同性でも見惚れそうな魅力的な笑顔を浮かべ……
「分かっていますよ、鶴見先生。それに可愛い妹の通う学校ですもの。それぐらいの能力のある先生が居てくれた方が、私としても安心というものです。」
そこに、転送された正八面体から出てきた別の、少し若い女性が口を挟んでくる。
「姉さん。今はそんな雑談をしている場合じゃないでしょう? ここは敵地ですよ?」
彼女を姉さんと呼んだ小柄な女性……霧島セツナは若干緊張した面持ちで、同じように黒光りする軍用のバトルスーツを着用し、手には長めのカーボンブレードを携えている。
他のポートから出てきた人物もそれぞれ、同様の軍用スーツに武器を持ったり持たなかったりと様々だが……彼らの方は皆、歴戦を感じさせる落ち着きを持っている。
「ふふ、そうね……でも、上からの招集だからといって、本来、学生の貴女はここまでついて来る必要は無いのよ?きっと、見たくないものを沢山見ることになるから……」
そう言って、帝国空軍少佐、霧島サツキは彼女の妹に声を掛ける。それに対して霧島セツナは毅然とした態度で応える。
「……見たくないものを見て、それに立ち向かうのが軍の仕事だ、と。それは姉さんの言葉だったと思いますが? 私も来年から陸軍勤務です。とっくに覚悟は済ませてきましたから。」
「そう……今回確かに貴女には、総括作戦指揮官、軍将からの任意出撃要請が出ているわ。今回は特別な任務だから、と。でも同時に拒否権限も与えられている。その意味は分かってるのよね?」
「その為の、私達でしょう? 私は見なければいけない。そういう意味でも、行く必要があるんです。」
まっすぐな瞳で姉を見上げ、そのまま姿勢を崩さない彼女。
「そうね。ふふ、期待してるわね。とはいえ、今回の私たちの主な任務は彼らの護衛だから。そう肩肘張ることないわ。ねえ、本宮先生?」
そうして彼女、今回の現場指揮官である霧島サツキ少佐はその人物の方を向いたのだが……
「……では、本官はこれで失礼します!」
見ると、本宮先生が正八面体の転送ポートに入り込み。なにやら敬礼のポーズをとっている。
私はひとつ、小さなため息をつくと彼に言葉をかける。
「……ダメですよ?本宮先生。この先、あなたと雪道先生が居ないと、この作戦自体成り立ちませんから。メリア先生とは、そういう契約をしてるんでしょう?」
私の指摘に本宮先生はやれやれ、といった感じのポーズをして大げさなため息をつくといつもより一段低い感じの声で語る。
「……冗談ですよ。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせて、さっさと帰りましょうか〜。こんな辛気臭いところ、一秒でも早く出た方がいい」
「……それは、同感ですね。」
今まで無言だった雪道先生は、黒い眼鏡の縁を指で押し上げながら、小さな声で同意する。
そうして、私たちは奥へと向かい………
程なくして、複数の悲鳴のような呻き声のする部屋の前へと辿り着く。
そしてバトルスーツに身を包んだ短髪の女性が扉を前に目を見開いたかと思うと、眼球をくるくると動かし、言った。
「壁内に『過異能化個体』を複数確認。全て、『異形』化しています。」
その報告を受け、霧島サツキは低い声で宣言する。
「現場指揮権限により『第一種討伐対象』と判断。これより、記録と掃討に入ります。準備はいいですね?先生方。」
「……はい」
「いいですよ」
「やれやれ……ダメって言ってもやるんでしょ?」
そうして………
裏側の戦争……
決して表には出すことの出来ない作戦がここ、地下深くの研究施設で開始されたのであった。
人物ファイル038
NAME : 霧島サツキ
CLASS : 【物を切断する者】S-LEVEL 4
日本帝国空軍所属の22歳。階級は少佐。帝国空軍空将(兼「軍将」)の霧島イツキの娘で、「霧島三姉妹」の長女である。7歳差のカナメのことは特に可愛がっているが、その妹が優秀という域を軽く超えた姉の存在と自信を見比べ、重圧を覚えていることには気がついていない。家庭内では料理の得意な良いお姉ちゃんである。ちなみにセツナが現在通う黎鳴学園を首席卒業。
戦時中の極秘研究「異能者増産第四号計画」の被験者で、11歳の時に施術を受ける。
<特技>
断裂 ティアー
大裂断 ディバイド
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人物ファイル039
NAME : 霧島セツナ
CLASS : 【物を切断する者】S-LEVEL 3
私立黎鳴学園の三年生、17歳。来年度から帝国陸軍への栄誉入隊が決まっている。霧島三姉妹の次女。三姉妹の中で一番気の強いのがこの次女である。幼い時に母親を亡くしているからか姉妹仲は基本的に良く結束も硬い。その為、妹のカナメだけ国立の帝変高校に通うという話に彼女は猛烈に反対し続けた。しかし結局、カナメは父親の意見と本人の強い希望により帝変高校に入学することとなる。
カナメが完璧超人の姉サツキにコンプレックスを感じていることは常々感じており、セツナは「そんなのは関係ない、自分は自分」と説教していたが、結局、彼女も自分自身が重圧になっていたことには気がついていない。
戦時中の極秘研究「異能者増産第五号計画」の被験者で、7歳の時に施術を受ける。
<特技>
斬塊 ティアー
空断 ディバイド
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人物ファイル040
NAME : 雪道タカヒロ
CLASS : 【冷気を操る者】S-LEVEL 3
【風を操る者】S-LEVEL 3
帝変高校1-B担任教師。数学と国語担当。いつも黒縁のメガネを掛け、青いスーツに身を包んでいる。2種類の異能を保持する、非常に珍しい「複数所持者」。広範にわたる繊細な温度変化を得意とする。
<特技>
吹雪 ブリザード
豪雪 ヘヴィースノー
冷凍睡眠 コールドスリープ
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