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40 代表最終戦 決着

4/24 あとがきに人物ファイル037(氷川)を追記しました。

「すごい……この短期間でここまで変わるものなの…?」


 私は彼の試合の様子に戦慄していた。

 それは私の想像を大きく超えるものだったからだ。彼はとても……信じられないぐらい強くなっていた。


 元々、彼の潜在能力は折り紙つき…「根源系(・・・)」の素質を持った特別な異能者。

 それでも、この成長はあまりにも早すぎると言わざるを得ない。


 本来、能力の使用法は各自が時間をかけながら経験を積み、独自の技術として育てていくもの。

 試行錯誤を経て、自分の限界を見極め、順々に身につけていくべきもの。

 それを、彼は通常ではあり得ないほどの短期間で完全に自分のものにしている。


 これは、コーチにつけたお父さん(クロノ)との相性が良かったのか、それとも………


 彼自身の、本来の素質だった?

 彼はそうなるべくして今の状態になっている?

 それであれば……

 いろんなことを、急がなければならない。


 このまま行けば彼はすぐにでも……

 あっという間に、世界の最高峰……

 世界でまだたった9人(・・・・・・・・)しかいない(・・・・・)「レベル5」に到達するだろう。


 ここまでの実力をつけられたなら、もう大抵のことは跳ね返せる。

 彼の力を利用しようとする人間も、もはや安易に手出しはできないだろう。


 今眼前で繰り広げられる試合を見れば分かる。

 もしかしたら今の彼は、あの南極の局地戦……私が12の時に放り込まれたあの地獄でも、生き残ることができるかもしれない。

 それぐらい、彼はすでに圧倒的な力をつけている。

 本当に、驚くべきことだ。


 でもこれが本当に良いことだったのかどうか………

 私は正直なところ、判断がつかないでいる。


「どうだった、校長(お父さん)?彼との訓練は………?」


 だから私は、現役で世界最高峰のレベル5、九人のうちの一人の人物……玄野カゲノブ(お父さん)に彼と対峙した率直な感想を聞いてみる。


「……………………………………………」


 だが、問いかけても、答えは返ってこなかった。

 とても長い沈黙。


「……お、お父さん?」


 そうして、しばらくしてから彼は口を開いた。


「……………あいつは覚えるのが、早え。………早すぎる。」


「え?」


 彼の口からそんな言葉が出てくるのは予想外だった。

 でも、確かに……早い。成長が、早すぎる。


「あいつは、俺が覚えるのに五年かかったことを……もう覚えた(・・・・・)。」


「…………………」


 そう、このままで行くと、彼は………………

 一気に上り詰める。

 この世界の上層………国家という枠を超えた上位の枠組み………

 『サイト(・・・)の管理者たち(・・・・・・)の領域に。


あいつら(・・・・)にも、話を通しておく必要がある」

「……………彼らと?……もうですか?」

「ああ。言っといてくれ。話し合い(・・・・)がしてえ(・・・・)と」


 校長(お父さん)はそう言うと、私が彼にプレゼントした時計を眺め……


「じゃあ……行ってくる。もうチハヤと雪道は行ってんだろ?」

「…ええ。お願いします、校長(こうちょう)。きっと助けが必要なはず」

「おう」


 そして、彼の姿が一瞬ブレたかと思うと……

 その場から忽然と姿を消したのだった。




 ◇◇◇




 俺は結構な勢いですっ飛んで行く氷川君を見ながら、違和感を覚えていた。

 俺がやったのはあの氷の鎧と剣をぶっ壊した上で、軽く吹っ飛ばす程度の弱い「熱化」だ。

 それだけで、あんなに飛ぶはずがない。

 実際、体ぶん殴って数メートルも吹っ飛んでたら、即死級だ。


 って言うかきっとトラックに跳ね飛ばされてもあんなに飛ばない。

 あれだけ飛んでたら余裕で異世界転移だってできるだろう。


 ……ってことは自分で飛びやがったな?

 そんなにダメージは食らってないってことだな。

 まあ、さすがにそれぐらいの対応はしてくるか。

 そんなことを考えている間に、すぐに氷川君は立ち上がる。そして……


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!! 凄いな、今の!!! いい!!! いいよォ君ッ!!!! アハハハハハハハハハ!!!!!」


 彼は何故か腹を抱えて思いっきり爆笑していた。

 ……………やっぱ結構強めに頭打ったのか?

 ごめん、俺、そんなつもりじゃ……


「アハハハハ!!! この痛みッ!!! 久々だよこんなのッ!!! いいよ、いいよ君ィッ!!!!」


 ………………………………あっ…………

 そう言うご趣味でしたか。

 それはそれは……元々の病気だったら全然俺の責任じゃねえな。

 て言うか、こっち指さして馬鹿笑いすんじゃねえよ?それ、失礼だよ?君?


「アハハハハハッ!!『氷飛翔(アイスフライ)』ッ!」


 そして笑いながらこっち飛んでくるんじゃねえよ!

 それめっちゃ速えんだよ!

 ドップラー効果出てるんだよ!!


「『氷槍(アイスランス)』ッ!」


 身体中から大量の氷の棘を生やしながら突っ込んでくる氷川君。

 それは急速に成長し、俺の体を貫こうとしてくる。

 いくら俺が温度変化で氷でも岩でも蒸発させられるとは言っても、そのまま勢いよく突かれたら刺さるもんは刺さる。

 なので…


 俺はその先端を両手で凪ぎながら、丁寧に一本ずつ「熱化」させ、粉砕して行く。

 次々と氷の槍をへし折り、それでも奴は次々に追加の槍を繰り出してくる。

 だが、だんだんと俺は面倒になってきて…


「『熱化(ヒートアップ)』ッ!!」


 ボバアアアアアアン!!!!!

 一気に一点に熱量を加えて水蒸気爆発を引き起こし、全部一気に吹き飛ばす。

 そして、また氷川君は勢いよく吹っ飛ばされるが…


「アハッ!!!アハハハハハハハハハハ!!!!アハッ!!」


 とっても楽しそうな氷川君。

 本当、君……頭大丈夫……?

 ホントに脳にダメージ行ってない?


「じゃあ、これはどうかな?『絶対零度(アブソリュートゼロ)』………!!!」


 彼がそう言うと、周囲の空気が一瞬、張り詰めたようになり…

 地面に白い靄が立ち込めはじめた。

 そうして、闘技場のフィールド内に霜が降り、四方の半透明の壁も次第に凍りついて行く。


 ああ、俺が前に山でやった奴とほとんど同じだな、コレ。

 そう思いながら、俺は氷川君に向かってゆっくりと近づいていく。


「『氷獄(コキュートス)』」


 そうして、氷川君は闘技場フィールド全体を氷で覆い始める。

 凍りついた地面から、幾つもの太い氷柱が立ち上がり………

 首をもたげた巨大な氷の蛇のようなものが、ちょうど九匹分、立ち上がった。

 そして、それらは九方向から同時に俺の方に向かって急襲してくる。

 だが……


「『保温(プリザーブ)』…」


 俺は避けない。

 俺からの30センチぐらいの距離の空気だけ(・・)を水が一瞬で蒸発するぐらいの温度まで「温め」、その温度で固定(・・)する。

 すると俺の近くまで到達した氷の蛇から


 ボボボボボボボボボボボボッ!!!!!!!!


 弾けるようにして溶け、蒸発し、あたりに水蒸気を撒き散らしながら、またすぐに周囲の低い気温で凍っていく。


 そうして、俺の周りには巨大な氷の華の彫刻のような風景が出来上がった。

 俺はなおも氷川君に向かって歩いて近く。


「アハハハハハハ!!! 凄い!!! 面白いなァ!!!!」


 とりあえず、相手の攻撃は俺に通じない訳だが。


 …………さて。

 ここに来て、俺は非常に困っていた。

 …………実はもう、目の前には俺の対戦相手、氷川君がいる。

 すでに握手でもデコピンでもガチンコの殴り合いでも何でもできそうな至近距離である。

 しかし……


「凄いねえ! 君ッ!! 芹澤君っていうんだっけ? アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


 …………


 いや、ただひたすら爆笑してるんだけど。彼。

 ここでいきなりこのショタ顔野郎をぶん殴るってのもな…………

 いや、俺的には全然やってやれないことはないんだが………


 なんかコイツのファンクラブ的なものから要らぬヘイトを稼ぎかねない。

 何より、この敵意ゼロの満面の笑顔。

 戦意を萎えさせるには十分すぎる。

 俺にはそんな属性なかったはずなんだが………


 ……

 ………なにこれ???

 この試合、こんなところにハードルあるの?

 俺は今、一体なにを試されてるの?

 この良い笑顔をぶん殴れるかどうか?そういうとこ?


 ………まあ、YES NO で言えば断然YESだな。


 背丈はちんまくはあるが、余裕でモテそうな清潔系美少年ビジュアル。

 年上女子にもちやほやされそうな、絵に描いたようなショタ顔。

 それが「有名私立」、「レベル4」というブランドと相まって、

 近い将来きっと壮絶なイケメンとしてキャーキャー言われるのは想像に難くない。


 俺は、目の前の彼の未来予想図をちょっとだけ想像してみる。


 ……


 ……


 ………おおっと!

 戦意ゲージが回復して来たようだ。

 まさに今、世のため人のため俺の心の安寧のため、「この将来のイケメン候補の顔の造形をちょっとばかし作り変えること。それが万人にとって善なることである。」とのお告げが俺の(ゴッド)から伝えられた。

 きっとそう。そうに違いないね。


 それに彼は、ちょっとアレだ。

 きっと痛いのも悦んでしまう種類(タイプ)の人物だ。

 結果として、WINWINの関係。そう、何も、問題はない。


 そうして俺がモチベーションを回復し、

 右手を思い切りグーにして構え、力を溜めていると………


「これはもう僕の負けだな〜、全く勝ち目ないねっ。 降参だ!!!!」


 …………………………ん?


「審判ッ!!! 降参(サレンダー)だ!!! 聞いてる!? 僕は降参するっ!!」


 ……………………は????……降参???

 そうしてこの目の前のショタ顔少年は俺の手を取り……


 ボクサーのセコンドよろしく、俺の腕を空に向かってぐいぐい引っ張り上げるのだった。


 …………………いや、胸のあたりまでしか上がってない訳なんだけどさ。

人物ファイル037


NAME : 氷川タケル

CLASS : 【冷気を操る者(コールドメイカー)】S-LEVEL 4


鷹聖学園一年生で、頭一つ飛び抜けたエース。小柄なショタ顔の美少年。高校生としては破格の評価「レベル4」であり、鷹聖学園にも将来を嘱望される、また学校の広告塔となる貴重な人材として入学した。ただ、本人は今まで異能を使って何事も無双して来た為、あまり競争意識というものがなく、異能で競うこと自体をつまらなく感じていた。心の底では、自分が全力でぶつかっていけるような強敵を求め続けており、今回の『異能学校対校戦争』では芹澤アツシに出会えたことが本人としては一番の収穫だったりする。……先生方の狼狽はさておいて。

ちなみに学業も優秀であり、一つ飛び級をしているので現在、14歳である。


<特技>

氷塊 アイスロック

氷鎧衣 アイスアーマー

氷飛翔 アイスフライ

絶対零度 アブソリュートゼロ

氷獄 コキュートス


///


ひとまず物語の「前座」としての第一章もそろそろ終着に近くなって来ます。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思ってくださったら、ブクマや下の評価欄開いての評価をいただけると継続のモチベーションに繋がります。気が向いたらよろしくお願いします!

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